AIによって働き方はどう変わる?
人工知能時代の「幸せな働き方」の先駆事例に迫る

ワークスタイルクリエイター 藤野 貴教

「日本の労働人口の49%が人工知能やロボットなどで代替可能に」。そんなAI脅威論がメディアを賑わす中、AIを活用して、いかに人間として幸せに働き、生きるかというヒントを提案した希望の書が登場しました。その名も『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』(かんき出版)。

今回インタビューさせていただくのは、著者であり、「働き方」の専門家としてコンサルティングや研修を行う藤野貴教さん。AIを活用することで生産性が向上するだけでなく、人間がより楽しみ、得意分野を発揮して働けるようになる。こうした明るい未来に近づくために、働き方が今後どう変わるのか、どんな能力を身につけておくとよいかをお聞きしました。

「AIに仕事が代替される」と不安を煽っても何も変わらない

AI活用は、どのように働き方を変化させるとお考えですか。

AIによって仕事が代替されるという話が多いですが、不安を煽るだけでは結局何も変わりません。大切なのは、AIを活用して、今の自分の仕事をどう「進化」させるかということなんです。AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、人間はより人間らしい仕事に時間やエネルギーを注げるんです。人間には感情や身体があるため、単純作業を続けていると、疲れや飽きを感じられるのは当然です。

今まで我慢してきた単純作業をAIやロボットに任せられるようになる。すると、時間やエネルギーを、本来自分が取り組みたかったことに使えるようになり、仕事や人生そのものが楽しいものになっていく。こうした時代の変化の中で、幸せな働き方を具体的に提案したのが『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』です。

2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方
2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方
著者
藤野貴教
出版社
かんき出版

働き方改革の議論でよく「生産性を上げよ」と言われますが、「生産性を上げる=効率を上げる」と考えがち。実はこれは部分的な改善策でしかありません。生産性は、「アウトプット(付加価値)」を分子とし、投入する時間やエネルギーを分母とする分数式で表せます。つまり、効率を上げる、労働時間を短縮するというのは、分母を小さくすることにしか寄与しません。

本来は付加価値の部分を最大化することが大事。そのためには、創意工夫をしながら感情豊かに、より楽しく働ける人が増える必要があって、そのサポート手段がAIなんです。

AIを活用して働き方はどう変わる? ――先駆事例リバネスから見えること――

例えば2030年の時点で、AIを活用して、働き方はどう変わるとお考えですか。

現在は、画像認識や自動運転など、一つの機能に特化した特化型人工知能が普及しています。世界最高峰の棋士との対決で勝利して話題になった囲碁AI「AlphaGo」もその一つですね。一方、何でもできる汎用人工知能は現時点では登場しておらず、2030年にできるという人もいれば、2080年くらいという人もいて、見解は様々。

ただし、確実にいえるのは、人間とAIが協働する場面が増えるということです。すると職種における仕事内容自体が変わるので、これまで単純作業を担っていた人は、スキルの強化を求められます。コールセンターのオペレーターも、よりヒューマンタッチな仕事、つまり「感性的・身体的・直感的」な仕事が求められるわけです。(下記の図を参照)今の職種のまま、人間らしい仕事に付加価値を出していくか、もしくはAIに代替されにくい自分の人間らしい強みが発揮できる職種を探すべきでしょうね。

「人間の仕事がどうシフトしていくか」:かんき出版さまご提供

こうした変化を見据えて、すでにAIの活用やAIとの協働を進めている先駆的な企業の事例を教えてください。

面白いのは、研究者集団リバネスです。リバネスブレインというAIを使って、社員の関係性資産を「見える化」し、人事評価に役立てているといいます。

リバネスは研究者が自分のアイデアをビジネス化する支援を行う

誰と誰がどれだけ話をしたのか、チャットツール上でどんなコミュニケーションが起きているのか。こうした社内のコミュニケーション流量をデータ化し、新しい発言と発案がなされていることを可視化する。一方、セールスフォースからとれる売上、行動のデータなどとあわせると、「誰が、どのくらいのパッションで動いているか」が見える化できるんです。すると「あの人は周囲が前向きに考える発言が多くて、仲間に良い影響を与えている」などと、社内の関係資産を「見える化」して評価につながる提案をAIがしてくれる。

AIでそこまでできるんですね!

