出版業界に風穴を開ける「仕掛け人」
斬新な宣伝・PRの裏側に迫る!

出版業界に風穴を開ける「仕掛け人」

今回登場いただくのは、株式会社あさ出版で宣伝・PR担当を務める井手琢人さん。

異業種とのコラボ企画も打ち出し、テッセイを一躍有名にした『新幹線 お掃除の天使たち』などのブームの火付け役となってきました。

また、「サザンオールスターズ」「ラーメン」「本」をテーマにしたUstreamの番組「今3時?そうねだいたいね」ではパーソナリティーを務め、Facebook、ブログ、イベントなど多種多様なメディアでのプロモーション戦略を仕掛けておられます。

読書人口が減っていくと危機感を募らせる出版業界の課題とは何なのか。

本と潜在読者との接点を増やすべく、井手さんが打ち出す斬新な宣伝・PRの裏側に迫ります。

人々の24時間の使い方が変わった。潜在読者と本との接点をどうつくるか?

テレビ局のWOWOWから、あさ出版さんの宣伝・PR担当へと転身されたきっかけは何でしたか。

井手 琢人さん(以下、井手):WOWOWではCM枠の販売、スポンサー販売、イベント事業などに5年間携わり、その後2年半、他媒体に広告を出稿するなど、プロモーションやマーケティングをやっていました。自社商品やサービスを自信と愛を持っておすすめする「宣伝」という仕事が非常に面白いなと感じ、専門にやりたいと思うようになりました。そんなとき、ちょうど宣伝・PRの専任担当をあさ出版が新しく募集すると知り、転職を決めました。

出版社の宣伝・PRはますます重要になっているにもかかわらず、編集部でも営業部でも本業の傍ら行うケースが多く、そのうえ独特の経験やセンスがいるので、簡単にできる仕事ではありません。その中で、前職で培った広告代理店や芸能事務所、各業界の方々とのパイプや経験が活かせるんじゃないかと思ったわけです。社長から「好きにやっていいよ」と宣伝・PRまわりを一手に任せてもらえたのもよかったですね。

最近、出版業界がPRに力を入れているのはなぜでしょうか。

井手:書店に足を運ぶ人が減っただけでなく、スマホのアプリやネットなど娯楽の種類が一気に増えたことで、人々の24時間の使い方が変わり、読書に充てる時間が必然的に減っています。本の内容が良ければ売れた時代もあったかもしれませんが、今は本という入り口だけだと狭すぎて、購買につながらない時代になっています。

よく疑問に感じるのは「本ありきのイベント開催でいいのか」ということです。例えば大型書店で出版記念イベントが多く開催されますが、そこに工夫がないと、リーチできるのは著者のファンやふらっと書店に立ち寄って興味を持ってくれた人だけになってしまいます。一方、営業担当はイベントの来場者を増やすために集客に奔走する。本来は読者のためのイベントなのに、目的がブレてしまうんですよね。「何のためにイベントをやるのか」という目的を忘れてイベントを開催すると、誰のためにもなりません。

既存の宣伝・PRの手法にこだわらず、本と、本を開く機会のない潜在読者との接点を新たにつくり出す宣伝・PRの力が、今後ますます求められていくんじゃないでしょうか。

「出版業界×○○業界」という異業種とのコラボ企画がカギ

出版業界における課題、改革したいと井手さんが感じておられるものは何ですか。

井手:出版業界にはどこか閉鎖的で、出版の枠の中で企画を考えてしまう面があります。編集者が経験を積めば積むほど、業界の慣習に染まって、エンドユーザーである読者に向き合うことが難しくなってしまう。だから新しく入社した人たちにもよく「読者目線を忘れないように」と話しています。

ビジネス書は1万部売れればヒットという世界ですが、書店のビジネス書コーナーに置いているだけでは、ヒットになりにくい。そこで、「出版業界×○○業界」という異業種とのコラボ企画によって、出版業界に新しい風を吹かせることができたらと思いますね。

井手さんは異業種とのコラボで、本をヒットさせていますが、うまくいった事例をいくつか教えてください。

井手:1つはテレビ業界とのコラボです。日本テレビの「24時間テレビ 愛は地球を救う」という番組の一部として放映された「車イスで僕は空を飛ぶ」というドラマの原作として、『命のカウンセリング』を使っていただきました。いわゆるダメ人生を歩んできた青年が事故で車イス生活を余儀なくされるも、誰かを助けたいという思いを持ち、カウンセラーとしての一歩を踏み出していくというストーリーです。小説の映画化はよくありますが、エッセイを原作として実際の人の人生をドラマ化するというのはなかなか珍しくて。ドラマ化が決まったのは本当に人の縁に感謝ですが、決まってからの販促のダンドリや具現化など、前職での経験がかなり活きました。

