元インテル社長が語る「優秀なリーダーが乗り越えるべき壁」
次世代リーダー養成所「西岡塾」では何を教えているか?

今回、インタビューさせていただくのは、株式会社イノベーション研究所 代表取締役社長で丸の内「西岡塾」(http://nishiokajuku.com/)塾長の西岡 郁夫さん。

シャープでノートパソコンの開発を指揮し、インテル元CEOのアンディ・グローブ氏に乞われてインテルジャパンを率いた、日本のパソコン市場開拓の立役者です。ベンチャーキャピタルを経て、現在は運営しているビジネス塾 丸の内「西岡塾」で、ミドルマネジャーの人材教育に力を注いでいます。

2017年4月に上梓された『一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策』(日経BP社)の執筆動機についてお聞きしました。ミドルが身につけるべきリーダーシップとは何なのでしょうか。

悩み多きミドルたちの「心のベース」になってほしい

『一流マネジャーの仕事の哲学』を執筆しようと思われたきっかけは何でしたか。

一流マネジャーの仕事の哲学
一流マネジャーの仕事の哲学
著者
西岡 郁夫
出版社
日経BP社

西岡塾の塾生や講師の方々の影響が大きいですね。今年で、西岡塾は16期を迎えています。塾生は主に30代後半から40代後半くらいのミドルマネジャーのポジションにいる人たちで、業種もさまざま。8か月間の間、毎週金曜の授業に臨み、自己変革の計画について発表し合う合宿などにも参加します。
私は16年間、各界の第一人者である講師の方々の講義を塾生と一緒に聞いています。議論に割って入り、塾生とは違った切り口から質問をぶつけたり、講師にフィードバックをしたりして、いわば触媒役みたいな役割ですね。塾生には講師の「骨までしゃぶってほしい」と思っているんですよ。

塾生は講師から学ぶだけでなく、西岡さんの着眼点からも学ぶことができる、というわけですね。

西岡塾の同期は非常に仲良くなりますし、期をまたいだタテのつながりをつくれるような交流の場も設けています。自分が培ってきた経験や人脈を若い人に伝えていくことが私たちの年代の責任だと思っていますから。一方で、それ以外に貢献できることがもっとあるんじゃないかとも考えていました。その一つとして、塾生にとって「心のベース」となりそうなものをつくれないか。シャープやインテルでの個人的な経験をもとにした学びはもちろん、西岡塾の講師や塾生たちから得てきた学びを集大成として残せないか。そんな思いから、本書を執筆しようと決めたのです。

塾生たちは上司と部下の板挟みの中で、リーダーシップをどう発揮していくのかといった課題を抱えています。同じような悩みを抱えているミドルはたくさんいる。そうした方の悩みの解決に役立ててほしいという一心で本書を執筆しました。

講義で熱弁をふるう西岡さんと西岡塾生たち。

シャープの事業部長に就任してぶつかった「リーダーシップの壁」

西岡さんはこれまでリーダーシップを発揮させるうえで、壁にぶつかった経験はありましたか。

大学院の修士課程を終えてシャープに入社し、新入社員の分際で課長を説得してCAD(コンピュータ・シミュレーションを利用した設計技術)の研究をスタートし、指導者もなく一人で独自に仕事を進めていきました。実績を積み上げ信頼を得て、CADセンターを新設して所長に就任し、徐々に部下の数が増えて行きました。勢いに乗って「今後のシャープのためにはソフトウェアの研究所が必要です」とトップに進言し、コンピュータ・システム研究所を設立、初代の研究所長に就任しました。

