世界のトップリーダーはなぜこの人と話したがるのか?
経済キャスター・ジャーナリスト 谷本 有香

世界のトップリーダーはなぜこの人と話したがるのか?

今回登場するのは、経済キャスター・ジャーナリストの谷本有香さん。

山一證券を経てBloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年米国でMBAを取得し、日経CNBCキャスターの道を歩まれます。2011年には同社初の女性コメンテーターとなり、同年10月からフリーへ。これまで、トニー・ブレア元英首相、マイケル・サンデル ハーバード大教授、ジム・ロジャーズ氏をはじめ世界のVIPたちへのインタビューは1,000人を超えるといいます。

2015年5月には『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術』(ダイヤモンド社)を、7月には『世界トップリーダー1000人が実践する時間術』(KADOKAWA/中経出版)を出版されました。独自の視点で問いを投げかけながらも、相手への気配りを忘れず、気持ちよくお話させてしまう「アクティブリスニング」は、ビジネスパーソンの今後の必須スキルといえるでしょう。

谷本さんは本にどんな思いを込め、キャスター、ジャーナリストの道を歩まれているのでしょうか。

そして、彼女の人生観、死生観に大きな影響を与えた本との出合いに迫ります。

スターバックスCEOもマイケル・ポーターも唸らせた「聞く」技術

谷本さんの『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術』は、「準備」→「本番(傾聴+問答)」→「フォロー」の3ステップに沿って、役立つスキルが具体的な場面とともに盛り込まれているのが斬新だと感じました。この本を執筆された動機は何でしたか。

アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術
アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術
谷本 有香 著
ダイヤモンド社
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アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術
アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術
著者
谷本 有香 著
出版社
ダイヤモンド社
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谷本有香さん(以下、谷本):自分自身がキャスターとして試行錯誤する中で見出した「本音を引き出す方法」をお伝えしたいと考えたのがきっかけです。

私がフリーのキャスターとしてキャリアをスタートさせたBloomberg TVは、スクープの数が評価と直結する、いわゆる外資系の考え方を体現した会社でした。最初は相手の意外な発言を得るために、相手をわざと怒らせて本音を引き出すようなスタイルでやっていました。ですが、次第に「このままでは立ちいかなくなるな」と思ったのです。ネガティブな感情だけが残ってしまいますから。

経験を積んでわかったのは、相手に気持ちよく話させることを心掛けたほうが、互いに高い満足度を得られるし、本音も引き出しやすく、良好な関係につながるということ。例えば、世界のトップの経営者や政治家たちから、たった5分、10分で、真の想いを引き出すには、相手のちょっとした表情の変化も読み解き、言葉のかけ方を変えるなど、敏感に反応する必要があります。

取材は一回きりで終わるわけではありません。日本の代表、一企業の代表として相手と対峙することも多いので、いかにインタビューを通じて「今後につながる関係」を築くかが大事なんです。

谷本さんがアクティブリスニングの大切さを最も強く実感されたのは、どのインタビューのときでしょうか。

谷本:スターバックスのハワード・シュルツ社長のインタビューですね。重要視したのは、他のインタビュアーも同席するなかで、いかに差別化を図って、シュルツに印象付けるか。

実は自分なりの視点を見つけるために、事前に日本のスターバックスの様子もリサーチしていたんです。考えた末、私は生意気にとられかねない質問をあえて投げかけました。

「新メニューのサンドイッチの売れ行きはいかがでしょうか。個人的には、パッケージされたままのサンドイッチとその味は日本人に合うのか疑問を覚えたのですが」。

すると彼が急にメモを取り出して、「具体的にはどこが問題だと思う?」と身を乗り出したんです。ここから彼の態度が一気に変わって、用意された定型の回答ではなく、ご自身の言葉で考えを語るようになりました。そして最後には「あなたの切り口は面白い」と、次のインタビューのアポにもつながっていきました。

このとき、インタビューってインタラクティブ(双方向)でいいんだって強く思いましたね。単に相手に質問するだけでなく、質問を通じて自分の考えを伝えることがとても大事なんだと。

『競争の戦略』で有名な経営学者でハーバード大学の教授でもある、マイケル・ポーターのインタビューでも、「先生のおっしゃる理論は、日本のこのケースではあてはまらないように感じたのですが」などと、大胆な問いを投げかけました。ちょうど私がアメリカのビジネススクールで彼の教科書を何度も読み込んでいた直後でしたから、まるで先生と生徒のような気持ちになっていたのです。結果的に、互いに示唆を与え合う深い対話につながったと思います。思い切って踏み込むことで、本心と本心のぶつかり合いが生まれるのだと実感しました。

