作詞家・プロデューサー いしわたり淳治の仕事術
チャットモンチーやSuperflyらヒットの仕掛人

作詞家・プロデューサー いしわたり淳治の仕事術

ロックバンドSUPERCARのギタリストを経て、現在は作詞家・音楽プロデューサーとして活躍するいしわたり淳治さん。Superflyの「愛をこめて花束を」の作詞をはじめ、携わった楽曲は600曲以上に及びます。また、チャットモンチーや9mm Parabellum Bulletなどをプロデュース。小説『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)はロングセラーに。

今回のインタビューでは、いしわたり淳治流仕事術に迫ります。作詞、プロデュースの依頼が引きも切らない理由は何なのでしょうか。

うれしい悲鳴をあげてくれ (ちくま文庫)
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いしわたり 淳治 著
筑摩書房
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うれしい悲鳴をあげてくれ (ちくま文庫)
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著者
いしわたり 淳治 著
出版社
筑摩書房
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アーティストと作詞家、求められるものの違いとは?

── 2005年のSUPERCAR解散後、作詞家やプロデューサーに転身されたきっかけは何でしたか。

当時はもう音楽はやめようと思っていて、でもこれからどうするかも決めていませんでした。そんな背水の陣のような状況で、解散ライブの2カ月前に、所属していたレコード会社の社長から、「チャットモンチーというガールズバンドのプロデュースをしてみないか」とお声がけいただいて。断る理由はないのでお受けしたのがきっかけです。

── いしわたりさんに白羽の矢が立ったのはなぜだったんでしょうか。

もともとバンド時代も僕が作詞をすべて担当していて、スタッフに近い目線で仕事をしていました。自分たちの歌が世の中でどう受け止められるか、どういう見せ方がいいのかということを常に考えてきたんです。当然ながらレーベルも売れるものをつくってほしいと思っているし、曲に対する姿勢が一致していることがオファーにつながったんじゃないでしょうか。

── バンドでのアーティストとしての仕事と、クライアントから「こういう世界観の曲をつくってほしい」という依頼のもとに作詞をする仕事では、進め方にどんな違いがありましたか。

一番の違いは、見ている視野でしょうか。アーティストは過去の自分の作品と対峙することが必要になります。既存のファン7割で、新しいファン3割くらいを意識して音楽をつくっていくので、意識が向くのは自然と過去の自分になります。一方、作詞家の場合はワンショットなので、現在の聴き手や世の中のニーズを客観的に見通すことが求められます。アーティストよりもどれだけ遠くを見られるか。ファンだけでなく、それも含めた世の中でどう受け止められるかという視点で考えられるかの違いは大きいですね。

作詞家の役割は「ギャップを埋めて、問題解決をする」こと

── 作詞の依頼を受けるかどうかを決められる際の基準は何ですか。

基本的にはスケジュールが合えば、どの依頼もお受けして、打ち合わせで中身を詰めていくようにしています。作詞で多いのは映画やCMなどのタイアップの案件で、アーティスト性とのバランスをとった上でどう映画に寄せるか、というようなクリエイティブが多いですね。

── 打ち合わせでクライアントと必ずすり合わせることってありますか。

大事にしているのは、オーダーの真意を探ること。依頼を受けたその場で、「こういうのはどうですか?」と10も20も質問を投げて、クライアントのリアクションを見るようにしています。僕に依頼がくるということは、「アーティストとタイアップとの間にあるギャップを埋めるには?」といった、何かしら課題があるということ。その問題解決を求められているというようにとらえています。例えば、Superflyの「愛をこめて花束を」という曲も、ドラマのタイアップ案件でしたが、もともとライブでは歌われていた曲だったので、ファンの印象やドラマの世界観を考慮しながら、ヒットソングとして機能するような歌詞に仕上げていきました。

