「勝ち」はゴールではない。「勝ち続ける」企業をつくる条件とは?
伝説の外資トップ歴任者に聞く

「勝ち」はゴールではない。「勝ち続ける」企業をつくる条件とは?

今回登場するのは、シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験され、「伝説の外資トップ」という異名をとる新 将命(あたらし まさみ)さんです。国や業種を問わず勝ち残る企業には共通する「経営の原理原則」を編み出し、『経営者の心得』(総合法令出版)にまとめられています。

勝ち残る企業をつくるために、経営者に必要なものとは何なのでしょうか?

勝つ企業ではなく、勝ち残る企業をつくるための条件とは?

『経営者の心得』では、勝ち残る企業には共通する「経営の原理原則」が体系的に書かれていました。この原理原則を導き出された背景について、お聞かせいただけますか?

経営者の心得
経営者の心得
新将命
総合法令出版
経営者の心得
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著者
新将命
出版社
総合法令出版

新 将命さん(以下、新):私はこれまで、シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップの日本法人で社長職を3社、副社長職を1社経験しました。こうしたグローバル・エクセレント・カンパニーのトップを務めるうちに、経営者の一番の責務は「会社をつぶさないこと」だと学んだのです。

なぜ会社をつぶしてはいけないのか。会社がつぶれてしまうと、お客様や株主、従業員、銀行、取引先、地域社会といった全てのステークホルダーに迷惑をかけてしまうからです。経営責任を問われてクビになってしまうからではなく、周囲に損害を与えてしまうことは絶対に避けなければなりません。

たしかに、JALなどが倒産した影響はかなり広い範囲にあったと聞きます。

新:経営者は、短期的な業績を追うことも大事だけれど、中長期的な視点で会社の持続性も担保しなければなりません。そのためには、我流ではなく、洋の東西を問わず普遍的な原理原則を学ぶ必要があります。

私はいくつかの会社を経営するうちに、会社をつぶさないための舵取りの原理原則を学ぶことができました。日本の会社の寿命は平均18年と言われていますが、この原理原則さえつかんでおけば、100年も200年も続く会社を築くことができる。

勝ち残る会社をつくるためにはステップがあります。まずはこれをフローチャートに沿って説明しましょう。

新さんが編み出した「勝ち残る企業創りのフローチャート」

新:まず株式会社の最終目標は何か。フローチャートの一番右にある「株主に満足してもらうこと」ですね。具体的には、売上と利益を上げることで、会社の株価を上げ、株主に高い配当を還元することが求められます。

次に、売上と利益を高めるために重要になるのは、「顧客満足」です。これは、お客様が自社の商品やサービスに対して、価格と同等、またはそれ以上の価値を認めてくださる状態のことです。「勝ち組会社は、価値組会社」なのです。顧客に対する価値を生み出せて初めて売上と利益が生まれます。あとは、会社は公共的な存在なので、社会に対する貢献や責任を果たすことも不可欠です。だからこそ、企業は顧客満足とセットで、「社会満足」も追求しなければなりません。

では、顧客満足や社会満足を生み出す当事者は誰か。それは商品やサービスを提供する現場の社員ですね。社員の品質が保たれている会社は、商品・サービスの品質を高めることができる。

社員の品質を構成するのは、スキル(仕事力)とマインド(人間力)だと考えています。後者の人間力というのは、具体的には3つあります。1つ目は約束を守るとか、言行が一致していて信頼できること。2つ目は尊敬される人であること。尊敬される人というのは、自分の損得を考えて「私利」に走るだけでなく、他人の利益、つまり「他利」も考えられる人のことです。そして3つ目が、高いモチベーションを持っていることです。社員自身が仕事に対する意欲が高いだけでなく、周囲の人のやる気も高められる人ですね。

一方で、こうした優れたスキルや人間力を兼ね備えた社員が力を発揮するには、社員が働くことに対して満足した状態をつくらないといけません。この満足には、良い満足(Satisfaction)と悪い満足(Complacency)の2種類があります。

良い満足と悪い満足ですか。

新:そう、どちらの満足なのかを見極めなくてはいけない。悪い満足とは、「安易に現状を是認してしまう状態です。大阪弁でいうと、「景気が悪いから自社も伸びないけれど、まぁ、ええやんか」という(笑)つまり、自分たちが会社を改善・改革していかなくてはという危機意識が欠如した状態ですね。

