地域・経済格差によるプログラミング教育格差を解消したい
日本初のサービス「MOZER」に込めた思い

今回インタビューしたのは、子供たちがプログラミングを学ぶIT教育キャンプやスクールなど、IT教育の先駆者であるライフイズテック株式会社 代表取締役CEOの水野雄介さんです。

水野さんは、大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務め、2010年ライフイズテック株式会社を設立。2014年には、コンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる “Google RISE Awards”の東アジア初の受賞という快挙を果たしました。

「日本のIT界にイチロー並みの人材を送り出す!」を目標に、海外展開も始めている水野さん。

教育にかける思いや、起業時に水野さんの心の支えとなった本、新サービスに込めた思いについて、お話をうかがいました。

寝ても覚めても教育のことばかり考えている

前編はこちら

ライフイズテックの事業や企画はどれも斬新さが光ります。社内で多くのアイデアを生み出し、それを実現するために、どんな工夫をされているのでしょうか。

水野雄介さん(以下、水野):事業やイベントの企画は主に私と小森がやることが多いのですが、子どものニーズが背中を押してくれるんです。

特別にアイデアをひねり出そうとするのではなく、常に子どもやメンターと接していて、「こんなのがほしい」「こんなサービスがあったら嬉しい」などと、常に要望やヒントが飛び込んできます。「あぁ、わかった、やるやる!」みたいな(笑)答えは現場にあるんです。今、スクールには16コースあるのですが、効率だけを考えるのではなく、生徒たちのニーズをかなえることを前提に、自社のリソースの中で優先順位を決めて実行に移していくという感じですね。だから、常に実現したいことだらけですよ。

水野さんご自身も、ディズニーランドやキッザニアからコンセプトの着想を得るなど、アイデアの泉ですよね。どうやって名案を思いつくのですか。

水野:やっぱり教育が好きで、教育のことばかり毎日考えているので、映画を観ていても、街を歩いていても、何か目に飛び込んできたら、すぐ教育の現場に置き換えるんですよね。「あ、これは、あの教育プログラムに使えるな」とか。コンビニから出るときも、教育についてひらめいたことをブツブツつぶやいていたのを、社員から目撃されています(笑)

いずれは、学校の先生がコミュニティーを構築、維持する力を身につけ、いじめのないクラスを運営できるような研修プログラムを、ライフイズテックで提供していきたいと考えています。これは私が先日、いじめの問題を扱った映画を観ていたときに着想を得たのですが、いじめが起きたクラスの先生が「私が(クラスをまとめられなくて)悪かったの……」と言うセリフがあったんです。普通はさらっと流してしまうと思いますが、僕はその言葉で、こう気づいた。

最近、教師は、生徒一人一人の個性を引き出していくファシリテーターとしての役割が重視されるようになっています。ですが、長期的に教師の役割を考えると、ファシリテーターの役割に加えて、組織をより包括的に運営していくコミュニティー・マネージャーとしての力がいっそう問われるのではないだろうか、と思いました。

担任の先生が一番課題に感じているのは、クラスというコミュニティーをどうマネジメントしていくかという点です。中学生、とりわけ女子中学生は周囲に敏感です。複雑な思春期に差し掛かる彼らとうまくコミュニケーションをとりながらクラスを束ねるとなると、かなりの力量が問われます。こうした力を養成する研修をつくるために、まずは、ライフイズテックの学校をつくり、そこでの実践を通じて、コミュニティー・マネジメントをうまく回す方法をきちんと抽出、言語化していくことが目標ですね。

こんなふうに、映画や漫画などのエンタメが事業のヒントにつながるのは、寝ても覚めても教育のことばかり考えているからだと思います。やっぱり教育が好きでたまらないんですよね。夢の中でミーティングすることも、しょっちゅうですから(笑)

藤田晋、坂本龍馬、孫正義——。起業の勇気とパッションをかきたててくれた偉人たち

水野さんの人生や価値観に大きな影響を与えたご本は何でしたか。ご著書『ヒーローのように働く7つの法則』でもいくつか本を推薦されていましたが。

ヒーローのように働く7つの法則 月給22万円だった僕が、世界的IT企業に認められて世の中を変える事業を立ち上げることができた驚きの秘訣
ヒーローのように働く7つの法則 月給22万円だった僕が、世界的IT企業に認められて世の中を変える事業を立ち上げることができた驚きの秘訣
著者
水野 雄介 小森 勇太 著
出版社
KADOKAWA/角川書店
本の購入はこちら

水野:一番影響を受けたのは、サイバーエージェントの社長、藤田晋さんの『渋谷ではたらく社長の告白』ですね。

ちょっと話が飛ぶのですが、このまえ、シンデレラの実写版映画を観にいったんです。シンデレラの実のお母さんが亡くなる前、こんな言葉を彼女に遺します。「勇気と優しさを忘れないで生きなさい」。ここで大事なのは、「勇気」が優しさと同じレベルで大事にされているということ。優しさって実践すると人から感謝されるし、報われやすい。一方で勇気を振りしぼって行動しても、その見返りはすぐには返ってこない。だから、優しさに比べて勇気って軽視してしまいがち。

