人材の宝庫Yahoo! JAPANはどのようにリーダーのマインドを育てているのか?
Yahoo!アカデミアのリーダー育成術

グロービス経営大学院で客員教授を務めるほか、アクセラレーター、インキュベーションプログラムでメンターやアドバイザーを手がけ、ベンチャー企業の育成をされてきた伊藤 羊一さん。プラス株式会社の執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わり、2015年4月ヤフー株式会社へ。現在はYahoo!アカデミア本部長として、次世代リーダー育成を行っておられます。

IT業界のリーディングカンパニーのヤフー株式会社は、才能・情熱を解き放つ人事制度改革のもと、さまざまな研修制度や育成制度を実施。また、2016年10月には、働き方改革の一環としてオフィス移転が行われ、各方面から注目を浴びています。

今回は、Yahoo!アカデミアの活動を軸に、伊藤さんの人財育成への想い、それが培われた経験、育成に携わる人に必要なマインドについてお聞きしました。

行動が変わらなきゃ意味がない――。Yahoo!アカデミアの育成の秘密

まず、Yahoo!アカデミアのミッション、役割を教えてください。

伊藤 羊一さん(以下、敬称略):Yahoo!アカデミアは、2014年4月に「次世代リーダーの創出・育成」を目的として設立された企業内大学です。基本的には、希望者全員に門戸を開いており、一般社員から執行役員になる前の本部長クラスまでを対象にしています。クラスは希望者向けのクラスと選抜クラスの2つに分かれており、受講生は年々増加しています。

Yahoo!アカデミアの主要な目的は次世代リーダー育成。中長期的に大事にしているのは、自立・自律した「自分らしいリーダーシップを発揮できる人」を増やすことです。周囲を巻き込んでチームをつくり、より大きな仕事に果敢に挑戦するには、自分の仕事や人生全体をコントロールすることが必要だと考えているんです。そのためプログラムは、何かの型にはめて「リーダーなら、こう振る舞うべき」と提示するのではなく、その人らしさが活きるリーダーシップ、中でもマインドを育てることに主眼を置いています。ヤフーの人財育成の方針と照らし合わせながら、メンバーとともに一から従業員の成長に貢献するプログラムをつくっていくことが私の役割です。

マインドを育てる、ですか。

伊藤:例えば、ロジカルシンキングやマーケティングといったスキルは、一般的な研修や読書でも身につけられます。しかしながら、仕事や人とどう対峙していくかというマインドについては、そう簡単に変化するものではありません。

Yahoo!アカデミアのプログラムのゴールは学びを得るだけでなく、受講者の日々の行動が変わり、それが成果に結びつくこと。行動を支えている目に見えないスキル、そしてその土台となるマインドを磨かなければ、行動を変えることはできません。

それでYahoo!アカデミアというリーダー育成の企業内大学をつくることにされたのですね。マインドを鍛えるためには何が必要なのでしょうか?

伊藤: マインドを鍛えて、自分の人生をコントロールできるようになるためには、まず自分の内面を知ることが重要だと考えています。内面を掘り下げて理解することで、自分がどんな人間であり、どんなときに燃えるのか、将来どんな自分になりたいかが明確になります。それが心の拠りどころとなり、自立して主体的に動くエンジンになってくれる。こうしてマインドを鍛えることにつながっていく。

内面を知る一歩として、対話をしながら内省を深めるというプログラムを、選抜クラスの100名に受けてもらっています。具体的には、2泊3日の合宿形式で、一度に20名前後の同じ階層の社員が集まります。合宿では4名で1グループをつくり、同じメンバーで3日間互いの価値観を共有し、質問したり気づきを伝え合ったりして内省を深めるんです。

合宿中は自分たちの想いをさらけ出し、白熱した会話が行われる
社員同士が気軽に話せるようにと設けられたカフェスペース。社外の人も利用できるという。

具体的にはどんな問いを投げかけるのでしょう?