命のカウンセリング
命のカウンセリング
長谷川 泰三 著
あさ出版
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命のカウンセリング
命のカウンセリング
著者
長谷川 泰三 著
出版社
あさ出版
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2つ目は、『新幹線 お掃除の天使たち』のミュージカル化です。新幹線や新幹線駅構内の清掃を行う方々の素晴らしい「現場力」を持つJR東日本の子会社テッセイ。ミュージカルでは現場の清掃スタッフたちの生き生きした様子が表現されて、よりいっそう話題に火がつきました。この本はミュージカルだけでなく、100以上の媒体に取り上げていただきました。例えば、優れた経営手法がハーバードビジネススクールのケーススタディーに取り上げられたり、掃除方法が主婦向け雑誌や「はなまるマーケット」で取り上げられたり。同時に、本書は8万部の売り上げとなり、なんと作家の伊坂幸太郎さんから「この本に感動したので、お掃除の天使たちをテーマにぜひ小説を書きたい」とお声掛けいただき、テッセイの方々とお引き合わせさせていただくに至りました。『エール!(3)』(実業之日本社) というお仕事小説アンソロジーで作品化されています。

新幹線お掃除の天使たち
新幹線お掃除の天使たち
遠藤功
あさ出版
新幹線お掃除の天使たち
新幹線お掃除の天使たち
著者
遠藤功
出版社
あさ出版

それから、弁護士の篠田恵里香さんが書かれた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた 夢がかなう勉強法 』では、指サックとの夢のコラボが実現しました。

ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた 夢がかなう勉強法
ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた 夢がかなう勉強法
篠田 恵里香 著
あさ出版
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ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた 夢がかなう勉強法
ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた 夢がかなう勉強法
著者
篠田 恵里香 著
出版社
あさ出版
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指サックですか?! なんでまたそんなアイテムを?

井手:雑談中に篠田さんが「私、法律書のページを間違わずにめくるために指サックを愛用してるんですよ」と実物を見せてくださって。それがプラス株式会社の「メクリッコ」という製品でした。

そこで「篠田さんご用達の指サックを本の付録にしたらどうだろう?」とひらめいて。すぐにプラスさんにご相談に伺い、ご協力いただけることになりました。「初版2万部限定で、メクリッコをつけてほしい」と。篠田さんはテレビに出演されていたし、発売前から指サックをアピールしてもらえば話題になるだろうと勝算はあったんです。

あとは、そもそも単行本に付録として製品をつけること自体、前例がほぼないので、取次会社に問い合わせて、「平積みで重なるくらいの平たいものならOK」ということがわかりました。こういう話題作りで著者もプラスさんも編集担当も喜んでくれましたし、本の販売の弾みもつきましたね。

面白いと思ったら脊髄反射的に動いてみる、自分自身が楽しむ

井手さんがハブになって、企業や他のメディア、作家へと本の輪が広がって、ムーブメントができているのですね! こうした成功要因は何だとお考えですか。

井手:実は出版業界って、ルールでガチガチのテレビ業界とは違って明確な決まりがあまりないので、何でもチャレンジできちゃうんです。だから、常識や前例にとらわれずに、脊髄反射的に「これ面白そう」と思ったらまず行動してみることに尽きますね。

私の座右の銘は、日本一アツい予備校講師、安河内哲也さんの「やるのか、やらないのか、そんなことを考えている時間が一番もったいない!」という言葉です。まずは悩む前に何でも試してみることですね。

あとは宣伝する自分自身が楽しまないとダメ。「この企画はいける!」という自信が人を巻き込む力になります。

あとは書店さんや本を紹介するメディアが意外なニーズを教えてくれることもあります。大ヒットした『脳の強化書』シリーズは発売当初はあまり売れ行きはよくありませんでした。ところが、出版から4年を経て大阪の書店さんが売り出してくれたのを機に、第二次脳トレブームの火つけ役として一気に売れ出しました。書店現場から生まれる大ヒットってすごい力だなと実感しました。

アタマがどんどん元気になる! !  もっと脳の強化書2
アタマがどんどん元気になる! ! もっと脳の強化書2
加藤俊徳
あさ出版
アタマがどんどん元気になる! !  もっと脳の強化書2
アタマがどんどん元気になる! ! もっと脳の強化書2
著者
加藤俊徳
出版社
あさ出版

面白そうだと思ったら、悩む前にやってみることが大事になのですね。 井手さんは「サザンオールスターズ」「ラーメン」「本」をテーマにしたUstre mの番組「今3時?そうねだいたいね」でパーソナリティーを務めておられますが、これも斬新ですよね。この番組でどんなPR効果がありましたか。

