ブックライターの先駆者、上阪徹の「相手の本音を引き出すコツ」
ブックライター 上阪徹

今回登場するのは、ブックライターの上阪徹さん。

アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスのライターとして独立され、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がけられています。

著書は『なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?』(あさ出版)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)など多岐にわたります。

取材によって著者の代わりに本を書き上げるブックライターとして手掛けてきた作品は60冊以上。

上阪さんは、どんな想いを持って、インタビュー現場に向き合っているのでしょうか。

そして、相手の本音を引き出すために、どんな工夫をされているのでしょうか?

魂を揺さぶられた3つのインタビュー現場

これまで手掛けたインタビューの中で、魂を揺さぶられた取材を教えて下さい。

上阪 徹さん(以下、上阪):たくさんありますが、例えば3つ挙げましょう。

1つ目は京セラ創業者の稲盛和夫さんの取材です。とても丁寧に応じてくださったのですが、苦労をされた起業家ならではの圧倒的な迫力がありました。取材で強調されていた「挫折や苦労をすることが人間を育ててくれる」という言葉は今も心に深く刻まれています。取材時、周囲になんともピリピリした空気が流れていたのですが、あとでわかったのは、ちょうどJALの再生の話が来ていた時期だったんです。もちろん、そんな素振りは微塵も見せられませんでしたが。

2つ目は、孫正義さんと、彼の恩師である元多摩大学の学長、野田一夫さんの対談です。野田さんは今から30年以上も前からベンチャー支援をしていた人。実は、ソフトバンクの創業期から、孫さんとはお付き合いがあって、孫さんにとっては恩師の一人なんです。

取材で印象的だったのは、「夢」と「志」の違いについての話でした。創業時に野田さんは孫さんに語ったそうです。「夢」は個人の単なる願望だが、「志」は多くの人々のために社会を変えよう、世の中を良くしようという大きな気概。「夢」を追う、なんて程度の男になってはいかん、「志」を高く持て、と。

億の収入を稼ぎ出す経営者たちがなぜ引退せずに働き続けているか? それは自分のためではなく、社会のためという志があるからだということを、このときに改めて知りました。このインタビューは、私自身も「志で仕事をしているかどうか」を問われる瞬間でもありました。志を持っているかどうかは、インタビュー相手にもすぐ伝わってしまうものだ、ということも後にわかりました。

3つ目は、『おもかげ復元師』の著者である納棺師さんへの取材です。東日本大震災の津波で亡くなられた方のお顔は、激しい損傷を受けていました。ご遺族が平穏な気持ちでお見送りできるよう、亡くなられた方のお顔を生前に近いきれいな状態に、ボランティアで復元されていた方です。その数はなんと300人以上。

ご自身の経験を淡々と語られるのを聞いていると、思わず涙が溢れるのを止められませんでした。インタビュー中に泣いてしまったのは、これが初めてです。「生と死」を突きつめた方だけに、心を揺さぶられました。

「生きるとは」を考えずにはいられないインタビューだったのですね。 多くの職業の方を取材されてきて、「この業界の人のインタビューが好き」というのはありますか。

上阪:映画でもスポーツでも、監督という名の職業への取材ですね。猛者たちを引き連れて、一つのものをつくっていくのが監督。並大抵ではできません。頭の回転も速いけれど、腰が低くて口もうまい。営業マンそのものにも見えました。そして監督自身に魅力があるからこそ、猛者たちがついてくる。人間力も問われるんです。お会いした監督は、みなさんキラキラしていました。

意外に表に出ない「ビジネスの現場」 頑張っている人にスポットライトをあてる

上阪さんは、ローソンや成城石井など、ビジネス現場にいるトップランナーと、新境地を拓く企業のビジネスノンフィクションを率先して手掛けておられるように感じます。そこにはどんな興味関心があるのでしょうか。

上阪:成功している人のエッセンスを、多くの読者に伝えたいという強い思いがあります。

20代の私は成功願望でギラギラしていたタイプだったんです。しかし、結局それだけだとうまくいかないんですね。転職に失敗、会社は倒産…。実はもともとフリーのライターを目指していたのではなく、なし崩し的にフリーになってしまったという経緯があるんです。だからこそ、成功者が「なぜうまくいっているのか」に強い関心を持つようになりました。

