「目的地までボタン一つ」自動運転までの現在地
多くの人が忘れている自動運転の本義とは?

「目的地までボタン一つ」自動運転までの現在地

日本政府が2020年までの実用化をめざし、産学官が連携して開発を進めている自動運転。

自動運転というと、「無人運転」「ボタン一つで目的地まで連れて行ってくれる」という印象を抱く方が多いかもしれませんが、自動車メーカー各社の開発の現状はどうなっているのでしょうか? また、自動運転が普及していく道筋とはどのようなものなのでしょうか?

今回は『2020年、人工知能は車を運転するのか』の著者で、交通コメンテーターとして多方面で活躍されている西村直人さんにお話をお聞きしました。

完全自動運転への実現は一足飛びにはいかない

── 『2020年、人工知能は車を運転するのか』を執筆するにあたっての課題意識は何でしたか。

2020年、人工知能は車を運転するのか
2020年、人工知能は車を運転するのか
西村直人
インプレス
2020年、人工知能は車を運転するのか
2020年、人工知能は車を運転するのか
著者
西村直人
出版社
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この数年で「ぶつからない車」とか「自動ブレーキ」という言葉を耳にする機会がいきなり増えましたよね。ですが、15年以上にわたって安全技術や自動運転のテーマで取材を続けてきた私にとって、果たしてそんなに簡単に自動運転を実現することはできるのかという疑問が湧き上がってきました。現に、取材を通じて、自動車メーカーの技術者たちも私と同じような懸念を抱いていることがわかりました。
「自動運転」という言葉が独り歩きする前に、専門家や自動車メーカー各社が描いているグランドデザインを示したい。本格的な自動運転時代を過ごすであろう子供たちのためにも、自動運転の現状と未来を理解する一助になればという思いから、本書を執筆しました。

── 本書の中で、西村さんは「人と機械の協調運転」が必要になるとおっしゃっています。協調運転とはどのようなものでしょうか。

協調運転というのは、ドライバーによる手動運転と機械による自動運転をスムーズに切り替えられるような状態を指します。自動運転には技術的にいくつかのレベルがあり、機械とドライバーが協調して運転するような技術はすでに導入が始まっています。ただ、高度な安心と安全を担保するには、いきなり機械が完全にドライバーの運転を代行するレベルへと、一足飛びにはいかないのが現実です。

── 完全自動運転に向けて、現在発展途上ということですね。

私たちは「自動運転」と聞くと「automatic driving(完全自動走行)」を思い浮かべますが、本来「自動運転」を英語で表すと「autonomous driving(自律走行)」になるんです。この自律走行の状態、すなわち機械自らがドライバーや周囲の状況を判断して運転し、それを人が監視する状態が「自律自動運転」です。自律自動運転においては、人と機械のやりとり(協調運転)が必ず発生します。
一方、多くの人がイメージしているような、ボタン一つで目的地まで機械が運転してくれる「完全自動運転」は、人と機械のやりとりが極限まで少なくなった「自律自動運転」のあくまで一形態なんです。


人と機械の協調運転は、飛行機の世界ではすでに当たり前になっています。例えば飛行機のパイロットは、機体ごとに異なる免許を取らないといけません。飛行機は、平常時は自律飛行をしていますが、人が機体を監視する必要があるし、不測の事態には人が操作を担うことになる。だから機体ごとの特徴を詳しく知らないといけない。
このように、人と機械が互いを知ろうとすることは、自動化レベルがどれだけ進んでもついて回ってくるんです。


『2020年、人工知能は車を運転するのか』の著者、西村直人さん。

日本の自動車メーカーがめざす自律自動運転の本当の姿とは?

