中東のシリコンバレー、イスラエルに世界が注目するワケ
日本企業がイスラエルとうまく付き合うには?

アップル、グーグル、マイクロソフト、インテル、フェイスブックといった名だたるグローバル企業が進出し、研究・開発拠点を開設しているイスラエル。「スタートアップ大国」、イスラエルになぜ世界が注目しているのか。

今回インタビューさせていただくのは、『スタートアップ大国 イスラエルの秘密』(洋泉社)の著者で、株式会社イスラテック代表取締役の加藤清司さん。加藤さんは2006年からイスラエルのスタートアップについての情報発信を始め、2009年にイスラテックを創立されています。

スタートアップ大国、イスラエルのスタートアップと日本企業が連携するうえでのポイントをお聞きしました。

アップル、グーグル、フェイスブック。名だたる企業がイスラエルになぜ投資するのか

欧米諸国からは「中東のシリコンバレー」と称され、四国くらいの規模に約6000社のスタートアップがひしめく。その中心都市テルアビブは一面の青い海に面している。
スタートアップ大国イスラエルの秘密
スタートアップ大国イスラエルの秘密
加藤清司
洋泉社
スタートアップ大国イスラエルの秘密
スタートアップ大国イスラエルの秘密
著者
加藤清司
出版社
洋泉社

スタートアップ大国と呼ばれるイスラエル。イスラエルでは、なぜテクノロジー投資が盛んなのでしょうか。

企業の命題はいかに速く、効率よく、他社が追随できないような製品やサービスをつくれるか。新規事業には、独創的な発想と高い技術力をもった人が欠かせません。そうした人材に出会える確率が高い国として、いまイスラエルに注目が集まっています。

もちろん、シリコンバレーを筆頭に、ニューヨークやボストン、イギリスのオックスフォード、ケンブリッジ、インドのバンガロール、中国の北京や深圳(シンセン)など、テクノロジーのホットスポットは世界各地にあります。イスラエルはこれらに比べて、人口対比で圧倒的多数の優秀な人材が輩出されている。

これに目をつけたインテルやグーグルなどの米ハイテク企業や、韓国のサムスンは今から10年以上も前にイスラエルに進出し、R&D(研究・開発)拠点を置いていました。イスラエルのスタートアップへの投資金額は、2015年の一年間でみても5,000億円を超えており、一人当たりでは日本の30倍にあたります。ここ数年では、投資金額の半分以上が国外からのものという事実も、イスラエルが世界から高く評価されていることの表れといえるでしょう。

日本はやっとその潮流に追いついてきたという状況なのですね。

現に、イスラエルのスタートアップの実績は、世界シェア80%の自動運転支援システムを開発するモービルアイ社、画期的なサイバーセキュリティシステム「ファイアウォール」を開発したチェックポイント社など、枚挙に暇がありません。

グローバル企業はイスラエルのスタートアップの技術を取り込みたい。一方、スタートアップは技術を売り込んで大型投資を受けたい、高値でイグジットしたいと考えている。こうして両者の狙いが一致し、世界有数のスタートアップ・エコシステムが構築されているのです。

テルアビブ地中海のサンセットは目を見張るように美しい。
現地中堅のスタートアップのオフィス。シンプルなエントランスにも合理的な面がうかがえる。

常に本質を考える、合理主義――。イスラエル人の特性に影響を及ぼす「徴兵制」

イスラエルでスタートアップが次々に生まれる背景を教えてください。

まず、彼らの本質的思考力の高さが大いに関係しています。イスラエルは、周りが敵国に囲まれており、常に緊張状態にあります。いつ攻撃されるかわからない状況では、自分たちの命を守るために一番クリティカルな問題は何かを考えて、その対処に集中せざるを得ない。

一方で、イスラエルには人的資源以外の資源に恵まれていないという特徴があります。水の問題はその典型例で、そこから水や肥料の消費量を抑えられる点滴灌漑(かんがい)という技術が生まれました。水資源が豊かで、逆に降水量が多いときに備えたダムや貯水池をつくる日本とは対極的かもしれません。資源が不足しているからこそ、「ないところからいかに知恵をしぼって、何をつくり出すか」という発想が根付いていったのでしょう。