ビジネスの現場に関しては、最前線で行われていることが、意外に人の目に触れないんですよね。ローソンも成城石井も、結果が出ている現場には、必ずその理由があるんです。どれだけたくさんの頑張っている人がいて、いかに努力が積み重ねられているのか。それを、もっともっと世に知らせたいと考えています。

『なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?』の取材の中で、「ここがすごい!」と思ったのはどんなポイントでしたか。

上阪:やはり『プレミアムロールケーキ』の美味しさですね。一口食べて、こんなにおいしいスイーツが、たった150円ほど(税込154円)で売られているのかと衝撃を受けました。コンビニがどれほど進化していたのかを、私はまったく知りませんでしたが、数年前の大ブームの裏にある開発ストーリーに、じっくりと迫れたのは面白かったです。

私もこの本を本で、タイトルが単に「面白い」ではなく、「とにかく面白い」となっている理由がよくわかりました。現場で、こうした面白いポイントを掘り起こすために、どんな工夫をされているのでしょうか。

上阪:インタビュアー自身が興味をもって突っ込むことです。相手に「ノってもらう」と、気分よく話してくださるんです。ただ、人によってタイプが違うので、相手のトーンやペースに極力、合わせるようにしています。最初は雑談や答えやすい質問から始めるなど、話しやすい空気づくりも大事ですね。何千人も会っていると、初対面でも一目見ればどんなタイプなのかが、だいたいつかめてきます。

また、相手の情報が事前に調べられる場合は、しっかりリサーチします。調べてきたことを取材中に小出しにすると、相手の話の深さが違ってきます。ただし最近では、あえてあまり調べ過ぎずに、新鮮な気持ちで本番に臨むことも増えてきました。

大事なのは「相手の立場に立つ」こと

相手が気分よく話せるように、数々の工夫をされているのですね。 文章の書き方に関するご著書の中で「創造力より想像力が必要」と書かれていました。想像力を養うのに役立った経験は何でしたか。

上阪:ひとつは、新卒で入社したアパレルでの経験です。体育会色の強い会社で、上下関係やビジネスマナーにも厳しい職場でした。でも、これはありがたかった。この会社では、「相手の立場に立つ」ことがいかに大事かも学びました。例えば、取引先のお店が忙しい時間に電話をかけない、なんてこともそのひとつ。相手の状況を想像して動いているかどうかで、相手の態度も変わっていくのだということを知りました。

「相手の立場に立つ」習慣は、リクルートで採用広告をつくる際にも活きましたね。広告ってクリエイティブではなくて、イマジネーションの世界だと私は思っていました。クライアント企業と一緒にターゲット読者を想像し、クライアントが気づいていない魅力を言語化して、訴求のロジックを組み立てる仕事でした。

上阪さんは月に1冊以上、本を執筆されています。これほどの速さで、非常にハイクオリティな本を書く原動力は何なのでしょうか。

上阪 徹さん(以下、上阪):「そこに仕事があるから」ということに尽きます。スケジュールさえ合えば、できるだけ依頼をお受けしていくというスタンスは、この20年変わりません。ただ、「売ろう」という意識が強すぎる依頼は苦手です。常に「読者のため」という志が感じられる企画かどうかを大事にしたいと思っています。

スピードとクオリティの両立は、20年間ずっと意識してきたことです。工夫を続けていると、効率は次第に上がっていきます。例えば、まとまった時間で原稿を書くこともそうです。だから、取材はできるだけ午前中に入れ、午後を執筆にあてています。事前にインタビューのプロット(構成)を用意するのも、スムーズに執筆するため。プロットに基づいたモレのない取材は原稿のクオリティを大きく左右しますし、いい取材ができればスムーズに文章が書けます。取材の臨場感も出しやすくなります。

