立川流真打ちが語る、いま必要な「巻き込まれ力」とは?
ビジネスで成功したいなら落語を聴け!

立川流真打ちが語る、いま必要な「巻き込まれ力」とは?

出版業界有志が開催した、ビジネス書販売決起集会ビブリオバトル。そこで見事優勝に輝いたのが『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』(日本実業出版社)です。著者は、ワコールの営業マンを経て、9年半の前座生活を乗り越えた立川流真打ち・立川談慶さん。

落語界の名物キャラクター「与太郎」は、まぬけな失敗をしでかす「愚か者」の代名詞。にもかかわらず、彼は困ったときに周囲に助けてもらえる愛され者でもあります。そんな与太郎の生き方、古典落語の世界からビジネスパーソンが学ぶべき姿勢は何なのかについてお聞きしました。

なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
立川 談慶
日本実業出版社
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なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
著者
立川 談慶
出版社
日本実業出版社
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与太郎は巻き込まれる天才だった?

── 与太郎の魅力はズバリ何ですか。

与太郎は、バカだけれど愚直そのもの、という落語には欠かせない存在で、「与太郎噺」というジャンルがあるほど人気のキャラクターです。

そのなかのひとつに「孝行糖」という演目があります。
親孝行を称えられて報奨金をもらった与太郎は、「それを元手に孝行糖という名前の飴を売ったらどうか」と長屋の大家たちから提案されます。言われたとおりに派手な衣装を着て、鐘と太鼓を鳴らしながら、雨の日も風の日も毎日欠かさず売り歩くのですが、「食べれば子どもが親孝行になる」と評判を呼び、飛ぶように売れることに。
あるとき、バカ正直な与太郎は「鳴り物禁止」の武家屋敷でも同じように飴を売り歩いてしまい、門番に六尺棒でうち据えられてしまいます。運よく通りがかった顔見知りに助けられ、「お前、どこを打たれたんだい?」と聞かれたところ、「こうこうとー、こうこうとー(ココとココ)」と答えた、という見事なオチ。

ほかにも与太郎は常識をことごとく覆すようなボケをかましてきますが、その愚直さゆえに人から愛されてやまないわけです。実は、与太郎が愛される最大の理由は、非常に受け身で、何より「巻き込まれ力」が高いことにあるんです。

落語さながらのテンポで軽快に語る談慶さん。「落語の登場人物で与太郎が一番好き」だとか。

── 社内外のステークホルダーを動かしてプロジェクトを成功させるというように、人を動かしていく「巻き込む力」がビジネスでは大事だといわれます。なぜ「巻き込まれ力」が大事なのでしょうか。

巻き込まれ力というのは、置かれた環境や立場を受け入れて、相手からどんな無茶ぶりがこようと対応する力のこと。徹底的に受信者サイドに立てる能力ともいえます。例えば上司からどう考えても難しい仕事を頼まれたとします。このとき、我慢して抱え込んだり、気が乗らないからと手を抜いたりするんじゃなくて、「まぁ、やってみるか」と受け止めて、ひとまず乗ってみること。

与太郎だって、周囲から言われるがままに派手な衣装を着て、鐘と太鼓を鳴らして飴を売り歩くなんて、自分の意志はないのかと思うくらいでしょう? でも売上という成果が出ているし、トラブルにあっても周囲に助けてもらえている。この巻き込まれ力は落語の世界に限らず、現代のビジネスパーソンにこそ重要な力なんです。

もちろん壮絶なパワハラからは逃げないとダメですよ。でも、そうでなければとことん巻き込まれてみる。すると巻き込む側の心意気やパラダイムが体感としてわかります。だから今度自分が巻き込む側に立ったときに、「こうしたほうが協力を得やすい」などと活かせることが多いんです。

師匠談志の口ぐせは「囃されたら踊れ」。この精神を体現したのが与太郎でした。巻き込まれ力=与太郎力といってもいい。

与太郎力を磨く一歩として、今のビジネスパーソンもまずは与太郎を笑って受容しよう、「昔はこんなバカやっても許されたんだな」と笑い飛ばすことでラクになれるし、仕事への見方も変わるんじゃないか。こうしたメッセージを著書『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』を書こうと思った理由でもあるんです。

師匠談志の無茶ぶりに対応する前座9年半で磨いた与太郎力

── 談慶さんは与太郎力をどのようにして磨いてこられたんですか。

9年半の前座時代ですね。新卒で入ったワコールで営業として楽しく働いていたんですが、師匠談志に魅せられて立川流に入門しました。落語の修行では通常、数年程度で二ツ目に昇格することが多いのですが、私の場合は9年半もかかってしまった。

師匠談志は、小さなことでもよく見て機転が利く「敏(敏感さ)」と、私みたいな不器用な弟子にも、見放さずに目をかけてくれる優しさというか、「鈍(鈍感さ)」をもちあわせた天才的カリスマ。
「おい、あれ持ってこい」と言われて、モタモタしようものなら怒られる。「俺を快適にしろ」。師匠のこの言葉をクリアすることが前座時代のミッションでした。

── それは究極の無茶ぶりですね!