こうした問題の本質を見抜く力やゼロからイチをつくる発想力は、起業家や研究・開発に欠かせません。

イスラエルでは徴兵制度もありますよね。

徴兵制もスタートアップの増加に大きく関係しています。もちろん他国でも徴兵制はありますが、イスラエルでは19、20歳の若者が、部下数十人の命を預かって最前線に立ち、23歳くらいで中隊の部隊長として一つの地域の防衛を任される。
若くして、極限状況での行動を強いられるからこそ、リーダーシップの塊みたいな人材がどんどん輩出されるのです。

また、起業を支えるネットワークが、軍隊の同窓組織を中心に張り巡らされているのもイスラエルの特徴的なところです。イスラエル国防軍には、サイバー攻撃・防御の超精鋭部隊である8200部隊という組織があります。
この8200部隊出身のエリートが立ち上げた「TEAM8」というシンクタンクかつファンドは、無線技術やサイバーセキュリティに強みをもつスタートアップの輩出に、大きな役割を果たしています。

イスラエルでは大企業、スタートアップ、投資家などのネットワーキングイベントが多いときには毎週のように行われている。

イスラエル人はとことん合理的。例えば、グローバル企業がアクセラレータを始める背景は何か。これは、スタートアップと1社ずつ提携したりM&Aをしたりするより、まとめて20〜30社の支援をするほうが、幅広い領域をカバーできて効率的だからなんです。こうして毎年800社から1000社の会社が新たに生まれており、イグジットも最短で1年というケースもあります。

日本企業のスピード感ではなかなか想像できないでしょうね。

日本だと、年に3、4社のスタートアップと提携できれば良いほうではないでしょうか。そもそも日本の大企業では、稟議を通したりNDA(秘密保持契約)を結んだりするのに数カ月かかることもあり、イスラエルのスピード感とは歴然とした差があります。これではスピードが速いイスラエル企業と日本企業との連携はままならないでしょう。

イスラエルのスタートアップとうまく連携するには?

日本企業がイスラエルのスタートアップとうまく連携し、イノベーションにつなげていくために留意すべき点は何ですか。

ポイントは、3つあると考えています。1つ目は、日本の企業側が現地で会社訪問をする前に、自分たちの求める成果を明確に具体化しておくこと。製品開発の新しいコンセプトなのか、知財なのか、それとも人材なのか。せっかくスタートアップを訪問したのに、「目指す成果は何か?」と聞かれて、答えに窮する日本企業も少なくない。これでは提携の話は進みません。

イスラエル側は、この打ち合わせで何が得られるのかを明確にし、「この会社と協業するメリットがあるのか」を速く判断したい。そのため、日本企業側が具体的なアジェンダ(議題)を用意せずに「まずは顔合わせ」という態度では、「ギブアンドテイクができない関係性」とマイナスな印象を与えかねません。

そこでまずは、自社がめざすゴールや得たい成果を具体的に話すべきです。「それを実現するにはこの技術が必要だし、将来的にあなたたちにもこんなメリットがある」などと、ゴールへの道筋をロジカルに話す必要があります。

彼らの合理主義を前提に進めていくことが大事なんですね。

2つ目は、「小さな実績を積み上げること」。トップの独断で進められるオーナー企業でもない限り、数億円の投資をするといった決断をその場で下すことはかなり難しい。
だから例えば、「将来的に数十億円規模のビジネスの構想を描いている。その実現に向けた最初のステップとして数百万円規模の共同研究から始めたい」などと説明する。将来の規模感をある程度見せながら、足元の現実的に進めるステップの金額を提示することで、「イスラエルの会社も、始めのステップで上手く行けば、次がある」と思ってもらえます。日本側も、まず、小さいところから始めることで、相性を確認でき、小さな実績を積み上げていくことで相互の信頼も醸成されていきます。