ただし、AIが行うのはあくまで人事評価を考える際の「選択肢の提示」。これまで選択肢を見つけ出すことに人間が時間とコストをかけていました。今後はこれをAIに任せて、かわりに人間はAIが出した選択肢をもとに、対話や意思決定に時間をさけるようになる。「どうしたらもっとみんなが楽しく、力を発揮できるか」「今後どういう人を育てたいのか」。こうした人間ならではの仕事に、いっそう力を注げるようになります。

ただし今のところ、こうしたAIとの協働の事例は一部にとどまっています。しかし、AIが幸せな働き方につなげるツールとしてとらえることが一般的になって初めてシンギュラリティが到来するのだと思います。 未来学者レイ・カーツワイルが、「2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)が到来する」と予測していることは有名ですよね。この言葉は「AIが全人類の知性を超える」という意味で捉えられがちですが、著書を読み解いていくと、「人間とAIとの協働が当たり前になった瞬間こそがシンギュラリティ」というふうに読み取れるんです。つまり人間とAIの共存というニュアンスが強い。 私たちはテクノロジーがどこまで進化するかに目がいきがちですが、本来大事なのは、人間がテクノロジーをどう受け止めていくかというマインド面の変化だと考えています。

AI時代に活躍するエンジニアに必要な力とは?

本書には、技術系(研究開発やエンジニア)にこれから求められる力の変化が書かれていましたね。

私はエンジニアではなく、あくまで働き方の専門家としての意見になりますが、今後のエンジニアは、論理的・分析的な部分をAIにサポートしてもらいながら、新しいアイデアを生み出し、トライアンドエラーをくり返す場面が増えていくでしょう。つまり、感性や身体性、直感が問われる領域に足を踏み入れることになります。

現在、AI化の波を引っ張っている企業にはベンチャーが多い。そこで働くエンジニアたちは常識にとらわれず、未来に目を向けて、面白いことをどんどん仕掛けていく。学習モデルをつくってデータを走らせてみるとか。日々トライアンドエラーを楽しんでいて、周囲にもワクワク感が伝わってくるような人たち。その一方で、AIの潮流を知るために、まだ英語でしか発信されていない資料を読み込むといった苦労すら楽しんでいるといいます。

「楽しんで働く」を実践し、活躍できるエンジニアになるために、どんなことを意識すればよいのでしょうか。

エンジニアは今後AIとの協働を求められる機会が当然増えていきます。その際に大事なのは、いかにテクノロジーの非連続の変化を体験し、非エンジニアを巻き込んでいくか。エンジニアとしての専門性を高めながらも、他の分野の専門家の知恵や経験を借りて、ともに何かをつくり上げる場面が増えていくからです。

そこで私がアドバイスしているのは次の3つです。1つ目は、最先端のテクノロジーに関するインプットをさらに増やすこと。例えば、Python(パイソン)(注1)とTensorFlow(テンソルフロー)(注2)を使って実装したことがあるか。忙しさを理由にせずに実際に手を動かして体験してみることが大切です。

注1:Python:さまざまなプログラムを分かりやすく、少ないコード行数で書けるプログラミング言語。
注2:TensorFlow :Googleが提供している機械学習のライブラリ(汎用性の高い複数のプログラムをひとまとめにしたもの)

2つ目は、エンジニアリングの知識がない人にとって、感覚的に理解しづらいテクノロジーや概念をわかりやすい表現で伝えることです。その際、「このテクノロジーを導入すると、こんなふうにこの仕事が楽になる」などと、イメージしやすい表現で伝えられると、彼らも協力的になってくれます。

一方で「ここまでは可能だけど、それ以上はまだ技術的にできないので、かわりにこれを試そう」などと、相手の期待値をうまく調整するコミュニケーションも意識したいですね。

3つ目のポイントは、感情や身体性に関心をもつこと。私自身、地下鉄で通勤して職場と家の往復の日々だった20代の頃、自分の中で気づきがなくなっていくのを肌で感じました。
日光浴はセロトニンという、幸福感を感じる脳内物質の分泌を促してくれます。こうした身体的メカニズムを無視していると、心も風邪をひきやすくなってしまう。