より大きな組織のトップに転身されていったということですね。西岡さんは元々人を率いるのが得意なタイプだったのでしょうか。

このころは「立場が人をつくる」という面があったのか、リーダーシップは自然と身についていった気がするというか、自分はリーダーシップがあると自信を持っていました。

ところが、これまで実績を認められてコンピュータ事業部長に抜擢されたとき、これまでのリーダーシップが通用しないと、初めて大きな壁にぶつかったんです。

研究所にいたころと何が違ったのでしょうか。

当時のコンピュータ事業部は、毎期赤字続きの業績の悪い事業部でした。事業部は事業本部という、これまでの人間関係でガンジガラメの、550名の小さなムラ社会。これまでの苦しい業績による閉塞感が漂っていました。そこに突然、若い研究所長が業績を立て直すためにやってきたわけです。 当然、その事業部に元からいた人からすれば気にくわない。「事業部のこともわからずに外部からやってきたのだから、どうせ成果が出なければ研究所に戻るんだろう」とベテラン層たちからの反発が強く感じ取られました。
僕の活躍を期待していてくれたのは社長だけだったと思います。当然、そんな状況ではリーダーシップを発揮するどころではなく、毎日の努力は空回りするだけの日々でした。

優秀なリーダーほど同じような悩みを抱えている方が多いかもしれません。周囲が高く評価してくれている組織では問題なかったのに、別の組織に移るとリーダーシップを発揮できなくなってしまう。
西岡さんはどのように問題を解決したのでしょうか。

転機となったのは、係長以上40人ほどを集めた会議での出来事です。来期の戦略を冷静に説明するはずでしたが、みんなの元気のない顔をみて思わず激してしまったのです。「お前ら事業部長を舐めてるだろう。業績が悪くてすぐに研究所に逃げて帰ると思っているだろう。そうはいかんで。研究所に逃げては帰らんで。事業部長についていけないというやつは、たった今、部屋を出ろ!」と。

年上の部下もいらっしゃるなかで、相当なインパクトがあったでしょうね。

「こうすれば、みんな動いてくれる」と緻密に戦略を立てたうえでの行動ではなく、なりふり構わず自分の本音をさらけ出したような形でした。自分でも冷静さを欠いていたかなと思いましたが、あとから振り返るとこれが良かったのでしょう。
この日を境に、非協力的な態度がピタッとなくなり、事業部のみんながついてきてくれるようになりました。こちらの話を傾聴してくれるし、建設的な意見をしてくれるようになりましたね。

つまり、ロジックやスマートな戦略を披露するのではなく、本音で話すことが効果的だったと。

「何が何でもここでベストを尽くす」という、不退転の覚悟のようなものが部下たちに伝わった瞬間だったのでしょう。部下に安心してついてきてもらうには、確固たる決意をしっかり表明しなければいけない。これを機に、リーダーシップを発揮するには、熱意をもってコミットメントを部下に示すことが大事なんだと学びましたね。

西岡さんの座右の書とは?

西岡さんが塾生のみなさんに勧められる書籍にはどんなものがあるのですか。印象に残った本を教えて下さい。

もちろんリーダーシップや戦略などさまざまな本を読んできましたが、本に書かれたことをそのまま真似るのではなく、本質を咀嚼して参考にしながらも実際の場面に応じて試行錯誤しながら自分流にカスタマイズしなければなりませんね。 本当に良い本は、難しいことが非常にわかりやすく書かれています。楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)はまさにそう。ファストファッションのZARAやユニクロなどの競争戦略が面白いストーリーとして紹介されていて、実に読みやすい。 藤原和博さんの『坂の上の坂』(ポプラ社)は、唯一の正解がない中で、みんなが納得する「納得解」を導き出すことがどれだけ大切かが書かれていて、良書ですね。

ストーリーとしての競争戦略
ストーリーとしての競争戦略
著者
楠木建
出版社
東洋経済新報社
坂の上の坂
坂の上の坂
著者
藤原和博 著
出版社
ポプラ社
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印象に残った本というと、常に枕元に置いている好きな本があります。『国民的俳句百選』(講談社)という本です。長谷川櫂(はせがわかい)さんという素晴らしい俳人によって古今東西の名句が解説された名著です。実は私は俳句をちょっとカジッタのですが、それでなくても大変面白い本ですよ。もう一つ好きなのは、田辺聖子さんの『川柳でんでん太鼓』(講談社)。川柳の奥深さや面白味がとってもよくわかります。いずれの本も人間とは何かについて深く考えさせられましたね。 たった今読んでいて面白いのは、米倉誠一郎さんの『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)です。