3つ目は、意思決定権をもつ人と、提携する技術に詳しい人の両方がそろって交渉に臨むこと。「日本からCEOが来る」といえば、イスラエルのスタートアップ側は、当然CEOが出てくるので、話が進みやすい。また、技術に詳しい人が同席すれば、スタートアップ側も「この会社はちゃんと話ができる」と考え、より現実的に連携の話を進められます。

いずれにせよ、イスラエルのスタートアップとの連携で大事なのは、彼らのスピード感にできるだけ合わせることです。

もし意思決定者が現地に行けない場合には、「自社のトップに承認してもらうために、御社の技術の成果を示す具体的な事例を提供してほしい」などとスタートアップ側に伝えれば、彼らは承認にこぎ着けられるよう協力してくれるはずです。

イスラエルの情報の仕入先

日本のビジネスパーソンはイスラエルのスタートアップの動向を知るために、どんな点をキャッチアップすべきでしょうか。

まずはイスラエルに足を運んでみてほしい、というのに尽きます。今でこそイスラエルに関する情報はネットでもあふれていますが、現地で得られる情報量と密度は断然違います。入口としては、2カ月に一度くらいの頻度で開催される、テクノロジーのカンファレンスがおすすめです。自動車、AI、セキュリティ、ドローンなど、興味のあるテーマのときを狙うとよいでしょう。

毎年秋に開催されるスタートアップの最大級の祭典。DLD Tel Aviv Innovation ConferenceのHP

現時点ですぐに現地には行けない読者に向けて、おすすめの本はありますか。

これまで50冊以上、イスラエルの歴史や思考法などの本を読んできました。おすすめは『ユダヤ人の頭のなか』(インデックス・コミュニケーションズ)。イスラエルの歴史、文化、教育、思考法、交渉術などが網羅されています。彼らが頭脳で新しい価値を社会にもたらすという「ブレイン・サクセス」をめざしている、という点が克明に書かれていて、イスラエルに対する認識が変わりました。

また、ぜひ読んでいただきたいのは、『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダイヤモンド社)。イスラエルのイノベーションと起業家精神の源泉を解き明かし、その成功を他国でも実現するための提言まで書かれていて、非常に実践的です。

ユダヤ人の頭のなか
ユダヤ人の頭のなか
アンドリュー・J・サター
インデックス・コミュニケーションズ
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ユダヤ人の頭のなか
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アンドリュー・J・サター
出版社
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アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?
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ダン・セノール
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アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?
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ダン・セノール
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今後はイスラエルについて学んできたこと、これまで築いてきたネットワーク、現地の拠点を活かして、イスラエルに日本の将来を担う人材を派遣するといった形で、起業家教育にも関わっていきたいですね。また、イスラエルの技術や人材を活用して、「破壊的な」イノベーションを興したいと考える日本企業をサポートする活動にも、今以上に力を入れていきたいと考えています。

イスラエルに一度足を運びたくなりました。貴重なお話をありがとうございました!

スタートアップ大国イスラエルの秘密
スタートアップ大国イスラエルの秘密
加藤清司
洋泉社
スタートアップ大国イスラエルの秘密
スタートアップ大国イスラエルの秘密
著者
加藤清司
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洋泉社

加藤 清司

1980年11月19日浜松生まれ。浜松北高、静岡理工科大学卒、2006年、「とある無線技術」に注目し、そのルーツを調べ、イスラエルにたどりつき、イスラエルへと旅立ち2ヵ月過ごす。帰国後、「イスラエルのハイテク」をテーマに情報発信を開始すると、企業や行政からイスラエルに関する調査の仕事依頼がくるようになり、株式会社イスラテックの創業に至る。開始時から一貫して、一次情報を得ることを重視し、独自のイスラエルスタートアップのデータベースを構築している。現在、日本を代表するテクノロジー企業を対象に、イスラエルのスタートアップとのアライアンスを支援。2017年1月、『スタートアップ大国イスラエルの秘密(洋泉社)』を出版。

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文責:松尾 美里 (2017/09/21)

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