AI後の未来、技術的失業の波があなたを襲う
これから台頭するビジネスモデルとは?

今回登場するのは、社団法人ソーシャル・デザイン代表理事を務める長沼 博之さん。経営コンサルタントとして企業の経営・事業開発を支援する傍ら、近未来の社会やビジネスモデル、働き方、メイカーズ革命といった最先端の知見を届ける「Social Design News」を運営。『ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉』(CCCメディアハウス)に引き続き、2015年9月に『ビジネスモデル2025』(ソシム)を上梓されました。

IoT(モノのインターネット)、AI、そして民泊プラットホームのAirbnbや配車アプリUberなどの台頭。「近い将来、AIに多くの仕事が奪われる」。そんな技術的失業の波がリアルに迫りくる現在、これからどんなビジネスモデルが世界を席巻するのでしょうか。未来を生き抜くためにビジネスパーソンが必要とするスキルについてお話を伺いました。

限界コストゼロ時代到来の光と影

『ビジネスモデル2025』では、今後の社会は、取引コストや物流コストなどが限りなくゼロに近づき、利益最大化ではなく、社会における影響力・貢献価値の最大化をめざす社会になる、と述べられていました。こうした大きな変化によって、私たちの生活はどう変わっていくのでしょうか。

長沼 博之さん(以下、長沼):まずはプラスの影響からお話します。今後は、取引コストや限界コストなどがゼロに近づいていくにあたって、事業開発のコストがゼロに近づいていきます。そのため、起業したり、プロジェクトを立ち上げたり、いくつもの仕事や活動に参加するパラレルキャリアに挑戦したりすることが、これまで以上に容易になる。

私が主宰している Social Design Salon という、次世代ビジネスモデルや働き方を語るサロンでは、オンライン上でサロンメンバーの事業開発を行っています。時々リアルサロンも開いていますが、基本メンバー同士のやりとりはFacebookグループ。オンラインツールの発達によって、個人も企業も時間や場所の制約を越えて、スピーディーに事業やプロジェクトを立ち上げられるというのは大きな変化です。

また、これまではいくら面白い事業やプロダクトのアイデアがあっても、資金調達には苦労が伴いました。ですが今では、クラウドファンディングで、アイデアに共感した人たちから資金を集めることができますし、テクノロジー関連のスタートアップに投資を行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も増えています。大企業も優れた技術やビジネスモデル、優れたアイデアを持つ起業家にはお金を投資したがっていますし、FinTechがこの2,3年で日本に普及すれば、これまで必要だった資金調達の細かな事務作業が少なくなり、お金が振り込まれるまでの期間も劇的に短くなる。よって資金面の課題も解決しやすくなり、個人や少人数でも事業化がしやすくなると見ています。

(※FinTech:金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、金融におけるIT活用を指す。)

ビジネスモデル2025
ビジネスモデル2025
著者
長沼博之
出版社
ソシム

確かに、個人が新たなプロジェクトをどんどん仕掛けていく好条件は揃ってきている気がします。逆に、どんなマイナスの影響があるのでしょうか。

長沼:デメリットは、クラウドソーシングやボットソーシング(ロボットが業務を代行すること)といった、取引コストゼロ、限界コストゼロのビジネスモデルについての知識の有無によって、情報格差、経験の格差がますます広がるということです。そうしたトレンドを知らなければ、ビジネスチャンスを見出せないどころか、既存の仕事においてもあっという間に置いてきぼりになってしまう可能性も否めません。

また今後人間は、仕組みを構築したり、意思決定を下したりする仕事や、人と直接接していく接触的な仕事を担うことが増えていくため、こうした仕事をこなせるかどうかも問われるでしょう。

最近ではAIに仕事が奪われると喧伝されていますが、AIをうまく活用し、価値を創造し続けていくために、ビジネスパーソンは何を心がければいいでしょうか。

長沼:これからビジネスパーソンに必要な力は次の10種類だと思っています。

・機会発見能力

・高次の視点から仮説を立てる力

・概念生成能力

・理論構築力

・異文化共感力

・調和的積極関与能力

・新規適応志向

・ニューメディアリテラシー

・テクノロジー&デザインリテラシー

・バーチャルコラボレーション能力

まずは、世界最先端のトレンドを追いながら、新たな事業チャンス・ビジネスモデルを発見・構築していく「機会発見能力」。そして「高次の視点から仮説を立てる力」です。アインシュタインが「課題を同じ次元から見ていても解決できない」と言ったように、ビジネスモデルという次元だけでなく、社会や働き方といったレイヤーとの関係性も見つめつつ、問いや仮説を立てていくことが必要になります。

