『未来をつくる起業家』の著者に聞く、起業家のリアル
日米で起業家支援を手掛けるケイシー・ウォールさんに聞く

今回登場するのは、日本で生まれたスタートアップの成功と失敗の事例を紹介した『未来をつくる起業家』(クロスメディア・パブリッシング)を出版されたケイシー・ウォールさん。ニューヨーク出身で、現在は東京、サンフランシスコを拠点にエグゼクティブ人材に特化した人材紹介会社ウォール・アンド・ケースを経営されています。

今回は、日本でグローバルに活躍するベンチャー企業を育てるには何が必要なのかをお伺いしました。

大企業で働いている優秀な人が起業を目指せる環境をつくりたい

『未来をつくる起業家』を読みましたが、起業家の失敗談や本音をここまで赤裸々に書いた本はないと思いました。この本を執筆された動機やきっかけは何でしたか。

未来をつくる起業家
未来をつくる起業家
ケイシーウォール(CaseyWahl)
クロスメディア・パブリッシング
未来をつくる起業家
未来をつくる起業家
著者
ケイシーウォール(CaseyWahl)
出版社
クロスメディア・パブリッシング
The Quiet Comeback - 20 Startup Founders Leading Japan's Next Tech Boom (NextPublishing)
The Quiet Comeback - 20 Startup Founders Leading Japan's Next Tech Boom (NextPublishing)
Casey Wahl 著
クロスメディア・パブリッシング
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The Quiet Comeback - 20 Startup Founders Leading Japan's Next Tech Boom (NextPublishing)
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著者
Casey Wahl 著
出版社
クロスメディア・パブリッシング
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ケイシー・ウォールさん(以下、ケイシー):日本で起業家が育ちやすい環境をつくり、日本を明るくしたいという思いが執筆の原動力になっています。

5年前に人材紹介会社を立ち上げましたが、当時の日本ではスタートアップ熱が今ほどではありませんでした。一方、東大や早慶など日本の優秀な大学を卒業した求職者の中には、起業家になりたいという方がたくさんいたんです。ところが、実際に起業に踏み出す人は多くない。そこで、彼らの行動を後押するべく、起業に興味を持つ優秀な人たちと共同して、合計4社を立ち上げました。しかしながら、実際には、 どの会社も倒産してしまい、多くのエネルギーとお金を費やしただけに終わってしまいました。具体的には、在庫が多すぎてビジネスを成長させるための資金が得られず、投資家からも興味を持ってもらえなかったという失敗もあれば、オフショア(海外)の開発チームに任せたら、バグが多すぎてその修正に追われてしまい、サービスをクローズせざるを得なかったという失敗もあります。

こうした私自身の失敗の経験から「こうすれば成功確率が上がる」というルールが見えてきたので、それを伝えたいと強く思ったのが執筆のきっかけです。

シリコンバレーをはじめ、アメリカではQuora(ユーザーコミュニティで作成、編集、運営を行うQ&Aサイト、クオラ)のようなサイトで、資金調達やストックオプション、エグジット(会社の株式を売却し、利益を手にすること)など起業に必要な知見を簡単に得ることができます。ですが、こうした情報が日本ではまだまだ足りない。

また、成功事例の要点をまとめるよりも、起業家の経験談をそのまま綴った方が、読者の記憶に残りやすく、共感が生まれやすいと思いました。

今でこそ日本でも、優秀な学生がスタートアップへの就職や起業に興味を持つようになってきていますが、高度な技術や優秀な人材がそろっているにもかかわらず、日本の起業環境はシリコンバレーより数年遅れているとみています。事実、起業後3年で約9割のスタートアップは倒産しているし、100億程度の売り上げに達するような爆発的成長を遂げる会社はまだまだ少ないですね。

それはなぜなのでしょう。

ケイシー:1つの要因としては、スタートアップの成長にとって重要な資金調達の正攻法を知らない人が多いということが挙げられます。資金調達に漕ぎつけるには、投資家の裏にいるLP(Limited Partner。投資において有限責任を負う投資組合員)の思惑を把握していることが不可欠。もちろん起業家自身が情熱やアイデアへのこだわりを持っていることが前提となりますが、LPは投資先の選定において、ハイリターンが見込めるプロダクトやサービスかどうかを重視します。つまり、当たるかどうかは未知数でも、当たったときにものすごく大きなリターンが見込めるような投資にこそ投資したいと思っているのです。だから、いきなりニッチ市場をねらったアイデアをプレゼンしても、彼らが投資の決断を下す確率は低いでしょう。

