freee誕生秘話~社会人経験をどう活かすか~
『起業の教科書』 出版記念スペシャルインタビュー vol.3

フライヤーでは『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』の出版にあたり、トップ起業家・経営者に成功の秘訣をインタビューさせていただきました。サイトではインタビューの一部を紹介します。

経理業務を大幅に効率化してくれる、クラウド会計ソフトfreee(フリー)。

今回登場するのは、このサービスを運営するfreee株式会社にて代表取締役を務める佐々木大輔さんです。

起業の経緯について教えていただけますか?

freee 佐々木大輔氏(以下、佐々木氏):以前、グーグルでアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングを担当していました。この仕事に携わっているうちに、日本の中小企業は全般的にテクノロジーの活用が遅れている、という危機感を覚えるようになったんです。たとえばインドでは、5年前にすでにタクシードライバーが自分のプロモーションビデオを作ってYouTubeにアップし、乗客を集めるという手法が当たり前のように行われていました。日本はこうしたテクノロジーを活用したクリエイティブな事例が発展途上国に比べても少ないなと。

アドワーズ(グーグルが手掛けるクリック課金広告サービス)のように会社の規模に関係なく使える、すごい力を持ったプロダクトが面白いなと思っていました。しかし、広告事業というのは、効果がある業種がある程度絞られてしまいます。街の本屋さんがアドワーズを使って広告を打ったとしてもあまり効果は得られないんじゃないでしょうか。

そうではなくて、世の中の中小企業に普遍的な影響をもたらせるようなプロダクトやサービスはないのかということを考えていました。

グーグルに入社する前、ALBERTというスタートアップでCFOをやっていたのですが、そのとき経理担当の人が一日中入力作業をやっていたんですね。これは大変だな、と思ってなんとか解決しようとしたところ、使っていた会計ソフトがボトルネックになっていることが分かりました。当時はまだ「それなら、その会計ソフトを作り替えてしまえばいいんだ」とは思っていなかったのですが、ふと思い出して「会計ソフト業界ってその後どうなったんだろう?」と調べてみたんですね。

調べてみた結果、この業界には何のイノベーションも起きていませんでした。会計ソフトを変えれば、経理の入力作業が圧倒的に簡単に自動化できる可能性があるのに、誰も挑戦していなかったんです。

「なんで誰もやらないんだろう?」と思って周りの人に相談したところ、「会計業界は変わらないんだよ」とか、色々な「やらない理由」を挙げてくる。それを聞いていた私は「これまで誰もやらなかったのは、やらない理由を聞かされるうちに、やる前に挫折した人が多いのではないか。それなら、まずやってみるべきだ」と思ったんですね。

そこでまず、自分でRuby on Railsの勉強を始めて、コードを書いて、システムを作りはじめました。学生時代にエクセルのマクロは組んだことがあったのですが、商用に耐えうるシステムのプログラムを組むのははじめてでした。

freeeをリリースするに当たって、気を付けたことはありましたか?

佐々木氏:最初に作り始めた時点で、このシステムは何とでもつながっていた方が便利だな、と思いました。単なる会計ソフトではなく、お店のレジとか、請求書を発行するシステムとか、給与計算とか、お金の情報を扱うものは全部つながっていた方がいいと確信したんです。

なので、会計ソフトという枠を超えてなんでもつなげる、という現在の形はもともと想定していたゴールだったんです。でも、リリースする段階で、会計ソフトとしてコアの部分がしっかりしていないまま、色々な機能を追加してしまうと、自分たちのコアの部分が弱くなってしまいます。常に「その次」を考えていましたが、すぐに取りかかるのではなく、十分なリソースが確保できてから次のシステムを付加していきました。

リリースするまでに手応えを感じていましたか?