さらに、文脈から新たな意味を生み出し、誰もが共感できる概念やメタファーを提示する「概念生成能力」も重要です。商品やサービスの付加価値が問われる中、人の共感を生み出す物語や文脈をつくり出す力がこれまで以上に求められます。

あとは、概念と概念の新たな関係性を発見し、理論や体系を生み出す「理論構築力」。異業種とのコラボがより簡単になっていく現在、異なる概念同士を組み合わせることで新たな体系的価値を生み出せるかどうかが問われるようになります。

概念生成能力は、コピーライターのような職業に就いていなくても、人の心を動かすうえで大事になってくるのですね。

長沼:そうですね。意味を紡ぎ出す「センス・メイキング」はいっそう重要になると思います。

次に必要なのが、国や民族、地域の違いを理解し、共感しながら、相手の良い部分を取り入れていく「異文化共感力」です。どんな人とも良好な関係性を築こうと粘り強く対話し続ける「調和的積極関与能力」も重要ですね。オンライン経由のコミュニケーションが頻繁になると、全く違った背景、異なる価値観の人たちとも、これまで以上に粘り強く関わり、融和を目指していく場面が増えていきますから。

そして自らから持っているものを容易に手放す勇気を持ち、新たな事態に柔軟に適応していく「新規適応志向」も求められます。一度流行したものがすぐに廃れていく「ビッグバン・ディスラプション時代」において、過去の成功例にしがみついていては、淘汰されてしまう。また多種多様なソーシャルメディアや、毎年登場しては発展していくツールを利用していく「ニューメディアリテラシー」も必要。新しいアプリが出たら、まず使ってみることですね。

さらに、プロトタイピング(試作)のコストが著しく減った現在には、「テクノロジー&デザインリテラシー」も求められてきます。プログラミングやデザインの基礎やトレンドを知り、感性を磨いておくと、例えば、「見やすいインターフェイス」について考え、ディレクションできるようになります。自分がプログラミングやデザインができなくてもいいですが、それにまつわる判断を下せるだけの力は必要となります。

最後に必要なのは、「バーチャルコラボレーション能力」です。リアルコミュニケーションにプラスして、オンライン上でうまくコミュニケーションや協働ができるかどうかが、事業やプロジェクトの成否を分けるといってもいいでしょう。

経済システムへの強烈な不条理を感じた小学生時代

長沼さんが、こうした未来図を意識するようになったきっかけは何でしたか。

長沼:原体験は、小学5年生のときにありました。父親の事業が倒産し、親の実家がある福島へ転校せざるを得なくなったのです。「父は家族のため、社会のために働いてきたのに、なぜ家族がバラバラに暮らさないといけないのだろう?」と不条理さを感じました。この苦しい経験から、「今の社会システム、経済システムはどうなっているのか?」「真の成功と失敗とは何なのか」という問題意識を持ち続けるようになったのです。

そこから、経済や事業について知るために、高校時代からビジネス書を読み、大学生の時にはトリプルスクールで社会人向けのビジネススクールにも通い、ビジネスプランコンテストに出場したりもしていました。大学3年生のときには、とある著名な上場企業の社長に、「事業や仕事の根本には哲学が必要だ」ということを直接指導いただく機会がありました。当時、事業は戦略であり、戦術であり、プロダクトだと考えていた自分にとっては衝撃的な言葉でしたね。

「社会をはどうあるべきか」「人はいかに生きるべきか」「この事業や仕事によってどんな理念を実現したいのか」という哲学を土台にしたうえで、戦略やビジネスモデル、戦術を積み上げていかなければならない。それ以降ずっと、ビジネスとともに哲学について考えるようになりました。

大学卒業後、コンサルティングを行う中で、業界ごとの縦軸では「見えないもの」がたくさんあることに気づいたのです。現在は、哲学、社会、ビジネスモデル、そして働き方の関係性が再構築されている真っただ中。だから、ビジネスモデルだけ、単一業界だけを見ていても、21世紀の主流となる事業を見出すことはできません。多種多様な業界を横断するシェアリングエコノミーやボットソーシングといったキーワードで課題を切ることで、本質が見えてくることも多いのです。例えば、相乗りできる車をマッチングしてくれるライドシェアサービスのLyftや、近所の人から必要な日用品を借りられるアプリのPeerbyも、「価値消費の最適化」という文脈で見れば、他の業界にも”シェア”というコンセプトは広く当てはまり、増えていくなどと予測することもできます。

