三谷宏治、発想力と独自性の原体験に迫る
『戦略読書』の著者に聞く

三谷宏治、発想力と独自性の原体験に迫る

今回登場するのは、K.I.T虎ノ門大学院教授。早稲田大学ビジネススクール・グロービス経営大学院 客員教授を務める三谷 宏治さん。

ボストン コンサルティング グループを経て、アクセンチュア戦略グループの統括を務めた後、現在、社会人教育だけでなく小学校から大学において、幅広い教育活動をされています。

2015年12月には、三谷さん独自の読書法・読書経験の集大成とも呼べる『戦略読書』を上梓されました。

「独自性」を大事にする姿勢は、どこから生まれてきたのでしょうか。三谷さんの人生観や教育観に迫ります。

「人と同じ発言をしてしまった」という危機感

『戦略読書』 で紹介されていた、人生のステージに合わせて、読む本のジャンルの割合や読み方を変えていく「読書ポートフォリオ」 という考え方が面白かったです。社会人2年目のときは、ビジネス系と非ビジネス系の本が1:1になるように読むべきというような。 三谷さんがこういう読書法を始めたきっかけは何でしたか。

三谷 宏治さん(以下、三谷): 社会人2年目のとき、コンサルタントとして働いていて、同僚と同じ発言をしてしまったことがきっかけかな。しかも非常に月並みな内容で、「これじゃダメだ」と強く危機感を覚えました。BCGに入ってから、とにかくビジネスの世界、サラリーマンの社会を理解しようとビジネス書ばかり読んでいたせいだと直観しました。

みんなと同じ本や雑誌を読んでいては、人と違った面白い発想なんて、なかなか生み出せない。そう気づいてから、読書ポートフォリオを変更して、元々好きだったSFや科学書、漫画なども取り入れるようにしたら、またちょっとずつ面白いことが言えるようになりました。

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社会人2年目ですよね? 私だったら他のコンサルタントと同じ土俵に立てたと、小躍りしてしまいそうですが……。

三谷: コンサルタントとは、クライアントの経営陣に同調するのではなく、その人たちが思いつかない別の見方を提案する仕事です。だから、人と同じ考えや発言しかできないなら、私の存在意義はありません。なので、同僚と同じ意見を言ってしまったときに強烈な危機感を感じたんです。

私は「人と違う思考や発想ができる」ようになることがコンサルタントのみならず、ビジネスパーソンにとってもダイジだと考え、「決める」ことや「発想」というテーマで講演をしたり、本を書いたりしています。いずれも、練習次第で身につく「技」なのですが、ある種の「覚悟」も必要です。「決める」というのは10人中3人になる覚悟を持つことです。決めなければ多数派に同調することもできるけれど、何かを決断すると、少数派になる可能性を受け入れることになります。

さらに、「発想」で勝負するというのは、10人中1人になること。みんなが言わないことを言って初めて価値になります。それは「10人中1人になる覚悟」であると同時に「10人中1人になる楽しさ」です。人と違うということを楽しめるかどうかなんですよね。

人と違う状況を楽しもうという姿勢は、わが家の教育方針でもあります。私の長女は就職活動のグループディスカッションで、「誰も発言しなければリーダーとして仕切るし、他に仕切る人がいたらその人に任せて、私はみんなとは違うことを言うために必死に考える」と言っていました。昔はあんなにヒトと違うことを嫌がっていたのに、長年の訓練の賜か、って思いましたね(笑)

子どもって、小さい頃は大人が少し面食らってしまうような質問をしてくるでしょう。私の娘たちもそうでした。「仕事って楽しいの?」とか聞かれると答えに迷ってしまいますよね。でも、どんな質問を投げかけられても、まずは「よく気がついたね」「その視点が素晴らしい」と褒めるようにしていました。それから他にもこんなことがあるよ、と世界を拡げたり、「なぜそう思ったの?」などと、逆に質問したり。

すると、どんな疑問や気づきを伝えてもOKという感覚が自然と子どもの中に生まれるから、安心して、楽しみながら好奇心を発揮することができるんです。

「人と違うのが普通」の原体験

三谷さんは、「オリジナリティのある存在になる」ことを一貫して大切にされていると感じましたが、そのこだわりはどこからくるのでしょうか。

三谷: もともと人と違うのは当たり前だと思っていたのかもしれませんね。小学1年生のときに病気で40日間入院を余儀なくされ、それから4年間ずっと松葉杖をつく生活だったのも大きいのかな。

あと、担任の先生の薦めで、福井大学付属中学校を受験した(なぜなら丸刈りにしないでいいから)のですが、抽選で落ちました(笑)。それで地元の公立中学校に通うことになったんですが、これが結果的にすごくよかった。ちょうど同学年には、スポーツから番長まで色んなスーパースターが勢ぞろい。バスケで全国大会に行った奴もいれば、卒業後に甲子園に行く奴らもいた。スポーツ万能で生徒会長をやっていて、そのうえ長身で容姿端麗みたいな子とかね。その子は、弱小チームを率いて球技大会で優勝しちゃうくらい、統率力にも長けていた。それぞれの生徒が光り輝いていたんです。

