一流コンサルタントが伝授する「一生モノの読書術」とは?
外資系コンサルの日本・アジアトップを歴任した、山本真司さんに聞く

一流コンサルタントが伝授する「一生モノの読書術」とは?

今回登場いただくのは、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、ボストン・コンサルティング・グループ、A.T.カーニー極東アジア共同代表、Bain & Company 東京事務所代表パートナーなど外資系コンサルティング会社の日本・アジアのトップとしてご活躍されてきた山本真司さんです。いまも現役のコンサルタントとして多数の有名企業に助言しているほか、最近では若手のベンチャー企業に出資されるなど、投資家としても活動中。日本屈指のブレーントラストの「読書観」に迫ります。

一流コンサルタントの読書術——本に読まれてはいけない!

── コンサルタントとして活躍するには、まず情報収集がキモだと思いますが、普段どのように本を読んでいらっしゃるんでしょうか?

山本真司さん(以下、山本):僕は昔からウルトラ積読派なんですよ。その時のアンテナにちょっとでも触れるような本があれば買っちゃいますね。執務室として使っている部屋は、壁一面が全部本で埋まってるくらい。

── そんなにあるんですか!

山本:でも実は、最初から最後までキレイに読んだ本はほんのちょっとしかないんですよ。まったく手を付けてないものもたくさんある。 それには理由があって、僕は「本に読まれる」のが嫌いなんですよ。僕自身が問題意識を持って、その問題意識に関する情報だけを得たいと思っている。辞書のように、自分が関心を持っているものだけを主体的に読もうとしているんですよね。 例えば、この2、3年は金融を含めたマクロ経済が不安定で、先行きが全く見えなくなってしまったよね。そうすると、「アメリカの金融緩和はどうなるんだろう?」っていう世界経済の大局観についての本から、「円がヤバい!」みたいなもっと短期的なテーマを取り扱った本まで、感性に引っかかった本はとにかく全部買っちゃう。 そうやって買った本をザーッと乱読する。読むというよりも、ただめくっているっていう感じかな。読むときには付箋を貼るなんて生易しいものじゃなくて、ページの端を折ったり、ひどいときにはページそのものを破ったりしながら、必要な情報を抜き出すようにしているんですよ。 そうやって本を資料にしながら読んで、自分の考えをまとめるアウトプットを作る。ここまでが僕の読書ですね。

── 多忙なコンサルタントが情報収集源として本を活用しようとすると、そういう読み方が必然なのかもしれませんね。どんなジャンルの本を読むんですか?

山本:蔵書の分野はめちゃくちゃですね。ただ、ビジネスの本はあんまりないと思います。僕自身がビジネス・コンサルタントなので、ビジネス関係の本を頭に入れることがマイナスになるケースもあると思っているんですよ。僕は僕なりの、独自のコンセプトを考えないと、コンサルタントとしては商売にならない。自分の思考なりのアイデアを出さないとつまらないしね。ということは誰かの影響を受けたら終わり。僕は人の考えた理屈とか理論とかは、きわめて概念的なもの以外は読まないようにしています。 だから、僕が比較的読むことが多いのは、経済、政治、人文科学とかの教養モノが多い。そのなかから、そのとき関心のある分野を読んでますね。昔は相対性理論とか量子力学とかも読んだし、最近は心を科学するっていう手の本が多いかな。まだあまり読めていないけれど、新説の歴史書とかね。

── 今回上梓された『実力派たちの成長戦略』では、3つのテーマで読む本を選んでいると書いていらっしゃいました。

山本:僕はやっていることが3つあるから、読む本も3つのテーマで選んでるんです。 一つは、ずっとコンサルティングをやっているわけだけど、次の5年がどうなるのかってなかなかわからないじゃない。それに対して自分なりの考えを持とうと思って、政治と経済についての本はよく読んでますね。 オススメの書籍として挙げている『易経』なんかもそういう理由で読んでいて、要するに人生や歴史には、良いときも悪いときも両方ありますと。そういった循環の法則っていう点で興味があるんですよ。リーマンショックからちょうど8年たつじゃないですか。最近は7、8~10年の循環と言われているから、そろそろ次の危機は何なのかを考えないといけない。
超訳・易経  角川SSC新書  自分らしく生きるためのヒント
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竹村 亞希子 著
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── 確かに、中国やヨーロッパ経済がちょっと不透明になってきた気がします。

山本:それに、もっと大きい流れというのがあるのかなと。日本は1995年くらいからROEとかの指標を重視する、マネー中心の世の中になってきたじゃないですか。20年かけてノンマネーからマネーの時代になったんだけど、いまや日本の企業って欧米以上に「分析」とか「計画」に偏っていて、欧米文化に対して過剰適応しちゃってる気がして。どこかで逆転するかもしれないと思ってるんですよ。そういうのを説明した本ってなかなか見つからないんだけど、最近は英国の産業革命後の歴史にヒントがないかと思って、関連する本を読んだりしてますね。そういうのを調べるためには、陰謀論すら読んでるよ(笑)

