読者が「面白い」と感じるコンテンツのカギとは
『カイジ』に学ぶ経済学の人気シリーズ著者に聞く

今回登場するのは、経済ジャーナリスト・作家として活躍する木暮さん。

富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。

『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)、『伝え方の教科書』(WAVE出版)、『カイジ「命より重い!」お金の話』(サンマーク出版)、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)など、累計120万部を突破。

2016年2月には、『カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話』を上梓されました。

専門分野をわかりやすく、そして面白く伝えるご本を生み出す背景に迫ります。

マルクスの『資本論』と『金持ち父さん 貧乏父さん』が執筆の原点に

『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』のご本は、仕事に対する本を書かれた動機をお話いただけますか。

木暮 太一さん(以下、木暮):現実社会の仕組みを客観的に伝えたいと思ったのが執筆の動機でした。働き方についてのアドバイスって、精神論になってはいけないと思うんです。例えば「好きなことを仕事に」「天職を考えよう」とスローガンを掲げても、現実社会のルールの中でどう実現すればいいのかも考えていないといけないわけで。そこで、自分にとっての「売上(収入・昇進によって得られる満足感)」から、「コスト(肉体的・精神的労力やストレスなど)」を差し引いた「自己内利益」を増やす働き方や、賞味期限が長く、高い使用価値のある知識・経験を身につけることの重要性などを、本に盛り込みました。

こういう考え方をするようになったのは、大学4年生のときにロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』を読んだのがきっかけです。労働者はラットレースにはまって一生裕福になれない。そこから抜け出さないと、ビジネスパーソンとしての幸せは得られないという内容です。これってマルクスの『資本論』の論理と同じだなと。資本主義に真っ向から対抗したマルクスは革命という答えに行きついたのに対し、ロバート・キヨサキは不動産の不労所得を提案したというだけで、ゴールは一緒。『金持ち父さん 貧乏父さん』を読んで、マルクスの考えは現代でもあてはまるという確信が強まりました。

[stock:93:改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 (単行本)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)
資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)
著者
マルクス 著 エンゲルス 編さん 向坂 逸郎 翻訳
出版社
岩波書店
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2冊の本から、そんな共通項を発見されたのですね。

木暮:元々、物事のメカニズムみたいなものを解明するのが好きなんです。経済の仕組みを学生時代に本で学んでいたので、社会人になったばかりの頃も、同僚が「今月はインセンティブが出るからノルマ達成しなきゃ」と、目の前の短期的な利益に踊らされているのを冷めた目で見ていましたね(笑)また、「残業代で儲けようぜ」って口にする同期には、そもそも「儲ける」と「稼ぐ」の意味を混同しているでしょうと。本来の「儲ける」は、実際の労働以上の利益が出ることですから。

あと、僕自身、転職して年収が大きく上がったとき、肌感覚としてリッチになっていると思えなかった経験がありました。たとえ年収が10倍になったとしても嬉しいのは最初だけで、それがいつしか当たり前になって、満足度が減る。これを経済学で「限界効用逓減の法則」といいます。つまり給与が多くなることだけを追求しても幸せになれるわけではないのです。

経済学は一種のルールブックに過ぎない

そもそも木暮さんが経済学に興味を持たれたきっかけは何でしたか。

木暮:実は経済学自体にはそこまで興味はないんですよ。経済学と現実社会における経済は別物。まるで人の骨格と行動のような関係です。いくら人体の骨格の名前や仕組みを学んでも、人間の行動背景を理解することなんてできません。もちろん経済学の原理原則を知らないと、正しい判断ができなくなりますが、原則をそのままビジネスにあてはめてもうまくいきません。だから経済学は、一種のルールブックでしかないと思っています。

経済の本を書いたり、経済ニュースを解説したりする立場になってはじめてやっと経済学への興味が湧いてきたところですね。一般的な大学では「経済学は役に立たない」なんて言えないですし、そもそも経済とビジネスを分けて考えています。でもそれでは学問のための学問になってしまい、結局、実社会で役に立ちません。そこで経済学の理論と現実社会の両方を知っている立場として、読者に伝えられるものがあると思いました。

ご自身の会社を立ち上げるまでに富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートの3社を選ばれたのは何か戦略があったのですか?

