『ライフ・シフト』の時代に柔軟な働き方が選べる社会をつくるには?
文系総合職フリーランスの可能性に迫る

『ライフ・シフト』の時代に柔軟な働き方が選べる社会をつくるには?

今回登場いただくのは、株式会社Waris共同代表の田中 美和さん。日経ホーム出版社・日経BP社で約10年間、編集記者を務め、雑誌「日経ウーマン」で女性のキャリアを広く取材し、のべ3万人以上の女性の声に耳を傾けてこられました。

そこから、女性が自分らしく働き続けるためのサポートを行うべく、フリーランスを経て、2013年に株式会社Warisを共同設立。「ハイスキル女性と企業とのマッチング」を通じて、継続就労・活躍支援を行っています。

Waris が提唱する「文系総合職フリーランス」とは、どんな働き方なのでしょうか? Warisの事業に込められた想い、多様で柔軟な働き方が選べる社会をつくるために何が必要なのか、お話を伺いました。

「文系総合職フリーランス」をWarisが提唱する理由

まずは、Warisの事業内容についてお聞かせください。

田中 美和さん(以下、敬称略):Warisでは、豊富な知識・経験を持つ文系総合職の女性と、優秀な人材を求める企業をマッチングさせ、「週3稼働」や「在宅ワーク」といった、時間や場所にとらわれにくいフレキシブルな仕事を紹介する事業を行っています。登録者の方々は、総合職として企画・マーケティングや広報、人事・経理・財務などに従事してきた30代~40代前半の女性たち。その8割は子育て中の女性、いわばワーキングマザーです。現在登録者は3,400人、クライアントの企業さまは1,000社以上となっています。

登録者の方々は、Warisのどのような点に魅力を感じているのでしょうか。

田中:魅力に感じてくださっているのは主に2点あり、1つ目は、プロフェッショナルとしての専門性や経験を活かした仕事ができること。そして、2つ目は、会社員時代にはなかなか実現しづらかった自由な働き方ができることです。

Warisでご紹介している仕事の特徴は、ハイスキルな業務委託にフォーカスしていること。例えば、デジタルマーケティングの知見をもとにしたコピーライティングからメディアとのリレーションシップ構築までワンストップで受託可能なマーケティング職や、新卒採用全般から採用後の研修運営まで一気通貫したプログラムを設計できる人事職といった内容です。

マッチングした仕事の7割が業務委託の形態になります。そのため、会社員だった方もフリーランスという、自分でどの仕事を引き受けるかを自ら決めていくという新たな働き方に挑戦することになります。これまでのプロフェッショナルの経験を活かしつつ、時間も場所もフレキシブルに働けることに、登録者の方々は価値を感じてくださっているようですね。

マーケティングや人事、経理などの総合職女性をターゲットにした狙いは何でしたか。

田中:フリーランスというと、エンジニアなどのIT系や、ライター、デザイナーなどのクリエイティブ系の働き方というイメージが一般的です。そのため、こういう職種でないとフリーランスにはなれない、と思っている方も多くおられます。ですが、実際にはマーケティングや広報、経理といった職種でもフリーランスの道を選べるのに、一般企業のビジネスパーソンを対象とした、フリーランスで働くための情報が圧倒的に不足しているのが現状です。そのため、「総合職の仕事もフリーランスで」という認識が、まだまだ社会全体に根づいていません。

マーケティングや広報、経理といった職種は、企業の基幹の職種にあたります。それゆえ、一つの組織に属して総合職で働くというスタイルに固定化されている。ですが、固定化されていると一社を通じた経験しか得られません。本来なら、自分に合った働き方を選んで、自分の専門性を活かしながら、多様な経験を積むという道もあるはずです。それなのに、現在は複数の選択肢が用意されていない。そこでWarisは、新たな選択肢の一つとして「文系総合職フリーランス」という働き方を世の中に提案しています。

