テクノロジーが変える「つながり」の未来図とは?
名刺管理からビジネスSNS、さらにその先へ

今回インタビューさせていただくのは、「人や情報をつないで価値をつくる」コネクタとして活躍される日比谷尚武さん。

「名刺を企業の資産に変える」をコンセプトにした法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を提供するSansan株式会社 でコネクタ、Eightエバンジェリストを務めています。

日比谷さんは2016年12月に独立。Sansan以外にも、PR Table の社外取締役、一般社団法人 at Will Work の理事、日本パブリックリレーションズ協会の広報など、いくつもの肩書で活躍をされています。

新しいチャンスを生む「つながり」をどのように築いているのか。そして、テクノロジーが可能にする「つながり」の未来はどんな世界なのかを伺いました。

引き出しの多さよりも、関係者それぞれのニーズを知っておくことが重要

日比谷さんの「コネクタ」の仕事とはズバリ何でしょうか。

一言で言うと、「社内と社外をつないで価値を生む仕事」です。社内で課題を見つけたら、社外でそれを解決できそうな人材やチャンスを見つけてきて、マッチングさせて解決に導くというもの。コネクタとエバンジェリストってどう違うのか、とよく聞かれるんですが、エバンジェリストは、自社サービスや世界観の価値を外部へ発信するのがメインです。それに対し、コネクタの場合は発信に加えて、社外の情報やリソースを社内に持ち帰ることの両方が求められます。

クライアントになりそうな方、採用候補者、ビジネスパートナー、行政関係者など、さまざまな分野の方とお会いしていますが、やみくもに人脈を広げているわけではありません。大事なのは社内の課題解決につながるかという視点。月に1回、Sansanの役員や部長クラスへのヒアリングをランチタイムに行っているんです。そこで例えば「エンジニアの採用で困っている」「金融業界の案件を進めたい」などと課題を把握するようにしていました。

「こんな思いがけないアイデアやコラボが生まれた」という事例を教えてください。

印象的だったのは、Eight専用スキャナを都内のコワーキングスペースに設置するという2013年のプロジェクトです。Eightは名刺管理のアプリで、スマホで名刺を撮影すると、会社名、役職、名前や連絡先などの情報をデータとしてアプリに保存してくれます。ですが、一枚一枚撮影するのは手間がかかるので、名刺が大量にある方にはスキャナからも登録することができるのです。

そこで、スキャナの認知度を上げるために、フリーランスやベンチャー起業家にスキャナを使ってもらおうというアイデアがあったのですが、自分たちだけでは高い効果を見込めそうな方法がなかなか見つからなかったんです。

そこで、コワーキングスペースを運営している知人やその利用者に「こんな構想があるんだけど、やってみない?」と話したところ、好感触を得られたので、まずは渋谷のコワーキングスペース4つに、スキャナを無料で3カ月設置するキャンペーンを実施しました。

さらに、有名ブロガーやメディアを呼んで記念イベントを開いて、取材してもらうようにしました。イベント当日はイケダハヤトさんに「名刺なんてもういらない」とキャッチーな言葉をいただいたり(笑)単なるテストマーケティングに終始するんじゃなく、メディアも巻き込んで「コワーキングスペースで面白い試みをやってるらしい」と、盛り上がっている空気をつくっていくことができた。その結果、他のコワーキングスペースからも問い合わせがきて、正式な施策となってスキャナ無料設置の全国展開につながったんです。

単に専用スキャナを設置すること以上の成果が得られたわけですね。

Eightの認知度向上という自社課題と、コワーキングスペース側のニーズ、そしてメディアがどんな内容なら注目するか。これらを把握して「こういう座組ならみんなWin-Winになる」という図を描いたことが、関係者を巻き込むコツじゃないかと思います。

「このピースを持っていくとハマりそう」というのは常に考えてますね。イベントやメディア露出といった打ち手の引き出しを増やすよりも、そもそも各ステークホルダーがどんなニーズを持っているかを知っておくことが大事なんですよ。

