プロ直伝、新規事業の成否を分ける「やり抜く力」とは?
意思決定者を説得し、確度を上げる方法

新規事業には困難がつきものです。事業になりそうなアイデアを生み出すことも難しければ、意思決定者に事業計画を説明する段階でも多くのハードルが待ち構えています。そんな状況を乗り越え、新規事業プロジェクトを成功させるには、どうしたらいいのでしょうか?

今回インタビューさせていただくのは、『プロ直伝!成功する事業計画書のつくり方』(ナツメ社)の著者で、株式会社ミレニアムパートナーズ代表取締役パートナーである秦 充洋さん。これまで多くの企業や起業家に対し、事業開発のコンサルティングや研修を通じて支援をされています。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)でプロジェクトマネジャーとして多数のプロジェクトを指揮し、医療従事者向け情報サービス 株式会社ケアネットを共同で創業。また、日経BP「新規事業創造塾」「中計塾」、一橋大学大学院MBAコース(HMBA)などでも講師をされています。

今回は、新規事業を成功に導くためのポイント、そして事業化するかどうかを判断する際のアドバイスをお聞きしました!

「新規事業はムダと不確実性がつきもの」

著書『プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方』は非常にわかりやすくて、新規事業担当者に向けた秦さんの熱いエールを感じました。数々のコンサルティングや研修をされる中で、新規事業立ち上げのニーズは高まっていると感じますか。

プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方
プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方
著者
秦充洋
出版社
ナツメ社

確実に高まっていますね。とりわけ歴史ある大企業において大きな問題意識になっていると感じます。既存事業の成長が鈍化し、市場においてインパクトを残せていない。たしかに過去20年を振り返ると、長い歴史を持つ大企業と比べてソフトバンクや楽天、ファーストリテイリングなどのベンチャー企業のほうが、明らかに存在感が大きいといえます。

海外に目を向けると、海外には2016年時点で株式価値が6兆円となった非上場企業Uberのようなユニコーン企業(※)が存在します。一方、日本で6兆円を超える企業といったら一部上場企業も含めて8社程度。つまり、時価総額だけで比較すると、日本の名だたる大企業もアメリカのスタートアップくらいの規模のインパクトしかないといえます。

※ユニコーン企業:評価額が10億ドル(約1250億円)以上である、非上場のベンチャー企業

そこまで差があるなんて……!

もちろん、上場企業の流動性ある市場価格とUberのように非上場企業を単純比較することはできませんが、日本企業に対する市場の期待感がいかに低いかを物語っているといえるでしょう。

そこで日本の大企業でも本腰を入れて、将来の事業の柱となる新規事業を立ち上げよう、という機運が高まってきた。とはいえ、実際に事業化を検討する段階で、既存事業での常識にとらわれているのが実情です。既存事業では、過去の実績から「勝ちパターン」がすでに確立されているので、いかにそれを再現するかという効率性と確実性が問われます。

また、事業化するかどうかの意思決定者となる部長クラスのミドルマネジャー層は、既存事業で成果を出して高い評価を受けてきた人たち。そのため、これまでの「勝ちパターン」を踏襲してしまうのです。

ですが、将来自社の柱となる新しい事業の種を探して、事業性を検証するなら、一定の時間やお金がかかるのは当たり前。初期段階から「試行錯誤はムダ」、「確実な根拠をもってこい」などと、既存事業での「正論」を持ち出すとせっかく蒔いた種が育ちません。

既存事業の常識にとらわれないようにするためにはどんな意識が必要なのでしょうか。

意思決定に携わる方々に伝えているのは、「既存事業のマインドをいったん捨ててください」ということ。そもそも顧客すら明確でない時代において、「新規事業はムダと不確実性がつきもの」と意識を変えなければいけない。そのうえで「ダメ出しは誰でもできる。どうやって事業を形にするかという建設的な視点でアドバイスをお願いします」ということをマネジメントの方々に伝えています。

