【これからの本屋さん】
紀伊國屋書店大手町ビル店がビジネスパーソンを惹きつける理由
ビジネス感度の高い顧客がリピートする「書棚づくり」とは?

ビジネスパーソンの「知の探索」を促し、既存の「本屋」の常識を超えていく。「これからの本屋さん」のコーナーでは、そんな本屋さんと、その場を生み出す「中の人」にスポットライトをあてていきます。

第二弾は紀伊國屋書店大手町ビル店。大手町界隈のビジネスパーソンが足しげく通い、リピーター率は5、6割といわれています。そんな大手町ビル店、ビジネス書コーナーの「書棚づくり」では、どんな工夫がなされているのでしょうか。ビジネス書コーナーを担当する西山崇之さんにお聞きしました。

高度なビジネス書が求められる、金融街、大手町という立地

紀伊國屋書店大手町ビル店、ビジネス書コーナーのコンセプトは何ですか。

大手町ビル店のコンセプトは、専門性が高いビジネス書をそろえるというのに尽きます。この店舗は紀伊國屋書店の中でも特殊で、土日祝日が休みなうえに、学校参考書のような学生向けの本は置いていません。BGMも流しておらず、お客様が集中して本を選べるような静かな空間です。私がこの店舗のビジネス書担当になって7年がたちますが、ビジネス書・専門書に特化するという方針は一貫しています。これは大手町という土地の特色によるものです。

大手町の立地も影響しているのですね。普段どんなお客様が来られるのでしょうか。

大手町はいわば金融街。もともと金融機関の本社が集まっているため、金融業界や関連した業界のお客様が多いですね。メインターゲットは40、50代で、課長以上向けのマネジメントやリーダーシップに関する本が恒常的に売れています。逆にビジネスへの感度が非常に高いお客様が多いので、金融や法律のジャンルを中心に、単なる売れ筋だけでなく、さらに高度なビジネス書を求められます。

例えば2016年頃は、FinTechの動向を知る本が全国的に売れた時期。この頃大手町ビル店では、すでにFinTechのサービス開発や世界の法律に関する書籍が売れていました。一歩先をいっているイメージです。最近ではGDPR(EU一般データ保護規則)対策の本への反応もはやかったですね。


定期的に著者の講演などのイベントも開催している。「コーポレートガバナンスのテーマで、告知からわずか数日で満席になるケースもある」と語る西山さん。

めざすのは「ここに来ればまずビジネス書がそろっている」という売り場

となると選書も他の書店とは違ってきそうですね。

ハイレベルな本へのニーズに応えるため、大手町ビル店では、金融・財政の専門の棚はもちろん、会計・法律などのビジネス書をメインに扱う中央経済社の専用の棚を設けています。こうした専門的なところに注力しています。めざすのは、ビジネス書の難しい古典から新刊まで「ここに来ればまず必要なビジネス書がそろっている」という売り場です。

ただし、この数年でお客様が多様化しつつあり、これまでと同じ棚づくりだけではいけないと考えているんです。

どんなふうに多様化しているのでしょう?

1つは、大手町一帯のビル再開発によって、法律事務所や監査法人のトップが大手町に本拠地を移してきているという点。これを機に法律書の棚を増やし、会社法や国際法務などと棚を細分化しました。

もう1つは、女性のお客様、若いお客様、そしてスタートアップの起業家、エンジニアの方が増えているという点です。一昨年の店舗改装の際、日本茶カフェ「紀伊茶屋(きのちゃや)」を併設したのは、女性客や若い人も来やすい場にするという狙いがありました。

選書でも若手社員を意識するようになりましたね。40、50代の層ならすでに読んだであろう『競争戦略論』など、ビジネス書の古典もしっかりそろえておかないといけない。「ある部署で課題図書に採用された」「上司に推薦された」などと、若手社員が一気に同じ書籍を買いにこられることもあるからです。 こんなふうに、高い専門性を維持しながらも、多様化するニーズに応えることが求められていると感じています。


あえてPOPは多用しない、一目で必要な本が目に入る書棚を

西山さんの書棚づくりのこだわりは何ですか。

重視しているのは、「パッと見て、いかに本に目が留まるか」。お客様の多くは昼休みや帰り道の5~15分という限られた時間で通ってくださっています。短い滞在時間で、これぞという本を選んでもらうには、とにかくインパクト勝負。

だからあえてPOPも多用しないようにしているんですよ。おすすめのポイントや新聞の書評を色々紹介しても、なかなか読んでもらえませんから。そのかわり、「ここを見ればわかる」という状況をつくり、できるだけ一言で訴求するようにしています。たとえば、店舗正面の棚に「本日の日経新聞広告欄に載った本」をまとめているのも、そのためです。

どの本を平積みに置くかについても、新刊と既刊の絶妙なバランスが問われます。「このコーナーはマーケティングだな」などと、平積みでテーマが一目瞭然でないといけないので。新刊をちりばめつつも、鉄板のビジネス書や少し前に売れた既刊書もまぜるというように、1冊ずつ見極めています。