「相手の正面ではなく、隣に座る」ことで仲間意識が芽生える

ビジネスパーソンにとって、相手のニーズを深堀りし、本音を引き出す力は非常に重要だと思います。こうした力を高めるためのおすすめの方法は何でしょうか。

上阪:商談でも取材でも、相手の真正面ではなく隣に座る意識を持つことです。例えば、打ち合わせのとき、編集者の真向かいに座るのではなく、隣に座る意識をする。そうすると、一緒に読者の方向を向いて企画を考えるようになるんです。読者に向かう共闘意識が芽生えます。営業でも同じだと思います。お客さまにも、お客さまがあるわけです。お客さまのお客さまを一緒に見るという目的を共有すれば、クライアントとは共闘関係になる。そうなったら、相手は本音で話してくれるようになります。

「相手の隣に座る」という意識、今後、私もぜひ実践しようと思います!  世間ではゴーストライターと呼ばれたりしていますが、上阪さんは、ブックライターの意義を浸透させ、ブックライターのイメージ・地位の向上にも寄与したいと考えておられるとのこと。上阪さんの志はズバリ何ですか。

上阪:「人の役に立つこと」です。読者、編集者、著者、そして世の中の役に立つ。ブックライターの地位向上に寄与したいと考えたきっかけは、編集者が「良いライターが減ってしまっている」という強い危機感を抱いていたことでした。ブックライターの塾を開講し、『職業、ブックライター。 毎月1冊10万字書く私の方法』を書いたのは、そのためです、それが、編集者や著者、読者のためになると考えたから。何より、ゴーストライターと呼ばれるこの職業を、もっと誇りを持てる仕事にしたいと思いました。

自分の本でも使った好きな言葉に「誰かの役に立つことを仕事という」があります。本来、仕事は誰かの役に立つためにある。だから、お金をいただけているわけです。そして、せっかくお金をいただくわけですから、いただいた分以上に役に立つことを考えなくてはいけないと思っています。成功している人たちは、それを徹底的に実践している人なのだと思っています。

次回作に登場するのは、ドトールコーヒーの現場

あさ出版から、ドトールコーヒーの現場についての本、『なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?』を出版されました。取材段階で注目されたのは、どんな点でしょうか。

上阪:シアトル系のコーヒーショップが日本に上陸して約20年になります。日本のコーヒーショップは、外資の上陸でかつてなかった激しい競争を強いられてきました、ですから日本のコーヒーショップ最大手のドトールコーヒーも、さぞや苦戦していたのではないか、と想像していたんですが、実はほとんど影響を受けていなかったんです。いつも混んでいるし、業績も落ちていない。どうしてなのかと思ったら、その理由がちゃんとありました。取材すればするほど、びっくりするような理由がてんこ盛りになりました。コーヒー一杯のためにここまでやるのかと。

例えばコーヒー豆は鮮度が重要なんです。焙煎するとすぐに酸化してしまうからです。だから、最もおいしいコーヒーが淹れられるよう、ドトールコーヒーでは毎日、工場から鮮度の高いコーヒー豆が届けられています。店では、その日に入ったコーヒー豆は使い切る。そのくらい鮮度にこだわっているんですね。

ところが、外資系のコーヒーチェーンの中には、外国で焙煎している会社もあります。それを、外国から船で運んでくる。時には、何カ月もかけて。まったく考え方が違うわけです。ただ、ドトールの面白いところは、自分たちのこだわりについてあまり声高に発信しないんです。そういう「言わない美学」がまた、ドトールのコーヒーのおいしさをよく知っているファンにはたまらないんだと思います。でも、私はそれをちゃんと伝えたいんです。懸命に頑張っている人たちは、きちんと社会で評価されてほしいからです。

上阪さんの志が胸に突きささってきました。素晴らしいお話をありがとうございました。

☆上阪さんが手がけた著書の要約はこちらから☆
なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
著者
上阪徹
出版社
あさ出版
なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?
なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?
著者
上阪徹
出版社
あさ出版
成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?
成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?
著者
上阪徹
出版社
あさ出版
弁護士ドットコム
弁護士ドットコム
著者
元榮太一郎 上阪徹
出版社
日経BP社
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文責:松尾 美里 (2015/09/30)
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