たしかに「総合職の業務=会社員」に縛られる必要ってないですよね。

田中:あとは、フリーランスという働き方ならではのメリットもありますよね。正社員で一つの会社のプロジェクトに携わるときと比べて、数多くのクライアントの仕事を同時並行で請け負うので、多彩な経験を短時間で凝縮して積めることにくわえ、幅広いネットワークが築けるのは、大きなメリット。あるマーケティングを専門とするフリーランスの方は、6、7社のクライアントの案件を同時に進められ、「フリーランスの1年間で会社員時代10年分の経験が積めた」と語っていました。こうして培った経験やネットワークは将来につながる財産になってくれます。

こうした課題意識は、田中さんのどのような経験から生まれたのでしょうか。

田中:出版社の雑誌記者として、女性のキャリアに関する取材や編集をして、その後フリーになってからも、女性のキャリアカウンセリングをした経験がもとになっています。「会社員と育児の両立ができない」「頑張っているのに正当に評価されていない」という声をたくさん聞いてきました。

もちろん、昔と比べて、育児休暇や短時間勤務といった制度は普及してきましたが、まだまだ、その運営はうまくいっていないように思います。個人の希望する生き方はこれだけ多様化しているのに、正社員の働き方は「週5勤務に残業1日数時間」がスタンダードなまま。短時間勤務を選択すると、責任ある仕事が任されなくなるケースや、周囲からなかなか評価してもらえないというケースも目立ちます。逆に、子育ての事情を考慮されず過剰な業務量に圧迫され、そこに不都合を感じて仕事をあきらめた、という例も後を絶ちません。

時間や場所に制約のある人が、本来の力を発揮できておらず、歯がゆい思いをしている。そんな現状を変えたいと思い、起業に至りました。

3万人以上の女性の声を聞いてきた、田中さんの強い使命感がにじみ出る。

田中:もちろん、現在ヤフーさんが週休3日制度を検討するなど、会社員の働き方が多様化し、自由になっていく動きも盛んになっていますし、それはとても大事なこと。同じように、会社員という形がベストとは限らず、高いスキルを磨き、独立してフリーランスとして道を切り拓いていくほうが、自分に合っているという方もおられます。

会社員もフリーランスも多様な働き方が選べて、どちらも行き来できるのが理想ですね。

田中:個人の志向や希望する働き方は、ライフステージに応じて変化していきます。例えば、今は子どもと一緒に過ごす時間を大事にしながら、業務委託で色々な経験を積みたいからフリーランスとして週3で働く。数年後には、自分に合った会社に所属して、そこに集中的にコミットする、というように。

Warisに登録されているフリーランスの方のなかでは、実際にこうした例がいくつも生まれています。社風や考え方に非常にフィット感があるクライアント企業に出会い、自分の専門性も活かせるので、業務委託終了後にその企業の正社員になって、今も非常に生き生きと働かれているようです。こんなふうに、多様な働き方の選択肢から、自分に合った働き方を選び取って、キャリアを積み上げていくことが一番いいと思ってるんですよね。

女性の働き方だけが変わってもダメ! 長時間労働の常態化にメスを入れたい

2013年にWarisを起業されて以来、働き方を取り巻く環境が変わってきたと思います。それに伴い、田中さんの中で解決したい課題に変化はありましたか。

田中:共同代表の二人も私も、もともと女性の働き方に課題を感じていたことから、Warisを立ち上げました。「やりがいを持って生き生きと働ける女性を増やす」。そのために、そうした機会や環境を整える、という想いは今も変わっていません。ですが、女性の働き方だけが変わっても根本解決にはならないのではないか、という思いも強まっていて。

女性の働き方だけが変わっても、男性の長時間労働が変わらなければ、逆に家庭内の性別役割分業意識を強めてしまう。そんな危機感を抱いているんです。

女性の働き方だけが変わってもダメだと?