一方、社員が「良い満足」ができている状態とは、お客様から感謝されたり評価されたりして自分の仕事に誇りを感じている状態。良い満足にある社員は、自分がコミットしていた目標を成し遂げたときに「やった!」という言葉が自然と口からでてきます。それだけ、真剣に仕事に取り組んでいるからです。そのうえで、仕事を通じて自分を磨くことができているという、自己実現感を持って働いているのです。この3つがそろったときは、ワクワク感を覚えた状態だといえます。こうした良い満足を味わえている社員が増えれば、商品やサービスの品質が高まっていきます。

こうした好循環を生み出すのに不可欠な要因は何か? それが「経営者の品質」です。経営者が優れていなければ、社員の高い品質を期待することはできないでしょう。ロシアに「魚は頭から腐る」ということわざがあるように、組織はトップからダメになっていくのが常。組織の良し悪しを決めるうえで、経営者の影響力はどんなに控えめに言っても80%以上はあると思いますね。

この経営者の品質は具体的にはどのようなものなのでしょう?

新:大きく分けて、社員にめざす方向性を指し示し、社員を動かしていくマネジメント力(経営力)とリーダーシップ、現状を否定して革新するイノベーション力、そして高い倫理観の4つがあると思っています。中でも倫理観は非常に重要です。

私が45歳でジョンソン・エンド・ジョンソンの社長になったとき、当時の本社の会長ジェームズ・E・バークに、こんな青くさい質問をしたことがあります。「トップリーダーに必要な条件は何か」と。すると返ってきたのが「平均を上回る知性」と「極めて高い倫理性」の2つでした。つまり経営者は、ずば抜けて秀才である必要はないけれど、高潔な倫理観がいるということです。当時から私は、経験上なんとなく「トップに立つ人間には高い倫理観が大事だろうな」とは思っていました。ですが、自分が社長というポジションに就き、尊敬している経営者に直接助言をされたことで、その考えがよりいっそう強い実感を伴って、胸に迫ってきたのでしょうね。

これまでの説明をフローチャートに沿ってまとめると、経営者の品質が高ければ、社員の能力やモチベーションが向上して、社員の品質が高まっていく。そして優れた社員が良い商品・サービスを提供するようになるため、お客さまは納得づくで購入し、それが良い業績につながっていく。すると株主責任を継続的に果たせる会社になっていく。これが勝つ会社ではなく、勝ち続ける会社をつくるための条件です。これが心からわかるまでに私は40年もかかりました。読者の方は、このフローチャートを理解してから『経営者の心得』を読めば、納得度が増すのではないかと思います。

この好循環をまわしていくためには、組織のトップである経営者の品質が不可欠なのですね。中でも、新さんはコミュニケーション能力が大事だと説いていますね。

新:こういう英語があります。‟A great leader is a great communicator.”つまり偉大なリーダーは、どんな立派な想いがあっても、それを的確に社員に伝えられないといけないという意味です。だからコミュニケーション能力を磨くことに関しては、僕には燃えるような想いがありましたね。相手に伝わるように、図表をつくったり、印象に残るキャッチフレーズを選んだり、時にはユーモアを取り入れたりして。

人は論理的な説明によって説得されるだけで、頭で理解します。行動を起こすにはいたらないんです。人に動いてもらうには、腹落ちする感覚、つまり納得が必要なわけです。

「コミュニケーションは反復だ」という言葉があります。大事なメッセージは16回伝えてやっと相手の心に届く。経営者自身が、部下の心の琴線にふれる表現を模索し、自分の言葉で、情熱をこめてメッセージを語ることが大事なんです。必要に迫られてあれこれ工夫をするようになりましたね。

理念がうまく浸透している会社は何が違うのか

新さんが様々な会社の社長職を歴任される中で、ご自身が舵をとる会社を選ぶ際の基準は何だったのでしょうか?

