【これからの本屋さん】
24歳店主が語る、「本の本」専門書店を開くまで
人気の「コトノハ選書サービス」の魅力に迫る

24歳店主が語る、「本の本」専門書店を開くまで

ビジネスパーソンの「知の探索」を促し、既存の「本屋」の常識を超えていく。「これからの本屋さん」のコーナーでは、そんな本屋さんと、その場を生み出す「中の人」にスポットライトをあてていきます。

第6弾は、2019年3月に東京都国立市にオープンしたばかりの新刊書店、「ほんのみせコトノハ」。店主の有路友紀さんは、大学在学中に書店員を1年間経験し、その後独立へ。ほんのみせコトノハにはオープン直後から出版関係者や作家さんがよく訪れ、オリジナルの選書サービスが話題になっています。そんなコトノハの魅力に迫ります。

なぜ「本の本」に絞った専門書店なのか?

── ほんのみせコトノハのコンセプトはズバリ何ですか。

扱う作品を「本の本」に絞った専門書店ということです。これは、本や書店、出版社などについて書かれた本全般を指します。本屋といえば、色々なジャンルの本が並ぶ大手チェーン店のほか、様々なお店の一部を借りて転々とする本屋さん、特定のジャンルの本だけを置く本屋さんなど、色々な形態があります。

なかでも私が興味をもったのは、「個性的な選書の本屋さん」。では何のジャンルに絞ろうかと考えたときに、「好きだけどある程度客観的でいられて、お客さんからのニーズが見込めるもの」がいいだろうと思い至りました。そこで選んだのが「本の本」です。



── 具体的にどんな本を扱っていらっしゃるのでしょうか。

「本の本」といえば、王道は、出版業界の歴史や書店員のエッセイ、本屋や本のガイド本など、ノンフィクション・エッセイ系。そこに独自性をもたせたいと思い、本にまつわるフィクションや漫画、童話、児童書なども加えました。



たとえば、編集者のエッセイの横に編集者が主⼈公のライトノベルを置く、漫画家になるためのハウツー本の横に漫画家をめざす主⼈公が奮闘する漫画を置く、というように。ここに来れば、書店員初心者や作家になりたい人、出版社で働きたい人の興味が満たせる場にしたいと考えています。実際、私が新刊書店を開く際に、こうしたジャンルの本にお世話になっていて、一歩引いた選書ができると思ったのです。



カフェ併設で、買った本を読みながらコーヒーや軽食を楽しめる。

スポーツ選手、マネージャーを経て飛び込んだ「書店員」の世界

── コトノハを開こうと決められたきっかけは何ですか。

実は書店員になるまで、本とは関わりのない、スポーツの道を歩んできたんです。高校まではフィンスイミングという競技の選手で、大学時代には競泳のマネージャーをしていました。

監督はまさに上司のような存在で、マネージャーは監督のいうとおりに動かないといけません。それが苦手な私は監督とのコミュニケーションに悩んでおり、「私、会社員には向いていないんだ」と思うようになっていきました。

部活に行くことがあまりにつらくて、家を出ることすらできない時期もありました。結局マネージャーをやめることになって……。人生で初めての挫折でした。

本を読み始めたのはこの時期です。それまで読書家ではなかったのですが、強いヒロインが奮闘するという設定の少女漫画に夢中になったのを覚えています。そこから出版社の編集者に憧れを抱くようになりました。ところが、未経験の新卒採用は実に狭き門。まずは業界の知識を得ようと、書店チェーン店で書店員のアルバイトを始めました。



そこで感じたのは、「本をつくるよりも、本を売る方が楽しいかもしれない」ということ。1日のうちで好きなのは、最後に「今日の売上」を数える瞬間でしたし(笑)。本屋さんは制約が少なく、開かれた場所。色々な出版社の本を扱えるというのも魅力的です。そこから職業としての書店員の道を模索するようになりました。

── そこから、お店の物件を探されたのですか。

国分寺から立川の間で、駅から徒歩10分以内の立地、そして20坪程度。その希望に沿っていたのがこの場所でした。国立は、増田書店やPAPER WALLのように、棚が豊かな書店が駅周辺にすでにあるお土地柄。そのため、地元の方に本のニーズがあることもわかりました。そこから、個人商店を開いている人や本屋を開いた人に話を聞きながら、新刊書店の開き方を手探りで学び、実践してきたような感じです。

── お聞きしていると、戦略的に書店づくりをされている印象です。

戦略的というよりは、「こういう状態にしたい」という思い先行なのかもしれません。もともと、好きなコンテンツや作家さんを応援したいという気持ちが強く、それがベースになっている気がします。将来の夢を聞かれたら、「クラウドファンディングで、好きなコンテンツやクリエイターにどんどん貢げるようになること」と答えるほどなので(笑)。



たとえば、ネットで漫画を公開して反響があり、第1巻だけ書籍化された。けれども、その売れ行きがよくなく、第2巻以降を商業出版するのは難しいため、自費出版の資金をクラウドファンディングで募るケースはよくあります。私自身、こうした形でクリエイターを応援してきたのですが、書店なら「全作家の幸せを願い、応援する」ことが可能ではないかと思いついたのです。