木暮:実はそんなに戦略的に選んでいるわけではなかったんです。就活をしていた時、ある商社のOB訪問に行った際に、そのOBが何気なく「富士フイルムって良い会社だよね」と言ったんです。それが妙に説得力があって受けてみようと思っただけで。メーカーではなく金融機関を希望していたので、同社に入社したのは本当に偶然でした。入社したら、1年目から膨大なタスクが任されて。タスクを20個くらい同時並行するのはざらでした。

ですが、将来は起業したいと思っていて、ビジネスを自分で回せるベンチャーに行きたいと、サイバーエージェントに転職したのです。すると途中で、出版子会社をつくるという新規事業立ち上げの責任者に上司から推薦されたんです。「マルチタスクを期日までに仕上げられるのは木暮だけだから」という理由で。どの案件も漏らすことがなかったんです。富士フイルムでのマルチタスク経験が活きましたね。会社設立の方法もわからぬまま、事業計画書を作って、社名の登記やスタッフの募集、取次との調整などを行い、ゼロからたった1カ月半でアメーバブックスという出版会社設立にこぎ着けることができました。貴重な経験でしたね。

その後リクルートに行かれてから、独立され、数々の本を出版されています。コンテンツをつくる立場である著者の道を選ばれたのはなぜでしょうか。

木暮:これまでの経験から、自分が本当にやりたかったのは、面白いと思えるコンテンツを扱うことだと気づいたからです。これまでも自社商品を愛用していましたが、正直言って、あまり思い入れはなかったんですね。「自信を持っておすすめできる!」というものでないと、売り込むときも躊躇しますし、顧客から断られても「そうだよな」と引き下がってしまう。だから心から思い入れの持てる面白いコンテンツをつくり、世に広めたいと思ったわけです。

「そのコンテンツは人から評価されるかどうか?」

木暮さんにとって「面白いコンテンツ」ってどんなものでしょうか。

木暮:人から評価されるものに尽きると思います。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズで書かれていることを自己流に解釈すると、好きなこと、顧客のニーズがあること、そして社会(他人)に貢献できることの3つの輪が重なった部分が重要で、よく「まずは自分が好きなことから始めよ」と説かれています。ですが、僕自身は、相手のニーズがあるところから始めないと、と思います。いくら好きなことでも人から支持されなければ、続けるのがキツいし、自信もなくなってしまう。サイバーエージェントの藤田社長もネットが好きだから今の事業をしているわけではないし、楽天の三木谷さんももともとは銀行マンです。人から喜んでもらえてはじめて、自己重要感が高まり、その仕事をがんばろうと思えます。

僕が本を書き続けているのも、本を買ってくれる人がいるから。大学時代でも、自主制作した経済学の解説本が1週間で400部完売したときに、「こんなに必要としてくれる読者がいるなら、もっと書こう」とモチベーションが一気に高まりました。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
著者
ジム・コリンズ ジェリー・I. ポラス 著 山岡 洋一 翻訳
出版社
日経BP社
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喜んでくれる人がいるかという視点が大事なのですね。 木暮さんは『今までで一番やさしい経済の教科書』をはじめ、経済学やマネーリテラシーに関する本を多数執筆されていますが、本のテーマはどんなふうに決めているのでしょうか。

今までで一番やさしい経済の教科書
今までで一番やさしい経済の教科書
著者
木暮 太一 著
出版社
ダイヤモンド社
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木暮:テーマを決めるときに大事にしているのは「そのテーマについて語る資格があるかどうか」。メディアにおいては、何を言うかより、誰が言うかが問われます。同じ言葉でも、松下幸之助さんが言うのと他の人が言うのとでは、重みが違いますよね。経済学やマネーリテラシーのテーマでは、「経済学の大家マルクスや、『賭博黙示録カイジ』に登場する利根川幸雄(主人公カイジの大敵)のお墨付きだから信用してよ」というのを意識して書いているのです。「その道で名を馳せてきた人の意見をわかりやすく紹介しているだけ」というスタンスだから、読者は信頼を寄せてくれているんじゃないでしょうか。

だから最初に、ターゲット読者が「この人には反論できない。素直に意見を聞かなきゃ」と思うだろう人物を考えます。例えば『資本論』を書いたカール・マルクスの主張に異議を唱えられる人ってなかなかいないでしょう?