伊藤:いきなり「あなたの価値観は?」と尋ねられても、抽象的すぎて答えづらいですよね。そこで、まずは「現在の仕事の悩み」といった、具体的で考えやすいテーマで話し合ってもらいます。「それは大変だよね」、「そんなに悩まなくてもいいんじゃない?」などと感想や問いを投げかけ合う。すると「人それぞれ価値観が違うので、同じ出来事でも受け止め方が違う」と気づき始めます。

そこで描いてもらうのは、人生のライフラインチャート。これは、時間を横軸、幸福度合いを縦軸にとって、生まれてから現在までの幸福度の変化を振り返るグラフのことです。このチャートを書き、また同じグループで、過去に何があったかということを対話します。人は誰でも、大人になると意外と自分の人生を振り返る機会が少ない。だからこそ、チャートを書いて対話する中で、「過去こんな修羅場を経験したことを思い出した」「そういえば親の期待に応えようと必死だった」など、自分の価値観がいかに過去の経験に影響されているかを体感するんです。

対話の中で過去の経験から受けた影響が見えてくるんですね。

伊藤:自分を縛っていたものから解き放たれていくと、「自分とは何者なのか」、「何のために生まれてきたのか」が明確になっていく。そのうえで今後何をしていきたいのか、どんな行動をとっていきたいのかという「未来」を描いていく。同じメンバー同士で「こういう見方や選択肢もあるんじゃないか?」と突っ込みあったりするので、自分一人では得られなかった気づきが得られます。

受講者の心身のコンディションを見ておかないと、研修の真の効果は得られない

マインドや内面の成長を促すプログラムは世の中にいろいろありますが、中でもYahoo!アカデミアのプログラムはどういう点が違うのでしょうか?

伊藤:特徴的だなと思うのは、受講者一人一人のコンディションを、アカデミアを運営する事務局でちゃんと見ているところ、そのコンディションに応じてプログラムの構成や長さを分単位で変えていくところですね。

コンディションを見るというのはどういうことなのでしょうか?

伊藤:例えば、アイスブレイクで個々人の表情や声など、その場が盛り上がっていると感じたら、「あと3分延ばそう」とか、「みんなこのテーマに思い入れがありそうだから、もっと掘り下げよう」などと即興で判断して変更します。これって受講生それぞれのことを日常的に理解し、顔を見ているからこそできること。これは研修に限らず、プレゼンテーションでも大事なポイントなのですが、例えば400人の前でプレゼンするとしますよね。そうしたら400人を一つのマスとしてとらえるのではなくて、その中にいる400人一人一人に対して訴えかけるような気持ちで臨んだほうが、伝わる度合いが全然違います。

プログラムを受講した人はどんな反応を示されるんですか。

伊藤:素の自分に出会い、感情がむせびあがってくるような経験をするという受講者もいます。印象的だったのは、ある従業員が「このプログラムで無理やり心をこじあけられて大変だった」とニコニコしながら話してきたこと(笑)

ニコニコですか(笑) その人の心にかなり響いていたのでしょうね。

伊藤:人によって成長のきっかけやタイミングはそれぞれ。だから何か質問を投げかけるにしても、相手にそれを受け入れる準備ができているかとか、心身のコンディションを見ておかないと、本人の気づきや行動の変化に結びつかないと思うんです。だから、その人の心に響く刺激は何なのか、色々と試すことが大事。

具体的には、塾頭と呼ばれるメンター役の執行役員や私との個人面談や、グループ内で自発的に互いの内省をサポートしあう活動、様々な業界でリーダーとして活躍している方の講演、講演者にまつわる本を読みこむ読書会などです。

こうした刺激が響いて、「自分が本当にヤフーでやりたかったこと」に気づき、キャリアの転機になった従業員もいます。その人は今の部署でもっと頑張ろうと悩んでいたのですが、「やりたいことへの最短距離を走ろう」と決意し、異動希望が認められ、異動先でこれまで以上に生き生きと仕事に臨めるようになった。そのほかにも、卒業生が執行役員になったり、Yahoo!アカデミアをきっかけに新たな取り組みが始まったりするなど、さまざまな成果を出しているようです。

本人の気づきや行動の変化につながるかどうかを考え抜き、プログラムを日々進化させている

社長にも新入社員対しても「友達になろう」という意識で「ナナメの関係」を築く

伊藤さんはなぜ、ここまで個々人のコンディションの変化を察知し、関心を持てるのでしょう?

