混迷の時代にMBAを学ぶ意義、ドラッカーを学ぶ意義とは?
世界のエリートの必読書を網羅した著者に聞く

今回登場するのは、グローバルタスクフォース株式会社代表取締役の山中英嗣さん。

外資系コンサルティングファームロンドン事務所、ロンドンビジネススクール学内ベンチャーなどを経て、英国国立マンチェスター大学ビジネススクールMBAプログラムへ。現在は、上場企業の再編・再生を中心としたチーム常駐による成長支援を本業に持ち、啓蒙活動としてMBAホルダーのネットワーキングやキャリア支援を行うグローバルタスクフォースを率いておられます。

著書「通勤大学MBA」シリーズ(総合法令出版)は累計100万部を突破。2015年7月には、ハーバードやスタンフォードなど、世界の主要ビジネススクールで定番テキストとなっている名著38冊のエッセンスを凝縮した読書ガイド『世界のエリートに読み継がれてきたビジネス書38冊』(総合法令出版)などを執筆されています。

世界のエリートたちの読書法とは何か。そして、MBAを学ぶ意義とは何なのでしょうか。

ホワイトカラーの生産性の低さにメスを入れる

山中さんはこれまで『通勤大学MBA』シリーズ、『世界のエリートに読み継がれてきたビジネス書38冊』(総合法令出版)を執筆された狙いは何でしたか。

通勤大学 MBA 1 マネジメント 新版 (通勤大学文庫)
通勤大学 MBA 1 マネジメント 新版 (通勤大学文庫)
著者
グローバルタスクフォース 著 青井倫一 監修 青井倫一 監修
出版社
総合法令出版
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世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊
世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊
著者
グローバルタスクフォース 著
出版社
総合法令出版
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山中英嗣さん(以下、山中):当社は本業として上場企業の再編や再生を中心とした成長支援をしており、その啓蒙活動の一環としてMBAに関する書籍を出版したり勉強会を開いたりしていました。世の中には2:6:2の法則があると言われています。上位の2割はやる気が高いので自発的に学ぶし、下位の2割は成長自体にあまり興味を持っていない。大事なのは強い意志を持っていない6割の層にいかに仕事のモチベーションを高めてもらい、経営視点で仕事を行うきっかけとして経営(MBAの内容)に興味を持ってもらうかだと考え、本を書くことに決めました。

MBAの指定テキストは難解で分厚いものが多く、目次も文字がずらっと並んでいて、敷居が高く感じられてしまいます。そこで、例えば各名著の目次構成を図で「見える化」した体系マップがあれば、MBAに興味を持ち始めたばかりの方でも、本の構成が理解でき、原著に挑戦しようと思うのではないかと考え、こうしたマップを本に盛り込んでいます。本の全体像と「今自分が読んでいるところは、どんな位置づけなのか」がわかれば、原著を読むハードルが下がります。

MBAホルダーのネットワーキングやキャリア支援に携わろうと思った背景は何だったのでしょう。

山中:日本のホワイトカラーの生産性が著しく低いという課題を解決したかったからです。原因は経営のマネジメントやガバナンスの欠如。ストイックで、マネジメントの理論を踏まえた実務経験を持つ優秀な未来のリーダーたちが活躍できる場をつくることで、日本にも正常なガバナンスを確立したいと考えています。ロンドンビジネススクールが母体となって、提携しているビジネススクールとのネットワークを築いていき、今では世界のビジネススクール58校が参加するまでに成長しました。

ホワイトカラーの生産性の低さに対する課題意識を持たれたきっかけはありましたか。

山中:大学で経営工学を学んでいたときに原体験があります。生産管理の効率化の最前線を知るため世界の大手自動車メーカー複数社の工場現場に入り、期間工として実際にラインにも入りました。教授から「最先端のオートメーション化を実現したロンドン郊外にあるフォードの工場は見ておいたほうがいい」と言われ、ロンドンへ飛びました。そこで、驚くべき光景を目にしたんです。

最先端のラインに驚愕した次の瞬間、期間工の影のボス(インフォーマルリーダー)が休憩時間でもないのに、ラインを5分もストップさせティータイムを取っていたのを目の当たりにしました。歩留まりを向上させるという至上命題のもと、コンマ何秒の短縮に何十億もの技術投資をしているのに、単に人のモチベーションの問題で5分もの人為的ロスが見逃されている現実に呆然としたのです。あえて生産性向上に手を抜く状況は、実は日本の工場でも少なからず見受けられました。これは、ラインの作業者と現場監督者、現場監督者と彼らのマネジメントを行うホワイトカラーとのコミュニケーションがうまく機能していないせいではないだろうかと。そこで、正しいマネジメントを学びたいという思いが強まりました。