ベストセラーを生み出すために、著者自身が脇役になれるかどうか

まさに『影響力の武器』の「権威づけ」の戦略ですね! たしかにマルクスの意見だと言われれば、ぐうの音も出ません。カイジといえば、2016年2月に木暮さんのカイジシリーズ第4弾、『カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話』が出ましたよね。

カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話
カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話
著者
木暮太一 著
出版社
サンマーク出版
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影響力の武器【第三版】
影響力の武器【第三版】
著者
ロバート・B・チャルディー二 社会行動研究会(訳)
出版社
誠信書房

木暮:カイジのシリーズでは、いつも本の冒頭にドストエフスキーなど偉人の格言を載せているのですが、今回の4作目では芥川龍之介が登場するのでお楽しみに(笑)

読者が「面白いな」と感じるコンテンツのカギは「再現性」と「一般化」です。いくら良い教訓が書かれていても、読者がそれを再現できなければ役に立ちませんし、あまりに読者の状況からかけ離れた“特殊な状況”でしか成立しなければ「自分には当てはまらない」とそっぽを向かれてしまう。

日本的な権威でなければ、著者がベストセラーをつくろうと思ったら、自分自身が死ぬこと、つまり脇役になることが必要です。僕はスポットライトが自分にあたらなくていいと思っています。大事なのは、僕の本を媒介にして、有益な教えをよりわかりやすい形で読者に届けることなので。

歴史上の専門家たちの英知を紹介するという位置づけなのですね。それにしても、独自の切り口でわかりやすくエッセンスを伝えられる理由は何なのでしょう。

木暮:いつも世の中の動きを「感じている」からでしょうか。例えば電車に乗ると車内を見回します。もしゲームに没頭して周囲を顧みない乗客が座っていたら、じっと観察して、「この人はどんなグチを言うだろう?」「普段、どんな行動パターンをとるんだろうか」などと予想するんです。

物事の本質を知るには、観察が大事。だから僕は統計データには頼りません。人が直感的に感じていることって、アンケートでいくら質問されても正確に言語化されづらいので、後付けで回答することがほとんど。つまり、でっちあげに近い。自分なりの視点を得るには、現場を見て、感じることがカギになります。

木暮さんにとって「人生観を変えた本」「これは読んでおいてよかった本」は何ですか。

木暮:人生観に大きな影響を与えた本は、最初に話した『金持ち父さん 貧乏父さん』ですね。ラットレースの中にいるだけでは状況は好転しないという現実を突きつけられました。

最近読んで「これは」と思ったのは、『ハイパワー・マーケティング』という本です。日本のマーケターの多くが教本としてきた本ですが、印象的だったのは「何かを売るなら腹をくくれ」というメッセージです。顧客は商品を買うときに「この選択でいいのかな」と不安を感じます。だから売る側は、そのすべての不安を取り除く覚悟で売らないといけない。売る側が腹をくくると、その商品が良ければ顧客の信頼を勝ち得ることができるのだという事実を再認識しました。

あとは、TEDの名プレゼンで有名なサイモン・シネックの『WHYから始めよ!』もおすすめです。人が購入するときの決め手となるのは、製品の性能ではなく、その製品を生み出した企業の信念やイデオロギーに共感できるかであるということを学べます。

ハイパワー・マーケティング
ハイパワー・マーケティング
著者
ジェイ・エイブラハム 著 金森 重樹 翻訳
出版社
ジャック・メディア
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WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う
WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う
著者
サイモン・シネック 著 栗木 さつき 翻訳
出版社
日本経済新聞出版社
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どの本もぜひ読んでみたいです! 今後出版される本も楽しみにしていますね。貴重なお話をありがとうございました。

待望のカイジシリーズ第4弾はこちらから!
カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話
カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話
著者
木暮太一 著
出版社
サンマーク出版
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文責:松尾 美里 (2016/02/10)
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