伊藤:もともと人と話すことが好きだし、一対一の関係を築いていくことが好きだからですかね。あとは、最近気づいたことがあって。前職のプラスにいたときは事業、つまり仕組みをつくることに関わってきたけれども、自分が楽しいと思うのは、仕組みが完成して世の中がどんどん便利になっていくことだけじゃない。それと同時に、その仕組みを動かしている社員一人一人と向き合うことだったんだと。当時500名ほどいた部下と、2年間かけて一対一の面談をしたくらいですから。

500名と一対一で……! 一人一人の成長を心の底から大事にされているのが伝わってきます。

伊藤:心を開放してもらうには、信頼関係が成り立っていないとやっぱり難しい。ヤフーに転職して最初の1年間は「同じ釜の飯を食う」ことで、みんなから仲間意識をもってもらう期間だと考えていました。だから、入社初日から職場ですれ違う人には、役職も年次も関係なく話しかけた。社長の宮坂にも新入社員に対しても「友達になろう」という意識で接しています。Yahoo!アカデミアでも、年次やポジションなど「上下関係」もない。だからこそ、ナナメの関係というか、相談に乗りやすいメンターのような関係がつくれる。

こうして信頼関係が築けてきたからこそ、アドバイスやフィードバックが相手に響くところがあるんじゃないかと思います。Yahoo!アカデミアを、今後もリーダーのベースキャンプとして進化させていきたいですね。

伊藤さんは一人一人と信頼を築くプロセス自体も楽しんでおられる気がします。

伊藤:もとから育成って楽しいと思っていましたが、それが確信に変わったのは、ヤフーに転職して、この1年半のことなんです。Yahoo!アカデミアのプログラムを練っているときや、プログラム中に受講者のテンションが盛り上がったり下がったりする瞬間に立ち会っているとき。どっぷり人の教育に携わっていくうちに、「ああ、一人一人とふれあっていくことが、やっぱり好きなんだ」と実感したんです。

伊藤さんの、社員一人一人に対する愛情や気遣いがインタビューの端々に表れる

自分が一番燃える瞬間に気づいたのは、48歳になってから

伊藤さんにとって譲れない、人財育成における信念は何ですか。

伊藤:「人って必ず変われる」ということに尽きますね。今私は49歳。これくらいの年齢になれば、性格や能力が固まるってよく言われますが、私自身はそう思っていなくて。むしろ自分を常に変え続けようとしています。自分の経験を振り返ってみても、本腰を入れて事業をつくっていこうと決意したのが44歳で、一人一人と向き合うのが燃える瞬間だと気づいたのも48歳になってから。きっかけがあれば何歳でも変化できるんです。

実はもっと若い頃にさかのぼると、新卒で入社した銀行で営業をしていた25、6歳のときに、軽いうつになった経験があって。仕事をしている最中に吐き気を催し、原因もよくわからずそれから2週間ほど会社を休んだのですが、その後も、朝、会社に行こうとすると気分が悪くなって吐いてしまう日々が数ヶ月も続いた。当時はメンタルの病気だとは気づかず、「俺、サボってるのかな」と思っていた。でも本当は体が心のSOSを出していたんでしょうね。あのときは「毎日同じスーツを着て出社するのが苦痛!」みたいな感じでした。

そんな大変な時期があったのですね……。

伊藤:この流れを変えた転機がありました。行内の多くが反対する融資案件を、周囲の協力を得ながら成し遂げることができ、それがニュースに大きく取り上げられたんです。それは自分一人では成し得なかったこと。逆風の中、上司や仲間から助けてくれたのは今思い返してもすごく嬉しいことですし、それが「俺は働いてていいんだ! 仕事って楽しいもんなんだ」と初めて実感した瞬間でした。「人の助け」ってすごく素敵なことなんだと思います。