── 陰謀論まで(笑) でも将来を見渡すためにはそれだけ柔軟に考えることが必要なのかもしれません。

山本:二つ目にやっていることとして、経営層のお客さんに対して、コーチというか教育みたいなことをやっているんだけど、それに関連して経営者の本は読むようにしているね。経営書は読まないけど、経営者の生きざまについて語った本は生々しくて面白い。 古森重隆さん(富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO)の『魂の経営』とか、井上礼之さん(ダイキン工業代表取締役会長兼CEO)の『人の力を信じて世界へ』とか、非常に良い本だよね。りそな銀行会長を務めた細谷英二さんの『日経ビジネス経営教室 どんな会社も生まれ変わる』も良かったし、IBMを復活させたルイス・ガースナーの『巨象も踊る』とかも印象深い。アップルを一時期率いたジョン・スカリーの『スカリー 世界を動かす経営哲学』は、コンサル時代に読んで「わかった!」というひらめきがあったね。
魂の経営
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古森 重隆 著
東洋経済新報社
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日本経済新聞社
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── なるほど、経営者の本はたしかに刺激的ですよね。

山本:半分物語だからね。なにより、経営者やその候補の部長の方とお会いするときにはとても参考になるんだよね。 それから三つ目は、いま20代、30代向けのベンチャーの投資を始めているんだけど、これに関しては本は読まずに、インターネットから情報収集することが多いかな。朝起きたらいろんな記事を読み込んで、大事なものはPDFに保存して。1日あたり5~10つの記事を保存していて、もう5年くらいやっているから、1万3,000件以上の記事がある。Googleで検索するのもいいけど、僕の場合はこちらを調べた方が質の高い記事がまとまって出てくるんだよね。

── 新聞や雑誌のスクラップのような感覚なんでしょうか。

山本:そう、そうなんだよ。そういうのが情報源になっているね。さらに、後からしっかり読もうと思っているものはOne Noteで保存したり、これはと思うものは線を引いたりして。ジャンル別とかはめんどうなので、単純に日にち別になっているんだけど。 あとは、最近タブレットで電子書籍を読むようになったかな。

── 紙の本とはどう使い分けているんですか?

山本:付箋引いたり、マーカーを引いたりしないで読むというか、あまり真剣に読まなくても済むような本を読むときに使っています。ちょっと昔ベストセラーだったから一応目は通しておこうかなという本とか、ダイエット本とか、マンガ本とか。あとはニーチェが急に読みたくなったりね。出張のとき、新幹線で寝ながら読んでいるよ。

── マンガも歴史漫画が多いんですね。『日本の歴史』とか。紙の本、電子書籍、PCときちんと使い分けて、しかもその目的が明確になってるというのは驚きました。

山本:言われてみれば、確かにそうだね。テーマ、用途によってツールを使い分ける、これはもう習慣だよね。 最近はフェイスブックが便利だなと再認識しているよ。みんな有益な記事があったらシェアしてくれるし、飲み会の代わりみたいなものだから、知り合いの生情報も手に入るしね。

20代に身に着けておくべき読書習慣、30代から読むべき本

── ビジネスパーソンにオススメするとしたらどんな本を挙げますか?

山本:マニアックな本だからあまりウケは良くないかもしれないけど、僕がいまだに影響を受けているのは、ラ・ロシュフコーというフランスの貴族が17世紀に書いた『箴言集(しんげんしゅう)』。あれはものすごくインパクトがあったね。人間を非常にシニカルに見ていて、本質をえぐっている。有名なのは「人間は自己愛でできていて、自分が世界で一番だと思っている」という一文。だから相手とやり取りをする際には、こちらが相手を認めてあげないと、絶対に相手も自分を認めてくれない、とかね。そういう皮肉っぽい本なんだけど、これを読んで「ああそうなんだ!」と人間について分かった気がしたんだよ。
ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫 赤510-1)
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二宮フサ 翻訳
岩波書店
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二宮フサ 翻訳
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それから竹田青嗣さんという方の現象学の入門書は人生を変えてくれた本だね。僕は金融出身のコンサルタントだから、客観的=数字っていうのが頭にあったんだよ。だってほら、数字っていうのは誰もが疑わない客観的なものだと思うよね。だけど、お客さんになんでもかんでも「これは客観的ですよ」と言うと、怒られちゃう。この本が言っているのは「客観的かどうかを決めているのは人間の主観である」ということなんだ。だから実は価値観っていうのが非常に重要で、合意を勝ち取るためには数字でバンと出すんじゃなくて、一緒に議論してすり合わせをするっていう作業がとても大事なんだよね。

── 現象学の本を読んだことで「なんでわかってくれないんだ」っていう歯がゆさが解消されたと。

山本:そう、今になって思うと当たり前のことなんだけど、僕の場合はこの本のおかげでそれに気づくことができたんだよね。 それから参考になったのが、岩井寛という脳外科の先生が書いた『色と形の深層心理』で、世界中の歴史的建造物とかイコンと呼ばれるものが、どういうメッセージを発しているかっていうのを解き明かしている本。例えば、教会って三角屋根のものが多いけど、あれは上が天国で下が地獄を示しているんだよ。だから、コンサルタントとしてスライドを作るとき、三角形の上に目標を書いて、下に現実の問題点とかを書くようにすると、お客さんが理解しやすい。コンサルタントがよく「理由は3つあります」とかっていうけど、あれも釈迦三尊像とか三位一体とかから影響を受けているんだよね。
色と形の深層心理 (NHKブックス (492))
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岩井 寛 著
日本放送出版協会
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── そういう本はおいくつの時に読まれたんですか?

