ワンピース「麦わら海賊団」型チームのつくり方
日本の教育にプログラミングが必須なワケ

ワンピース「麦わら海賊団」型チームのつくり方

今回インタビューしたのは、子供たちがプログラミングを学ぶIT教育キャンプやスクールなど、IT教育の先駆者であるライフイズテック株式会社 代表取締役CEOの水野雄介さんです。

水野さんは、大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務め、2010年ライフイズテック株式会社を設立。2014年には、コンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる “Google RISE Awards”の東アジア初の受賞という快挙を果たしました。

「日本のIT界にイチロー並みの人材を送り出す!」を目標に、海外展開も始めている水野さん。教育にかける思いや、起業時に水野さんの心の支えとなった本について、お話をうかがいました。

プログラミングは、自分が幸せになるための武器

── 「21世紀の福沢諭吉をめざす」など、水野さんの言葉からは教育業界を変革しよう、という強い覚悟が伝わってきます。日本の教育に対してどのような課題を持っていらっしゃったのでしょうか。

水野雄介さん(以下、水野):ずっと前から、現行の教育システムは今の環境にあっていないと感じていたんです。画一的な詰め込み教育、偏差値による評価、センター試験といった仕組みは、人口が増えていく高度経済成長期につくられたもの。これは「明確な答えが存在する問題の正解を見つけること」が求められる時代においては、大きな成果を生んでいました。世界的に圧倒的な識字率の高さにつながり、基礎教育としては充分に価値を発揮していたといえます。それに、当時はイノベーションを起こした人がいて、大多数はそれに乗っかればうまくいく時代でした。

ですが今は、既存の価値観が通用しないし、世の中を進化させる新しいものをつくらないと立ち行かなくなってしまう。だから、自分の強みとなる武器を持って、イノベーションを起こせる子がどんどん育っていくような21世紀型教育が必要だと強く思っているんです。

── それでライフイズテックを立ち上げたんですね。

水野:ライフイズテックのミッションは、中高生ひとりひとりの可能性を最大限に伸ばすというもの。「世の中がこうなったらいいな」という願いを形にし、人を幸せにする力が身につくと、本人も幸せを感じる確率がぐっと高くなります。プログラミングやITはそのための武器。今後ますます重要になるにもかかわらず、僕たちが起業する当時は、この分野での教育事業に本格的に挑戦している企業が少なかったのです。また、教育の現場で、プログラミングやアプリ開発をしたいという子たちが非常に多いと感じていたことも、ライフイズテックを立ち上げる後押しになりました。

── 事業を軌道に乗せるまで、苦しかったと感じられたことはありますか。

水野:マイナスに感じたことはなかったですね。僕はかなりポジティブな性格なんです。経営者は、つらいことがあっても忘れてしまう人が多いと聞きますが、僕もほんとにすぐ忘れちゃうんですよ。もちろん最初は創業メンバー三人で、資金も何もないところから、新たな仲間探しに奔走しました。壁にぶつかったことも何度もあります。ですが、これは夢をかなえるための通過点でしかないので、一つずつクリアしていけばいいだけ。何より、自分たちの行動が、「中高生の可能性を最大限に伸ばす」という、将来めざす世界につながっている確信があったので。

なぜ対象が小学生や大学生ではなく中高生かというと、僕自身が高校の非常勤講師として働いていたこともあって、当事者としても教育者としても一番理解しているから。肌感覚として、中高生が普段考えていることとか、「こんなものがあったらよかった」という気持ちや、悩んでいることがわかるんです。だから、彼らのニーズにあったものをつくりやすいというのがあります。

── ご自身も中高時代に「こういう教育があったらよかったのに」と感じた経験がありましたか。

水野:そうですね。僕は中高とも進学校に通っていて、学校教育に疑問を感じることがありました。野球部に所属していて、夏の大会前に気合を入れて練習しているのに、テスト前は一斉に部活の練習が禁止されてしまったことがあります。「なんで、生徒がやりたいと思っている可能性を閉ざすようなことをするのかな」と、もどかしかったですね。「自分だったら、もっと生徒が伸び伸び過ごせるような学校をつくるのに」って。

