元料理人、異色の経営者の愛読書に迫る
「和食のこころ」はIT起業に活かせるか?

元料理人、異色の経営者の愛読書に迫る

今回登場するのは、株式会社ポケットメニュー代表取締役の戸門慶さんと取締役CFOの小山達郎さん。ポケットメニューは、500 Startups Japanの資金調達を受けるなど、加速度的に成長しているスタートアップです。

最高の「おもてなし」をテクノロジーで実現するというミッションのもと、ミシュランの星取得レストランの予約から決済までを可能にした業界唯一のwebサービス、「ポケットコンシェルジュ」を展開。その便利さから、接待や会食で予約困難な一流レストランを利用したいと考えるビジネスパーソンや、日本で最高の食を味わいたいと考える外国人観光客を魅了してやまないサービスとなっています。

約8年間、和食料理人としての経験を積み、webサービスを起業されたという異色のキャリアを持つ戸門さんと、外資系金融機関からベンチャーのCFOへと転身した小山さん。起業に活きたこれまでのキャリアや、「人生や価値観に影響を与えた本」をテーマにお二人にお話を伺いました。

※本インタビューは、フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第13弾です。経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環について伺っていきます。

料理の盛り付けとUI設計の意外な共通点とは?

料理人からITベンチャー経営者という異色のキャリアを歩まれていますが、料理人時代に培ったスキルや経験で、起業後に活きているものは何ですか。

戸門 慶さん(以下、戸門):プロダクトのデザインなど、クリエイティブの面では、かなり活きていますね。料理の盛り付けとwebサービスのUI(ユーザーインターフェイス)の設計って実はすごく似ているんですよ。

え、本当ですか。

戸門:日本の料理には、盛り付けひとつとっても、お客さんが気づかないほどのきめ細かなルールがあります。例えば、刺身をお皿に盛るとき、右利きのお客さんが食べやすいように、ワサビは皿の右に置きますし、切れ身も右から箸でつまみやすいように盛り付けるんです。また、椀物では、お椀に霧吹きで水滴をつけるという習わしがありますが、これは単に涼しげに見せるというだけではなく、千利休の茶事の教えに由来します。一度でも椀の蓋を開けると水滴が消えてしまうため、水滴を吹きかけることで「あなたのためにこの料理をつくりましたよ」という意思表示になる。つまり、料理のルールは、もてなされる側の立場に立って考え尽くされているものばかりなんですよ。

この考え方はUIにも当てはまります。例えば「確定」と「戻る」のアイコンの位置が逆になっているだけでも、なんだか違和感があって使いづらい。そして、フォントを少し変えるだけでもユーザーに与える印象や使いやすさは大きく変わってきます。見逃しがちだけれども、ユーザーの目線に立つと大事な点に気がつけるかどうかは、プロダクトのファンをつくるうえでも非常に重要です。改善点を探し出す目を養えたのは、料理人時代の経験のおかげだと思っています。

日本料理の提供方法にそんなルールがあることすら知りませんでした……。

ポケットコンシェルジュのWebサイト

戸門:ルールというと、縛るものというマイナスイメージでとらえられがちですが、実はルールや制限って、一つ一つ意味があるし、自由な発想を促してくれるんですよ。僕は生け花を4年ほどやっていたのですが、花器への花の生け方でも、流派によってそれぞれルールがあります。そのルールに従ったうえで、自分なりのアレンジを加えるのが華道の特徴です。

料理でも生け花でもUIの設計でも、制約があるからこそ、余分なことを考えずに枠の中で工夫を凝らそうと頭が働くので、創造性が発揮されやすくなります。この考え方はポケットコンシェルジュのプロダクト開発においても非常に活きています。僕たちがこれだけは必ず守ろうと決めているのはユーザーと店舗の双方がハッピーになること。これは一例ですが、ユーザーが弊社経由でお食事を楽しまれた後には、任意で感想をアンケートに記入いただくようお願いしています。アンケートの数値評価は4段階にして、日本人にありがちな真ん中の数字を選ぶということにならないよう工夫しています。大事なことですが、アンケート結果が芳しくなかった場合、店舗にお伝えして改善をしていただくようにしています。また、サイトへのお店の掲載基準やユーザーのターゲット設定についてもどちらかに肩入れしたサービスにならないよう気を配っています。

