利益を生まない経理部を強力な経営参謀に変える方法
経理マンの本当の役割とは何か

世間では、時として「会社の宿り木」「コストセンター」と揶揄され、本来の役割が軽視されがちな経理部。こうした課題に向き合い、経理部本来の役割を描き出したのが、ベストセラー『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのか?』の林總さんによる最新作『会計は一粒のチョコレートの中に』(総合法令出版)です。

舞台は、過剰債務に苦しむ菓子メーカー、ジャパン・スイーツ(JS)。米国のトップビジネススクールを卒業した主人公・南浩介は、一流コンサルティング会社への就職を取り止め、苦境に陥るJSへの入社を決意。しかしJSは不採算事業のチョコレート部門を分社化し、浩介はその会社の社長を押し付けられてしまいます。管理会計を駆使することで経営を立て直そうとする浩介たちの奮闘が描かれています。

今回は、著者の林總さんに会計を会社経営に役立てる方法について伺いました。

経理部=魅力がない?

『会計は一粒のチョコレートの中に』の執筆の狙いについて教えてください。

会計は一粒のチョコレートの中に
会計は一粒のチョコレートの中に
著者
林 總
出版社
総合法令出版
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経理の本当の役割や魅力を伝えたいという気持ちが根底にあります。会計は数値をとりまとめるだけの、一見つまらない仕事だと思われがちですが、その原因の一つは、会計の本質を理解して、経営にどう活かすべきかを指導できる人が少ないから。例えば利益の本質的な意味合いを正しく説明できる人はあまりいないのが現状です。

本書でも「経理は会社の宿り木」、つまりコストセンターだというコメントが紹介されていました。なぜそのように考える方が多いのでしょうか?

それも経理の本来の役割を理解していないからです。
会計情報を分析すれば、経営の実態を可視化し、問題箇所を特定することができます。それをもとに経営者とともに改善策を練っていくのが経理マンの本来の姿のはず。決算書類を作成して外部に報告するというのは、業務の一部にすぎません。これでは魅力を感じる人は少ないでしょう。

会社のキャッシュが増えるような提案、経営層がアクションをとれるような情報提供を行い、付加価値を生み出すのをサポートしていくことが経理部のミッション。経理部は経営に直結する重要なポジションであり、このミッションを達成することで経理部がプロフィットセンターとして機能できるようになるのです。

日本の経理業務は「退化」している

2006年に『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのか?』を発表されていました。当時に比べて、日本の経理・会計業務への意識は進歩したと思いますか?

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか? (PHP文庫)
餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか? (PHP文庫)
著者
林 總
出版社
PHP研究所
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「経営のための会計」という意味では、ほとんど進歩はないと思います。会計の知識という点では、むしろ今のほうが退化しているといってもよいかもしれません。以前は経理マン自らが取引を仕訳しないと決算書をつくれなかった。ですが現在は、会計ソフトに仕訳を入力するだけ、大手の企業では自動で仕訳が生成されますから、「それぞれの勘定科目がなぜこのように変動するのか」といったことを考える機会がほとんどない。思考停止に陥った経理マンがますます増えていると感じます。

20年ほど前は、そもそも会計を経営戦略にとりこんでいくという発想をもった日本の経営者は企業がほとんどいなかった。会計がもつ発信力を日本で初めて経営戦略に取り込み大成功を収めたのが、日産のカルロス・ゴーン社長でした。彼は会計を経営の武器として操ることに長けています。日産再生に着手したのは1999年でした。徹底した合理化によって利益が出る財務体質に変えつつ、会計上は多額の特別損失を計上して赤字を限界まで膨らませる。翌年は、含み益のある不動産の売却や会計方法の変更などで「V字回復」を演出したのです。大赤字となれば社員の危機意識が高まり、資材購入の交渉力が増す。その後で黒字転換すれば世間の見る目は変わるし、社員のモチベーションアップにもつながります。そのやり方が正しかったかどうかはともかく、会計をうまく活かすという点で彼にかなう経営者は日本にはほとんどいないでしょう。

会計の活かし方も人次第、ということですね。本書では、不正会計を指南した三沢と、チョコレート部門の子会社の経理をとりしきる高橋という2人のキャラクターを対照的に描いています。どのようなところを意識されましたか?

三沢のような人は経営者だけでなく、経理の専門家にもいます。しかも数字を操作して、経営の実態をごまかすことが経理マンとしての能力と勘違いしている。本来の経理マンの役割は、見せかけの数字づくりに腐心するのではなく、会社の現状を正しく把握して健全な体質になるための方法を経営者に助言することですよね。
三沢のキャラクターは「会社の病気を治さずに、化粧ばかりが上手な人」が、いまの世の中にたくさん溢れていることに警鐘を鳴らす意味で描きました。

経理がうまく機能している会社の特徴

親会社が不正会計に手を染める一方、チョコレート部門は管理会計を活用して再生を果たします。経理部を経営に活かせている会社とそうでない会社は、どういうところに違いがあるのでしょうか?

