プロ経営者の礎を築いた「才と徳の読書術」
株式会社リーダーシップコンサルティング代表 岩田松雄

フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画が始まりました。
経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか、「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。
日産自動車、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ常務を経て、経営者として頭角をあらわし、株式会社アトラスの代表取締役、株式会社イオンフォレスト(THE BODY SHOP Japan)の代表取締役社長、スターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOを歴任し、「プロ経営者」として確固たる実績を上げてきた岩田松雄氏。現在は、(株)リーダーシップ コンサルティングの代表として、経営論から人材育成、キャリア形成といった講演や経営者のコーチングなどを行っています。
彼はこれまでどんな本から影響を受け、どんな本を未来のリーダーたちに薦めるのでしょうか?
「才」と「徳」の二軸で、良書を何度も読み返す
── 岩田さんはいつ頃から、どのように読書習慣を身に付けてこられたのでしょうか?
岩田松雄氏(以下、岩田):父がよく本を読んでいた影響で、私も小さい頃から本が好きで、よく『逃げたロボット』や『海底二万里』などSFの本をよく小学校の図書室で借りて読んでいました。小学5・6年生のときには父から薦められたムツゴロウさんの本に夢中になり、著作をほとんど全部読みました。ムツゴロウさんからの影響は大きくて、大学受験のときには「経済学部に落ちたら、高校の生物の先生になろう」と思ったくらい、生物が好きになりました。
体育会で野球ばかりしていて、あまり勉強していなかったので、就職活動を始めた頃から本を月10冊読もうと決めました。最初の頃は自己啓発の雑誌『BIG tomorrow(ビッグトゥモロウ)』や、勉強術とか時間管理術なハウツウやスキル系の本を多く読んでいました。
日産に入社した頃に夢中になったのは司馬遼太郎さんの本。『竜馬がゆく』はこれまでに7 、8回読んでいます。幕末の志士たちの「志」を描いた本なので、転職するタイミングなどキャリアの転機のたびに読み返しては、頑張ろうとやる気を出していました。私の読書スタイルは、良い本を何度も読み返すスタイルですね。
── 本選びで大事にしている軸は何でしょうか?
岩田:私は「才」と「徳」の二つの軸に分けて、両方の本を読むことを意識しています。「才」はマネジメントやリーダーシップなどのビジネススキルのこと。主にドラッカーの本から学びました。一方、「徳」は人としてどう生きるかという自己修養のことで、中国古典や安岡正篤先生の本から学んでいます。司馬遼太郎さんの著作は「才と徳」を学ぶケーススタディのような感じでしょうか。出張に行くときも、二つの軸からそれぞれ一冊ずつ選んで持っていくなど、20代の頃から読み分けていましたね。
── 人生を通じて大事にしたい本やご自身の生き方に影響を受けた本は何ですか?
岩田:「才」にあたる経営を学ぶ本だと『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの第一・二巻とドラッカーですね。ドラッカーは全巻読みましたが、なかでも『経営者の条件』や『イノベーションと企業家精神』が好きです。また、大前研一さんの本もほぼ全部読んでいます。彼の本は最新の情報が多くつまっているので現在の社会の実像を理解するのに役立つんですよ。
「徳」の部分を学んだのは、安岡先生の本。読み解くのは難しい本が多いのですが、本がボロボロになるまで読みました。『人生と陽明学』や『活眼活学』などPHP出版から出ているシリーズは、口語体でわかりやすく中身も深いのでおすすめです。
あとは渡部昇一さんや小室直樹さんの本はほとんど全部読んでいます。確固たる歴史観や自己修養の大切などを学んでいます。
── 読んだ本の内容を血肉にするために工夫しているポイントはありますか?
