一流の人の心を開かせるための技術とは?
コピーライター・インタビュアーのプロに聞く

一流の人の心を開かせるための技術とは?

フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第10弾。

経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。

今回登場するのは、田中美絵さん。コピーライターとして30年以上にわたり、テレビCM、新聞、雑誌、カタログなどの広告制作・広報に携わり、シャネルの新聞広告にて朝日広告賞特別賞を受賞するなど受賞多数。

並行して朝日新聞紙上に、経営者、著名人の取材記事を毎週連載し、大前研一さんや稲盛和夫さんなど、取材相手は延べ1600人以上にのぼります。2014年には、「世の中の社長の真摯な言葉を引き出す」というミッションのもと、株式会社社長の言葉研究所を設立。

田中さんの多彩な発想、引き出しはどんな経験から生み出されたのでしょうか。

「上げ底の人生を歩きたくない」オノ・ヨーコの生き様に惚れた

── 『仕事力』のシリーズでは稲盛和夫さんや安藤忠雄さんなど各界の一流の方々、時代の先駆者にインタビューされていました。これまでお会いされた中で、特に印象に残っている方は誰ですか。

仕事力
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朝日新聞広告局 著
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田中美絵さん(以下、田中):オノ・ヨーコさんですね。インタビュー時間がたった20分しかなくて。緊張して待っていたら、オノさんが黒づくめで颯爽と現れた。150㎝くらいと小柄で、一瞬足元を見るとペタ靴を履かれていた。するとオノさんはすかさず、こうおっしゃったんです。「今、足元を見たでしょ? 私、上げ底の靴は絶対履かないの。上げ底の人生を歩きたくないからよ」。

オノ・ヨーコさんは安田財閥系の娘さんで、超がつくほどのお嬢様。でもやりたいことをやるために恵まれた環境から抜け出し、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルでタイピストとして働いていたこともあります。ランチタイムに隣の部屋で作品をつくり、1年で300枚もの創作をしていたそう。オノさんはジョン・レノンの奥さんだし、雲の上の人だと思っていたけれど、自分で生活の糧を得ながら、好きなことを追求して基盤をつくる姿勢がすごく素敵な方だった。

インタビューの内容も、私の聞きたいことが聞けるように調整してくれたんです。「(インタビューの)柱は立てたから、あとは私の情報を探して、血液を注いで『私』にしてちょうだい」って。ものすごく頭がいいし、もう惚れ惚れするくらいカッコいい女性でしたね。

── そのエピソードを聞いているだけで、私もオノ・ヨーコさんに惚れてしまいそうです。

田中:あと、東日本大震災後に物資支援を皮切りに「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を始めた西條剛央さんも素晴らしかったですね。西條さんは、大学で教鞭をとる学者ですが、東日本大震災直後に現場にボランティアに駆けつけ、山のような支援物資が自治体に積まれているのを目にしたそうです。「毛布をほしがっている被災者がたくさんいるのに、なぜ配らないのか」と問うと、返ってきたのは「この地区の避難者は500名いるけれど、毛布は300枚。不公平だから配らない」という答え。ボランティア経験は皆無でしたが、何とかしなくてはと彼が取り組んだのは、個人の善意を形にして、必要な人に必要な分だけ届くシステムをつくることだった。

まずは、サイト上で被災者が必要とする品物ごとに、必要数を書いた募集のスレッドを立ててツイッターで拡散する。支援者には指定された場所に郵送してもらい、必要数に達したらスレッドを消していくという流れです。

すごいのは、目標を明確にし、どんな方法なら達成できるかを考えて、プロジェクトベースでチームを結成するところ。達成できればそのチームは解散するので、たった一人からでも同じ想いを持つ人を集めればチームがつくれます。彼の取り組みの軌跡は『チームの力: 構造構成主義による‟新”組織論』という本にもなっていますが、「チームの本質」がわかった気がします。

人を助けるすんごい仕組み――ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか
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西條 剛央 著
ダイヤモンド社
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著者
西條 剛央 著
出版社
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── 目標を達成したらチームを解散するって斬新に感じられました。田中さんご自身もチームの力を活用されているのですか。

田中:コピーライティングの仕事では、クライアント企業の広報や開発の人たちと、商品のコンセプトやキャッチコピーについてブレストすることが多いのですが、そこでもチームは力を発揮してくれます。

最初は、どの人も売り出す商品を前にして頭を抱えている。でも、頭を柔らかくしないと面白いアイデアなんて湧いてこない。そこで、名前をつけてチームにしてしまうんです。私はクリエイション(成果物)をゴールとしたファシリテーターのような役割。例えばみんなに、商品名から「しりとり」を始めてもらうこともしばしば。「『ん』で終わったら、立たせますよ」と言って(笑)ある量の単語が出そろったら、その中で商品連想ゲームを始め、脳の発想を広げていく。連想したものを列挙していくと、コピーに使えそうな言葉がみんなの口から生まれてきます。ほかにも、机にトランプカードを裏向けに並べて、ダイヤのカードを引いた人がいたら「お金」のテーマで商品の特徴を即興で話してもらうこともあります。するとその商品の意外なウリが言語化できるんです。

頭を柔軟にするワークを取り入れることで、険しい顔をしていた参加者が、アイデアが広がって、生き生きとした表情になっていくのを見るのがたまらなく好きなんです。

人の心を開かせる師匠は「漫才師」

── しりとりにトランプ。そんなブレストなら夢中になりそうですね! そんな技術はどこから仕入れているのですか?

