『投資の神様』の著者に聞く、投資にも人生にも効く勉強法
投資家・著者 大原 浩

GINZAXグローバル経済・投資研究会代表を務める大原 浩さん。
上田短資(上田ハーロー)、フランス国営・クレディ・リヨネ銀行を経て、1994年大原創研を設立して独立。国内外のビジネス・投資に広くかかわり、上場株投資やベンチャー投資なども積極的に行い、『証券新報』の顧問を約7年にわたり務めてこられました。
このたび、「世界で最も尊敬される投資家」として知られるウォーレン・バフェットが大事にしている原則を、ストーリー形式で学べる『投資の神様』(総合法令出版)を出版されました。
大原さんは投資の真髄をどのように学ばれたのでしょうか?
そして、「筋金入りの活字中毒」という面を持つ大原さんはどのように情報収集をされているのでしょうか?
投資を学ぶには、「理論と実践の行ったり来たり」が大事
── 『投資の神様』はストーリー形式でバフェット流投資のエッセンスを学べて、投資初心者の私にも非常にわかりやすかったです。大原さんは数多くの投資の本を執筆されていますが、執筆のモチベーションは何ですか。
大原 浩さん(以下、大原):投資を仕事にしている身としては、本来なら投資で成功する方法は企業秘密にしておきたいところです(笑)
ですが、「投資の神様」と呼ばれているウォーレン・バフェットが師匠のベンジャミン・グレアムから投資の本質を学んだのと同じように、私もバフェットの本から投資を教わりました。その恩返しの意味も込めて、勤勉な投資家のためのバイブルを書くことが責務だと思っています。
── 投資家が著した本は、どのように活用すればよいのでしょうか。
大原:バフェットが「他人の経験から学んだほうが、痛みが少ない」と言うように、先人たちの学びが詰まった本を読むことは、投資効果が非常に高いです。一方で、ゴルフもビデオを見ているだけでは上手くならないように、投資も、実際に経験を積まないと上達しません。「本で基本の理論を学ぶこと」、「投資の実践を通じて学ぶこと」を行ったり来たりするのが大切です。
よく「○日で投資がわかる!」といううたい文句の本が売られていますが、投資も仕事と同じく、短期間でエッセンスを体得するのは難しい。「株は安いときに買って、高いときに売る」というシンプルな原則ですら、基本を積み重ねてはじめてモノになるわけです。私自身、上場企業の株式投資を始めてから、「バフェットの本に書かれていた通りだ」と痛感することが増え、バフェットの真のすごさに気づきました。そのすごさの具体例は本書にゆずります。
── 大原さんは国内外の上場株投資、ベンチャー投資に携わっておられますが、金融の世界を目指されたきっかけは何でしたか。
大原:最初は金融業界に行くなんて思いもよりませんでした。大手金融機関の社員であった父親を見て育ったので、「ガチガチの堅い世界は私には合わないだろうな」と。私はヒッピー文化全盛期に青春期を過ごしたので「金儲け」に対して負のイメージを持っていたんです。
ですが、大学時代にリクルートのアルバイトで月30, 40万円くらい稼ぐようになって「ビジネスって頑張れば頑張るほど結果が出るし、こんなに面白いものなのか」と気づいたのです。これを機に、働くことへの否定的な考えが払拭され、縁あって新卒時には上田短資に入社しました。100人くらいで数兆円・数十兆円というお金を日々動かしているという、仕事のスケールの大きさが魅力的でしたね。その後ヘッドハンティングされて入ったクレディ・リヨネ銀行では、チームの責任者として、フランスやイギリス、アメリカ、シンガポールなど世界各国のメンバーと国際電話でリアルタイムにやり取りして仕事を進める臨場感を味わいました。
── 本や業界紙の執筆を始めたのはその頃からなのでしょうか。
大原:まとまった文章を書くようになった発端は、金融レポートでした。クレディ・リヨネに勤めていた頃、ロイターモニターなどの金融の情報を伝える端末に、トレーダーとしてマーケットの概況を発信していました。事実だけでなく、自分なりの切り口で分析や意見を書いていたら、それが思いのほか好評で。
会社を立ち上げたときも、設立趣旨を綴ってFAX配信すると反響があり、そのレポートを製本して書店に置いたら完売したこともありました。ちょうど「業界誌に寄稿しないか」と声がかかるようにもなり、執筆の道が開けていった感じです。
── 大原さんは『投資の神様』でも、バフェットの教えを恋愛や結婚にたとえるなど、難しいテーマを面白く、かつわかりやすく説明されています。この表現力をどのように磨いてこられたのでしょうか。
大原:昔から「たとえ話がうまいね」と言われてきました。それは私の興味の範囲がものすごく広いからだと思います。例えば、ケーブル・テレビはドキュメンタリーからフィクションまで1日3時間くらいは見ていますし、筋金入りの活字中毒なので、美容院に置かれている女性誌も読んでしまうくらい(笑)引き出しを増やしておくと、色々な分野の物事を比較して、たとえ話に使えるようになります。
例えば、会社を見ることは人間を見ることと似ています。履歴書や短期間の面接だけで、その人の本性を理解するのが難しいのと同様に、会社の決算書を見るくらいでは、その会社が今後伸びるかなんて、なかなか予測できません。
バフェットは「投資の利益は、忍耐に対する報酬だ」と語っていましたが、それまでいわゆるIT株に投資してこなかった彼がIBMへの大型投資を決めたのも、50年間にわたる熱心な企業研究があってこそ。その会社のことを熟知しているから、自信を持って判断を下せるわけです。だから、会社の株を買うときは、過去10年間の実績を見なさいと私もアドバイスするようにしています。人間も10年つき合ってはじめて、相手が本当に信頼に値するかどうかがわかります。
── 投資の法則は、人生の法則にも言い換えられるかもしれませんね!