「過去の栄光にとらわれた意思決定者の意識こそ変えなければ」と語る秦さん

新規事業を現場で率いていく担当者が必ず押さえておくべきポイントは何でしょうか。

新規事業を進めるうえで共通して必要となる「骨格」があります。『プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方』にも記したとおり、事業計画を作る場合は、事業コンセプト、顧客への提供価値、バリューチェーン、マネタイズモデル、キャッシュフローモデルの5つのステップに従っていくといいでしょう。そうすれば事業化の道筋がかなり明確になる、つまり「骨格」ができるので、効率的に進めることができます。あとは事業化を進めていきながら、「骨格」に肉付けをしていきます。

この「骨格」がないまま、場当たり的に個別のアドバイスを求めているだけでは、いつまでたっても懸念事項が解消されず、事業化が進展しません。

顧客へのヒアリング、数件で満足していませんか?――新規事業も「やり抜く力」が必要!――

せっかく斬新なアイデアなのに、事業化が進まない原因として、よくあるケースは何でしょうか。

散見されるのは「顧客検証」が十分に行われていないというケース。新規事業担当者に「顧客にヒアリングしましたか?」と尋ねると、たいてい「3、4件」という答えが返ってきます。本人は満足気ですが、全然足りません(笑)最低でも50件くらいは必要でしょう。

数件の意見から導いた結論と、50件以上の声を集めてから出した結論とでは重みが違います。「ぜひ使いたい」という生の声を多くひろいあげて、リストにまとめるなどして潜在ニーズがあることを示していく。この積み重ねが、事業計画の説得力を高めてくれるのです。

いろんな立場の人からの意見があると、そのサービスでは何が重要なのか、という点にも気づけそうですね。

事業計画を形に落とし込む際に必要なことは、「あきらめずにやり抜くこと」に尽きます。新しい事業を起こすうえでは、必ず意思決定者の壁にぶつかるといってもいい。彼らは悪気があるわけではなく、単にゼロからイチを生み出すときの進め方やリスクをとる発想に慣れていないだけのです。だからこそ、担当者はあきらめずに、新規事業が自社にもたらすメリットを、粘り強く意思決定者に伝えていかないといけません。

新規事業も「やり抜く力」が大事なのですね。例えば、相当頭の固い意思決定者にあたった場合は、どう対処するとよいのでしょうか。

そういった場合は、いきなり大きな予算で提案するのではなく、細かく刻むこと。新規事業にいきなり5000万円の予算をつけてください、と頼んでもなかなか稟議がおりないかもしれません。ところが、「5000万円をかけるに値するアイデアかどうか、試作品をつくって検証するなら500万円でやれそうだ。じゃあ500万円の活動費を出してもらうために、まずはニーズを調査する費用として50万円捻出してほしい、と掛け合ってみよう」というように。こうしてスモールステップに落とし込んで、着実に実行していくんです。諦めない限り、どんな壁にぶつかっても失敗にはならないですから。

なぜオープンイノベーションは失敗に終わるのか?

大企業でオープンイノベーションの事例が増えていますが、うまくいく企業と、そうでない企業との違いは何でしょうか。

うまくいかない理由は2つあります。1つ目はオープンイノベーションと銘打っておきながら、そこで議論した内容が社内外にほとんど公開されていないことです。いざ動き出そうとすると「NDA(秘密保持契約)を結んでからじゃないと」と、上からストップをかけられ、締結に何カ月もかかる。その間にアイデアが陳腐化してしまう――。これじゃとても「オープン」とは言えません。

2つ目は、議論で主導権を握れるファシリテーターが不在であること。大企業同士、また大企業とベンチャーの連携の機会をつくること自体は、刺激を与え合えるなどの意義があります。ただし、異なる企業同士の議論で生まれたアイデアを事業化するには、舵取り役が欠かせない。

