U理論の日本第一人者が語る、成功する組織のつくり方
チームの一体感はどうすれば醸成できるのか?

U理論の日本第一人者が語る、成功する組織のつくり方

今回インタビューさせていただくのは、『U理論』の翻訳者で、『U理論入門』の著者でもある、組織進化プロセスコンサルタントの中土井 僚さん。

U理論とは、人や組織の課題に本質的な解決をもたらし、イノベーションを起こす方法で、世界的に注目を集めている理論です。中土井さんは先の2冊を通じてこの理論を日本に広めた立役者で、現在はU理論をベースにした組織変革支援を行っています。過去に手掛けた組織変革プロジェクトは、業績低迷と風土悪化の悪循環が続いていた化粧品メーカーのV字回復など50社以上に及びます。

U理論を使うことで、どのように人や組織が変化していくのか、対話が深まるチームとそうでないチームの差は何なのか。こうしたテーマを中心に、お話をお聴きしました。

合併や買収で、組織がバラバラになるのはなぜ?

『U理論入門』、非常に興味深く読ませていただきました。本書でも紹介されていた中土井さんの組織進化プロセスコンサルテーションを依頼される企業は、どんな課題を抱えているケースが多いのでしょうか。

U理論についての解説はこちらから
U理論入門
U理論入門
中土井僚
PHP研究所
U理論入門
U理論入門
著者
中土井僚
出版社
PHP研究所

中土井 僚さん(以下、敬称略):相談に来られるケースで多いのは二種類あります。一つ目は、職場の雰囲気が今一つ良くない、もしくは皆が同じ気持ちで同じ目的・目標に向かっておらず、組織の一体感が醸成できていないという課題をお持ちのケース。二つ目は、業績の見通しが悪く、苦境に陥ってしまい、新しい挑戦ができず二の足を踏んでいるケースです。

経営企画の担当者や経営者自身から多く寄せられる内容の例としては、合併後にトップの指示が職場に浸透しないというものがあります。それゆえ、新たな仕事のやり方が現場で導入されず、期待していたシナジーが出ていないというものです。

そのほか、よくあるのは、新しい経営者が親会社から買収先の会社に出向してきたものの、うまくコミットメントを引き出せていないという状況です。親会社では、徹底的な論理思考と仕組み化を叩き込まれます。一方で、買収した会社は往々にして規模が小さい。そのため過度な仕組化は、逆に機動力を奪ってしまうこともあります。

また、規模が小さい分、先行きが見えづらくなることは、従業員の不安に直結しやすい。けれども、往々にしてそうした出向の経営者は、人の心を揺さぶるようなビジョンを示すという経験を持ち合わせていません。本社からは、子会社として安定的に収益を出すことを求められているために、積極的な投資ができない状態になっていることもしばしば。そうした状況は、先行きが不透明な感覚を社員の中に生み出し、それが自己保身を刺激しやすくなるのです。

そうすると、”One for all, All for one”的な一体感は組織の中で醸成されません。所属感も成長感ももてないために、生き生きと働く人が減っていく。挙句、優秀な人からどんどん辞めてしまう。人事担当者はそんな現状に危機意識を感じ、相談にお越しになるんです。

相談のトリガーになっているのは「組織が一枚岩になっていない。一体感を醸成したい」という漠然とした課題意識。ただし、じっくりお話をお聞きしていくと、「みんなで合宿をやって意思の統一を図ろう」といった形式的な施策では、課題を根本から解決できないことに気づかれるんです。それくらい、一人一人の思いを一つの方向へと向かせるのは難しいんですよね。

こうした負のスパイラルに陥ってしまう原因は何なのでしょう?

中土井:例えば合併のケースだと、根本原因は、二社間で「何が大切か」という価値観が違っていることだと考えています。

現実的にはほとんどありえないケースですが、わかりやすさを優先して、Webサービスの会社と自動車会社の合併を想定してみましょう。Webサービスの会社にいる人たちは、3、4割程度の完成度でも前進して、後からいくらでも修正すればいいという考えの持ち主。いわば「スピードが命」という世界にいます。一方、自動車メーカーでは、人の命に関わる製品をつくっているので「品質が命」という価値観が根付いている。だから意思決定の際には、何事も細部を詰めて、正確さを期してからでないと話が進みません。