インタラクティブだからこそ、その場で生まれるものがあるのですね。

真実を究明するだけでなく、一筋の光を投げかけられるジャーナリストでありたい

谷本さんが経済キャスター、ジャーナリストとして生きる決心をした出来事についてお聞かせいただけますか。

谷本:ジャーナリストとしてやっていこうと意識したのは、新卒で勤めていた山一證券の破綻を経験したときでした。本当に語り切れないくらいの思いがあったんです。隣の部の方が殺されたこともありましたし、家族が崩壊していくところも、何千万ものお金を失って途方に暮れる方々をも目の当たりにしましたから。あれから20年近くを経て、やっと当時のことを語れるようになってきました。

当時、不良債権の飛ばしをしていた金融機関は他にも存在したのに、国家から救済されることなく、半ば見せしめのような形となってしまったのが山一證券でした。たしかに糾弾されてしかるべき面もあったのは事実。ですが当時のメディアは、真実を究明するというよりは、ゴシップをかきたてているように私の目には映りました。私のような一介の社員にも「いくら払えば真実を話してくれるの?」とメディアが押しかけてきて、こういうメディアのあり方ってどうなのだろうと、怒りを覚えずにはいられなかったですね。

日本の報道は事実だけを伝えて終わりということが多いです。事件の暗部をえぐり出すという報道しかやっていません。そういったやり方ももちろん必要ですが、責任追及にとどまらず「今後こうした被害を防ぐには、どうしたらいいのか」「視聴者にどんな選択肢をとれるのか」というソリューションを提示するところまで踏み込んだ報道もあるべきだと思うのです。なぜそんな事件や事故が起きたのか? 問題の背景、構図にまで踏み込み、疑問を読者に投げかけ、何かを感じてもらいたい。それにより視聴者の中に新たな考えや行動が生まれるのなら、「いや、それはおかしい」とどれだけ反論されても、私自身がたたかれてもいい。むしろ、双方向のやりとりが生まれているのなら大成功なんです。

心痛む視聴者を増やすのではなく、視聴者に一筋の光を与えてあげられる報道をめざしたいですね。これが私のジャーナリスト、キャスターとしての根本の部分だといえます。

視聴者からはこういう声をいただいたことがあります。

「谷本は、しつこいし図々しい。でもそこがすごくいい。『ここまでつっこむのか』と。だからこそ、開いていなかった引き出しを開けてくれる」、「怖いものなしで、私たちの気持ちを代弁してくれる」と。まさに私が描いていたジャーナリズムの像に合致した反応をいただけて非常にありがたかったですし、間違っていなかったと背中を押されましたね。

報道の中でも、視聴者から湧き上がってくるもの、双方向のやりとりを大事にされているのですね。 谷本さんは、ジャーナリストにはどのようなマインドが必要だと考えておられますか。

谷本:覚悟ですね。自分の意見を曲げずに、自社の看板をはずしてでも、正義を貫くという覚悟

ジャーナリストは本来どなたも「世の中を良くしたい」という、人一倍強い正義感を持っているはずですが、つい断罪することに力を注いでしまう。世の中を良くしたい、変えていきたいという良心を持ち続けることが大事だと思います。

あとは、メディアの情報をあえて素人目線で受け取ることを意識しています。今の私は、仕事と子育てを両立していることもあり、新聞をじっくり読む時間すら限られています。

ですが、子育てに追われた母という目でメディアの発信する情報にふれ、なにか「ざわっとする」感覚や、納得いかない気持ちを抱いたときに、「他の視聴者にも似た疑問を抱いているはず」と考え、その理由を掘り下げることができます。業界や専門家の常識に流されない、一視聴者としての切り口が、私ならではの武器になるんじゃないかと思っています。

谷本さんは、世界の一流の方々にインタビューされています。一流であり続ける方の共通項は何だとお考えですか。

谷本:一流であり続ける方は、「夢を描く力」が非常に優れています。一流の方に、悪い意味での「計算高い人」というのはいません。やりたいことを素直に追求しているのです。夢を実現させられたのは、「そんなこと無理」という外野の声に呑まれず、夢を追い続けられた人たちなのです。

『世界トップリーダー1000人が実践する時間術』では、トップリーダーがいかに大きな自信を持っているかを綴りました。自信の源は、小さな成功を積んできていること。実は、彼らのような大物であっても日々のTo Doリストを1つずつクリアしていくだけで十分な達成感を得ているそうです。To Doリストは、小さな成功体験を実感する効果があるんです。