その後「キャラ変した?」と周囲に言われるくらい、考え方が前向きになって、仕事に一生懸命臨むようになった。「きっかけがあれば人はいつだって変われる」と実感する出来事でしたね。

人に助けられて目標を達成したことが、大きな転換点だったんですね。

伊藤:2つ目のきっかけは、東日本大震災のとき。プラスの物流部門にいた私は、誰に言われるでもなく、物流や営業などを統括する復旧プロジェクトの責任者になっていました。その中で、本気で東北を復旧させるには、社内のルールに則っているだけでは厳しいと気づいたんです。プラスが取り扱っている商品には、水や電池など復旧に欠かせない品物が多くありましたが、東北のみならず各地で品薄が続いている。この状況で、独断で「東北のお客様からの受注だけ受けよう」と、それ以外の地域のお客様からの受注をストップしたりしたことがあります。

東北以外の地域からの反発などはなかったのでしょうか?

伊藤:復旧のために東北に優先的に配送するというと、総論では賛成してもらいやすいですが、各論としては「いやいや、関西や九州でも電池や水が必要だ、早く発送してくれ」という要望がやはり各地から出てきました。ですが、その矢面に立ち、そういったお声を聞きながらもその決定を通し続けたことで、「意思決定というのは、決める一方で何かを捨てること。そしてその決定に自分で責任を持つことなんだ」と学んだんです。これが44歳のときのことでした。

振り返ると、もし自分がもっと早い時期に、例えば30歳くらいで、「自分で決めて動き、責任を持つ」ことの重要性に気づいていれば、もっと早くから実践できることがあったんじゃないかという思いは、正直あります。こうした思いをぜひ若い人たちに伝えて、志や情熱を見つめる経験をしてほしい。そんな想いで、人が変われるきっかけを少しでも多く提供しようと、朝から晩までリーダーシップとは何かを考え続けています。

組織やチームに「一対一で向き合う文化」が醸成されているか?

人財育成で試行錯誤されている管理職やリーダー、育成に携わるフライヤー読者は多いと思います。こうした方々にとってどんな心構えが必要なのでしょうか。

伊藤:ヤフーには面白い仕組みがあるんです。それは、全マネージャーが基本的に毎週1回は部下と一対一で面談をする「1 on 1ミーティング」で、上司が部下の課題解決や目標達成をサポートし、部下の内省を促すというもの。このミーティングで上司がちゃんと話を聞いてくれているか、といった点を部下が評価する仕組みもあります。どこまで部下一人一人と真正面から向き合おうとするかが問われますし、こうした姿勢が信頼関係につながるんだと思います。

上司も部下と向き合うことから気が抜けない仕組みがあるんですね。

伊藤:人財育成に悩んでいるという会社では、研修制度の導入やルール決めにとどまっているケースが多いような気がします。「一対一で個を見る、向き合う」という文化が組織内に醸成されて初めて、制度や工夫が活きるということがあるのではないか、と感じています。

最後に、伊藤さんのビジョンをお聞かせください。

伊藤:実は「これを必ず成し遂げたい」という目標は全くなくって(笑)志は探し回って「見つける」ものじゃなくて、いつの間にか「見つかる」ものだと思っています。良い意味で流されるというか、目の前のことに集中していると、「5年後一番燃えている俺の仕事」が見えてくるだろうし、自分自身、そういうワクワク感をもって実験している真っ最中なんです。

ただし、数年後も人の育成にかかわっていたい。すごく頑張っているのに、まだ成果が出ていない人の後押しをし続けたいと思っています。ヤフーの社員たちは、半端なくまじめで頑張っている人たちばかり。だからこそ彼らが楽しく仕事できるようになってほしいんです。今後アカデミアから幹部候補たちが役員として活躍していくのを見るのも楽しみですが、一番大事にしたいのは、心の底から楽しいと思って働ける人を増やすことですね。

本日のお話をうかがって、「伊藤さんはエナジードリンクみたい」と周囲の方がおっしゃる理由がわかりました! 貴重なお話をありがとうございました!

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文責:松尾 美里 (2016/12/08)
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