生産性を上げたいなら今すぐスマホを手放そう!
脳科学者からビジネスパーソンへの提言

普段の生活習慣には、ビジネスパーソンの集中力を奪う、思わぬ落とし穴があることが脳の最新の研究によってわかったそうです。

今回インタビューさせていただくのは、人の脳活動のしくみを明らかにする「脳機能イメージング」のパイオニアで、東北大学加齢医学研究所 所長の川島隆太先生。任天堂DSのゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」の監修で一躍有名に。

2017年4月、『頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと』(アチーブメント出版)を上梓された川島先生。脳に関する正しい知識を、ビジネスパーソンの生産性向上に活かすためのポイントは何なのでしょうか。

JINSとの共同研究で明らかになったこと――「眼は口ほどに物をいう」

頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと
頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと
著者
川島隆太
出版社
アチーブメント出版

ビジネスパーソンの多くがゾーンのような超集中状態をつくりだしたいと考えています。川島先生は、メガネアイウェアブランドJINSと「集中力マネジメント」の共同研究をされているとのこと。研究の概要について教えてください。

数年前、JINSの田中社長から「頭がよくなるメガネをつくりたい」という申し出がありまして。それは難しいですが、センサーを使って、頭がよくなるお手伝いをするメガネなら可能かもしれない、と提案しました。

議論の末にたどり着いたのが、3点式眼電位センサーという方法です。眉間と鼻パッドに3つの電極をとりつけて目の動きと脳の動きを測定すれば、脳の働きを推測できるのではないか。こうして誕生したのが、目の動きと頭の動きを測るメガネ型ウェアラブル、JINS MEME(https://jins-meme.com/ja/)(※1)です。

JINS MEMEで得たデータの応用範囲は広いと語る川島先生。

将来的に、JINS MEMEで測定した情報から、職場の生産性向上や教育における生徒の理解度の把握・向上、認知症の早期の診断などの用途に役立てられるのではないか、と考えています。
(※1) 身体の動きを測定するために使われる6軸センサー(3軸の加速度センサーおよび3軸のジャイロセンサー)が搭載されたメガネ型ウェアラブルもある。

実験でわかったことは何ですか。

興味深いのは、眼の動きやまばたきは、想定していた以上に人の疲労度合いや集中度合いについて多くを物語ってくれるということです。実験によって、ゾーン状態に近づいていくと、まばたきの頻度が少なくなり、間隔のばらつき、まばたきの強さが安定してくるということがわかってきました。

推測できるのは、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」の働きが抑制されているということ。DMNとは、集中時と真逆で、気が散っているときに働いている脳内ネットワークのこと。脳のアイドリング状態のようなもので、意識的な活動をしていないときにでもエネルギーを使っているわけです。しかし、目の前のことに集中するにつれ、このネットワーク内の血流が下がっていく。ゾーン状態に入っている人の脳波を測定したら、この血流が下がっているのを確認できるはずです。

今後研究が進めば、「こういう工夫をするとゾーンに入りやすくする」ということが分かるかもしれません。

「ゾーンに入りやすくする」のを妨げる最大の元凶とは?

ゾーン状態に入りやすくなる仕組みが分かれば、勉強やスポーツなどさまざまな分野に応用できそうですね。

はい、その分野については産学連携で研究中ですが、実はいま、ゾーン状態に入ることを妨げる要素を排除することがますます大事になると考えています。

その最大の元凶がスマートフォンです。いくつかの企業と脳のトレーニングアプリをつくるといった共同開発を進めてきましたが、そこで衝撃的な発見がありました。大人の多くが、一つのアプリに集中できるのはせいぜい30秒程度だということが判明したんです。

たった30秒ですか?

はい、たとえば動画を見ていたと思ったらメッセージを見て、オンラインゲームをして。私の監修している「鬼トレ(※2)」は1セッション5分。これでもユーザーからは「長すぎる」という声があったほど。
(※2)鬼トレ:ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング

ゲームに限らず、仕事上のメッセージのやり取りやニュースチェックなど、スマホを通じたマルチタスキングは日常茶飯事ですよね。複数の活動を同時にこなせて生産性が高いように見えます。しかし、これは一定時間、一つのことに集中しているときと比べて、パフォーマンスが確実に下がっています。
色々な作業にコロコロ切り替えることをスイッチングといいます。スマホを過剰に利用している人は、このスイッチングがクセになっていて、一つの作業に集中できなくなっているんです。

「ビジネスパーソンの集中し続ける力が衰える一方」と、警鐘を鳴らす川島先生。

普段何気なく使っているスマホに慣れすぎると、日常生活でも集中力が失われてしまうなんて、怖いですね。

これに符合する事実として、活字を長い時間読む習慣がどんどん減っています。本を読むなら最低5~10分はかかる。ところが、スマホに慣れすぎていると、新聞の見出しをスキャニングできても、じっくり一つの記事を読み切れない。

多くのビジネスパーソンが陥っている「スマホ依存」は、生産性向上の大きな妨げとなっています。子どもは学校の授業中など、強制的にスマホを切れる。しかし、大人の場合、SNSやメールの通知が絶えないので、離脱するきっかけがつくれない。その意味では、子どもよりも深刻です。

たしかに、ネットの記事を読み終える前に、別の通知に気がとられて中断するというのは思い当たります。

神奈川県の久里浜医療センターでは、ネット依存についての研究や治療が行われています 。判明しているのは、スマホでSNSチェックをせずにいられない状態が、アルコールや薬物中毒と本質的には同じということ。スマホ依存から抜け出すのは難しいのが現状です。

このように、スマホ漬けの生活習慣によって、多くのビジネスパーソンの「ゾーンに入る能力」が衰えてしまっているんです。

スマホ依存から脱却するには?