『未来をつくる起業家』の取材において、ケイシーさんが一番印象に残った人物やエピソードを教えてください。

ケイシー:ショッピング感覚でファッションを楽しめる通販サイトBUYMAをつくった、エニグモの創業者&CEOの須田将啓さんは、サムライスピリットの持ち主。エニグモを、「ソニーを超えるブランド」にしたいという情熱と、人類の進化に貢献したいという思いが溢れ出ていました。

あと、スマホを利用した来店ポイントサービス「スマポ」をプロデュースし、Spotlightを起業した柴田陽さんはインサイトがすごい。日本のマーケットでは、アーリーアダプター(サービスを初期に利用する層)と、インフルエンサー(SNSなどのメディアで他の消費者の行動に大きな影響を与える人)が違うことを理解したうえで、ビジネスを大きくするために何が必要なのかを知っています。彼は「スマポ」を楽天に売却後、新しい事業構想のアイデアを練っているようです(詳しくは本書を参照)。

『未来をつくる起業家』に登場する起業家の何名かは、高額の買収やIPO(新規上場株式)によってエグジットしたあと、さらなるチャンスを見つけるために活動を休止しています。このオフの時間がアイデアを育てるために大事なのです。

起業家は往々にして好奇心旺盛なので、例えば、女性靴をオーダーメイドで注文できるサービスなどを立ち上げた、ブラケットのCEO光本さんは平日をアウトプットに土日をインプットに充て、美術館で絵を観てはインスピレーションを得ているようです。良いアイデアは専門分野の外に接したときに生まれやすいことを知っているんですね。

私も例えばレストランに行ったら、インテリアの配置や色調、空間の使い方、リラックスできる空間づくりを学ぶようにしています。また、レストランのオペレーションからも、動線や対応方法など、自分の経営に活かせるものを取り込んでいるんです。

手に届きそうな起業家の成功事例を増やすことが先決

良いアイデアを生み出すためには「インプットの時間」が重要なのですね。 ケイシーさんは「日本の起業家たちはプロダクトを愛しており、強い責任感を持っている」と語る一方で、「アメリカの起業家と比べて目線が低い」とも語っておられました。日本で起業家を増やすには、何が必要だとお考えですか。

ケイシー:日本の起業家の目線が低いというのは、100億の会社をつくりたいとか、世界を変えたいという思いで起業している人がまだ少ないという意味です。これを打破するには、手に届きそうな身近な成功事例を増やすことが必要だと考えています。孫正義さんや三木谷浩史さんは大物すぎて、ハードルが高いと感じる人も多いでしょう。シリコンバレーでは、ある程度名の知れた起業家をカフェで見かけるのは日常茶飯事ですし、コワーキングスペースもオープンなので、起業家が身近な存在になるわけです。また、アメリカの起業家はものすごく自信を持っています。社会の課題を解決しようと壮大なビジョンを語るので、投資家が「ぜひ支援したい」と集まってくる。

それに比べて、日本のスタートアップ・コミュニティーは非常に閉じられている気がします。起業家との強いコネクションがないと、コミュニティーの外にいる人が接点をもつことは難しい。起業家の成長プロセスが透明化されていれば、「自分もできるかも」と自信を持てる人が増えると信じています。

日本では起業で失敗することへのリスクが大きいと聞きますが、どうお考えですか。

ケイシー:日本では、会社が倒産したときに、社長が借金の約94%を自身で背負うことになります。これは世界的に見ても社長本人にのしかかる経済的リスクが非常に大きいといえます。起業家を増やすためには倒産法などの法律改正 によって、リスクを軽減することが必要です。

あとは失敗を許容し、前向きに受け止める文化が醸成されていかないといけないでしょう。私が創設に携わった4社が倒産したとき、ある社長は3年半も会社を存続させるという得難い経験をしたのにもかかわらず、倒産=立ち直れない失敗と見なす社会的な目のせいで、自信を失い、立ち直れない日々を過ごしていたこともあります。