当時大学3年生だった私が選んだ道は、特に労使関係(Industrial Relations)で長い歴史を持つイギリスのビジネススクールに行くこと。とはいえ英語が大の苦手でTOEICも280点(笑)そこから猛勉強を始めました。最初は担当教授から「学生の身では経験不足」と言われていましたが、単身で渡英した私の決意の固さを知って、入学の推薦状を書いていただけたという経緯があります。

「自分の火種は、自分で火をつけよ」

山中さんは数々の名著を読まれていますが、中でも、ご自身の人生観に大きな影響を与えた本は何でしたか。

山中:中学生のときに読んだ『ライ畑でつかまえて』という青春小説ですね。ストーリーは、大人の処世術やまやかしに反発していた主人公の少年が、不合理な現実を受け入れながら、折り合いのつけ方を学んでいくというもの。この本を読んでから、私自身どんなショッキングな事態に直面しても、平常心を保ち、「この時点でどうすることがベストなのか?」だけを意識して思考の枠を広げることに努めるようになった気がします。私は体育会系野球部に属していたため、多少の不合理に対する免疫はついていたのですが(笑)、人は皆こだわりをもっており、そこから妥協すべきこだわりと妥協すべきでないこだわりを冷静に区別する重要性を強く感じました。 このことは、現在のマネジメントでも通じるところがあります。 評論家的視点で部下に指導をするクライアントに「ダメな理由を挙げるのではなく、どうすればよいかを一緒に考える」ことを啓蒙し、人の「悪い部分を評価するのではなく、良い部分を評価する」重要性を伝えようと思ったのも、この本との出会いが影響しているかもしれません。

もう一冊は30歳を過ぎた頃に読んだ『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』です。戦後復興に全力を尽くし、東芝の社長・会長を歴任され、「ミスター合理化」の異名をとった土光敏夫さんの伝記です。

特に「自分の火種は、自分で火をつけよ」という言葉には強く共感を覚えました。土光さんは「上司が部下を教育することは不可能。チャンスを活用できるどうかは、本人の自主性に任せるしかない」と話されており、非常に頷けました。組織では、リーダーの可能性の芽を摘まない空気づくりが大切なのです。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)
ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)
著者
J.D.サリンジャー 著 野崎 孝 翻訳
出版社
白水社
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清貧と復興 土光敏夫100の言葉 (文春文庫)
清貧と復興 土光敏夫100の言葉 (文春文庫)
著者
出町 譲 著
出版社
文藝春秋
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山中さんはまさに世界のエリートたちと日々接しておられると思いますが、彼らの読書スタイルについて教えてください。

山中:世界のトップスクールに通う人たちは、読書好きな人とそうでない人に分かれます。前者はたいてい多読乱読型ですね。経営書はもちろん、小説から歴史もの、ニーチェなどの哲学書、そしてマキャベリの『君主論』のような政治学の古典まで幅広く読んでいます。

一方、後者はできるだけ短期間で、必要な情報源を絞り、エッセンスを掘り下げる読み方をしています。

共通しているのは、経営学やマーケティングなどの理論を、現実の課題を解決するためのツールとして見なしていること。だから、理論を覚えて終わりではなく、課題ごとに理論をどう組み合わせるかが大事なんです。

間違った方向の努力を避けよ—膨大な課題が教えてくれたこと—

山中さんご自身がビジネススクールで鍛えられたことは何でしたか。

山中:鍛えられたことは2つあります。1つ目は、限られた時間で普通に取り組めば不可能なレベルの膨大な課題が課されている中、全て平均以上のパフォーマンスを出し、クリアする「ジャグリング」です。どれか一部だけ優れた成果を出すのではなく、ニスを塗るように、浅く広くやり、全体の完成度を徐々に高めていく。そうすれば、「最後までやり切れなかった」という状況や、「寝ずにやりました」といった明らかに間違った方向の努力を避けられます。

大事なのは、従来のやり方ではとてもこなせない量の課題を目の前にして、これまでと違う方法を模索するモードに入ること。これは三枝匡(※1)さんの言葉、「意図した危機をつくれ」とも同義でしょう。

2つ目はダイバーシティを受容する力。考えや背景が違う人たちの中でいかに意見を集約し、合意をとっていくか。これを世界各国の社会人学生たちとの議論を通じて学びました。日本人は空気を読む文化が悪い方に作用してしまっている。経営会議を例にすると、否決されることがないかわりに、過度な根回しが必要になっている。今後グローバルの世界を渡り歩くには、こうして議論が活性化しづらい状況を打破していかないといけないですね。

※1 株式会社ミスミグループ本社代表取締役社長などを務めた実業家。『V字回復の経営』などの著書で有名。

世界で活躍する人材になるための必読書は何ですか。

山中:どのビジネスパーソンにとっても土台となる思考力を鍛えるために、『考える技術・書く技術—問題解決力を伸ばすピラミッド原則』は読んで実践の場でマスターすべき一冊だといえます。