また、定番書の参考文献に挙げられているようなビジネス書の古典は常に需要があるので、棚から切らさないことも重要ですね。



書棚に並べる本もかなり厳選されていそうですね。

そうですね。ありがたいことに、ビジネス書に強い出版社さんと、毎月新刊の定例会議を設けていただいています。「この本は大手町で売れるのでは」という提案をいただきますし、著者から「大手町にこの本を置いてほしい」という強い希望をいただくことも。ビジネス書といえば大手町という「大手町ブランド」は根強く、「大手町で売上1位」というのを目標にされる方も多いようです。

こうした提案を加味しつつ、何冊置かせていただくかを1冊単位で決めていきます。同じ会社法の本でも「著者がロングセラーを書いた〇〇教授だから」などと、著者の実績にも目を配っています。

売れるのは、効果が明確な「仕事術」の本

紀伊國屋チェーン全体と比較して、大手町ビル店で「これが一番売れた」という本はありますか。

2014年に発刊された『外資系金融のExcel作成術』(東洋経済新報社)は、初速の売れ行きが日本一で、今でも印象に残っています。モルガン・スタンレーに勤務し、ニューヨーク本社から「エクセルニンジャ」と呼ばれていた著者が、世界で通用するExcelシートの作り方と分析手法を解説するという内容です。月に100冊という、新宿本店より圧倒的な売れ行きで、この規模の書店ではかなり珍しかったですね。

当時はちょうど「外資系の〇〇」と冠した本が売れていた時期。日本の大手企業に勤めている方からすると、外資系投資銀行やコンサルティング会社の仕事術を知りたいというニーズが高かったんでしょう。


ちょうど時流にも合っていたんですね。大手町ビル店ではこういう本が売れやすいという傾向はありますか。

具体的なスキル、仕事術の本など、どう役立つのかが明らかな本が売れやすい傾向にあります。たとえば、昨年頃からホットな「働き方改革」。改革の総論のような本は、他店と比べて売れ行きがあまり芳しくありません。これに対し、『アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」』(日本実業出版社)はすごく売れました。激務が当たり前とされたコンサルティング会社でどのように業務の無駄をなくし、組織として生産性を高めていったのか。生々しい実例が公開されているからこそ、読みたいという方が多かったのでしょう。

「本と読者の出合い」を増やすために西山さんが大事にされていることは何ですか。

大手町という街のニーズを汲み取ることですね。ここに来られるお客様はすでに必要な情報をご自身で得ておられます。大事なのは、そのニーズをいかにはやく掴んで、書棚に反映させるかです。

お客様の購買情報から、今後はこういうテーマの本が流行るなどとトレンドを先取りできるのが、大手町ビル店の特徴ともいえます。「大手町界隈で売れています」と発信することで、人気が全国に波及することもありますから。だからこそ、お客様の期待を上回るように取りそろえておかないといけません。

今後のリアル書店の役割とは?

西山さんにとって、「書店」の役割とはどのようなものだとお考えですか。

今の時代、何が売れているか、どんな本が出るのかという情報はネットでいくらでも入手できます。ですが、本当にその本が自分に必要なのか、しっくりくるのかは実際に本を手に取ってみてはじめてわかること。だからこそ、売れている新刊も専門性が高い本も吟味できる場を提供することが、リアル書店の役割だと考えています。

テクノロジーの発展とともに「書店にこんな進化が期待できそう」という未来予測があれば聴きたいです。

紀伊國屋書店は、アメリカを皮切りにシンガポールやドバイなど現在10か国、31店にまで海外展開を進めています。今後AI技術が進化すれば、各国の売れている書籍をその場でAIが翻訳して日本でも読めるということが可能になるのではと見ています。すると国や地域ごとのトレンドが瞬く間に世界中に伝わり、これまで以上にボーダレスになっていくのではないかと。

その際は電子書籍の割合が高くなるでしょう。ですが、日本人が紙の書籍を大事にする文化がなくなるとは思っていません。電子も紙も共存するでしょうし、日本人の本を愛し、大事にする文化が、今後は他国にもますます広がっていく。そんな未来を想像しています。


紀伊國屋書店(きのくにやしょてん)

創業者(田辺茂一)がそれまで炭屋だった「紀伊國屋」をやめて本屋にしたので「紀伊國屋書店」となりました。もともと創業者の何代か 前の田辺が上京して商売を始めた際、出身地の紀州・和歌山にちなんで「紀伊國屋」という屋号をつけたのが始まりです。

創業以来、書籍の販売を通して、文化・芸術・情報の発信拠点となるべく、経営を続けて参りました。これからも創業者・田辺茂一の精神、そしてDNAを受け継ぎ、10年後に控える創業100年を目指すとともに、日本の、そして世界の文化的発展に寄与すべく、力を尽くして参ります。

紀伊國屋書店大手町ビル店

所在地 東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル 1F

営業時間 10:00~20:00

公式サイト

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文責:松尾 美里 (2018/10/09)
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