ただ、単に無理難題を弟子に押し付けていたんじゃなくて、これくらい細やかに気を配って絶妙なタイミングで動けるようにならないと、落語で観客を魅了できないよ、という愛のムチだったんです。

師匠談志の無茶ぶりにひたすら対応する中で、メタ認知力も磨かれていきました。例えばお客さんが携帯の着信音を寄席の最中に鳴らしてしまったとき、どういえば場を和ませつつ落語に集中できる環境づくりに協力してもらえるかとか。今自分が置かれた立場で周囲に流されつつ、周囲を観察して自分が求められていることをやる。これを必死に続けてきました。

前座暮らしの9年間はビジネスの効率主義・成果主義の文脈では、どう考えてもマイナスなわけですよ。これまでは一つの会社で定年まで勤めたら短い老後を送る、という時代だった。でも今や人生100年時代といわれる長期戦の時代。

もがき苦しんだ前座時代があるから与太郎というキャラのすごさを知れたし、自然と与太郎力が身についていった気がします。それが糧となって、今ではこうして自分の経験をビジネス書に書いたり、学校や企業で講演を頼まれたりと仕事が舞い込んでくるようになっています。前座時代は失敗ではなく財産。そうガラッと発想が転換したんです。今思うと、師匠は私を長期戦体質に育ててくれてたんでしょうね。

「師匠談志とマンツーマンで過ごせたのはお金にかえられない財産」と、亡き師匠を慕い続ける。

ビジネスパーソンが落語を聞く意義とは?

── あるビジネス誌では、年収1000万円以上のビジネスパーソンの約半数が「落語が好き」と回答しており、落語をよく聴く人の中に成功者が多い、とありました。出世や給与の高さは成功を計る尺度の一つにすぎないのですが、この理由は何なのでしょうか。

落語を聴く時間が、心の緊急避難場所になっているからでしょうね。落語を聴いているときって、江戸時代にタイムスリップして登場人物たちの世界に入り込むわけじゃないですか。すると追い詰められた状況でも、悩みや焦りを忘れられる。こういう「魂を遊ばせる時間」を定期的にとっていれば、メンタルにもいいし、持続的に高いパフォーマンスを出せるんだと思います。

── そういう時間が人を受容する心の余白につながってるのかもしれないですね。

今のビジネスパーソンって真面目すぎるんですよ。常識にはまりすぎて、他人にも寛容になれない。誰かがちょっとでも問題発言をしようものなら、正論をたたきつける側に回る。もはや「一億総ツッコミ社会」。だけどツッコミは正論、常識だからつまらない。これが職場のギスギスした雰囲気につながっている気がします。

── もし職場に与太郎がいれば雰囲気がおおらかになりそうですよね。

ボケは本来、冒険者。常識から逸脱してバカにされるかもしれないという恐怖に打ち勝って、とんでもない挑戦や失敗をするわけだから。現に、偉業を成し遂げて世の中を変えてきた人は「バカ」であることが多い。アインシュタインとかまさにそうでしょう?

ビジネスパーソンも、職場でボケる人がいたら正論で咎めるんじゃなくて、それ以上のボケで返す。それくらいのほうが自分も周囲も楽しいと思いますよ。ボケを笑い合う職場のほうが、世の中を変える力を秘めた「バカ」が本領を発揮できて、イノベーションにつながりやすいはず。だから『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』は一種の「革命の書」という意気込みで書いているんですよ!

落語の世界では「いじめがない」んです。現代なら排除されかねないような、特殊な事情をもった人も、コミュニティの中で一緒に暮らせるような「おおらかさ」が江戸時代にはあった。今でこそ「多様性を受け入れよう」と声高にいわれているけれど、落語の世界ではすでにダイバーシティが体現されている。そのほうが楽しいと感覚的にわかっていたんでしょう。落語の世界は今の日本の未来予想図なんじゃないかって思うくらいです。

談慶さんがビジネス書を書く理由

── 談慶さんはビジネス書をすでに8冊も上梓されています。ビジネス書を執筆しておられる落語家は珍しいですが、何かこだわりがあるのですか。

そもそも本を書く理由は、人の心に残り続けるようなものを生み出したいからです。テレビやラジオの放送みたいに大多数に話しかけるメディアって、そのときはインパクトがあってもなかなか残らないでしょう? 一方、本の場合は読者と著者が一対一で対話するようなメディア。大きなインパクトはなくても、心に何か沈殿していくものがある。

あえてビジネス書を書いているのは、落語や師匠談志から学んだことは、落語界に限った特殊な話ではなく、職場や組織、色々な場面で活きるものだと思っているから。仕事や人生にもこんなふうに活かせるというのを伝えるには、ビジネス書がいいなと。

今後は文芸書を執筆したいと思っています。究極的にはビジネス書も文芸書も境目はないんですが、文芸書のほうが、より自分の体験や学びを昇華させて、これぞという表現で伝えていく力が問われる気がしています。人間の心の機微って繊細だから。

落語の世界は魅力的な登場人物ばかり。今後も彼らの魅力を伝えながら読者が少しでも生きやすくなるようなきっかけをつくりたいですね。

── 新刊も楽しみにしていますね。貴重なお話をありがとうございました!

なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか
立川 談慶
日本実業出版社
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著者
立川 談慶
出版社
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立川 談慶(たてかわ だんけい)

1965年長野県上田市(旧丸子町)生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、(株)ワコールに入社。3年間のサラリーマン時代を経て、91年立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。2000年に二つ目昇進を機に、師匠の立川談志に「立川談慶」と命名される。

05年、真打ち昇進。慶應義塾大学卒業の初めての真打ちとなる。国立演芸場をはじめ、上野広小路などで数多く独演会を行なうほか、テレビやラジオでも活躍。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』(ベストセラーズ)、『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP研究所)など多数。

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文責:松尾美里 (2017/12/15)

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