佐々木氏:freeeの手応えはリリースするまでは分かりませんでした。マーケティングリサーチやヒアリングをしても、なかなかいい反応が得られなかったんです。というのも、そもそも会計ソフトを使っている経理担当者は既存のシステムに慣れてしまっているので困っていない。使いにくい会計ソフトを使っていることに対して、疑問すら持っていなかったんです。

なので、リリースするまでは独りよがりなところもあったかもしれません。でも「絶対にこっちのほうが合理的だ」という確信があったので、そのまま進めました。

リリースしてみて分かったことは、所詮、直接会って声を聴くことができる人数は限られている、ということ。いざリリースしてみると、インターネット上で「これからの経理ってこうなっていくべきだよね!」と賛同してくれる人がいて、そういう人の振る舞いをSNSで見て、使ってくれる人が連鎖的に増えた。イノベーティブな層に拡がったことで、ようやく手応えのようなものを感じましたね。

サービスをリリースする前にベンチャーキャピタルから資金調達できたのは、彼らもこのサービスが上手くいくと信じていたからだと思います。海外のベンチャーキャピタルにとって、クラウドサービスと会計という領域は相性が良いことも分かっていたんでしょうね。むしろ、「日本にはまだその領域でクラウドサービスが無いんだ!」という感じでした。

広告プランナー → 投資アナリスト → ベンチャーCFO → グーグルというなかなか得難いご経験をされてこられたと思いますが、これまでの社会人経験が今回の起業に活かされたところはありますか?

佐々木氏:実は資金調達に関しては投資ファンドやベンチャーにいたときの経験よりもグーグルにいたときの経験が活きたと思っています。

グーグルではマーケティング担当としてどれだけ予算を集めてこられるかは、リーダーの腕っぷしが試されるところで、それと資金調達は似ていますね。グーグルのように大きな企業で予算を集めてくるためには、経営陣に対して「ここに予算を投下することがものすごく重要である」ということを主張して納得させないといけないんです。そうすると、大きなことを言わなきゃいけない。

多くの日本のマネージャーはできることをベースにして、ボトムアップでプランを作る傾向があります。でもそれだと「達成できること」しか考慮されていないので、一つ一つの規模が小さくなってしまい、結局経営陣は「日本に投資してもしょうがない」と考えてしまいます。

そうではなくて、「日本に投資するとこれだけ大きな機会があるんだ」ということを数字だけでなく思いも含めて主張して、自分自身でも信じきることが大事。大きなストーリー作りというのが、社内で予算を獲得する上では重要なんです。

もちろん失敗することもありますが、誰も気にしません。仮に失敗したとしてもそこで目立っていた人の方が、その後のキャリアパスにおいて成功しています。

経営者側から見ても、いつも控えめにしていて100%成功するプランしか作れない人よりも面白くて壮大なプランを作れる人の方が気に入るはずです。そういう意味では、実は大企業であっても起業家っぽくふるまうことが評価されるし、会社も必要としてくれるので、訓練だと思ってやることが重要だと思いますね。

ただし、数字の検証も、それはそれで大事です。よく事業プランの相談を受けるのですが、仮にすごくうまくいったとして、その状態でも大して儲からないような事業だと難しいなと思います。よく「将来の数字には意味がないから」という人もいますが、絵に描いた餅って最大限綺麗な状態のはずなんですよ。その状態でも上手くいかないような事業だと投資家から見ると魅力的ではないですね。

グーグルでは大きなストーリーやプランが重要な一方で、その根拠となる数字は全部頭に入っていてすぐに言えるような状態じゃないと、「本気じゃない」と思われてしまいます。成功させたいんだからそこまで考えて抜いているのが当然、というのが大前提ですね。

なるほど。人の採用についてはいかがですか?

佐々木氏:採用についても、グーグルのときにたくさん面接した経験が活きています。 面接を通じて、採用時点での経験はあまり重要ではない、ということが分かりました。頭がいい人ならいままでの経験が直接活かせないような仕事についたとしても、3ヶ月もすれば他の人と同じように仕事ができるようになります。同じように、志望動機も意味がないと思っています。みんなが一生懸命を考えてくるんだから、志望動機は良くできているのが当たり前で、そこで判断なんてできないですよね。

それまでの経験よりも、これから一緒に新しい問題解決をするというときにどう考えられる人なのか、という点を重視していました。雑談しつつ、その人がどんな思考をする人なのかを見定めるという力を大企業にいる間に鍛えておくことが重要だと思います。

起業してから苦労したことや、失敗のご経験はありますか?