あとは、ヒト・モノ・カネという経営に必要な知識を浅く広く学べる本を一通り読んでおくことですね。例えば「マーケティングは誰にも負けない。でも他はさっぱり」という人がいるとします。プレイヤーのときにはそれでよいかもしれませんが、経営に近いポジションになればなるほど、全社の戦略を見据えた総合的な判断が求められるため、一点突破では通用しなくなるんです。重要なのは「限られた資源で最大の効果を出す」ことですから。

あと、海外の経営者の多くが、クレイトン・クリステンセンの三部作『イノベーションのジレンマ』、『イノベーションへの解』、『イノベーションの最終解』を読んでいます。イノベーション論の歴史的名著ですね。

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
著者
バーバラ ミント グロービスマネジメントインスティテュート 著 Barbara Minto 原著 山崎 康司 翻訳
出版社
ダイヤモンド社
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ハーバード・ビジネススクール“クリステンセン"教授の 「イノベーションのジレンマ」入門
ハーバード・ビジネススクール“クリステンセン"教授の 「イノベーションのジレンマ」入門
著者
グローバルタスクフォース 著 山中 英嗣 監修
出版社
PHP研究所
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「クリティカルシンキング=ロジカルシンキング」は間違い

よくクリティカルシンキングが大事と言われますが、実際はどうなのでしょうか。

山中:クリティカルシンキングはロジカルシンキングと混同されがちですが、クリティカルシンキングは、‟価値判断”を含んだ最適解を導くための考え方です。

ビジネスの実践の場においては、論理的に考えられる(ロジカルシンキング)だけでは不十分。頭の中で論理的に理解できることと、それを実践できることとの間には大きな溝がありますから。主体的に課題を見つけ出せるようになることが非常に大事。課題設定力とロジカルシンキングが組み合わさってはじめてクリティカルシンキングになるのです。

課題設定力をつけるために実行されていることはありますか。

山中:1日30個以上、「こう改善したほうがいい」と自分の改善点で気づいたことを書き出す「気づきノート」を習慣にしています。これをインターンにもさせているのですが、若い人のほうが多く書いてくる。頭が柔らかいからですね。

ビジネス誌に失敗を経験した経営者がその弁解をするコーナーがありますが、最初は失敗したお詫びを述べているのに、自分の失敗について「あの環境では最善の判断だった」という下りが多いことに違和感を覚えます。そんなはずないでしょうと(笑)優秀な経営者が正しい判断を下せないのは、気づきが足りないからだと思いますし、もっと言うと、自分にも知らないことがあると認める謙虚さが必要なのです。

ケーススタディーをやる「本当の意義」とは

変化が激しく、過去の成功事例にとらわれないことが求められがちな現在において、MBAで学ぶことの意義は何ですか。

山中:知識や理論でなく「思考力」を身につけられるというのが一番の意義だと考えます。例えば、ケーススタディーは「過去の成功事例にすぎない」という意見も聞きますが、その目的を掘り下げていれば、もっと効果的に学べます。「失敗や成功事例から学ぶ」という発想だけでは、もったいない。ケースに登場する企業には、外部環境や法の規制、持っているリソースなど様々な「変数」があります。この変数を特定して、「じゃあ、ある変数が変わったとき、他にどんな影響が及ぶのだろう」と、シミュレーションして、メカニズムを見つけ出す。これが学びの骨になり、訓練を積むことで他の場面でも応用できるようになります。

「違う条件だとどうなるのか?」というところまで考えるのですね。山中さんは、『ドラッカー教授『現代の経営』入門』を出されましたが、ドラッカーの教えを学ぶことの意義は何でしょうか。

ドラッカー教授『現代の経営』入門
ドラッカー教授『現代の経営』入門
著者
グローバルタスクフォース 山中英嗣(監修)
出版社
総合法令出版

山中:ドラッカーは体系的なマネジメントの幹を築いた人。新しく生まれた理論は、枝葉にあたるので、まずは幹を学んでおくのが正しいんじゃないかなと思います。

ドラッカーの述べていることが実務的なのは、経営でインパクトを出すために何が一番重要かという「重みづけ」について述べていること。一方、ほかの学者たちの最近の研究は「○○が大事」という見解にとどまっているため、その理論を適用してたとえ効果があっても、「経営のインパクトという視点に立てば、ほかにリソースを割くべきだったのでは?」ということになってしまう。そうではなくて、経営に影響する「変数」を明確にし、全体最適の視点から、施策間での整合性を徹底させるドラッカーの考え方こそ、経営の実践に真に役立つ理論なのだと考えています。

私も山中さんの本でドラッカーについて学びたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。

世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊
世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊
著者
グローバルタスクフォース 著
出版社
総合法令出版
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ドラッカー教授『現代の経営』入門
ドラッカー教授『現代の経営』入門
著者
グローバルタスクフォース 山中英嗣(監修)
出版社
総合法令出版
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文責:松尾 美里 (2016/01/21)
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