戸門 慶さん

座禅で実感した「マインドフルネス」がもたらす効果

制約があることが自由な発想を引き出してくれるのですね。事業を進めていくうえで役に立っている経験ってありますか。

小山 達郎さん(以下、小山):最近、戸門と二人で西麻布のお寺で座禅をするようになりました。グーグルなどのIT先進企業が経営課題として瞑想を取り入れるなど、マインドフルネスが話題になっていますよね。マインドフルネスとは、今ここで起きていることを感じるのに集中している状態を指します。座禅や瞑想の効果は科学的に証明されているので、じゃあまず二人で実践してみようということになって。

戸門:最初、座禅に行こうと思ったきっかけは、僕が普段からよくイラっとするからなんです(笑)経験して印象的だったのは、よく「瞑想をするなら心を無にしないといけない」と言われますが、無になろうと意識しすぎると無になれないということでした。お坊さんの修行って、朝起きたら庭掃除をして次は掃き掃除などとルーティンになっていますよね。これは、あれもこれもと考えるのではなく、目の前の一つの作業に集中するほうが無の境地に達しやすいからです。同様に、座禅の最中も、一心に自分の呼吸に意識を向けることで、心が落ち着いていき、余計なことを考えないようになってきます。足がしびれても、気がそれることがなくなるくらいに。

座禅をすることによって、どんな効果がありましたか。

戸門:心を無にする方法を学んでから、どんな精神状況でも集中しやすくなったと思います。プロダクト開発でも、あれもこれも理想を詰め込もうとすると、かえって重要なことが疎かになるという場面があったので、先に「やらないこと」を決めることが大事だと考えるようになりましたね。「やらない」「あえて考えない」と決断することで、ポケットコンシェルジュのサービスにとって本質的なことに注力できるようになった。これも瞑想で得られた効果だと実感しています。

事業にガッツリモードになると、すべてが自分事になって、24時間仕事のことばかり考えてしまう。そのうえ、メンバーに要求する仕事の水準が高くなってしまう。でも経営者が何でもかんでも口出しするのって、メンバーの自主性や個性を奪いかねないんですよね。事業のコアとなる部分以外は、自分ができるだけ関わらないようにし、メンバーに任せるかが大事だと、いい意味で割り切れるようになりました。やらないことをいかに決めるかが事業を進めるうえで大事なんです。

シリコンバレーの経営者が最高のパフォーマンスを発揮できる理由とは?

ここからは、本のテーマでお二人に伺っていきたいなと思います。まず、小山さんは普段、どのような本をよく読まれているのでしょうか。

小山:本選びでは心・技・体という軸を決めていて、それに合う本はとりあえず買っておくようにしています。

「心」は、マインドフルネスやメンタルの整え方など、良いパフォーマンスを発揮するための方法を指します。「技」は、主に金融関連の本ですね。外資系金融機関に13年勤めた経験を活かして、ベンチャーファイナンスや会計、財務、税務、法務など、常に最新の理論をキャッチアップしていきたいと思っています。そして「体」は健康を保つ方法や理論が書かれた本のことです。

心・技・体という3つの軸で本を選ぶことで、そのときの興味だけに流されない、偏りのない読書をできていると感じますし、その結果、自分自身もバランスの良い人間になれているかなと。軸を決めることで、何を読むべきかについて迷いが減るので、読書量も増えますし、限られた書籍の情報に流されるリスクが減ると考えています。

心・技・体という3つの軸を意識されているのですね。その中でも、小山さんの価値観に影響を与えた本は何でしたか。

小山:最近読んだ本で特に良かった本は『疲れない脳をつくる生活習慣』です。瞑想、姿勢、睡眠、食事などの科学的アプローチが、例えば「朝食に何を食べれば集中力が上がるか」といった具体的な点とともにわかりやすく解説されています。著者の石川善樹さんは医者でありながらベンチャーの創業者でもある方。ストレス低減、集中力アップにつながるMYALOという瞑想アプリを開発されており、ベンチャー界でも名が通った先生です。マインドフルネスをここまで実践的なレベルに落とし込んだ入門本に出合ったのは初めてでした。

この本の良いところは、エビデンスに基づいているので、信ぴょう性が高いこと。健康関連のトンデモ本って、精神論や経験論に偏りがちなので再現性が薄いんですよね。

現在、シリコンバレーのベンチャー経営者たちの間では、科学的根拠に基づいた健康管理やマインドフルネスを取り入れるのがトレンドになっています。

シリコンバレーの経営者たちがですか。詳しく知りたいです!