舵取りのうまい人は押さえるべき論点がわかっている。さらに、A社とB社で意見が割れたときに、両社の意見を斟酌しつつ合理的な決定を下せる、という共通点があります。決断の根拠を両社が納得できるように説明できるどうかも、ファシリテーターの重要な役割ですね。

上手く舵取りをするために、意識すべき点は何でしょうか。

最終的にめざすべきアウトプットを最初から具体的にイメージして、議論の方向付けをすることです。議論の最中も、ゴールまでの全体像を思い浮かべて、「まだマネタイズモデルについて掘り下げて考えられていないな」などと、不足したピースを指摘する。こういう舵取り役がいるかどうかが、オープンイノベーションの成否を分けるといってもいいでしょう。最近はいろんなアクセラレータも出てきていますが、大企業の意思決定の勘どころが分かっていなかったり、視点がスタートアップ寄りになりすぎたりする例もあるようです。これからに期待したいですね。

新サービスBD Sprintのコンセプトは、事業開発の「顧問弁護士」

ミレニアムパートナーズは、事業開発支援サービスBD Sprintをリリースされました。立ち上げの経緯やコンセプトを教えてください。

新規事業の創出を支援するコンサルティングや研修はすでに数多く存在しています。しかし、コンサルティングだけでは、主体的に動いていける社員育成までカバーできません。また、研修を受けるだけでは、事業開発のプロセスを学べても、実際に壁にぶつかったとき、どう対処したらいいのか相談する相手がいません。「この壁をクリアできていれば、事業化できたかもしれないのに」と思うような例もしばしば。

こうした課題を解決するには、継続的に事業化の悩みを相談でき、担当者のレベルに応じて教育まで請け負ってくれるような存在がいればいいのではないか。それで、新規事業専門の「顧問弁護士」というコンセプトを思いついたのです。名称には事業開発(Business Development)の推進、イノベーションを加速させるという意味を込めています。

対象となるのは、事業開発の部署やチームをもつ企業。私たちは継続的に新規事業担当者をコーチする役割です。あくまで考えて動くのは担当者本人たち。ただし、彼らに並走して的確なアドバイスを行うには、その会社の強みや状況をしっかり把握しておくことが欠かせません。

BD Sprintでは、こうした個別のアドバイスに加え、企業のニーズや担当者の力量に応じて、ベンチャー企業との共創型ワークショップや、ビジネスパートナーの紹介なども行っていきます。「点」ではなく「線」で新規事業立ち上げをサポートするサービスだといえます。

今後の構想をお聞かせください。

課題を持つ企業と、企業のマッチングにも関わりたいと考えています。「A社独自の技術を使うと、B社の抱える課題をこんなふうに解決できるんじゃないか」というのを提案し、つないでいくサービスです。

マッチングで難しいポイントは、業種や規模が違う二社間の言葉をうまく「翻訳」しないといけない点です。例えばA社が「事業性を検証しよう」とB社に提案したとします。A社では「顧客にヒアリングする」くらいの意味合いでこの表現を使っている。ところが、B社は「事業性の検証」=「事業化の最終決定の一歩手前」という重くとらえてしまい、その結果「まだ詰めてないことも多いのに決定を急ぐなんて、熟慮が足りない……」と、両社に溝ができかねない。一社で長く勤めている人ならなおさら、日常的に使っている表現の定義が、他社のそれとずれていると気づきにくいんです。

だからこそ、異なる言葉をうまく翻訳して、認識をそろえていくことがマッチングにおいて大事になってきます。

マッチングの成功事例を増やすことで、自社だけですべて解決しようとせずに、外部の専門家や他社と協働していくほうが、新規事業も軌道に乗せやすくなるという発想を広めていきたいですね。

今後の展開、ぜひ注目していきたいです。貴重なお話をありがとうございました。

プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方
プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方
著者
秦充洋
出版社
ナツメ社
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文責:松尾 美里 (2017/02/16)
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