アメリカでは、タクシー配車アプリで一躍有名になったUberや、映像ストリーミング配信事業を手掛けるNetflixのような新興の大企業が続々と日本進出を図っていますが、実は起業経験者を積極的に採用しているのです。失敗は「同じ失敗をしないための糧」になるとポジティブにとらえられているので、今後企業に勤めるにしても武器になります。

また、日本にももっと起業をめざす人が起業家に相談しやすくなるような環境整備が必要です。そうすれば、自信が高まり、第二のソフトバンクや楽天が生まれるはずです。日本の起業家も、本来は日本に恩返ししようという強い意志を持っている人が多いですから。

起業家になるための3条件

ケイシーさんはサウジアラビアの砂漠地帯で1歳から15歳頃まで過ごされたとのこと。異文化経験はその後の起業や人生観にどのような影響を及ぼしましたか。

ケイシー:父が石油関係の仕事をしており、砂漠のど真ん中にある、ゲーテッドコミュニティー(治安維持のために、ゲートや塀で住民以外の出入りを制限する住宅地)で育ちました。色んな文化背景を持つ人が暮らす多様性が当たり前。だからこそ、ある程度は画一化された文化が支配するアメリカに戻ったとき、「自分はみんなとは違う」と改めて意識しました。

起業家に必要な条件は3つあります。1つ目は「人とは違う道を行く」こと。異文化体験はまさにこの指針を培ってくれました。起業家は今流行っている事業とは少し違うことをやらないといけない。

条件の2つ目は「リスクを取る」こと。起業に失敗はつきもの。会社の人数が増え、フェーズが変わる際には、必ずと言っていいほど人間関係に軋轢が起こります。創業初期を乗り越えてきたメンバーと、拡大期に入ってくるメンバーとでは、会社への考え方も違う。こうした大変な状況に直面しても、「ポジティブでいる」こと、これが3つ目の条件です。

ケイシーさんが価値観を揺さぶられた本は何ですか。

ケイシー:ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』ですね。なぜヨーロッパが強く、メキシコなどの新大陸は弱い立場に置かれたのか。こんなスリリングな問いが鮮やかに解かれていくのが面白かったですね。解明するカギとなるのは、この本にも登場する地政学の知識です。

実は、地政学は起業でも活かせます。例えば日本は島国ゆえに言語の壁が厚く、その分、他国の競合が比較的少ないので、アメリカなどと比べて、熾烈な競争に巻き込まれにくいというメリットがあります。だからこそ、すぐに淘汰されそうな競争の激しい国よりも日本で起業するほうがいいと導き出すこともできます。

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
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ジャレド・ダイアモンド 著 倉骨彰 翻訳
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ジャレド・ダイアモンド 著 倉骨彰 翻訳
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起業するなら「業界成長度」と「業界経験値」が高い領域を狙え

起業をめざす方、興味を持っている方に向けてアドバイスをいただけますか。また、起業する年代によって注意すべき点はありますか。

ケイシー:30代、40代なら家族や家のローンなども考慮しないといけないし、想いだけですぐに起業の世界に飛び込むのは厳しいかもしれないけれど、これまでの社会人経験が非常に活きてきます。

個人的には、起業するなら20代後半以降がいいと思います。もちろんFacebookをつくったマーク・ザッカ—バークのように、学生ならではの発想で生まれた画期的サービスも多く存在します。ですが、大学生は社会をまだ見ていないので、見えている課題も限定的。特にB to Bのビジネスモデルにおける課題は、社会人経験がないとなかなか見つけられないでしょう。

また、起業するなら、ある程度の業務経験がある業界を狙ったほうがいいですね。業界の成長度を縦軸に、業界経験値を横軸にとってマトリックスをつくったとき、いずれも満たしている「スター」を狙うのが成功確率を高めてくれる。その業界に精通していれば、業界ならではの、解決すべき課題が見えていますから。

業界に精通していることは強力な武器になるのですね。貴重なお話をありがとうございました! 

未来をつくる起業家
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文責:松尾 美里 (2015/12/16)

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