井手:この番組の効果は、サザンオールスターズ、ラーメン、そして本というそれぞれのファンが入り乱れて相乗効果が生まれていることです。例えば本なんて手に取ったことのないラーメン好きの視聴者が「番組で紹介されてた本、面白そうだったから買ったよ」というのが結構あるんです。

本の紹介コーナーは「著者が出演する動画は珍しい」と好評でして。パーソナリティーとして意識しているのは、「面白いと思ったところを掘り下げること」と「一般ウケするネタを考えること」の2つですね。

例えばブックライター上阪徹さんの『なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?』を紹介するときは、ドトールのメニューがなぜこんなに美味しいのかという点にフォーカスしました。合言葉は「装丁よりもジャーマンドック」です(笑)

なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
上阪徹
あさ出版
なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?
著者
上阪徹
出版社
あさ出版

「装丁よりもジャーマンドック」、ですか(笑) 一体どういうことなんですか?

井手:この本はドトールの創業者の想いや、メニュー、店舗づくりなどへのこだわりが紹介された本です。本の紹介となると、つい本の装丁のこだわりなんていうテーマに向かいがちですが、一般の人はピンときませんよね。でもドトールのおなじみメニュー「ジャーマンドック」なら、一度は見たり食べたりしている人が多いだろうから、あの美味しさをリーズナブルに提供できる秘訣を掘り下げたんです。そうすれば視聴者はぐっとドトールに興味を持つようになるなと。

なるほど…! 井手さんにとって宣伝・PRの仕事はまさに天職だと思いますが、この仕事の醍醐味は何ですか。

井手:著者の方は、経営者やスポーツ選手、職人など、一つの分野を極めてこられた一流の方々ばかり。自分の活動範囲ではめったに出会えない人たちに会うたびに、刺激をいただけるのがいいですね。

宣伝の仕事って、1つ何か露出が決まると、社内の空気がガラッと変わるんです。本が重版になるなどの成果が出ると、みんなワァーッと喜んでくれて。これが宣伝の醍醐味なんですよね。何か面白い仕掛けが成功すると、本自体の物語が変わってくるんです。

著者をはじめ、様々な方を巻き込んでいくために心がけていることって何ですか。

井手:なるべく著者とマメに連絡をとり、直接お会いするようにしていますね。あとはご飯を一緒に食べること。一緒に美味しいものを囲むと、1枚皮がはがれて、距離が縮まるじゃないですか。フットワークを軽くすることが大事だと思います。

たしかに、一緒にラーメンを食べると一気に親近感がわきますものね。

パブリシティに感謝する

井手さんにとって、「刺さる宣伝・PRを生み出すための鉄則」は何でしょうか。

井手:大事なことは4つあると思っています。1つ目は「中立な立場であること」。編集者にも営業担当にも肩入れせずに、「一人でも多くの人にこの本を届けるにはどうしたらいいか?」を考えることが大切です。また、編集にも営業にも宣伝に協力してもらえる関係をつくることを意識しています。

2つ目は「本を取り上げてくださるメディアに対する感謝の気持ちを忘れないこと」。こういった方々は無料で自社の本や取り組みを取り上げてくださっているのですから、当たり前だと思わずにその会社さんとのつながりを大事にすることですね。例えば地方紙で自社の本の書評を出していただいたら、お礼を兼ねて連絡をとるだけでも違うと思います。

3つ目は「媒体力が落ちたと言わないようにすること」です。続いている媒体には、支持される理由があります。広告を掲載した本の売れ行きがイマイチでも、「あのメディアは読者が少ない」などと媒体のせいにするのではなく、「広告内容に問題があったのでは?」と改善点を探ります。

4つ目は「媒体に合った銘柄を選ぶこと」ですね。例えば堅い経営の本なら、ビジネスパーソンのよく読む雑誌や新聞に載せるという風に、掲載させていただく媒体の特色と、本のターゲットのすり合わせが大事です。

今後挑戦したいPR企画は何ですか。

井手:今後はご当地の企業にスポットライトをあてた企画にもっと力を入れていきたいですね。ラーメンを食べるために47都道府県をまわった経験を活かしたいなと(笑)『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズもそうですが、地元で愛されている企業と組むことで、その会社さんと読者との接点を新たに開拓していけたらと思います。

日本でいちばん大切にしたい会社
日本でいちばん大切にしたい会社
坂本光司
あさ出版
日本でいちばん大切にしたい会社
日本でいちばん大切にしたい会社
著者
坂本光司
出版社
あさ出版

井手さんのような宣伝・PRの新たな成功事例が増えることで、こうした動きが出版業界全体にも広がっていくのでしょうね。今後もどんどん旋風を巻き起こしていってください。貴重なお話をありがとうございました!

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文責:松尾 美里 (2016/01/14)

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