── ドライバーと機械とのやりとりは、自律自動運転で欠かせないものなんですね。日本の自動車メーカーがめざす姿はどのようなものなのでしょうか。

トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバルと各社メーカーを取材する中で共通しているのは、ドライバー不在の完全自動運転を目指しているわけではないということです。例えばトヨタは「FUN TO DRIVE」を企業スローガンとして掲げてきました。トヨタの自動運転技術を担当する開発者に聞くと、「自動化が進んでも、ドライバーの役割がすべて機械や人工知能に取って代わられるのが正解ではないし、そこには『FUN TO DRIVE』はない」と、明確に打ち出していました。

── 完全自動運転では運転の楽しみがなくなってしまうということですね。それでは、自律自動運転と運転の楽しさは両立しえるのでしょうか。

私は次の2つの理由から可能だと考えています。1つ目は、自律自動運転時代の主役となる子どもたちは、自動車に使われるのではなく「使いこなす」力があるはずだからです。デジタルネイティブの彼らは、機械にどんな選択をさせるかプログラムすることに慣れているので、自律自動運転にも能動的に楽しみを見出だせるはずです。
2つ目は高齢者への対応です。運転が好きな方は80、90歳になっても乗りたいという気持ちが強い。それなのに一律、免許証を返納すべきというのは、間違いだと思うんですね。そこまで肉体的に衰えていない人もいるし、移動の自由が奪われてしまう人もいますから。自律自動運転によって、移動の自由を1日でも長く担保できるようになることは、運転の楽しさを通じて人生を豊かにするものであると信じています。


マツダの技術者の言葉を借りると、自律自動運転の車が「黒子に徹する」という道があると考えています。運転中危険が生じた際に、ドライバーが即座に適切な状況判断ができないとします。それを自動車の車載センサーが感知し、ダイナミックマップ(※1)から地形情報を入手する。そして「今からカーブを曲がるためにステアリングを切るのでは間に合わなくなる」という状況に陥る前から、危険な状態に近づかないようにするために人の運転操作に先回りして自動運転技術がステアリングをじんわりと切り始めていく。こうした協調運転が実現できれば、高齢者の運転の楽しみと移動の自由を確保できるようになります。
(※1 高精細のデジタル地図と通信を組み合わせたインフラのこと。参考http://jaf-acc.jp/column/index.php?column=new&rid=53)

無人運転は「箱庭」の中でなら実現できる

── グーグルは無人自動車の走行距離で圧倒的な記録を達成していますし、『ドライバーレス革命』では、ドライバーがハンドルを握らない完全無人運転にすべきという意見が述べられていました。これに対してはどうお考えですか。

無人運転というのは、障害物一つない隔離された「箱庭」の中では可能ですよね。実は「ボタン一つで目的地まで運転してくれる」という世界は、非常に限られたエリアであればすでに実現しています。例えばスイスのシオンという地域では、「ARMA(アルマ)」というシャトルバスが完全自動運転を行っています。「ボタン一つで目的地まで」はすでに実現しているわけです(詳細は本書の第4章にあり)。
ですが、これを一般化しようとなると、壮大すぎるスケールになりますよね。なぜなら、実際には手動運転の車はもちろん、色々な自動化レベルの車が混在しているからです。たとえばACC(定速走行・車間距離制御装置)をはじめとする運転支援技術すら搭載されていない車が多い中では、協調運転の領域を残すほうが現実的です。8100万台もの車が走る日本社会において、仮に1万台の自律自動運転車が販売されたとしても、一般の道路環境や周囲の車が何も変わらなければ、安全・快適な走行は不可能と言ってよいでしょう。


── となると、人と機械の協調運転を軸にした、日本の自動車メーカーのめざす姿のほうが現実的な気がしてきました。

自動車メーカーの本願は、「交通事故を減らすこと」に尽きます。その社会的損失は計り知れないからです。衝突事故が1件発生するだけで、被害者も加害者も大きな精神的苦痛を強いられるし、お互いの車が修理中は乗れないため、たとえば通勤が不便になることが想定できます。加えて、示談交渉を進めるにも時間や労力がかかりますし、そもそも車両の修理代金などの補償は自動車保険で賄われますから事故が増えれば保険の掛け金だって上昇していきますよね。でもここで自律自動運転技術を搭載した車両の普及が進めば、こうした物理的・精神的コストを減らしていけるのでは……、私はそう考えています。
また、とかく自動運転というと、「こんな風に移動が便利になる」という先進技術的な側面にばかりスポットライトがあたりますが、それはあくまで副次的効果です。本来は交通事故を減らして、社会全体の「見えない損失」を減らすことが自動運転の目指すべき第一の目的です