新:共感できる企業理念があるかどうかですね。たとえ理念がなくても、理想的な理念をつくりあげられる気運があるかどうかが基準でした。経営の原点には理念が必要だと考えているからです。

日本コカ・コーラで10年間、良い処遇を受けてキャリアを積んでいたのに、あえてそれを断ち切ってジョンソン・エンド・ジョンソンに入ったのは、企業理念の「我が信条」に惚れこんだから。

理念浸透がうまくいっている会社は、理念やクレド(信条)を印刷してオフィスの目がつくところに置いたり、手帳に貼ったりするなど「見える化」を図っている。それに、経営判断において理念に沿っているかどうかをチェックしていますね。

ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、社長や社員が理念を正しく理解し、業務の判断の拠り所として使っているかどうかを評価する「クレドサーベイ」が年に一度ありました。不足している点があれば、それを改善するアクションプランを立てる。そして、理念が本当に経営や業務の判断に活用できているかどうか、社員をまじえて議論する場も年に二度開かれていた。

どんなに良い理念があっても、それが使われていないと意味はない。理念を社内にどう浸透させればいいかと悩む会社は多いけれど、理念策定のプロセスに社員を参加させると、社員に当事者意識が生まれ、理念に対して責任を持つようになります。優れた経営者は、社員を巻き込むのが上手なんですよ。

新さんの愛蔵書

理念がしっかりあって、その真価が発揮されている会社かどうかを基準にされていたんですね。理念の議論は着任後すぐに取りかかっておられたのですか?

新:着任後すぐに幹部社員と一対一で対話の機会を設けて、相手の考えを聞くようにしていました。その後一緒に巻き込んで理念をつくり、次に事業計画、つまり目標と戦略に落とし込んでいく流れです。

そして経営者として入る会社は、例外なく長寿企業が多いですね。日本コカ・コーラ もジョンソン・エンド・ジョンソン も100年以上続いています。生き残る会社の共通項は、先ほど話したフローチャートを守っている。つまり、常にフローを循環させ、年をとらないから「不老チャート」になるわけです。これができないと組織に欠陥が生じる「不良チャート」になってしまうんですがね(笑)

100年続く会社に入られて、外部から入ってきた経営者が新しいことをやるときは、今までを否定せざるをえないあり、時には社内から反発もありそうな気がします。そこはどう乗り越えておられたのでしょう?

新:社内で「3年後、5年後にはこんな会社にしていこう」というコンセンサスをとることを大事にしていました。経営者がめざす会社像を、論理と情熱を持って伝え、社員一人一人に納得してもらう必要があるから。私はあえて、悪いシナリオを示す「脅かし作戦」をすることもありました。すると危機感を持って、当事者意識を強く持ってくれるようになります。

消費者も技術も外部環境も変わっているんだから、会社も当然変わらないといけない。

ところが、一度成功するとどうしても安易な満足が生まれてしまう。将来の成功を妨げる最大の敵は、過去の成功です。だから「何は変えてはいけないか」に加えて、「何を変えるか」を社員と議論し続けることが大切です。リーダーは、リードする人、つまり導く人でしょう? 社員の意見の良い点は取り入れ、良くない点は粘り強く説明しながら、前向きに良い方向に向かせていくんです。

リーダーとして成長するために必要な3つのもの

新さんのお話を伺っていると、経営者の心得は、現場のリーダークラスの人にとっても重要な原理原則であると感じました。

新:まさにそうですね。部長は部の経営者で、課長は課の経営者だから、経営者の原理原則が当てはまると思います。

ビジネスパーソンが成長するために必要なものが3つあります。1つ目は座学。研修や講義に行くとか、本を読むとか。座学の良いところは、原理原則を体系的に学べること。重要度としては全体の10%くらいです。2つ目は、メンターを3人持つこと。メンターとは、知恵や新しいことに飛び込む勇気を与えてくれる存在。メンターが3人いると、壁にぶつかったときに乗り越えるヒントをもらえるし、人生がバラ色になる。この重要度が20%です。

3人のメンターですか。良いメンターとはどんな人ですか?