Sansan株式会社ではコネクタ、Eightエバンジェリストを務める日比谷尚武さん

関係者のニーズを記憶しておくコツはありますか。

心がけているのは、情報自体を自分の記憶に強く残すこと。そのためお会いする人には「強みは何か」、「どんな課題を持っているのか」を聞くようにしています。それもただ「採用に困っている」くらいで留めるのではなく、「なぜそういう状況に至ったんですか」と深堀りしていくんです。そうすると、採用したい人材像があいまいだったり、そもそも採用していること自体が認知されていなかったりと、相手のニーズがより明確になり、記憶にもインプットされやすい。これを継続的にストックすると、「これによってメリットを得られる人はいるかな」と、課題解決につながりそうな機会を後々発見したときに、線でつながっていくんです。

「人脈術」を向上させるための名著セレクション

こういう発想はどういう体験から培われたのでしょうか。

Sansan参画前に携わっていたシステム開発の会社では、ソリューション営業みたいなこともしていたんです。お客さんの課題やビジョン、予算をヒアリングして、「じゃあ、その課題を解決するならこういうパートナーさんが適任だから紹介しますよ」とつなぐのが日常でした。お客さんが最終的なゴールにたどり着くために、どういうカードを切ればいいのかを考え抜いていく。今思うとその経験がコネクタの土台になっているのかもしれません。

ただ、こういう発想を本格的に言語化したのは、Sansanでコネクタを名乗るようになってからですね。一時期、自分が活動してきたことを体系的に再定義したくて、人脈術の本を片っ端から読みました。

例えばどんな本を?

本田直之さんの『レバレッジ人脈術』ですね。「最小の労力で、関わった人のすべてが最大の成果を生む」。そんな思考で人とつながっていくスタンスに共感しました。それは、アダム・グラントの『GIVE&TAKE』にも共通している気がします。この本では、自分が受け取る以上に他人に与えることで、関係が長続きし、回りまわって成功に近づくことができると書かれていて、まさにその通りだなと。

実は2013年頃、Eightのユーザー事例インタビューの一環で佐々木俊尚さんに人脈論を伺ったことがあって。佐々木さんの著書『自分でつくるセーフティネット』で社会における人と人のつながりを研究する、社会ネットワーク論の「弱い絆(weak ties)」についてふれられていました。「良い情報をもたらすのは、家族や同僚のような強い絆よりも、知人の知人のような弱いネットワーク。だから新しいアイデアやチャンスを得たいなら、今後は広くて弱いつながりこそ大切にしたほうがいい」と。すごく頷けましたね。

レバレッジ人脈術
レバレッジ人脈術
著者
本田 直之 著
出版社
ダイヤモンド社
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GIVE&TAKE
GIVE&TAKE
著者
アダム・グラント 楠木建(訳)
出版社
三笠書房
自分でつくるセーフティネット
自分でつくるセーフティネット
著者
佐々木俊尚
出版社
大和書房

もう一つ心に残っている本は、入山先生の『世界の経営学者はいま何を考えているのか』です。経営学の最先端の知見が詰まった本なのですが、社会ネットワーク論の「ストラクチャー・ホール」についてふれられていて、まさに自分の考えとドンピシャだなと。ストラクチャー・ホールというのは、情報の非対称性から生じる「穴」のようなもの。Aさん、Bさん、Cさんの3人がいて、AさんはBさんとCさんの両方を知っていて、BさんとCさんは互いを知らないとします。このBさんとCさんの間にある隙間を「ストラクチャー・ホール」と呼び、これを埋められるAさんが、より多くの情報を得られるので優位に立てるんです。

自分がコネクタとして意識していることや活動に対して、「これでよかったんだ」と後ろ盾を得た感じでしたね。

世界の経営学者はいま何を考えているのか
世界の経営学者はいま何を考えているのか
著者
入山章栄
出版社
英治出版

ビジネスパーソンはどんなつながりを築いていくべきとお考えですか。

達成したい目標は何かを考えて、その周辺領域にいる人たちとつながっていくことが大事だと思うんです。ただし、近視眼的に、目の前の課題に詳しい人とのつながりを急いでつくるというのではなく、半年かそれ以上先を見据えるようにしています。