この先も、今がそうであるようにドライバーの運転スキルは十人十色の状況が続くでしょう。よって、ここに自律自動運転技術を筆頭にした先進安全技術が投入されることで、ドライバーの運転傾向や自車が走行している周囲の道路状況から「こういう場所でこうした事故が起こりやすいから、こんな支援が必要」などの解析が行えるようになる。

そして解析された膨大なデータに人工知能によるディープラーニングが組み合わされることで、事故の発生場所や発生タイミング、さらには事故の規模などの予想が成り立ちます。想定被害に基づいた素早い病院の手配などを併用すれば、より多くの尊い人命も救えるようになるでしょう。こうした予想をもとに全ドライバーに対して危険な状況を事前に知らせることができるようになると、次第に、適切な運転支援を誰しもが享受できるようになり、いずれは交通事故の発生確率も大幅に減らせるようになるはずです。

大事なのは社会全体のグランドデザインを描くこと

── 人工知能による運転についてはどのように考えていらっしゃいますか。

人工知能が万能の解決策になるというのは、今は少し違うかな、と思いっています。何をもって「危険な状態」とするか、という判断は人間が行うものですよね。前述したように、危険な状態とはどういうものかというデータを蓄積していけば、そのデータから特徴を学び取って「ここでこういう事故が起こりそう」と分析するディープラーニングの領域は、人間よりも人工知能のほうが格段に得意な領域だといえます。こうした最初の定義づけや判断基準を人工知能の世界では「目的関数」といいますが、この目的関数を見出すことは、現時点で判断すれば人間にしかできません。なぜなら人工知能は「人間が創りあげていく知能」であり、いわば枠組みのひとつにしか過ぎないからです。

── 人工知能がすべて解決してくれるわけではないのですね。

はい。今はそのように考えています。ちょっとおかしな話ですが、自律自動運転における運転免許は普通自動車免許より難しくなるんじゃないかと思うんです。自動化レベルに応じて、「自動化レベル4なら、こういう状況になると運転の権限が機械から人間に戻される」などと特徴が異なります。それをドライバー自身が予め知っておかないと、乗るのが怖くありませんか? 少なくとも私はそのクルマがもつ自律自動運転技術の四隅を知っておきたい。

また、人はどんなときに恐怖を感じるのか、そもそも人は自動運転に何を求めているのか。こうした側面を理解しておかないと、本当に必要とされる自動運転の車は誰にもつくれません。技術的に可能だからと色々な機能を付加しても、人(ドライバー)が使いこなせないですよね。そこで、ヘルスケアメーカーでもあるオムロンは「人を知る」ために、ドライバーの状況をセンシングする技術の開発に注力しています。カメラを搭載したとしても、車外からは人の体が驚いているのか、よそ見をしているのか、なにかを凝視しているのかなかなか判別しづらい。詳しくは本書に譲りますが、脈波にはじまり血流の動きやまつ毛の動きなどから、ドライバーの状況や体調変化などを認識し、車側にどう伝えるのかといった研究がなされています。

── センシング技術の開発がそこまで進んでいるのですね!

大事なことは、各国が自国のGDPや税収なども考慮したうえで、自律自動運転をどのようにして社会に取り入れていくのかグランドデザインを描くことです。これは技術が単独で昇華される前に行われなければなりません。さらに、自律自動運転を導入後、それを誰がどう維持管理するか、ダイナミックマップは誰がいつ更新するのか、といった議論も必要になりますよね。
また、自動運転技術を搭載した車で事故が起きたときに誰が責任を引き受けるのかといった倫理や安全哲学の議論も、法整備を考えていくために必要になる。「どういう社会にしたいのか、それを支えるにはどんな体制が必要になるのか」。より広い設計図をつくるために、もっと賛成も反対も含めて、意見が出て活発な議論が起こることを願っています。その議論の場において本書が一助となってくれるとの期待を込めて……。

── 自律自動運転の普及に向けて、大事な原点を知れた気がします。貴重なお話をありがとうございました!

2020年、人工知能は車を運転するのか
2020年、人工知能は車を運転するのか
西村直人
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2020年、人工知能は車を運転するのか
2020年、人工知能は車を運転するのか
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西村 直人

交通コメンテーター

WRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。(協)日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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文責:松尾 美里 (2017/05/19)

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