トップリーダーたちは一点の曇りもなく、「達成できて嬉しい」というシンプルな感情に突き動かされ、夢を現実に変えていっている。だからこそ人がついてくるのだと思います。

世界トップリーダー1000人が実践する時間術
世界トップリーダー1000人が実践する時間術
谷本 有香 著
KADOKAWA/中経出版
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世界トップリーダー1000人が実践する時間術
世界トップリーダー1000人が実践する時間術
著者
谷本 有香 著
出版社
KADOKAWA/中経出版
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こうした「確固たる自信」を育むために、ビジネスパーソンはどんな経験を積むべきだとお考えですか。

谷本:よく「成功したから自信がもてる」と思いがちですが、そうではないと思っています。自分を無条件に受け入れてくれる存在を持つことが真の自信につながるのです。

私はアメリカのビジネススクールで、どんな意見を言っても、それが間違いであっても「新しい視点や価値を生み出して素晴らしい」と受け止めてもらえたことで、自信を持てるようになりました。家族でも友人でも、間違いを恐れずに自分の意見を言える存在がいれば、どんな壁にも立ち向かえるのだと思います。

抗えない状況下でも「生きよう」と思えたジャーナリストとしての使命感

谷本さんの人生や価値観に大きな影響を与えた本、キャリアの転機を支えた本は何でしたか。

谷本:私の人生観に影響を与えた本は、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』 (みすず書房)です。実は数年前、最愛の母がある日突然、重篤な難病に罹ってしまいました。何の前触れもなく首から下が動かなくなって、医師からは一生このまま動くことはないだろうと言われました。母はその状態を受け入れられずにひどく落ち込み、さらには父もうつ状態になってしまった。私自身も何もかもに絶望的になり、毎日「こんな辛い思いをするなら、いっそ死んでしまいたい」ということばかり考えていました。

私は相当、精神力が強いほうですし、世の中に抗えないものがあることも経験上、わかっていました。ですが、大切な人の命にかかわることほど耐えがたいものはないのだと思い知らされましたね。この現実とどう折り合いをつけていけばいいのか。そのヒントとなる本を探し求めていたときに出会ったのが『夜と霧』でした。「生とは何か」という問いに対し、一種の悟りを開けたような気がします。

著者のフランクルはナチス強制収容所で「いつ殺されるかわからない」という極限状況を生き抜いてきた人です。彼が生きる希望を捨てなかったのはなぜか。それは「もし生きて還れたら、こんな現状が二度と起こらぬよう、自分の経験を語り継ごう」という使命を意識していたからでした。

この本を読んで、私にはジャーナリストとしての役割があると強く意識しました。この現実から得たものを社会に伝えることで、私のような苦しみの渦中にいる人を救いたい。一個人の「母を救いたい、私も救われたい」という願いだけでは、降りかかってきたものに押しつぶしてしまっていたでしょう。社会のための使命を見つけることができたからこそ、私は今こうして生きていられるのだと思います。

夜と霧
夜と霧
ヴィクトール・E・フランクル池田香代子(訳)
みすず書房
夜と霧
夜と霧
著者
ヴィクトール・E・フランクル池田香代子(訳)
出版社
みすず書房

そんな経験をされていたのですね…。谷本さんが感じておられたものを、少しでも、ほんの少しでも感じられるよう、『夜と霧』を読んでみます。 今後、谷本さんはどんな人生を歩んでいきたいと考えておられますか。

谷本:自分が亡くなるときに、人のために最大限の貢献ができたなと思えるように日々を過ごしていきたいですね。大したことでなくても、笑いかけられるだけでも人は救われることがあります。だから、自分が相手のためにできることにおいては、出し惜しみしないでいたい。

また、母のことを機に、ライフワークとして社会福祉や介護の現状について、取材を始めるようになりました。ごく一部の医療関係者のことですが、患者である母をまるでモノのように扱う心ない言葉を投げかけられ、悔しくて、怒りでいっぱいになった経験があるんです。そこから「人間の尊厳を守るべき現場に、こうしたひずみが生まれてしまうのはなぜなのか?」「医療や福祉の現場にどんな構造上の問題があるのだろう?」という問いが生まれました。私なりの切り口で調査したものを、いずれ何かの形で世に出したいと考えています。それによって、私と同じような怒りを経験した患者やその家族を一人でも多く救いたいですし、自分の発信が、いずれ法律改正などの何らかの社会的なアクションに結びつくことを願っています。

人のために、社会のためにという、心の底から湧き上がる使命感が、人生でいかに大事なのかを感じました。ありがとうございました。

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文責:松尾 美里 (2015/12/03)

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