ですが、起業するには、この勇気が一番重要なんです。これを教えてくれたのが藤田さんの本でした。藤田さんの生き様が、起業への怖さよりもワクワク度を上げてくれたので、起業に踏み出し、その後も挑戦し続ける原動力になりました。

勇気は起業を決断するときにのみ必要なのではなく、起業後もずっと勇気を持ち続けないといけない。そうしないと、思うような結果が出ないときに、「仕方がない」と諦めたり、「これくらいでいいか」と甘えが出たりしてしまいますから。これって起業だけでなく転職など、新しい挑戦全般にあてはまりますよね。人生を彩るのに、勇気は欠かせないものなんです。

シンデレラから、勇気の大切さにここまで思いを馳せられるって、すごいことだと思います。

水野:あとは、本ではないですが、NHK大河ドラマ「龍馬伝」も、自分の価値観を揺さぶるドラマでした。ちょうど僕たちが起業した年にあたる2010年のドラマで、当時日本中に「日本を良くすることはカッコいい」という一大ブームが巻き起こりましたよね。日本を変えるんだという強い使命感を持つ坂本龍馬の姿は、日本全体の教育を変えていかないといけない、と背中を押してくれました。

そして、孫正義さんの『志高く』は、起業に対するパッションをかきたててくれる一冊でした。まずタイトルからして、すごくいいですよね。現状に満足することなく、世界を変えようと走り続けている孫さんのことを非常に尊敬しています。

僕が本をよく読むようになったのは、起業してからですが、過去から学ぶことが大事だとつくづく思います。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という名言のとおり、成功確率を上げるには、偉大な起業家の先輩方が挑戦してきた軌跡にヒントがありますから。

渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉 (幻冬舎文庫)
渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉 (幻冬舎文庫)
著者
藤田 晋 著
出版社
幻冬舎
本の購入はこちら
志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)
志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)
著者
井上 篤夫 著
出版社
実業之日本社
本の購入はこちら

日本初、プログラミング教育のSNS「MOZER」に込めた想い

今後、水野さんが会社として挑戦していきたいこと、夢は何ですか。

水野:中長期的な夢は、ライフイズテックを、ディズニーランドのように、世界でも名前が知られる教育の会社にすることです。「世界のトヨタ」や「世界のソニー」と言われるくらいに成長したいですし、それを将来的にめざせるくらい良質なサービスをつくれていると自負しています。ライフイズテックで学んだ子どもたちが、次世代を良くする新しいテクノロジーやイノベーションを生み出してくれれば、と思います。

僕の根底にある願いは、子どもたちに幸せになってほしいということ。幸せになるには、自分がやりたいことが形になって、自己実現ができていることが前提になります。だから、やりたいことを具体化するための武器として、ITスキルを学んでいってほしいですね。

現状、世界のどの国を見ても、プログラミングを駆使したものづくりで、突出して目を見張る成果を出している国はありません。これは、ものづくりが昔から得意な日本にとっては大きなチャンス。実際、海外でもITキャンプなどを展開し始めていますが、日本の子どもたちは、いいものをつくるんですよ。「神は細部に宿る」をまさに体現しているような。だから、ITの領域は、日本が国際的に頭角を現すためのチャンスの宝庫だといえます。

また、この数年で実現したい目標は、地域格差の縮小に寄与すること。僕は福島に甥っ子がいるのですが、彼とふれあうたびに、子どもの持つ能力や可能性は都会でも地方でも何ら変わらないことを実感します。ですが、残念ながら、いくらインターネットで全世界の情報が得られるとはいえ、地方にいると、例えばプログラミングを習いにいきたくても、ライフイズテックのITスクールのような教室が近所にほとんどないため、学ぶ機会がごくごく限られているのが現状です。こうした地域・経済格差によるプログラミング教育格差を解決するには、教育をオープンにすることが大事だと思っています。

そこでライフイズテックは、2016年6月15日にプログラミング教育SNS「MOZERをリリースしました。物語と連動し、ゲームのように楽しめる教材を通じてプログラミングを学ぶオンライン学習サービスです。また、自分で制作した作品を公開することで、利用者同士が作品を褒めあったり、教えあったり、共同で作品を作ったりするコミュニティ(SNS)機能がついているのも特徴の一つです。中高生から大人まで、だれもがプログラミングを楽しく学ぶ機会をつくることで、地域・経済格差による教育格差の解消をめざしていきたいと思っています。

そして、野球部出身の僕としては、いつか甲子園の土を踏みたいというのが夢ですね。ライフイズテックで学校をつくり、野球部が甲子園に行く——。そんな夢が実現したらいいなと思っています。

水野さんの教育への想いがひしひしと伝わってきました! 貴重なお話をありがとうございました。

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文責:松尾 美里 (2016/06/30)
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