たしかに感覚や身体をないがしろにしていると、良い発想も生まれないですよね。

身体と心を整えることがパフォーマンスを発揮するうえでいかに大事か。これに最初に気づいて、マインドフルネスや睡眠、食事法などを実践し始めたのがシリコンバレーです。テクノロジーの最先端といえるエンジニアたちが集まる地域から始まった、というのは面白いですよね。タイトな納期で、ハイレベルな開発を行うエンジニアこそ、心身を整える重要性に気づいているんです。 今後は、テクノロジーに近づくことと、テクノロジーから離れて本来もっている身体性を引き出すこと。人工知能時代においては、この相反する両者が必要になります。例えば、スマホの電源をオフにして、山や森、海などの自然にふれるとか。すると、直感や身体で感じ取るセンサーが活性化され、それがアイデアのもとになる新しい「問い」を生んだり、パフォーマンス発揮につながったりするんです。

問いの源泉は「身体的違和感」にあり

本書では「問いを立てる力」が今後ますます求められるとありました。問いを立てる力を磨くのに役立つことってありますか。

問いの源泉である「身体的違和感」を大事にすることですね。例えば、何かの仕事をしていて「きつい」と感じたときって、自然と身体がこわばるのを感じたことってありませんか。「この作業って無駄じゃない?」と思うときには、ダルさが襲ってくるとか。

これは身体がシグナルを出している証拠。違和感に気づいたら、そのままにせず、「これを変えるにはどうしたらいいんだろう?」と考えてみる。体の声に耳を傾けること、そして自分の内から湧いてくる疑問や感情にじっくり向き合うことが、良い問いにつながります。

こうしたことを活かして良い問いを生み出しているモデルケースってありますか。

一番参考になると思うのは、キングコングの西野さん。西野さんは「既成概念を疑い、ひっくり返す」天才です。彼はトーク番組などに出演していたときに、なんともいえない違和感を覚え、それに向き合っていった。その結果、「芸人として、他にやれることがあるのではないか、そのほうが自分が輝けるのではないか」という考えに至り、絵本の制作という一歩を踏み出すようになった。

さらには制作のプロセスにおいても、ふと感じた疑問にじっくり向き合っていたように思います。「映画製作は監督、音響、役者などと分業制なのに、なぜ絵本は一人や二人でつくることになっているのだろうか。絵本も、空を描く仕事、キャラクターを描く仕事などと、各プロフェッショナルが集まって書けば、すごいものができるんじゃないか」。
こんなふうに、自分の中の直感に素直になり、問いと行動を積み重ねてできた『えんとつ町のプペル』という絵本は大ベストセラーになりました。

えんとつ町のプペル
えんとつ町のプペル
著者
にしの あきひろ
出版社
幻冬舎
本の購入はこちら

藤野さんのお話をお聞きして、未来に対して前向きになってきました!

本を読んでもらうことで今後の幸せな働き方について考えていただけるよう全力で書きました。そこにライブならではの温度感が加わると、読者のみなさんに、より腑に落ちてもらいやすい。そう考えて、できる限り多くの方に直接考えを届けられるよう全国各地で講演、イベントを開催しています。フライヤー読者の方にも、どこかのイベントでお会いできたら嬉しいです。
(開催日程・場所などの詳細はこちら→http://hatarakigokochi.jp/campaign/)

藤野 貴教(ふじの たかのり)

株式会社働きごこち研究所代表取締役。ワークスタイルクリエイター。組織開発・人材育成コンサルタント。

グロービス経営大学院MBA(成績優秀修了者)。人工知能学会会員。外資系コンサルティング会社、人事コンサルティング会社を経て、東証マザーズ上場のIT企業において、人事採用・組織活性・新規事業開発・営業MGRを経験。

2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。「ニュートラルメソッド」を基に、「働くって楽しい!」と感じられる働きごこちのよい組織づくりの支援を実践中。2015年から現在の研究テーマは「人工知能の進化と働き方の変化」。研修やセミナーの受講者はのべ1万人を超える。2006年、27歳のときに東京を「卒業」。愛知県の田舎(西尾市幡豆町ハズフォルニア)で子育て中。家から海まで歩いて5分。職場までは1時間半。趣味はスタンディングアップパドル(SUP)と田んぼ。

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文責:松尾 美里 (2017/07/13)
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