クライアントの皆さんは必ずしもオーダーのプロではないので、真意は言葉の奥にあるときもあります。なので、打ち合わせの中で出来るだけ目指すべき着地点を具体化しなければなりません。ざっくりとした「何でもいいからカッコいいやつ」というようなオーダーだと、後日作詞をしながら「何を書いてもいいのに本当にこれを書いていいのか?」という自問自答と戦うことになってしまう。そうならないよう、打ち合わせでは、例えば「●●のアーティストの〇〇の曲みたいな感じですか?」と聞いてみる。「いや、それだと少し大人っぽいんだよね」と返ってきたら、「このラインはNG」というように枠が明確になります。こういう質問を続けると、逆にその枠の中での自由度が増して、クライアントのオーダーと大きくズレることも減るんです。

クライアントを早い段階で「共犯者」にする

── その場で質問をぶつけて、自由に考えられる範囲を明確にしていかれるんですね。

そうです。あとは、クライアントにはできるだけ早い段階で「共犯者」になってもらおうと思っていて。「良い作詞をしてくれるのか?」と審査員のような立場でこられると、やりにくいですよね。だから、質問を投げかける中で、一緒により良いアウトプットをめざす共犯者に引き入れていく。

もちろん密なやりとりができるよう、アーティストのキャリアや過去の作品は事前に勉強しますし、一番時間がかかるのがこのリサーチ段階です。どういう歌詞をめざすべきかが決まれば、実際に歌詞を創作する作業は3時間くらいなので。

── たった3時間ですか?!

だいたいそうですね。でも僕も人間ですから気が乗らないときもありますよ。でも、いつのまにか集中して、気がついたら淹れたコーヒーに一口も口をつけずに曲ができあがっていることも多いです(笑)

── それはすごいですね(笑) 壁にぶつかったり、スランプに陥ったりすることもないのでしょうか。

たぶん、壁にぶつかったことはありますし、そのたびに乗り越えてきたんでしょうけど、あまり覚えていないんです(笑)。だからスランプだとか思うこともほとんどないんですよ。

ターゲットごとの引き出しをストックしておく

── 作詞のネタは普段からストックされているんですか。

日頃から、色々な属性の人に対する「考え方」の引き出しはもっておくようにしています。突然、15歳の女の子の歌詞を頼まれることもあれば、40歳の男性の歌詞を頼まれることもあるので、いつどんな依頼が来ても大丈夫なようには暮らしています。「今はアイデアがないからできない」と断るのはもったいないですから。

例えば、僕は映画をよく観るんですが、ストーリーを追いながら、登場人物のキャラを分類しています。「15歳の女の子は失恋したときに、こんな感情を抱くこともあるのか」とか、「バリバリのキャリアウーマンはこういう場面でこんな言葉を発するのか」というように、キャラクターとその「考え方」を積み上げていく。

そのうえで「15歳の女の子の恋愛をテーマに」と依頼がきたら、「あぁ、あの映画のあの登場人物にこういう出来事を起こす感じかな?」と、15歳の女の子の引き出しを開いてみる。そして、実際に詞を創作する段階では、「この歌詞が一本のストーリーになっているか」どうかを俯瞰する。ある意味、映画監督みたいな感じですかね。

── そこに自分らしさやこだわりは入れないんですか。

自分らしさを出そうと思ったことはないですね。自分から「こうありたい」とか「周囲からこう見られたい」というエゴって、吹けば飛ぶような、ふわふわしたものです。むしろ、どんなに消そうとしても自然ににじみ出てしまうもの、それが自分らしさだと思いますから。

プロデュースするときは「メンバーの一員」になるつもりで

── プロデューサーとして成功した事例を教えてください。

やっぱりチャットモンチーですかね。徳島出身の女の子3人で結成されたガールズバンドです。当時のメジャーシーンには、芸能界っぽいガールズバンドはいても、軽音部の仲良しで組んだ自然なガールズバンドはあまりいませんでした。だから、音楽だけでなく彼女たちのキャラクターも商品にできないかと考えました。