本来、先生や学校の役割は、生徒たちが勉強したくなるような環境をつくること。なのに、「勉強しないのは子どものやる気がないから」と、子どものせいにすることもあるじゃないですか。それって違うじゃないか、大人も、子供たちに勉強したいって思ってもらえるような働きかけをもっとできるんじゃないかって思うんです。

だから、教育を良くするためにやりたいことはいっぱいありますね。現時点でのライフイズテックでの達成度は、2%くらいかなと。あと98%も残っているので、まだまだこれから楽しいことだらけです(笑)もちろんこれからのほうが、より厳しい試練が待っていると思います。

水野さんインタビュー風景

最強のチームの秘訣は、ワンピースの麦わら海賊団にあり

── 今後は厳しい、という見方をされていますが、これまでの歩みは順調のように思えます。

水野: 2010年の起業からこれまでライフイズテックが成長を続けてこれたのは、チームに恵まれているからなんですよね。

── チームに恵まれているというと?

水野:僕の理想のチームは、漫画『ワンピース』の麦わら海賊団です。それぞれのメンバーの個性が活かされているし、メンバーが互いのことを尊敬し合って、一つの大きな目標へと向かっていく。これこそがチームをつくる意義だと思いますし、ライフイズテックも、麦わら海賊団のような最強のチームをめざしているんです。

僕は「会社の方向性の舵取りをする」「一番に責任をとる」という役割を担っているにすぎない。各自がそれぞれの役割で、力を発揮しているから、今のライフイズテックがあると考えています。

例えば、質の高い授業をつくれる人、ブランディングやマーケティングが得意な人、エンジニアリングで力を発揮する人など、それぞれの分野で高い専門性を持つメンバーが集まってきてくれています。どのメンバーのことも本当に尊敬しています。これだけ高い質の授業を開発できているのは、特にサービスの責任者であるCOOの小森の存在が大きいですね。僕は彼を日本一のワークショッパーだと思っている。彼のワークショップを目にすると「そうそう、こんな教育ほしかった!」って思うんです。

── 素晴らしいチームをつくり上げることができた秘訣は何でしょうか。

水野:みんな教育への情熱があり、中高生の成長や教育というテーマに共感を持つメンバーばかりで、ベクトルがそろっているからだと思います。それは、社員はもちろん、スクールでメンター(講師)役の大学生も含めて。みんなが同じ方向を向いて走っている組織って強いじゃないですか。

あとは、ただ「教育を良くしたい」と理念やビジョンを唱えるだけでなく、それを実際に「Be Startup」 や「ITドラフト会議」など、サービスに理念やビジョンを反映できているから、納得感が強いんじゃないかと思います。心に思い描いていた理想図が、どんどん体現できていって、それに対して生徒から反響があると楽しいですよね。

最近、社員の一人が「モチベーションがどうとか考えている暇なんてない」と言っていたのが、印象的でした。誰のために働いているか、どの方向に向かうべきかが明確だから、「何のために働いているんだろう?」という迷いがないんです。

── これだけパワフルなメンバーがどんどん惹きつけられていくのは、創業期のメンバー三人が魅力的だからですよね。

水野:僕がルフィだとすると、COOの小森と取締役の松井がゾロとナミ。つまり、最強の剣豪と航海士という感じですね(笑)小森は前職の同僚で、松井は大学時代の友人です。「いつか起業するなら、仲間になってほしい」と思っていました。この三人が集まったのは奇跡だと思っています。

僕は野球部にいた頃から、監督業が好きで、採用とか人材配置を考えるのが好きなんです。「この人にこのポジションを任せれば、能力が最大限発揮されるな」、って。メンバーの良いところを見極め、クラスの中でどう活かすかを考える力は、非常勤講師をしていたときにも磨かれました。

僕は常にぐいぐい引っ張っていく経営者というよりは、組織全体が進む方向性は示しておきつつも、そこへたどり着くためのルートはメンバーそれぞれに任せるような、監督タイプ。優秀なプレイヤーがどうしたらもっと活躍できるかを常に考えていますね。そして、みんなが進むべき方向を指す方位磁石は「子どもにとって何が必要なのか」。そこから、今何をやるべきかを考えていく。だから、メンバーが納得して一緒に船を漕いでくれているのかなって思っています。

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文責:松尾 美里 (2016/06/23)

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