こうした経験から「社会とはこういうこと。多くの価値があり、勉強なんてその4番目くらいのことに過ぎない」というのを自然と学びました。頭がいいなんて、それでモテるわけでもないですしね(笑)。病気で、人と違わざるを得なかったし、多様性の中に身を置いていたからこそ、「人と違うのが普通」という価値観ができていったんだと思います。

小中学生の頃に、そんな体験をされていたんですね。もともと学ぶこと自体が好きだったのですか。

三谷: 小さい頃から知識欲が強かったですね。小学校の授業はみんなのペースに合わせてゆっくり進むでしょう。私はヒマで、教科書をどんどん先に読み進めていたから、さらに授業中ヒマになり……。教科書を読み終えたら次は別の本を読んでました。

最初は知識欲のおもむくままに読み進めていたけど、そこから、物事の仕組みや真理を見つけ出すことに関心が移っていきました。そこでモノのメカニズムを解明する物理学や、心のメカニズムを解明する心理学、世の真理を追究する哲学にも興味が広がっていった。

大学では物理学を専攻しましたが、高校時代、一番得意だった科目は現国でした。ただ、文系の学問は独学でもやれると思って理系に進みました。理系の学びだと実験設備も必要だし、解析学やら量子論やら、まだ自分が理解できていないことがいっぱいありましたしね。

理系の根幹である物理学を学んでおけば、理工系のどの分野にでも行けると思っていましたし、さらに言えば、就職のときも理系から文系就職はできても、文系から理系の研究職は極めて難しいですよね。だから理系を、そして物理を学びました。将来を決めなくて済んだからです。これを私は「モラトリアム最大化戦略」と呼んでいました(笑)

コンサルタントが「戦略」と言うとなぜかカッコよく聞こえますね(笑) 研究者ではなく、コンサルタントを志したきっかけは何だったんでしょうか。

三谷: 就職活動では理系の研究職も考えていましたが、たままたボストン コンサルティング グループ (BCG)に出合い、自分と合うなと感じたんです。『経営戦略全史』 でも紹介したBCGの創立者、ブルース ヘンダーソンは、世の中のすべての真理を探究したい、という人でした。彼は、同じ国で同じものを生産していたら、生産コストが同じはずなのに、なぜかある会社のほうが、大手より生産コストが低いという事実にぶち当たった。どうやらこの世の中は想像以上に複雑だと気づいた彼は、世のビジネスのメカニズムを解明し、自身の知的好奇心を満たしたい一心でBCGをつくってしまった(笑)。この好奇心を追求していくところがいいなと思いましたね。

経営戦略全史
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三谷宏治
ディスカヴァー・トゥエンティワン
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著者
三谷宏治
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ディスカヴァー・トゥエンティワン

真理やメカニズムを解明したいという、強烈な好奇心を持っていたのですね。

三谷: それから私にはずっと「ひとかどの人になりたい」という思いがありました。10年をひと塊と考えたときに、就職して30歳くらいまでに何かを得たいなと。そう考えたとき、コンサルティングの会社に入れば、プロジェクトを通じて色々な会社を見たうえで、どの分野のプロをめざすかが決められると思ったわけです。だから、コンサルタントになりたいと思っていたわけではなく、将来の選択肢を広げるための、いわば究極の「腰掛け」だったんです。

だけど、経営コンサルティングの世界を覗いてみたら、予想以上に面白くて。「自分は経営コンサルタントに向いている」とちゃんと自覚したのは、ちょうど29歳頃だったと思います。同年代の同僚が夜中、「俺たちはどこででもやっていける」と言って、なるほどと思ったんです。どんな業種のどんな会社に転職しても、それはコンサルタントとして新規プロジェクトにアサインされ、その業種や会社について素早くキャッチアップして、課題を見つけ、解決を図ることと何ら変わりない。そのとき初めて、自分が一人前になったと実感し、「経営コンサルタントは天職だ」と思いました。童話の『青い鳥』の結末は、「探し続けていた青い鳥は実は家の中にいた」というものですが、青い鳥を探そうとグルグル歩きまわること自体が、自分の得意なことであり、好きなことだったわけです。

じゃあせっかく天職に巡り会ったのだから40歳までこの仕事を続けると決めました。逆に言うと、40歳になったらやめようという決意でもありました。経営コンサルティングの仕事は楽しいけれど、管理職であることに魅力は感じられなかったし、体力的にも一生はできないなと思っていたんです。

だとすれば人生でもう一つ、次の何かが必要です。しかもそこで誰もやったことのない新しい挑戦をするためには、クリエイティビティを発揮できるうちに始めないと意味がありません。その限界が自分の場合は40歳かなと。これまでとは違う新しい世界に飛び込むというのは、その世界で新人に戻るのと同じだから。