人生観に大きな影響を与えた本は『宝島』と『青い鳥』
── 大原さんは活字中毒とのことですが、普段どれくらい活字に接しておられますか。
大原:毎日およそ5~8時間は情報収集に費やしています。日々刻々と移り変わる投資情報はネットで仕入れて、毎朝、四季報を読んで気になった会社の決算書を読みます。それから日経新聞、日経MJ、日経産業、東洋経済などの新聞、雑誌には必ず目を通します。ドラッカーやポーターをはじめとする経営書、ビジネス書も毎日読みますね。良い会社かどうかを評価するには、「そもそも良い経営とは何か」「良い経営者は何をすべきか」を理解しておかないといけませんから。トヨタやいすゞ自動車、そして未来工業の社長の話など、経営の成功事例は興味深く読んでいます。
── 5~8時間ってすごいですね! これまで読まれてきた本の中で、人生や価値観に大きな影響を与えた本について教えてください。
大原:私の人生観に大きな影響を与えたのは、子供時代に読んだ海洋冒険小説『宝島』(ロバート・ルイス・スティーヴンソン著)と、童話『青い鳥』(モーリス・メーテルリンク著)の2冊です。『宝島』を読んでから「どんなに苦しくても何か挑戦したい」という思いが芽生えました。一方、『青い鳥』の「幸せは身近なところにある」というテーマは、人生の指針になっています。外へ飛び出す冒険心と、身近な幸福を感じ取る心。人生では両方のバランスが大事だと思うんです。
{{stock:47:宝島 (岩波少年文庫)
社会人になってから影響を受けた本は、三島由紀夫の『葉隠入門』や『東大全共闘「討論 美と共同体と東大闘争」』です。三島由紀夫の影響で「40歳までに死のう」と思っていたくらい。まぁ、40歳を超えても生きていますけど(笑)西郷隆盛やチェ・ゲバラなど、英雄は40歳前後で亡くなっていて、カッコいいと思っていたんですよ。 三島由紀夫の人生観や死生観にふれて、「人は必ず死ぬ」という事実を突きつけられましたね。「もし今日死ぬとしたら、満足して死ねるのか?」と考えるからこそ、先送りせずにやりたいことに挑戦し、時間という限られた資源を有効活用しようと意識するようになりました。 その一方で、バフェットのように長生きすることで、費やせる時間(資源)を増やし、長い目で見て複利により大きな利益を生み出すという考え方も大事だと思っています。両方の考え方が自分の人生観を形づくっているのでしょうね。「投資では人間性が問われる」
── 投資やマネーリテラシーを身につけたいと考えているビジネスパーソンに向けて、おすすめの本や習慣を教えてください。
大原:投資入門者におすすめなのは、『客家(はっか)大富豪の教え』(甘粕正著)です。自著『投資の神様』のようにストーリー形式で、18の金言から生き方や商売の技術、投資の極意を学べます。
あとは『ドラッカー名著集12 傍観者の時代』もおすすめです。ドラッカーの自伝的な要素が多く、「投資では人間性が問われる」ということを教えてくれた名著です。投資では「自分の失敗を認めて受け入れること」が大切です。損をしたときに自己責任だととらえ、そこでの学びを次に活かせるかどうかが投資家の勝負どころだといえます。
── 最後に、今後、大原さんが挑戦したいことを教えてください。
大原:バフェットにまつわる本を執筆するかたわら、小説家としてのキャリアも積んでいきたいと思っています。東野圭吾さんとか湊かなえさんの本って、思いがけない発想に満ちていて非常に面白いので、そうした作家を目指してこれからも執筆に力を注いでいきたいですね。
── 小説も楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました!
大原さんが書かれた『投資の神様』の要約はこちらからご覧いただけます!