「ロボット時代のビジネス哲学の解は、仏教的生命観にある」

こうしたトレンドが定着していくと、人々の仕事も変わってきますよね。

長沼:ロボットやAIの進化により、人間の仕事が奪われていくという技術的失業の話がよく取り沙汰されています。人間は人間にしかできない意思決定やクリエイティブな仕事に注力できるという大きなメリットもあります。しかし一方で、現在は、大格差社会、老人の貧困も忍び寄り、「将来はどうなってしまうのだろう…」という漠然とした不安が世の中に広がっている。その背景に重々しくのしかかっている問いは「人間とは何か?」というタフな命題です。

これは人類全体がいよいよ本質的な問いと葛藤を始めなければならないということを意味しており、言って見れば「実存的虚無感」と真っ向勝負しなければならないことを意味します。

20世紀では、私たちは、猛烈に働く行為と「消費=幸せ」という物語の中で、この根源的な問いからうまく逃げてきました。考えなくてもなんとなく生きてこられたわけです。しかし、世界的なロボット時代、最低限の生活が保障されるベーシックインカム社会が到来すれば、そうも言っていられません。「何のために生きるのか?」を誰もが考えざるを得ない状況になりつつあるわけです。

今、このパンドラの箱が開かれようとしています。巨大なネットワーク社会の中に組み込まれる「個人」を、単にビジネスのレイヤーのみで語っても意味はなく、次世代ビジネスを、そのモデルとツールとテクニック論のみで語っても説得力がないのです。ビジネスが、何のために、何をめざし、どんなプロセスを経ていくかまで、きれいに腹落ちさせるレベルにしなければならなくなる。

今、ビジネス社会は、その領域に明らかに入り始めています。テクノロジーの発展によってスピードは爆速と言ってよいでしょう。そのスピードについていくために、日々勉強し、それを実践につなげていくことが大切です。しかし一方で、この実存的虚無感に挑む強靭な思考や哲学を、己の中で耕していかなければならないということです。それはちょっとしたスピリチュアルや神秘主義的なものに自身をゆだねることとは真逆のベクトルです。

この「自分とは何か」「人間とは何か」という深遠な問いに対峙できるだけの精神力、生命力を与えてくれる哲学が必要になってくる。それで拙著『ビジネスモデル2025』には「大乗仏教」「仏教的生命観」について書いたのです。

仏教的生命観ですか。AIや技術的特異点という西洋的なテーマと一見真逆にあるような、仏教という東洋的な要素が加わるところに意外性を感じるのですが、どういうことでしょう。

長沼:仏教は本来、生命そのものを演繹的に考察したものです。私たちの生命は単に細胞や器官の足し合わせではなく、統合した全体として一つの生命体となります。テクノロジーが進化していくと、科学的に、つまり細かい分析を突き詰めるようになります。しかし、その視点だけでは人間性や生命といったものを正しく把握することは難しい。だからこそ、演繹的につまり統合的に全体を捉える仏教的生命観が重要になるのです。

哲学にも明らかに高低浅深が存在します。例えば、「自分の外に絶対的な神を見る哲学なのか、それとも自分の内部に法則を見出す哲学かどうか」「自分の成功や悟りのみを追求する哲学なのか、それとも自他ともに幸福になることをめざす哲学なのか」といった様々な評価軸で、世界の哲学や思想を調べ、比較していきました。すると、大乗仏教とそれに基づいた生命観が、現代の私たちに重要な示唆を与えてくれることに気付いたのです。

そういった高く深い哲学、理念を背景に、組織側は従業員が「なぜこの会社で働くのか」という問いに答えを見出せるようにしなければなりません。個々人の自己実現や社会貢献欲求を満たし、「AIが浸透しきった後の社会」を思い描き、その後も”人が集まってしまう組織”にできるかどうかがカギとなります。

今後の社会を大きく変えると予測されるビジネスモデルや注目されている企業は何ですか。

長沼:クラウドソーシングの次は、ボットソーシングが世界を席巻していきます。もう誰もが否定できないほど、広く注目を集めていますよね。

私が注目しているのは、アームロボットが安く普及していくトレンドです。ロボットは限られた狭い領域で力を発揮するのが得意。例えば、Carbon Roboticsが提案する低価格のアームロボットKATIAは、ディープラーニングによって機能を進化させていく消費者向けロボットアームです。アームの先が変幻自在で、3Dプリンターやレーザーカッターなどの工具にもなる。絵を描かせたり手紙を書かせたりすることもできる優れものです。オープンソースのAPIが公開されていくので、今後世界の技術者たちの手によって、その用途がいっそう広がる可能性を秘めています。注目ポイントは、約23万5000円という、個人でも手が届く価格であることです。