まずは3人の性格を知ることが必要だと思って、彼女たちとディズニーランドに行きました。最初からスタジオで音楽の話をするとお互いカッコつけてしまうと思ったので、音楽とは無関係の場所で、音楽の話をしないというルールにして、彼女たちとひたすら喋りました。その中で彼女たちの素のキャラクターを理解しようと思ったんです。そして、彼女たちの個性の中で、どの部分を音楽に出していけばいいのか、ヒントを得ていきました。

── 成功の秘訣は何だったのですか。

それまでにプロデュースの経験もありませんでしたし、とくに戦略的に考えたわけではなくて、ただ「こうしたらいいんじゃないか?」というのを一つずつ試して、世間の反応を見て……というのをくり返していく感じでしたね。ただ、どのプロデュースでも大事にしているのは、メンバーの一員になりたいという気持ちでいること。もちろん年齢もキャリアも違うので、いきなり心を開いて対等に話すなんてなかなかできないですけどね。それでも、なるべくメンバーに近い存在でありたい、と思ってはいます。

音楽をやろうという人はこだわりが強い人が多いですし、僕が「こういう見せ方、伝え方もあるよ」と言っても、すんなり意見が一致することは少ないです。何度もやりとりをして、落としどころを探るしかないですね。試行錯誤しながら着地して、しばらく経ってクライアントから2回目の依頼がきたときは、「いい仕事ができたんだ」とやっと実感します。

作詞には「技術」があることを伝えていきたい

── いしわたりさんは、ワーズ・プロデュースという新たな境地を切り開いていますよね。

ワーズ・プロデュースは、詞を書いた人の言いたいことをできるだけ活かしながら、「こういう表現もできる」という技術面を助けるような仕事という感じでしょうか。作詞というと、「伝えたいことを自分の言葉で書くのが一番」と精神論のように思っている人がまだまだ多いし、良い作詞をつくるためにテクニックがあるということ自体、あまり知られていません。もちろん何を書きたいかを考える「発想」も大事ですが、より伝わる表現を磨き上げていく「創作」の両方が必要なんです。

── いしわたりさんが今後めざしていきたいものは何ですか。

たくさんの人の暮らしに素敵なBGMを届けたいという感じでしょうか。音楽で暮らしに寄り添いたい。例えば落ち込んでいる家族を元気づけるなら、夜食をつくってあげるとか、いろいろ方法があります。ですが、他人ができることって案外限られているんですよ。失恋をしたとか、いやなことがあったとき他人ができること。それは、そういう状況にある人に寄り添って「この曲を聴いたら少し顔が上がる」という曲をつくって届けることなのかなと。幸せなときはより幸せな気持ちになれる曲を、という感じで。

人はついつい考えすぎてしまう生き物なので、自分でも気づかないうちに「こうでなきゃいけない」という考えに縛られて窮屈に生きてしまいがちです。だから、「その悩みってこういう見方もできるよ」みたいに、歌でちょっと考え方が変わって、生きやすくなってもらえたら素敵ですよね。

そのためにも自分自身の作詞の技術をもっと磨いて、その技術をクライアントや世の中に伝えていこうと思います。若い世代と積極的に関わって歌の力を底上げしていくことに関わっていきたいですね。音楽業界は元気がない、夢がない、と思われないように、才能のある人、面白い人がどんどん集まってくれるように。

── 貴重な仕事術の数々、ありがとうございました!

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いしわたり淳治

1977 年 8 月 21 日、青森県生まれ。1997 年にデビューしたロックバンド・SUPERCAR のメンバーとして全曲の作詞を担当する。

バンド解散後は音楽プロデューサー・作詞家として活動し、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、GLIM SPANKY、 NICO Touches the Walls などのプロデュースを担当。作詞家としては Superfly「愛をこめて花束を」、少女時代「PAPARAZZI」、SMAP「Mistake!」、剛力彩芽「友達より大事な人」などの作品がある。

著書に小説『うれしい悲鳴をあげてくれ』(ちくま文庫)。

ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム所属。

公式ブログ 「KIHON THE BASIC」  http://kihon.stablo.jp/

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文責:松尾 美里 (2017/06/19)

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