新:メンターの条件は3つあります。それは、相手を人として尊敬できるかどうか・その人から何か一つでも学べるものがあるか・メンターを引き受けてくれるだけの時間があるかどうかですね。これが三位一体になっている人を探すといいでしょう。

私がメンターを探すようになったのは、30代半ばで、経営者として悩んでいた頃でした。上記の条件を満たす人にメンターをお願いしたことで、転びそうになったときに立ち直るための指針を得ることができました。

そして3つ目、残り70%を占めるのは、修羅場経験です。つまり20、30代のうちに、結果責任を追及されるような難しい仕事をやったかどうかが問われます。例えば一番難しい顧客やテリトリーを担当するとか、新製品導入の責任者を引き受けるとか。こういう経験を若いときに積んでおくと、後々活きてきます。経営学は本を読んで学べるけれど、経営力は実際に経営をしてみないと身につきませんから。

一番良いのは海外経験ですね。僕が人生で一番経験しておいて良かったと思うのは、38歳から3年間、コカ・コーラのサンフランシスコに駐在したこと。海外に行くと、異なる文化、まさにダイバーシティにふれて大きな刺激を得ることができます。

新さんを変えた3人のブックメンター

『経営者の心得』の中でも、人間力を高めるための本を読むようになったと書かれていましたが、どんなきっかけがあったのでしょうか?

新:34歳で日本コカ・コーラのブランドマネージャー(部長職)に就いたときですね。当時、十数名の部下がいたけれど、どうも雰囲気がよそよそしかった。直接、反抗するわけじゃないけど冷たい感じでね。頑張っているのにどうしてついてこないのかって僕はずっと悩んでいた。

先輩に意見を仰いだら、「おまえは仕事師だ」と言われてね。僕がスキルでばかり勝負していたからだとわかった。マーケティングの知識には自信があったので、部下とやり合うときにも言い負かしてしまうようなことが多かった。後から振り返ると、そうしなければ部下を従わせる自信がなかったというか、人間力の面で弱かったのだと。

そこから遅まきながら人間力を高めなければと一念発起し、デール・カーネギーや安岡正篤、伊藤 肇(いとう はじめ)の本を読みあさるようになった。伊藤さんは新聞記者だった方で、『現代の帝王学』 などの素晴らしい本をたくさん上辞されていました。

現代の帝王学
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伊藤 肇 著
プレジデント社
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新さん愛蔵の伊藤肇の著書

ブックメンターの存在が非常に大事だったのですね。現在もかなり本を読まれるのですか?

新:僕は自称「買書家」なんですよ(笑)平日は必ず1日1冊の本を買っています。なかなか読む時間がとれませんが……。

僕は「読書宝くじ論」があると思っていて。買ったからといって必ず読む保証はないけれど、買わなければ絶対に読めない。だから気になったら積読でもいいから買って手元に置いておく。この習慣を30代半ばから続けているから、書斎には本があふれかえっていて(笑)

新聞や雑誌の書評欄や書店で目にして気になった本を買います。あとは、本の情報交換をしているブックフレンドがいるので、その人が薦めてくれた本は必ず買うようにしていますね。

どんなジャンルの本を読まれるのでしょう?

新:読書全体のうち、英書と日本語の本がだいたい半分ずつになるようにしています。そのうち、経営に関する本が半分、経営に関連しない小説などが残り半分です。新聞の書評で売れている翻訳書を見つけたら、原著を買うことも多い。原著の方が翻訳書よりニュアンスがつかみやすいですからね。英語で講演をすることもあるので、英語の語感を養うのにも役立っています。

読んだ内容を自分のものにするために、読み方で意識している点はありましたか?

新:いいなと思うフレーズがあると、その場で紙に書くんです。それをノートに挟んで、何度も見返す。1冊に必ず1、2個はキーワードがあるので、それをためて自分なりに咀嚼していくと、本を執筆するときの素材にもなる。問題意識を持っていれば、同じ話を聞いても、同じ本を読んでも、響くところが断然多くなるんですよ。

問題意識ですか。

新:そう。経営者にとって重要なのは、最初に説明したフローチャートによって会社をつぶさないことと、問題意識を持っていることです。それにくわえて、「こういう会社にしたい」という情熱に満ちていることも大事です。リーダーが情熱を持っていれば、それが熱伝導のように周囲に伝わっていく。

そして何より大事なのは、顧客や社員への愛ですね。特に社員を幸せにしたいという厳しい愛情がないと、経営者とはいえないですね。

経営者だけでなく、現場のリーダーやこれからリーダーをめざす人にとっても重要な教えをありがとうございました。

経営者の心得
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新将命
総合法令出版
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文責:松尾 美里 (2016/02/04)

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