ロボットは肉体労働的だけでなく、知識やクリエイティブの領域にも入り込んできます。最近(2016年2月時点)日本IBMとソフトバンクにより、IBM Watson (ワトソン)を活用した新しいアプリケーションの開発に利用できるコグニティブ・サービスを日本語版で提供し始めました。人と同じように情報を得て、経験から学習する認知型コンピュータのワトソンが今後、スマートフォンなどに搭載されていくと、例えば秘書業務や総務、経理業務をクラウドソーシングに頼まなくても、スマホ一つで手軽にできてしまう、という未来も遠くないはず。

企業は、こうした動向を念頭に、自社のビジネスの一部をロボットや新サービスで代替できないかなどと真剣に考えていく必要があります。最先端の状況を俯瞰的に見るには、一世を風靡した『Big Bang Disruption』の邦訳、『ビッグバン・イノベーション』(ダイヤモンド社)をぜひ読んでいただきたいと思います。

ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ
ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ
著者
ラリー・ダウンズ ポール・F・ヌーネス 著 江口 泰子 翻訳
出版社
ダイヤモンド社
本の購入はこちら

クラウドソーシング自体が新しいビジネスモデルですが、それを凌駕するボットソーシングというビジネスが今後、さらに進化していくのですね。日本の未来も大きく変化するのでしょうか。

長沼:これから数年で、一気に加速すると思います。日本ではマスメディアが取り上げると一気に導入が加速します。例えば2013年に『ワーク・デザイン』で「クラウドソーシング」について紹介したときには、日本ではあまり認知されていなかった。ですが、2013年の終わりごろには、「クラウドソーシング」という単語の検索が一気に跳ね上がりました。同様に、Airbnbを代表とするシェアリングエコノミーをけん引するサービスも、民泊の動きによって加速度的に認知・利用されていくでしょう。

ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉
ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉
著者
長沼博之 著
出版社
CCCメディアハウス
本の購入はこちら

長沼さんがシェアリングエコノミーで注目しているビジネスモデルはありますか。

長沼:所有から共有の流れが発展して、「使用価値に直接アクセスする社会」をクルマの領域で実現しようとしているDrive.lyに注目しています。最近日本では、ガリバーがこの領域に目を付け、新規事業を仕掛けようとしていますね。

近年アメリカの世帯当たりのクルマの所有数は2.1台から1.2台へと大幅に縮小しました。その大きな要因の一つは、カーシェアリングやライドシェアの浸透です。とはいえ、「所有」と「共有」の間には隔たりがまだ存在する。例えば、ライドシェアのLyftも、ライドシェア専用の乗り場でしか乗車・降車ができないため、長距離で片道だけの利用や、5日以上利用したい場合などのニーズには現時点では対応しきれていません。

「いつでもどこでも好きなクルマに自由に乗りたい。でも何台も所有できないし、固定費もできれば支払いたくない」。それが、一部のクルマ愛好家を除いたユーザーの本音だと思うんです。このニーズに応えようとしているのが、Drive.lyです。

なんだかすごそうなサービスですね…! これで儲かるのでしょうか(笑)

長沼:なぜこんなに柔軟で経済合理性の高いモデルが実現できるかというと、クルマのオークション会社や保険会社、ロジスティック会社、クレジット会社などとコラボレーションし、更にテクノロジーが取引コストを下げていくからです。

クルマを所有することによって発生するマーケットは米国では約171兆円規模と言われていますが、Drive.lyはこの巨大なマーケットに挑もうとしている。カーシェアリングが約456億円規模の市場なので、はるかに大きなマーケットであることが分かります。今は、「TCO(Total Cost of Ownership)削減」に注目し、「使用価値にアクセスする社会」を構築する事業モデルは、重要な示唆を与えてくれますね。

この動きがクルマ以外にも応用されると、私たちのライフスタイルもいっそう変化しそうですね。今後も、長沼さんの「Social Design News」から最先端のビジネスモデルを学んでいこうと思います。貴重なお話をありがとうございました!

ビジネスモデル2025
ビジネスモデル2025
著者
長沼博之
出版社
ソシム
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文責:松尾 美里 (2016/03/24)
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