経理をギリギリの人数で運営している会社がありますが、それはもってのほか。それでは会社が抱える問題点に気づき、改善策を検討することはできません。

数多くの会社を見てきて確信したのは、経理マンこそが会社の要であり、優れた経理マン育成の方針をもつことが、会社を安定成長させる鍵だということです。
優秀な経理マンが具備すべきの条件は、管理会計と業務とシステム。この3つの知識を習得し、経験を積むことです。こうした経理マンを育てるには、最初から経理に配属して経理一筋で育てるのではなく、まず製造や営業といった複数の現場を経験させることが必要です。そうすれば、管理会計と業務とシステムの関わりを体感で理解できるようになる。

こうした信念で5年後、10年後を見据えて計画的に経理マンを育成するならば、経理部は紛れもなくプロフィットセンターとして機能するはずです。

経理部のほかに財務部がある会社もありますが、両者の関係についてはどのように考えていらっしゃいますか?

お金に関する意思決定を担っているという意味で、財務の役割は経営において非常に重要です。日本だとそもそも経理と財務の役割があいまいですし、CEO(最高経営責任者)が一番上のポジションだと思われがちですが、海外ではCFO(最高財務責任者)の役割がCEOと同程度に重要視されています。うまくいっている会社はこの事実を認識していますね。

大事なのは経理マンが財務の視点も持ち合わせていること。経理的な視点だけだとコストに着目した発想が中心になってしまいます。例えば工場設備の修理があると修繕費がかかり、これが重なると赤字になってしまう、といった考え方です。この考え方も重要ですが、それだけではコスト削減の提案しかできません。

私が携わったとある菓子メーカーでは、菓子をつくる工程で製品種類の切り替えを頻繁に行っていたため、その都度、配管に残った菓子の材料がロスになってしまっていました。そこで、生産計画に支障がない範囲で同一製品を連続生産するように生産計画を組むことで、ロスが減り、会社の利益増加に貢献することができました。ここで大切なことは、材料のロスはコストではなく、現金だということです。ロスが増えれば、お金が足りなくなり銀行から借金を繰り返していたのですが、生産計画を変えただけで借金は驚くほど減ったのです。

このように財務的な視点があれば、より包括的に会社の課題をとらえられます。在庫の山を減らしお金を生むにはどうしたらいいか、生産性を上げてロスを減らすにはどうしたらいいかといった提案ができる。これが経理部の本来のミッションです。そうすれば経理部が「宿り木」などと言われることはないでしょう。

近代会計学の父も、会計の本質をドラッカーから学んだ

本書ではドラッカーの利益概念も紹介されていましたね。

ドラッカーは『現代の経営』で利益がなぜ必要かということを次のように説明しています。1つ目は業績を判定する基準として。2つ目は事業を存続させるための活動資金として。そして3つ目は事業の拡大とイノベーションに必要な資金を調達するために必要なのだと。
私の考える経理の役割とは、これら3つを実現させることだと考えています。

ドラッカーを手本にすべき理由はなんでしょうか?

ドラッカーは、会計や財務の理論を世界の誰よりも早く体現していたからです。ドラッカーの本というとマネジメントやマーケティングのバイブルと考えられていることが多いですが、実は財務の視点から見ても金言に満ちている。

例えば、世界最高の管理会計学者と認知されているキャプランは1987年にActivity Based Costing(活動基準原価計算)の理論を提唱したことで有名ですよね。ですが、ドラッカーは1960年代の時点ですでに、『創造する経営者』という著書の中で同様の理論について言及しているんです。

Activity Based Costing : どの製品やサービスのために発生したのかがわかりにくい間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に配賦することで、生産や販売活動のコストを正確に把握しようとする考え方。

創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
著者
ピーター・F・ドラッカー
出版社
ダイヤモンド社
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なぜドラッカーが理論を打ち立てられたのかというと、ドラッカーはゼネラルモーターズ(GM)の会計担当重役だったドナルドソン・ブラウンから、最先端の管理会計を学んできたから。また、GMのトップを長年務め、MITの数学科主席でもあったスローンのもとでマネジメントを教わりました。その後ドラッカーはGEやシアーズといった、当時アメリカの名だたる企業でコンサルティングを行い、最先端のノウハウを自分のものにしていった。それゆえに会計や財務にも精通し、その後の会計学者に大きな影響をもたらすことができたのです。

ドラッカーの書籍は会計の根本を学ぶうえで、現在でも読むべき本で、いまでも読むたびに新たな発見があります。経理業務を担う人たちにはぜひお薦めしたいですね。

ドラッカーを座右の書として挙げる人は多いですが、新たな魅力を発見できました。貴重なお話をありがとうございました!

会計は一粒のチョコレートの中に
会計は一粒のチョコレートの中に
著者
林 總
出版社
総合法令出版
本の購入はこちら

林 總(はやし・あつむ)

公認会計士、税理士、明治大学専門職大学院会計専門職研究科特任教授(管理会計)

1974年中央大学商学部会計学科卒業。外資系会計事務所、監査法人勤務を経て1987年に独立。以後30年にわたり国内外200社以上の企業に対して経営コンサルティングを行うとともに、執筆、講演を行い、大学院で管理会計を教えている。著書は管理会計本としては異例のベストセラーとなった『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』(ダイヤモンド社)をはじめ、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)、『経営分析の基本』(日本実業出版社)ほか多数。

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文責:苅田 明史 (2017/08/03)
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