例えば、いずれクリエイターたちを巻き込んだコミュニティーをつくるというビジョンがあれば、今のうちにクリエイターやアーティストとの接点を率先して増やしたほうがいい。

少し先を見据えるには、自分のやりたいことのキーワードを意識して、関連する領域は何なのかを考えておくこと。会社員の場合なら、各部署の課題を聞いておくとか、自社の事業計画書を勉強しておくとか、普段からできることはあると思うんですよね。そのうえで、Eightで人脈を管理しておいて、日頃から一覧しておくと、「この人と会おう!」とインスピレーションが湧きやすいんです。

テクノロジーで「つながり」はこう変わる

今後Eightはどんな世界をめざしているのでしょうか。

名刺管理の効率化アプリという位置づけから、ビジネスSNSへと進化させています。同時に、人脈を積極的にビジネスに活用するという考え方自体をもっと浸透させたいですね。いまはSNSやEightのように、コミュニケーションや人脈活用のツールやインフラが整ってきて、関係を維持するコストも格段に下がってきている。それなのに、企業ではコミュニケーションに対するカルチャーが変わっていないのが現状です。いまだに、「メッセンジャーアプリで休暇連絡をよこすなんて失礼だ」と怒る人がいるとか。本来なら簡易なやりとりを効率化して、かわりに積極的に人脈を広げたり、自社の目標達成に結びつけたりするということに時間を割いたほうが、みんなにメリットがあるはずです。

Eightでは、予防医学研究者の石川善樹先生と共同研究プロジェクトを始めています。Eightは名刺から得た人脈をデータとして蓄積しているので外部の専門家の知見を取り入れて、人脈の築き方を豊かにするにはどうしたらいいのか、今後どんな世界が実現できるのかといったことの可能性を模索しているところです。

活用の具体的な可能性ってどんなものがありますか。

例えば、想像の話ですが、Eightのようなソーシャルネットワーク上の情報を、金融業に活用できる可能性もあります。ソーシャルで可視化された信頼を担保にして、取引相手の返済能力の信用度を審査する与信管理をより便利にするといったことも考えられます。「人とのつながり」という見えない資産をどう発展させ、活用していくか。こうした意識を広めていくのもEightの大事な役割じゃないかと思ってます。

「つながり」について、日比谷さんの未来予測を聞かせてください。

近い将来、会うべき人とのつながりをテクノロジーが提示してくれると想像しています。入山先生が「異分野の知恵・人とのつながりがなければイノベーションは起きにくい」とおっしゃっています。同一性が高い人同士がつながると、その交流から生まれるアイデアの新規性は反比例してしまう。

そこで、Eightのようなツールが、異分野の人とのつながりを増やしてくれる機能があると面白いなと。名刺から人脈のデータが増えるにつれて、AIが得られたデータから自動的に「こういう分野の人に会ったほうがいいですよ」、「あなたの知り合いの○○さんの知人に○○の専門家がいるので会ってみてはどうですか」とレコメンドしてくれるようになる。よく共通の知人がいる人をレコメンドしてくれるサービスはSNSなどでありますが、テクノロジーがあえて異業種の人を推奨するようになったら、人とのつながりの広がり方が一気に変わるんじゃないかと思うんですよね。

こんなふうにテクノロジーが発展すれば、コネクタの仕事もいずれ代替されるんじゃないかと思うんですよね。自分の仕事がなくなっても困るんですが(笑)現状、つながりを築いて維持するうえで、コネクタという属人的なハブの存在が必要になっていますが、既存のつながりや、その人のニーズ、目標などのデータから今会っておくべき人脈をレコメンドしてくれる。そんな時代がくるんじゃないでしょうか。

異業種の人のレコメンド、面白いですね! 貴重なお話をありがとうございました。

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文責:松尾 美里 (2017/02/03)
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