このように、物事の進め方における「譲れない価値観」が大きく違うために、一緒に何かを決めようとすると、お互いイライラが生じてしまうのです。

そういう場合たいていの企業は、両社のルールを融合させて新たなルールをつくり、折り合いをつけようとします。しかし、ルールを融合させようとすればするほど、違いがいっそう浮き彫りになっていく。水と油をいくら混ぜても、結局は分離してしまうのと同様です。こうして、「分かり合えないこと」がより決定的になっていく。「これだけ歩み寄ろうと努力したのにムダだったんだ」という諦めの意識が募るなど、むしろ逆効果になってしまいます。

プロセスコンサルテーションではこうした対立をどうやって解消に導いておられるのでしょうか。

中土井:管理職などのリーダークラスであれ、現場の社員であれ、共通して必要なのは、「今後自分の人生や会社をどうしたいか?」という問いについてじっくり内省し、対話する機会です。この問いの根っこにあるのは、「その会社にいる時間はあなたの人生の貴重な一部であり、いずれは仕事を引退するときがくる。いくら現状に不満があっても、仕事ができているというだけで、今は人生の真夏日なんですよ」というメッセージ。それを伝えたうえで、「限られた時間をどのように過ごし、今いる会社という広いキャンバスにどんな絵を描いていきたいのですか」と自問自答してもらうんです。

U理論は、「ダウンローディング」→「観る」→「感じ取る」→「プレゼンシング」→「結晶化」→「プロトタイピング」→「実践」という7つのステップを伴います。中でも、上記のような問いについて考えるのは、「感じ取る」→「プレゼンシング」のプロセスにあたります。U理論においては、自分の内面にある「行動を生み出す源(ソース)の転換」を促せるかどうかが、その後の組織変革やイノベーションの結果を左右するといってもよいでしょう。

先ほどの「今後自分の人生や会社をどうしたいか?」という問いに対する答えは、お金のためだったりスキルアップのためだったりと、人それぞれ。ですが、今やっている仕事が「自分にとってのハッピーにつながる」ということを起点に、個人の想いにとことんフォーカスします。そのうえで、どんな風に組織のメンバーと力を合わせれば、それぞれがよりハッピーになれるかを考えてもらいます。

これまでの研修や会社の合宿では、「会社を存続させるために、あるいは良くするためにどうしたらいいか」という、「会社都合」の目線で話し合ってもらうことが多いかと思います。ですが、弊社の行うプロセスコンサルテーションでは発想が逆。「個人にとっての会社や仕事の意味」について考えてもらうのです。

あの人のこだわりはどんな経験から生まれたのか? ――「本来の自己」と「役割の自己」

「個人にとっての会社や仕事の意味」について考えることが、どのように対立の解消につながっていくのですか。

中土井:まずは「自己」について説明しますね。人は誰しも「本来の自己」と「役割の自己」の2つをもっています。「本来の自己」とは、夢、願い、価値観や感情などを抱いている、唯一無二のその人らしさのこと。一方「役割の自己」は、営業担当者や課長といった、職務上のミッションを遂行する役割を担った存在です。

「本来の自己」を共有しなければ、表面的な話し合いに終始してしまう。そこで、プロセスコンサルテーションでは「本来の自己」を出せるような場のデザインを大事にしています。仕事を通じてどんなときに充実感を覚えるのか、心を痛めるのかというのを、具体的なエピソードとともに自然と話せるかどうか。これが対話の深さ、その後の一体感の醸成に大きく影響するのです。

「本来の自己」を出せるかどうかがカギなのですね。とはいえ、いきなり本当の想いを職場の仲間に開示するのって、かなり勇気がいることだと思います。そのストッパーをどのようにはずしていくのですか。

中土井:本音が言えないときというのは、「本来の自己」が危険にさらされるのではないかという感覚を抱いたときなんですね。そこでまずは、そうした危険を感じずに話しやすい「役割の自己」から見た課題意識を共有してもらいます。

例えば「営業チームが一体感をもてていない」ということを問題視している人がいたとします。その場合は、「それが気になるのはなぜか? どんな思いからきているのか?」と掘り下げていく。「本心を表現しても危険な場ではないよ」というメッセージを、適切なタイミングで伝えながら。

すると、その人のこだわりの多くが、過去の成功体験や過去に胸を痛めた経験からきていることが明らかになっていきます。例えば、その人が学生時代に野球をやっていて、甲子園で優勝した経験があったとします。ならば、チームワークが絶対という価値観が形成されていったと考えてもおかしくありません。さらには、「あのときの成功をもう一度味わいたい」と心の奥底で思っているから、チームワークをこんなに重視するのかもしれない、といったことが見えてきます。これがU理論の「Uの谷をくぐっていく」プロセスだといえます。