三谷さんの蔵書

経営コンサルティングの次に選んだのが、教育の世界だった理由は何なのでしょうか。

三谷: BCGに入ったとき、新人教育制度があまりにも整備されていなかったので、「自分たちで教育制度をつくって、自分たちを鍛えなきゃダメだ!」と奔走していたので、「教える」とか「学ぶ」っていうのは、身近な存在だったんです。27、8歳のときからは誘われて、コンサルタントの傍ら、ビジネススクールなどで外部講師を始めました。

ただ「教育」の道が現実的な選択肢になったのは、弟の何気ない一言がきっかけでした。「お兄ちゃんくらいビジネスの世界でバリバリやっていて、かつ、人に教えるのが好きな人ってなかなか珍しいよね」と。「そうか。それなら価値あるな」と思いました。それまで自分では気づいてなかったので(笑)

私は新人教育が好きで、幹部になっても普通にやっていました。ですが本来、経営層にあたるパートナーが、新人のアナリストに教えるのは難しい。経験値が離れすぎていて、新人のわからないことがわかりませんから。何より、基礎ができていない新人を教えるのは、共通言語もないから一番やりづらいんです。でも私は基礎を教えることこそ楽しいと思っていたし、それが他にほとんど誰もやっていないことなら、すごく価値があると思った。それで教育の道に転身しようと決めたんです。

社会人のみならず、小中学生も対象にされていると伺いました。

三谷: 子どもは「変化しやすい」から教えていて楽しいんです。大人はいくら教えてもなかなか変わらないけれど(笑)

K.I.T.や早稲田やグロービスにわざわざ通って新しいことを学ぼうとする人は、もちろん変われます。でもそれが全大人人口の何パーセントかといったら、ごく少数ですよね。でも小中学校には、どんな子どももいる。その後決してアクセスできない層にも何かを伝えることができる最初で最後のチャンスだといえます。

今は10代、20代でも活躍できる機会がある時代。つまり、授業で何かを伝えたら、その子たちがたった5年後、10年後には社会で花開く可能性が十分あるのです。

東京都世田谷区にある芦花小学校で5年間授業やサマーワークショップを受け持っているんですが、6年生向けの授業中に、私が書いてきた本をさらっと紹介したことがあるんです。すると半年後に、その授業を受けていた男の子が「全部読みました。中でも『観想力』 が一番面白かったです」と感想を教えにきてくれてビックリ。ビジネスパーソン向けの本ばかり書いてきたのに。彼は『観想力』 を読破した最年少読者ですね(笑)。今や高校生となった彼は、当時から「トヨタより大きな会社をつくる」という夢を持っていました。最近は中高生を巻き込んだ、新しい活動を立ち上げて、活躍していますよ。もちろん、私の授業の影響だけではないけれど、子どもたちがこれだけ短期間で変化して、成長していく姿を目の当たりにできるのは面白いですよね。

観想力
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三谷宏治
東洋経済新報社
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中学1年生で三谷さんのご本をすべて読破ってすさまじいですね……。

「こうなりたい」よりも、「こうありたい」。

三谷さんが今後挑戦したいこと、ビジョンは何ですか。

三谷: 実はビジョンは何も持ってないんです。組織なら共通のゴールや目的(=ビジョン)がなければ、そこに向かっていくことは難しいでしょう。でも個人の場合は、ビジョンがなくても生きていける。固定的なビジョンに縛られたくないという思いもあります。

私は、「これを成し遂げたい」と目標に向かう人(=なるヒト)と、「こういう状態でありたい」と望む人(=あるヒト)の2タイプがいると思っています。私は後者ですね。「こうなりたい」というよりも、「こうありたい」。その行きつく先はどこでもよくて、もしかしたら晴耕雨読的な生活かもしれない。先のことはあえて考えませんし決めません。このまま教育に関わっているとは思います。でも、「日本の教育水準をいつまでにこれだけ上げる」などという成果目標は、持ちません。

三谷さんの「こうありたい」というのは、どんな状態でしょうか。

三谷: 状態というより「人生哲学」ですかね。余裕を持っていながら、ちゃんと頑張っている。ダイジなものを間違わずに行動できる。たとえば、道路で子どもが危ない状況にあるときに、すぐに救助に動ける人間でいたい。それが見知らぬ子どもでも。でもこれ、なかなか練習できないことなので、イメージトレーニングが重要です。坂本龍馬も、そうでした。司馬 遼太郎の『竜馬がゆく 』 に、こんなエピソードが出てきます。彼はいつ暗殺されるかわからない身であるのに、京都の道のど真ん中を昼日中に闊歩していた。でもその胆力を鍛えるために手帳にこう書き留め、日々自分に言い聞かせていたというのです。「人間はどうせ死ぬ」「死生のことを考えず事業のみを考えるべし」「たまたまその途中で死がやってくれば事業推進の姿勢のままで死ぬ」と。

私も考えているだけじゃなくて、決断して行動できる人でいたい、と思うのです。

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三谷さんの人生観や教育観に心が揺さぶられました。貴重なお話をありがとうございました。

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文責:松尾 美里 (2016/02/25)

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