田中:そうなんです。共働きの家庭では、夫が夜10時、11時に帰宅する生活だと、時間や場所に融通がききやすい女性が、家事も育児もこなさないといけない。すると、男女の役割が固定化されてしまう。よく、女性が子育てを一手に引き受ける「ワンオペレーション育児」が問題になっていますよね。相談できる人や世話を頼める人がいなくて、一人で育児を抱え込んでいると、心身に非常に大きな負担がかかってしまう。本来なら、複数人がチームになってサポートし合い、子どもと関わっていくことが大事です。

こうした課題を解決するためにも、社会全体で長時間労働をなくしていくことが不可欠だと思っています。それが本当の意味での働きやすさを実現できるのだと。

現在、安倍総理自ら「働き方改革」を訴え、「働き方改革実現会議」が開かれるなど、長時間労働を是正する追い風になっています。実はWarisのサービスは女性だけでなく、男性にも使っていただけるサービスなんです。最近では、Warisに登録される男性の方も増えていて、男女問わずプロスキルを活かして柔軟な働き方を可能にしていくことをWarisもめざしていきたいです。

ダイバーシティや、女性活躍推進の動きが企業でも増えつつあるのに、そこにも壁があるように感じます。

田中:女性活躍が進まないという問題の根源も、この長時間労働と、それに紐づく制度・文化にあると考えています。正社員の総合職というと、週5フルタイム勤務に、1日2、3時間の残業が当たり前。そのうえ、仕事のあり方や人事評価制度も、長時間労働が前提のまま。女性が実質的に育児の主な担い手である現在、子どものお迎えにいくために短時間勤務を選んだり残業を減らしたりすると、長時間ベースの人事制度では正当な評価を受けにくいのです。その結果、モチベーションが下がり、鬱々とした思いを抱えたまま働く女性や、仕事をあきらめる女性もいます。現に、厚生労働省によると、第一子出産前後で仕事をやめる女性の割合は、今でも5割を超えるといいます。会社にとっても社会全体にとっても大きな損失ですし、これでは女性活躍もままならないでしょう。

こうした現状を変えるには、企業ではどんな施策が有効なのでしょうか。

田中:ヨーロッパでは、残業時間に制限を設けることや、終業から始業までの間隔を一定時間取るように義務づける「勤務間インターバル規制」といった施策が導入されています。

あとは、リモートワークによって場所の制約をなくすことも、往復の通勤時間を軽減するなど、間接的に仕事に関する時間を減らすうえで、大いに意義があります。とはいえ、リモートワークが認められればOKかというとそうではなく、周囲からの理解やサポートが必要だと考えています。在宅ワークはよく「家事や子育てと仕事が両立しやすい」と言われるのですが、むしろ逆。自分でオンオフをしっかり切り替えて、タイムマネジメントを行うという自律性が求められます。

このように、働く時間と場所の柔軟性を高め、それぞれの働き方をサポートすることも、長時間労働を撲滅するカギになります。

となると、個人にも企業にも、仕事に対する向き合い方を変えていくことが、ますます求められそうですね。

田中:そうですね。今後は、2種類の解放が必要だと考えています。1つは「決まった時間・場所で働くこと」からの解放。これはフレックスタイム制やリモートワークの普及が解決策となります。もう1つは、「組織からの解放」です。これが、一社のみに所属しているときに感じていた「生きづらさ」を解消してくれると信じています。一つの組織にいると、人間関係が固定されたり、経験の幅が狭まったりして、理想の生き方とのズレが生じるケースが多いと思うのです。コアスキルを培って、フリーランスという選択肢が身近になれば、より自分らしい働き方や夢の実現ができるようになると感じています。

実はWarisでも、営業からスタッフ部門に至るまで全職種、フレックスタイム制とリモートワークを導入しているんです。また、朝5時から夜10時までを就業時間として認めています。これは、メンバーの6割がワーキングマザーということもあり、「子どもが起きる前にメールチェックを済ませたい」という要望から生まれました。時間と場所の制約を減らし、柔軟に時間を使ってもらうことで、メンバーがより生き生きと活躍してほしいと思っているんです。