こだわりの背景にある過去の経験も掘り下げていくのですね。

中土井:そうですね。過去の経験から紡ぎだされた喜びや痛みを、メンバー同士で共有していく。そして、「理解し合えた」という感覚を互いに得られると、今度は自分の立場に固執せず、相手の立場から現状を見られるようになるんです。「あぁ、彼があんな風にきつく言うのは、こういう価値観がるからなんだ。すべて共感できるわけではないけれど、仕方ない面もあるな」というように。

そのうえで再び「役割の自己」にテーマを戻し、オープンに話します。今度は自分の価値観に根差した意見や「こうあってほしい」という願いを言い合えるようになっている。だから、より当事者意識をもって、建設的に組織や業務の改善策を議論できる。それが対立を解消するだけでなく、組織やチームの一体感醸成にもつながっていくのです。

「本来の自己」を出せるような場づくりに心を配る中土井さん

「飲みニケーション幻想」が組織開発を阻害していた……?

U理論をベースにした組織開発は2006年には理論として構築されていました。にもかかわらず、中土井さんが『U理論』を訳され、『U理論入門』を上梓されるまで、日本では本格的に浸透していませんでした。これほど重要な組織開発の手法が、日本であまり浸透してこなかったのはなぜでしょうか。

中土井:理由は主に二つあると思っています。一つは文化的要因です。日本人は実質的には単一民族ではありませんが、人種の差のような明確な違いがわかりづらい。そのため、多様性をそこまで重視してこなかったのではないかと見ています。「人は違いがあって当然」という感覚が生まれにくく、多様性を認め合い、活かすような組織開発の手法を科学的につくり出せなかったんじゃないかと。

一方、欧米、とりわけアメリカでは人種や宗教の多様性がある中で、企業としてみんなを同じ目標に向かわせていくための解決策が求められました。たとえば、マサチューセッツ工科大学では1970年代に、ビールゲームという、システム思考(※1)に基づいたビジネスシミュレーションゲームが開発されていました。このゲームは、ビール工場や卸売り、小売店などの役割を担うゲームを通じて、組織の目標達成について学べるというもの。アメリカでは90年代にはこうした手法が企業で活用されていた。これに対し、日本での本格的な導入は約10年前、すなわち2000年に入ってから。汎用的な組織開発の手法において、日本はアメリカに20、30年遅れていると言っても過言ではないでしょう。

(※1)システム思考:大局の流れを読み、全体像を理解しながら本質的な課題解決策を探るアプローチ。

そんなに日本は出遅れているのですね……!

中土井:二つ目の要因は、社員同士が打ち解けるには飲みニケーションのように、アルコールが必要だという強烈な思い込みが根付いていたことです。昭和の頃だと、飲み会をやったお店から出入り禁止になるくらい激しい粗相をした会社もざら(笑)

酔った勢いで一緒にバカをやることで、心の距離が縮まっていく。同時に、仕事上のミスに対する叱責と、人格的な否定は別物だということを伝えられる。そんな効果があったんですね。「ミスはダメだけど、おまえはそのままでいい」と。

しかし、なぜ飲みニケーションが組織の一体感醸成に役立っているのかという構造的な要因が分析されないまま、月日が過ぎてしまった。これが日本の組織で「対話するテクノロジー」が開発されず浸透していかなかった要因の一つではないでしょうか。

組織開発も飲みニケーション頼みだったんですね。

中土井:そもそもお酒の席でしか打ち解けられないというのは、前近代的ですよね。お酒が好きでない人もいるし、組織の一体化をめざす手法も多様性が必要なはず。

これを補完する機能がないまま、今まで同一視しようとしてきた、「見えない多様性」の歪みが現れている。そして、組織の一体感がない、チームワークが発揮できないといった問題が噴出しています。

だからこそ、人と人同士のつながりを感じながら、新しい方向性へと進んでいく手法が必要とされているのです。その中でも、飲みニケーションよりも再現可能性が高くて、組織活性化や組織変革に結びつけられるという点で、U理論にスポットライトが当たっているのでしょう。

☆後編はこちらから
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文責:松尾 美里 (2017/01/04)

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