国民的俳句百選
国民的俳句百選
著者
長谷川 櫂 著
出版社
講談社
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川柳でんでん太鼓 (講談社文庫)
川柳でんでん太鼓 (講談社文庫)
著者
田辺 聖子 著
出版社
講談社
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イノベーターたちの日本史
イノベーターたちの日本史
著者
米倉 誠一郎 著
出版社
東洋経済新報社
本の購入はこちら

リーダーシップの要諦は「人間力」

西岡塾の塾生の方々に、「こんなリーダーシップを身につけてほしい」と共通して伝えていることはありますか。

リーダーシップをどう発揮するか迷っているミドルは少なくありません。ですが、リーダーシップのタイプは三者三様でいいのです。力強く統率していくタイプもいれば優しいタイプもいる。ただし、どんなリーダーにも人間力が問われると考えています。人間力は人としての「温かさ」、「包容力」、「心の豊かさ」、「優しさ」、「人への愛」を伴った「優秀さ」です。
人がついていきたくなる人は、仕事がデキるだけでなく、人間力があります。西岡塾の講師の方々を見ていてもそうですね。みんなご自身の「生き様」をさらけ出して授業をしているし、顔を見ていてあたたかさがにじみ出ているんです。

もう一つ、大事にしてほしいのは、「有言不実行」であること。これは私の造語ですが、「言っておきながら結局やらない」という意味ではありません。たとえ実現が難しいことでも、やるべきことは実行しようと呼びかけること。これが「有言不実行」です。私がシャープに新卒で入って、上司にCADの研究をすべきだと提言したときも、最初から「できる」という確信があったわけではなかった。でもやらなければシャープだけが置き去りにされるという危機感を持っていました。まさに「有言不実行」でした。
責任が大きい立場になると、つい現実的に可能かを考えてリスクを避けてしまいがちですが、まずは大きなビジョンに立ち返って、やるべきことをやるべきと口にすることが大切です。

「有言不実行」、意識してみます。貴重なお話をありがとうございました。

一流マネジャーの仕事の哲学
一流マネジャーの仕事の哲学
著者
西岡 郁夫
出版社
日経BP社

西岡 郁夫(にしおか いくお)

株式会社イノベーション研究所 代表取締役社長。丸の内「西岡塾」塾長。

1969年、シャープ株式会社入社。CADセンター所長、技術本部コンピュータ・システム研究所長、情報システム本部コンピュータ事業部長、同副本部長を歴任。1981年、CADの研究で大阪大学から工学博士を取得。1992年、インテル株式会社に転身。1993年、同代表取締役社長、米国インテル本社営業担当副社長。日本にパソコン、電子メール、インターネットを普及させる活動にまい進するとともに、通商産業省(現:経済産業省)のITSSPプロジェクトに参画し、中堅・中小企業のIT経営化の普及活動に指導的役割を果たした。1997年、同代表取締役会長。1999年4月退任。

1999年、モバイル・インターネットキャピタル株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。ベンチャーの経営指導に注力する。2001年、大企業のトップがベンチャーを支援する組織「ベンチャーを支援するベテランの会(現・ベンチャーを支援するベテランとベンチャーの会)」を設立。現在、世話人。2002年、ビジネスプロフェッショナルを育てる「丸の内ビジネスアカデミー(現・丸の内『西岡塾』)」を設立。大阪大学ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム国際アドバイザリー委員会委員、野村アクセラレータープログラム「VOYAGER(ボイジャー)」メンターなど歴任。

著書に『パソコンやってますかぁ インテルジャパン社長の痛快電脳生活のすすめ』(ダイヤモンド社)、『ITに関心のない「経営幹部」は今すぐ辞めなさい 情報利用戦略のすすめ』(かんき出版)。

丸の内「西岡塾」ウェブサイトhttp://nishiokajuku.com/

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文責:松尾 美里 (2017/06/26)
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