「時間の使い方」で人生が決まる――ライフデザインのすすめ――

20年後の日本では、どんな生き方が主流になっているのでしょうか。田中さんの予想する未来図をお聞かせください。

田中:リンダ・グラットンの著書『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』に描かれていたように、日本でも正社員の数は減っていき、プロジェクト型ワークが増えていくでしょう。厚生労働省の「働き方の未来2035」でも、「2035年の企業は、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となる」「多くの人が事業内容の変化に合わせて、柔軟に企業内外を移動する形になっていく」と書かれています。終身雇用という形態は限られたものとなり、現在の正社員のスタイルは確実に変化を迫られるでしょう。各個人が、自分の意思で働く場所と時間、ライフスタイルを選んでいくという時代を思い描いています。

ワーク・シフト
ワーク・シフト
リンダ・グラットン,池村千秋(訳)
プレジデント社
ワーク・シフト
ワーク・シフト
著者
リンダ・グラットン 池村千秋(訳)
出版社
プレジデント社
ライフ・シフト
ライフ・シフト
リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット,池村千秋(訳)
東洋経済新報社
ライフ・シフト
ライフ・シフト
著者
リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 池村千秋(訳)
出版社
東洋経済新報社

そうなると、決められたレールに乗ることは難しくなりますよね?

田中:そうなんです。週5フルタイム、終身雇用といった働き方が一般的でなくなってくると、今後、一人一人が自分の生き方や働き方に主導権を握ることがますます大事になります。

それを痛感したのは、「日経ウーマン」の取材をしていたときのことです。タイムマネジメントをテーマに特集を組むことが多かったのですが、時間管理の専門家が口をそろえて、こうおっしゃっていたんです。「時間の使い方で人生が決まる」と。つまり、自ら望んでいないのに毎日残業で忙殺されている、というような状態では、人生全体の満足度が下がってしまう。

Waris登録者の中には、1日を6時間ごとに4つのブロックに分け、それぞれ仕事・学び・遊び・睡眠に充てるとおっしゃっている方もいます。ご自身の価値観が反映された、非常に主体的な時間の使い方だなぁと、印象に残りましたね。主体的に、自分らしく時間の使い方や配分を決められてこそ、満足度の高い人生を送れるんだと思います。

「時間の使い方」を主体的に決めて、納得できているかが非常に大切なんですね。

田中:最近お話を聞いたファイナンシャルプランナーの方からは、「自己投資をしている人と、していない人とで、年収の差は約2倍になることもある」と聞きました。自分の意思を持って、スキルを磨いたりネットワークを広げたりすることは、その人の人生を豊かにするだけでなく、実際に年収というお金にも結び付くと。

だからこそ、「こういうスキルを身につけて、こんなふうになりたい」というビジョンを持って、それに必要な場や経験を選び取っていく。そんなライフデザインの意識がますます求められると思いますね。

最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

田中:プロスキルを持った個人と企業のマッチングをさらに増やしながら、週5フルタイムではなく、リモートワークや週3稼働といった、多様で柔軟な働き方を選べる社会を実現していく。これが一番のビジョンです。そのためには、まず働き方の選択肢を知っていただくために、情報発信にも力を入れていきたいですね。その一環として2016年8月から、総合職系フリーランス女性のためのメディア「Cue」をスタートさせました。フリーランスに関心がある、もしくはすでにフリーランスとして働いている総合職の方にとって有益な情報を提供していきたいと思っています。また、フリーランスの方がスムーズにクライアント企業とコミュニケーションができ、より自身のスキルを活かせるように後押しするセミナーにも注力していきたいですね。

リモートワークをしている一個人としても、非常に勇気づけられるお話をありがとうございました! Cueやセミナー開催も楽しみにしています。

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文責:松尾 美里 (2016/11/22)

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