岩田:本は一期一会なので、いいなと思ったらすぐ買うこと。おかげで買った本の四分の一くらいが積読(つんどく)になっていますが……。ECサイトで買うと、手に取れないので、書店で買っていたことを忘れて同じ本を買ってしまうんですよ。そういうときは一冊を人にあげています。社長をしているときは、目をかけている部下にプレゼントしていました。そうやって「期待しているぞ」というメッセージを伝えていました。
それから、本にはマーカーを引き、「ここぞ」と思ったページの端を折るなどの工夫をしています。欄外に自分の意見や気になった言葉をメモし、なかでも気に入った言葉は、ノートに書き写しています。
あなたが会社で「もしこの本の内容について来週会議で発表しろ」と言われたら、真剣にアウトプットを意識して読むと思います。アウトプットを意識して、何か問題意識を持って読むと本の内容の理解が深まります。私自身、3年前から本を書くようになって以来、読書の読み方が深くなったような気がしています。人は読んでも理解しているようでしていないことが多いもの。人に伝えようとするとわかりにくいところは読み返したり、辞書を引いて意味を調べたりします。本を読んだら内容について友人や家族に話したり、ブログで感想をまとめたりすると良いと思います。
── 普段はどんなふうに本を選んでいますか?
岩田:私は「著者買い派」。「この人の本は良いな」と思った人の本は新刊が出たらほぼ全て読みます。私自身、読者の立場から「この著者ならハズレはない」と思って購入しています。ですから著者として、読者の期待を裏切らないよう一冊一冊に全身全霊を傾けて、何度も何度も推敲して書き上げています。

根を広く深く張るための読書を
── 若い方に本を読んでもらうために何かアドバイスはありますか?
岩田:学生さんには「人間性を豊かにするような本を読むように」と伝えています。起業を考えている学生はすぐに、ビジネスプランのつくり方といった本に手を出しがち。もちろん、それはそれで良いのですが、長い目で見れば哲学とか歴史とかリベラルアーツを勉強して、人間としての深みをもつことのほうが、起業し会社を大きく成長させるうえでは、よっぽど重要だと話しています。これはまさに根と木の関係です。人としての教養や人間性などの「根」が広く深く張っていないと、「木」も大きく育たないんですよ。
ベンチャーの若手経営者にも同じように「根を深く広げる」読書を推奨しています。会社が回りだしたベンチャー経営者のコーチングをしていると、彼らの悩みの多くが「どうやって人をマネジメントすればよいか」であることがわかります。部下をリードするには、人としてのリーダーシップや人徳が不可欠。自分が何のために生きて、どこへ向かっていくのかという哲学やミッションをもっていないと、厳しい局面にたったときに軸がぶれてしまいます。自分をセルフリードするためにも、人を動かすためにも、いろいろな本を読んで人としての器を広げておくことが大切です。
── フライヤーの読者は20代~40代の方が9割を占めています。年代ごとにビジネスパーソンへのおすすめの本があれば、ぜひご教示ください。
岩田:20代は「志」を固める時期なので、司馬遼太郎さん歴史小説の『竜馬がゆく』や『世に棲む日日』『坂の上の雲』などがおすすめです。特に幕末の志士たちは日本が欧米の植民地になることを恐れて、自分の命を投げ出して明治維新を起こした。こういった高い志を持つことや熱い心を見習って欲しいと思います。
30代はビジネスやマネジメントの土台を築く時期。ドラッカーなどマネジメントの本質が学べる本を読み始めるとよいでしょう。そして40代は人を実際にマネジメントする立場になるため、人間としての徳を高める安岡正篤先生の本や、『論語』や『老子』などの中国古典を読む時期。人を治める前に自分を修めなくてはいけませんから。ドラッカーの言っていることを本当に理解できるのも実際にマネジメント経験を始める40代になってからですね。その年齢になってはじめて、「何十年も前に書かれた本なのに、なぜドラッカーの言うことはこんなに核心をついているのだろう」というのがわかってきます。
── 最後に、岩田さんご自身が今後挑戦したいことを教えてください。
岩田:私は日本も日本人も好きなので「日本をもっといい国にしたい」という思いが根底にあります。今の日本に欠けているのは真のリーダーや経営者。この国を支え、変革するリーダーを育てることが私の「ミッション」です。そのミッションを成し遂げるために、本の執筆や経営者向けのコーチング、ビジネススクールでの講義などの活動を行っています。
── ありがとうございます。フライヤーも真のリーダーにとって役立つ良書を届けていきたいと思います。
岩田さんの著書『ミッション』の要約を公開中! 岩田さんの「リーダーシップ」や「人材育成」に対する考えが凝縮された一冊。管理職の方、新しくリーダーになった方、初めて後輩ができた方の必読書である。