古本屋ではなく新刊書店という形態にこだわったのも、同じ理由からです。古本屋のように中古の本を扱うほうが、書店の利益率は大きいのですが、それでも新刊書店を開きたかった。それは著者や出版社、印刷会社など、本をつくる方々にも利益を還元でき、出版業界全般に貢献できるような仕組みにしたい、という思いがあるからなんです。


書棚から本を取り出しては、一冊一冊への魅力や、なぜここに並べているのかというストーリーを熱心に語ってくださる有路さん。

心理学の知識に基づいた、コトノハ選書サービス

── コトノハならではといえば、「選書サービス」。どんなサービスか詳しく聞かせてください。

お客様に予算を決めて、コトノハのWEBサイト上や店内にあるアンケートに回答いただき、それをもとに店主の私が本を選ぶサービスです。費用は本の購入代金のみで、郵送の場合は送料が追加されます。選書料は無料で、なぜその本を選んだのかについて直筆のお手紙を添えています。

── 直筆のお手紙が届くって、とても嬉しいですね。選書のアンケート項目がとてもユニークだと感じたのですが、こだわりの部分を教えていただけますか。

心理学の知識に基づいているという点です。大学時代にスポーツ心理学を専攻していたため、心理学の知識があります。アンケートはそれを活かしてつくっており、回答の1つ1つからその人の性格や好み、ニーズを読み解いていきます。

具体的には、「これまでの人生をそこそこに振り返ってみてください」「座右の銘があれば教えてください」といった、その人の内面を掘り下げる項目も盛り込んでいます。過去を振り返ることになり、カウンセリングみたいとおっしゃる方もいらっしゃるほど。

たとえば座右の銘に挙げられているのが、ある小説に出てくるセリフなら、その小説や作家が好きなのかなと、そんなところも選書のヒントにします。

── 有路さんが選書サービスを始めたきっかけは何でしたか。

きっかけは、本屋さん専用の投げ銭サービス「リトルスタッフ」という仕組みを知ったこと。ネット上で、月額コーヒー1杯分の値段から本屋を支援することができて、その本屋の商品を取り置きするなどの特典があります。大好きな本屋の存続を願うファンが、安定した収入でお店づくりに専念したい本屋を応援できるという仕組みです。

こんなふうに、物理的な距離があってコトノハに立ち寄るのは難しいというお客さんとも、ネットを通じて接点をつくれないか――。そこで選書サービスが思い浮かびました。


サービスを練る際には、選書サービスで有名な、北海道にある「いわた書店」さんを参考にしたという。

── それにしても、選書料が無料とは太っ腹ですね……!

もし私自身にお金を払ってもらうのなら、その分を、選書サービスの予算に加えてほしいなと。ここでも作家さんや出版に関わる人たちにこそ、還元される仕組みをつくりたいという思いがあるんです。

コトノハを開いてから4カ月半が経った現時点で、70名以上の方が選書サービスを利用してくださっています。ありがたいことにリピーターの方も増えていて、満足いただけているのかなと思っています。

店主との「1対1のコミュニケーション」を楽しんでほしい

── ビジネスパーソンが「知の探索」を進めるうえで、コトノハとのおすすめの付き合い方があればぜひ教えてください。

コトノハの書棚を眺めてもらうことでしょうか。窓際のカフェスペースで仕事をしているクリエイターの方も多いのですが、「仕事で行き詰まったときにふらっとコトノハの書棚を見ているだけで、インスピレーションが湧く」といってくださる方もいらっしゃいます。業界の専門書も小説も漫画もあえて混ざり合うように並べているので、意外なタイトルから新しい発想が得られるのかなと。

あとは、私にどんどん話しかけてもらえたらと思っています。本屋さんというリアルな場でできることは、店主との1対1のコミュニケーション。私がスポーツの世界にいたというのを面白がって、話しかけてくださるお客さんもいらっしゃるんです。中にはキャリア相談をしてくれる人も。私もそこから学ぶことは多いですし、気軽に立ち寄って会話を楽しんでもらえたら嬉しいですね。

── 今後挑戦してみたいことは何ですか。

まずはコトノハを持続的に運営していく基盤をつくることが第一ですね。現実的な話ですが、このお店を続けるには、1日10万円は売上がないと厳しい。運転資金を確保するという意味でも、本以外にも収入の柱をつくれないか模索しています。

もちろん「本屋」というハコがあることは安心感につながるし、「書店の店主」という肩書は、自己紹介するたびに人から「面白そう」と思ってもらいやすい。これは私にとって大事なメリットです。書店の運営を主軸にしながら、たとえばゲームのシナリオをつくるとか、YouTubeでも発信するとか、今後も色々なチャレンジを続けたいですね。

プロフィール:

有路 友紀(ありみち ゆき)

1995年生まれ。幼少期からスポーツに打ち込み、フィンスイミング日本代表を7年の間つとめた。大学ではスポーツ心理学を専攻。未来屋書店で約1年間書店のアルバイトを経験。当時の担当は文庫。23歳で独立、「ほんのみせコトノハ」を立ち上げた。休日は家で1日中ゲームをしている。

ほんのみせ コトノハ

通常 火曜定休日

営業時間 11:00-20:00

住所 東京都国立市中1-19-1 2F JR国立駅より徒歩6分

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文責:松尾美里 (2019/08/09)

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