山本:30代後半から40代のときに読んだ本だね。 あとは「聖書」もオススメ。ちょうど仕事でマネージャーとかパートナーになるときで、お客さんに大きな影響を与えたり、チームを率いたりするときだったかな。そのときにふと「人間の歴史のなかで一番大きな影響を与えてきた人はキリストかなぁ」と思ってね、聖書を読み始めたんだよ。モーゼの十戒とかは僕にはリーダーシップ論に見えるよ(笑) 僕は若い人にはリベラルアーツ、すなわち哲学・宗教・心理学・歴史といった本は30歳くらいから読み始めるように言ってるんだよ。早めに好きな分野を作っておいたほうがいいからね。僕の場合もそういうところからヒントをたくさんもらったよ。僕は色々読んだ結果、歴史は中国史、心理学はユング、哲学は現象学が好きだと分かった。 当時のボストン・コンサルティング・グループはクリエイティブ志向でね、ちょっとぶっ飛んだ人が多かった。だから『ゼロの発見』とか『大脳生理学』とかそういう本読んでる人が多かったんだよね。『易経』を教わったのもそのときの先輩からだね。

── 本はどこで買われるんですか?

山本:最近はインターネット通販で本を買うことも多いけど、昔は悩んだら本屋に行ってたよ。例えばある業界ですごく弱い会社があってね、どう分析しても答えが出てこない。そこで本屋で「弱いんだけど強い」っていうテーマの本はないかなと思って色んな本を眺めていたら、生物学のコーナーで「蚊」について書いた本が目に留まった。生物学事典を調べてみたら、「Strategy of Mosquito」っていうのが見つかったんだよね。 蚊は卵を産むとき「そこそこの大きさの水たまり」を狙うんだよ。大きすぎる池には魚がいるし、小さすぎる水たまりだと乾いちゃうかもしれない。だから、墓石にたまった水とかがちょうど良くって、それ以上水たまりが大きくなるようだったら逃げちゃうんだよね。「これだ!」と思って、「大手が参入してくる前の、そこそこのサイズのマーケットに固定費をかけずに参入して、他社が興味を持ち始めたらパッと切り替えて逃げましょう」っていう提案をしたら、これが当たったんだよね。お客さんにはとても「蚊の戦略です」とは言えなかったけれど・・・(笑) こういう経験って結構多くて、だから書店には結構行きますね。

── 若い人にはどういう本や読書習慣を勧めますか?

山本:知り合いの20代の人には、まずはとにかく経済学・経営学の古典を読め!って言ってるかな。戦略だったらポーター、マーケティングならコトラー、ファイナンスならブリーリーマイヤーズとか、ビジネススクールで学ぶような本物の古典を読んでほしい。いまだったらマンキューとかスティグリッツとかでもいいね。難しいかもしれないけれど、基本理論を20代のうちに頭に入れておかないと。応用とか実学はそのあとでも学べるけど、頭が柔らかいうちじゃないと本格的なテキストは読み込めないんだよね。 僕はビジネススクールに行ったのが25歳のときで、シカゴ大学ではブラックショールズの原論文読まされたりして、非常に大変だったけど、これがあるからこそ今の自分があると言っても過言ではないんですよ。

── 20代には『易経』はまだ早いと。

山本:うん、まだいい。僕の本もまだ早いかもしれない(笑) でも今回の『実力派たちの成長戦略』には「100分で学ぶ経営戦略論の基礎『5講』」っていうコーナーがあるから、そこはぜひ読んだうえで、原著にチャレンジしてほしいね。

── 今回の本のオススメポイントやどんな読者層を想定しているのかを教えていただけますか?

山本:この本を書いているときの仮タイトルは「ミドル再生の本」なんだ。 40歳を過ぎて、バリバリの役員になれる雰囲気じゃない、でもそこそこの役職はもらっている、だから定年まであと20年くらい何となく過ごせればいいかな、っていう人多いじゃない。その人たちに、もう一度立ち上がれ、もう一回悔いの無いように暴れろ、というメッセージを込めているんだよ。 自分がどんなビジネスパーソンになりたいかを想像できるような情報もたくさん書いた。だから、「読んで元気になりました」とか「力が出ました」っていう感想を送ってくれる読者がとても多いんだよね。まさしく、最近力でないなとか、このまま人生終わっちゃうのかな、という人にぜひ読んでほしいですね。

── 私も人生迷っている方にはもれなくオススメしています! ありがとうございました!

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文責:苅田 明史 (2015/10/28)

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