こうした危険な状態から抜け出す道はあるのでしょうか。

まずは、スマホがどれだけ自分の集中力を妨げているかを認識することです。おすすめは、自分の時間の過ごし方を可視化し、把握すること。子どもが夏休みの過ごし方を予定表に落とし込むように、大人も一日の予定と、実際の過ごし方を細かく書き出してみる。いかにスマホで時間を浪費しているかが自覚できるでしょう。

時間の使い方を可視化するのですね。

逆にいうと、自らスマホとのつきあい方を改められる人は、他のビジネスパーソンと差をつけられるチャンスがあるといえます。業務中にスマホを強制的にオフにする時間帯を設ける、スマホを業務用と私用とに分けてみる。ゾーンに入りやすくして、生産性を高めるには、スマホをオフにすることに尽きるのですから。今後ビジネスパーソンとしての命運を決めるのは、スマホとのうまい付き合い方ができるかどうかといっていいでしょう。

スマホの使い方のほかに、ビジネスパーソンが生産性を高めるのに役立つ行動習慣はありますか。

お薦めしたいのは、朝食をとる習慣です。著書『頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと』に書いたように、私は7年間にわたって子どもの脳の成長に影響を及ぼす要因を調査してきました。仙台市の7万人の子どもたちを対象とし、心理学、認知科学、脳科学の研究者たちと調査データの解析を行ったんです。
すると、子どもの脳の成長に特に強い影響を及ぼすのは、「親子でコミュニケーションをとりながら一緒に朝食を食べる習慣」だと判明しました。

この朝食習慣が大事なのは、ビジネスパーソンも同じ。東北大学加齢医学研究所と農林水産省が共同で行った大学生・会社員対象の調査では、朝食習慣がないまま大人になった人は、仕事への意欲が乏しいことが明らかになりました。さらには、生活も不規則になりがちで、ストレスを感じやすい傾向があるのです。

本来は家族と一緒に食べたいところですが、一人暮らしなら一人でもかまわない。いずれにせよ、朝食習慣は、意欲や生産性を左右する重大事項なのです。

活字を読み続けられる人に、アイデアが降りてくる

集中力に関連して、アイデアを出しやすい脳を育てるのに役立つことはありますか。

大事なのは、活字からしっかり知識を吸収する習慣をつけること。新しいアイデアが生まれる際には、前頭前野にくわえ側頭葉も活発化しています。ブレストで他者の意見に触発されて、次々に意見が出てくるときも同様です。

この側頭葉は、語彙を中心とした知識を貯蔵するデータベースのようなもの。言語に関する知識を蓄えれば蓄えるほど、それらを組み合わせて新しいアイデアが生まれやすくなる。だから普段から本を読んでいない人に、いきなり面白いアイデアが降りてくることはまずないでしょう。

現在、活字をしっかり読み続けられるビジネスパーソンは減る一方です。だからこそ、一つの文章としっかり向き合い、新しい知識を蓄える努力を怠らない人にとっては、創造性を高めるチャンスだといえます。

最後に、川島先生が今後注力していきたい研究・活動について教えてください。

主軸となるのは、脳機能イメージングの基礎研究ではありますが、研究から得た知見を社会に還元したいという思いが強くあります。とりわけ子どもたちの健やかな成長、脳の発達に寄与したいと考えています。

『頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと』の執筆をはじめ、子どもの脳についての情報発信を続けているのも、現代の子どもたちの生活習慣がその後の成長や、幸福度に想像以上にマイナスの影響を与えてしまうという衝撃的な事実を知ってしまったから。知ったからには、伝える責任がある。
今後、教育現場においてエビデンスベースの施策がとられるように、子どもたちの成長に寄与する研究結果の発信を続けていきたいですね。

フライヤーも「活字としっかり向き合う」ことの重要性を読者に伝えていきたいと思いました。貴重なお話をありがとうございました。

頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと
頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと
著者
川島隆太
出版社
アチーブメント出版

川島 隆太(かわしま りゅうた)

東北大学 加齢医学研究所 所長

スマート・エイジング国際共同研究センター長

東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所、東北大学加齢医学研究所助手、講師、教授を経て、2014年より同研究所所長。

任天堂DSゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」、学習療法を応用した『川島隆太教授の脳を鍛える大人の音読ドリル』シリーズ(くもん出版)などで一躍時の人に。人の脳活動のしくみを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能開発研究の国内第一人者。研究で得た知見を産学連携に応用、その実績から総務大臣表彰、文部科学大臣表彰。

『脳が活性化する 大人のおもしろ算数脳ドリル』(学研プラス)など著書多数。

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文責:松尾 美里 (2017/10/05)
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