小山:例えば「徹夜で明日のプレゼンの資料をつくった」と言うと、日本でなら「徹夜までして頑張ったのか」と好意的に受け取られるでしょう。しかし、これがシリコンバレーだと、眠そうにプレゼンをしていたら「酒気帯び運転と同じだ」と投資家たちにブチ切れられる可能性が高いそうです(笑)

世界のエグゼクティブは、「寝る時刻を真っ先に予定表に書き込め」とコンサルタントに教わるくらい、睡眠を重視します。なぜならクラウドの発達で、働こうと思えばいくらでも働ける環境になってしまったため、自ら積極的に睡眠をとり、脳の疲れをとることが必要になったからです。睡眠時間を削ると、判断力や決断力も損なわれてしまいます。何千人、何万人もの社員を雇っている経営者が、眠気と闘いながら、今後の経営に関する大事な意思決定を下すことを考えると、その決断が成功するとは到底思えないですよね。

このように、科学的アプローチをうまく使って、仕事に忙殺されずに、最高のパフォーマンスを発揮できるようにすることが、経営者をはじめ、ビジネスパーソンにとって非常に大事なのだと思います。

疲れない脳をつくる生活習慣―働く人のためのマインドフルネス講座
疲れない脳をつくる生活習慣―働く人のためのマインドフルネス講座
石川善樹 著
プレジデント社
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小山 達郎さん

世界で活躍する日本人シェフたちの最前線に迫る

戸門さんが影響を受けた本は何でしたか。

戸門:本田直之さんの『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』ですね。世界で活躍するシェフ15人のインタビューと世界で活躍するために必要な考え方やスキルが書かれた非常に面白い本です。

最近では、サッカーの本田選手やテニスの錦織選手など、日本人のスポーツ選手の活躍がめざましいですが、実は日本人シェフも海外で多数活躍しているんですよ。この本によると、若い感性を持った日本人シェフが、一時的な修行のためではなく、世界で勝負するためにどんどん海外のレストランに進出しているといいます。日本人はフランス人よりも労働意欲が高く、どんな作業も丁寧にこなすため、仮に日本人シェフが全員いなくなったら、パリにあるレストランの半分はつぶれてしまうのだそうです。現に、ミシュランの三ツ星レストランの数は、世界の都市の中で東京がダントツ1位。これは、日本の料理人が世界でいかに高く評価されているかを物語っています。

日本人シェフがそこまで世界で活躍していたなんて驚きです!

戸門:『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』では、ミシュラン東京で3年連続三ツ星に輝いた日本料理屋、龍吟の山本征治シェフが登場します。山本シェフは、「日本料理を世界共通言語に」という使命を持っており、どうやって日本料理を日本人以外に知ってもらうか考えた結果、若い外国の料理人を受け入れて日本料理を教える研修を始められているんです。

インターネットの世界はオープンソース化して、様々な技術やプログラミング言語が共有されていますし、シリコンバレーのエンジニアといえば、国や地域を選ばず活躍している人が実に多い。それに比べると、料理の世界は閉じられているという印象を抱いていました。ところが「ヨーロッパの美食の都」と称されるスペインのサン・セバスチャンのように、シェフ同士でレシピを共有するなど、いわば、料理界のオープンソース化の動きが始まっているのです。山本シェフはその先駆けの一人でもあり、日本料理の真髄を広めていこうとする姿に大いに共感しています。

日本料理の世界でもそんな動きが広がっているのですね。

戸門:あと、フレンチレストラン、カンテサンスの岸田周三シェフの言葉は、僕の今の仕事に大きな影響を与えました。「とりあえず行動する」、「常識を疑え」、「キャリアは逆算して考えよ」。こうしたメッセージが心に刺さりましたね。

この本に書かれているシェフたちの教えは、飲食・レストラン業界に携わる人だけでなく、日本のスタートアップの経営者にとっても、世界に出ていくときにもヒントになると思っています。例えば、「(みんなと)同じ土俵で戦わずに自分の強みで勝負する」とか。日本人の良さを活かすことを本気で考えることは、世界に通用するプロダクトやサービスを考えるときに欠かせませんから。

二冊ともぜひ読んでみたいです! 貴重なお話をありがとうございました。

なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか
なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか
本田 直之 著
ダイヤモンド社
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なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか
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著者
本田 直之 著
出版社
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ビジネスノマドジャーナルのインタビューはこちらから! 元料理人の戸門さんが、いかにして「料理人とエンジニアのマインドの壁」を打ち破ったのか 料理人の後に起業された戸門さんの起業までの経緯や、 経営者とエンジニアとのコミュニケーションなどについてお聞きしました。
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文責:松尾 美里 (2016/08/02)

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