田中:実は経験則よりも、テレビ番組から教わることが多いんです。質問とかボケツッコミはすごく大事で、特に漫才は、「何を言うと、人の心がポンと開くか」を学ぶのに格好の生きた教材。アンタッチャブルの山崎さんのボケは最高だし、マツコ・デラックスさんの振りも「そこにいくのか」と、ついツッコミを入れたくなるくらい。明石家さんまさんやウッチャンナンチャンなど、好きな司会者の質問の中でも、「これいいな」と思ったらすぐ書き留めておいて、ブレストではアレンジして使ってみる。漫才師が私の先生です。

あとは、古典落語をよく聞いていて勉強になりました。落語って人間の愚かなところにフォーカスするでしょう。だからツッコミを考えるのにピッタリなんです。

── 豊富なネタや質問のストックは、漫才師の研究から生まれていたのですね! 一流の方々に心を開いてもらうために、どんな点を心がけておられますか。

田中:経営者に心を開いてもらうには、インタビュアーから開示していくことが大事だと思っています。例えば教育業界のトップだとしたら、「うちにも中学生の子がいて、反抗期で手を焼いています。どうしたらいいんでしょう」などと、こちらの悩みや失敗を打ち明けるんです。社長自身の現在のことを直球で尋ねても、なかなか堅い答えしか返ってこない。ですが、「子どもの頃はどうだったのでしょう」とか、「私(インタビュアー)や想定読者に対してアドバイスをください」などと、時間軸や空間軸をずらすと、本音が引き出しやすくなる。

本当は経営者も鎧を脱ぎたがっているので、そのきっかけをつくるんですね。

── 田中さんは、コピーライター・インタビューライターの道を30年以上、極めておられます。仕事の原動力は何なのでしょう。

田中:私の中で、『仕事力』のインタビューは、常に多方面の一流人から生きた知恵を学ぶ「インプット」という位置づけです。一方、広告のコピーや、クライアントとのブレスト会議は、私にとって、インプットしてきた学びを「アウトプット」する場。学んだことをすぐ人に伝えたくなるし、こうして橋を架けるのが好きなんですよ。

実は27,8年前は子育てをしながら、月8本インタビュー記事を仕上げて、広告のコピーも考えて、ブレストにも参加する……という、てんてこまいになる日々でした。負荷がかかった状態を乗り切るには、インタビューを「アウトプットのために一流の人たちから人生や仕事のエッセンスを仕入れてくるんだ!」と言い聞かせる必要があったんだと思います。今後も、自分が仕入れてきた知恵や方法論を加工して、世の中で循環させていきたいですね。

イエス・キリストは「人の心を動かす」達人

── これまで読まれた本の中で、価値観に大きく影響を与えた本は何でしたか。

田中:衝撃的だったのは、『イエスの広告術』。イエスは最期には残念な末路をたどった姿の印象が強いですが、若い頃は人を魅了し愛される、快活でハンサムな広告マンだったことが、この本を読んでわかりました。彼の生きた時代は、何か建築するにも大勢の技術工を束ねるリーダーが必要になります。若いときに大工をしていたイエスは、メンバーのビジョンを一人一人に尋ねて心に火をつけ、みんなから慕われるリーダーだったそう。イエスが発揮したリーダーシップが描かれていて刺激的な本でした。

そして、齋藤孝さんの『声に出して読みたい日本語』は、日本語の奥深さを実感させてくれた一冊です。「秘すれば花」、「身心脱落」など、実に多彩で面白い表現がちりばめられていて。昔の表現に込められた考え方は、ちょっと味つけすれば、現代でも使える知恵になると思っています。

イエスの広告術 (有斐閣選書R (30))
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ブルース・バートン 著 小林 保彦 翻訳
有斐閣
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文庫 声に出して読みたい日本語 1 (草思社文庫)
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齋藤孝 著
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『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』もとっても面白い。著者はニコニコ動画の生みの親、川上量生さんで、新しいルールを根本からつくる達人。実にユニークな発想を持つ彼の生き方や働き方について語った一冊です。

ニコニコ哲学
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川上量生
日経BP社
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著者
川上量生
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あとは私、辞書マニアなところがあって、肌表現辞典とか毒舌辞典とか、犯罪者の言葉シリーズとか読んじゃうんです(笑)中でも『表現のモノサシ—書く、まとめる、話す時に使う』という本は、比喩のバリエーションが秀逸で何度も読み返します。

表現のモノサシ―書く、まとめる、話す時に使う
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アムワード 著
ピエブックス
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── どの本も田中さんが語るとますます読みたくなりますね。最後に、『仕事力』に登場する方々に近づきたいと考える20代、30代のビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

田中:『仕事力』に登場する方々はみんな「白鳥」なの。水面下での水かきがすごい。彼らが自分の道を極めるには、2つの方法があると感じます。1つ目は「この世界に行けば自分を活かせる」というのを見つけていること。2つ目は、ゴールまでの物語をつくっておくこと。矢沢永吉さんがインタビューで「俺が行きつくストーリーを描いて、その通りに演じていくだけだ」語っていましたが、一流の人たちは、ゴールまでの道のりを小さなステップに分けて、それを非常に細かく具体的にイメージしています。そのステップを超えるために、どんな努力をすればいいのかがわかっているから、ブレることなく、めざす姿へと歩み続けることができる。

── ステップごとに成し遂げるべきものを詳しく思い描くことが大事なのですね。貴重なお話をありがとうございました。

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ビジネスノマドジャーナルのインタビューはこちらから 大前研一さんや稲盛和夫さんなど1600人以上の経営者・著名人を取材してきた田中さん。心を打たれた資生堂の福原名誉会長の言葉とは?
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文責:松尾 美里 (2016/02/09)

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