佐々木氏:起業した直後に、「時間もあることだし、まずはブレストしよう」といって2〜3ヶ月くらい時間を無駄にしてしまいました。その時点ですでにプロダクトを作り始めていたのに、改めてじっくり考えてみようかな、と思ってしまったのは本当に良くなかった。

2013年3月にサービスをリリースしたのですが、リリースのタイミングは最悪でした。サービスの特性上、確定申告が繁忙期なので、1月に出せていれば繁忙期を経験できて、それはすごく重要な知見になったはず。ベータ版でもいいから出せばよかったのにそれができなかったのは、最初から走り続けていたのではなく、一度立ち止まってしまったのが原因ですね。

やりたいことが7〜8割決まっているなら、いかに早くアイデアを形にして世に問うことができるか、というのが重要だと思います。

リリース後の失敗もありますか?

佐々木氏:社員が20人を超えてきたとき、どんどん分業を進めたのですが、その時に「新しいユーザー向けの体験を作る」というテーマを独立したプロジェクトとして立ち上げました。

「新しい体験」というテーマはサービス全体に関わることなのに、すべて会議室のなかで決めてしまったんです。さらにはその内容が共有されることもなかったので、みんなの不満がたまってしまいました。

その反省を生かして、「freeeの価値基準」として「あえて共有する」ということを定めて、議事録は全て共有するなど、情報は自分が必要だと思う以上にオープンにしています。

ところで、最初は会社名を「CFO」にされていましたが、途中でfreeeにされたのはどういった経緯だったのでしょうか?

佐々木氏:それも失敗の一つかもしれません。創業時というのはコンセプチュアルな考えに陥ってしまいがちで、概念的な名前をつけたがるんです。

CFOという名前には、「Crowd Financial Officer」、つまり社内のChief Financial Officerの代わりにクラウドがやります、という思いを込めていたんです。でもそれは一般的には分かりにくいんですよね。社名とプロダクト名を統一して、一点突破した方が圧倒的に分かりやすい。弊社も新聞で紹介してもらったときに、「株式会社CFO」と書かれていたんですが、それだけではどんなサービスなのか全然伝わりません。

ただし、何か具体的なプロダクトを作るまでは、どんな名前にするべきなのか判断が付きづらい。そういった意味では、起業時点では会社名は仮に無難な名前を付けておいて、リリース時とか「これでいく!」というのが決まった段階で変更した方がいいかもしれません。

定款変更するにはお金も手間もかかるし、銀行口座も変えなくてはいけないから面倒なのは確かですが、会社名は絶対に変えた方がいいです。

佐々木さんのこれからの夢を教えていただけますか?

佐々木氏:短期的には、ビジネスがペーパーレスで終わる流れを作りたいと思っています。これまでの慣習でなんとなくハンコを押さなきゃいけなかったり、紙で郵送しなきゃいけなかったり、という制約を完全に無くした社会を実現させたいんです。

法律や制度が変わらないといけない部分もありますが、そこに積極的に関わっていきたいし、その受け皿となるサービスやプロダクトを提供していきたい。

その先にある夢として、みんなが簡単に起業できる社会を作っていきたいと思っています。2015年6月にリリースした、会社設立に必要な書類が特別な費用・知識なしで5分で作成できるサービス、「会社設立 freee」はその一つです。また、 いま freee が手掛けているようなバックオフィスの業務を自動化するということも貢献の一つだと考えています。他にもやれることがあれば取り組んでいきたいですね。

これから起業を志す人にメッセージをいただけますか?

佐々木氏:freeeに入社してくれた人のなかでも優秀な人は起業経験があったりします。グーグルでも会社を何社もつぶしたことがあるという上司がたくさんいました。それだけ、何でもいいから取り組んでみる、ということは非常に勉強になるんですよね。

いざ起業しようとすると私と同じように「やらない理由」はいくらでも耳に入ってくると思います。でも、他人の言うことが必ずしも正しいとは限らないし、周りの人に耳を貸さずに自分が信じることをやってみること。それが一番勉強になると思いますよ。

失敗しても死ぬわけじゃないし、失敗は失敗で世の中に残せる功績の一つなわけで。ひょっとしたら失敗しないかもしれないですしね。

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著者
廣升 健生 著
出版社
翔泳社
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著者
大賀 康史 苅田 明史 著
出版社
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文責:松尾 美里 (2016/01/07)
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