小泉進次郎「こども保険」の舞台裏
政策・NPOを変える元マッキンゼーの「ファクト」主義

小泉進次郎「こども保険」の舞台裏

「子育て支援に向けて年2兆円が投じられる――」。この政策の実現に先鞭をつけたのが、小泉進次郎議員をリーダーとする自民党若手議員20名による「2020年以降の経済財政構想小委員会」、通称「小泉小委員会」でした。この委員会のオブザーバーを務め、政策へのアドバイスを行ってきた藤沢烈さんは、『人生100年時代の国家戦略――小泉小委員会の500日』(東洋経済新報社)を上梓しました。

藤沢さんは、2011年に一般社団法人RCFを立ち上げ、復興や社会課題解決をめざす事業の立案から、関係者間の調整までを一手に引き受ける「社会事業コーディネーター」として活躍されています。

なぜ本書を書こうと思ったのか。政策立案の課題は何なのか。マッキンゼーでコンサルタントを務めていた藤沢さんは、その経験を今の仕事にどう活かしているのか。こうしたテーマについてお聞きしました。

政局より政策に注目してほしい――小泉小委員会の奮闘

── 著書『人生100年時代の国家戦略』(東洋経済新報社)のメインテーマは何ですか。

人生100年時代の国家戦略
人生100年時代の国家戦略
藤沢烈
東洋経済新報社
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人生100年時代の国家戦略
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著者
藤沢烈
出版社
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テーマは、小泉進次郎議員(以下、小泉さん)を中心とする若手議員たちが、「人生100年時代」の国家戦略をどのようにつくりあげていったのか。小泉小委員会では、小泉さんと若手議員20名が500日間の激論を交わし、そこから労働、年金、医療といった社会保障分野で数々の政策提言を行いました。特に、新しい社会保険をつくることで、幼児教育・保育の負担軽減を目指した「こども保険」は、消費増税と企業拠出金という形で実現することになりました。

── 藤沢さんが本書を執筆しようと決めた理由は何でしたか。

政局ではなく、政策に注目してもらいたいと考えたからです。メディアによる政治に関するニュースというと、政党が解散した、新しくできたといった政局ばかり注目されているのが現状です。
本来、政治家の役割は政策を通じて社会を変えること。よって政治の議論でも、国民の利益にかなう政策をいかに提言して、実行に移し、今後の政策立案の質を高めていくかが中心テーマになるべきです。

子育て政策が小委員会の中で議論されるようになってから、今回の決定に至るまで、たった1年。介護保険法が発案から1997年の制定まで10年以上かかっていることと比べれば、異例のスピードなんです。しかも、1回きりの施策ではなく、子育て支援に毎年2兆円の予算がつけられるという思い切った政策です。

日本の未来のためにより良い政策を練り上げるようとする、若手議員たちの真剣勝負。こうした政治家のあるべき姿を一般の人々にきちんと伝えたい。そんな思いで本書を執筆しました。

「同じ党内でも議員によって各政策への意見はさまざま。意見が二分して激論を交わすシーンもあった」と語る藤沢さん。

── 子育て支援が大きく拡充されたの成功要因は何だとお考えですか。

通常の政策立案は官僚主導でなされるために、手堅い半面、どうしても過去の延長線上にある提案になる傾向にありました。しかも官僚は立場柄、反対意見があれば、その調整に奔走することになり、一つの提言にまとめあげるのに時間がかかってしまう。よって、ドラスティックな改革案を打ち出しにくいという問題がありました。

一方、小泉小委員会では、若手議員たちだけで合意形成から政策立案、文書作成まで主導していたため、意見が対立しても直接議論を尽くすことでスピーディに提言をまとめられていました。例えばある議員は、「高齢者向け医療費の抑制」を実現してから子育て政策を行うべき、と意見し、別の議員は目の前の少子化を止めるためにも、今すぐ子育て政策を実施すべきと考えていました。紛糾したものの、まずは子育て政策を小さく導入し、医療・年金改革を進めた上で子育て支援を大きくしていく、という意見に迅速にまとめられていきました。官僚主導ではとりまとめができなかったはずです。

もちろん子育て政策実施を判断したのは安倍総理です。しかし、その大きな後押しをした立役者は小泉小委員会だったと確信しています。
この決定に対して世間では賛否両論がありますし、予算の具体的な使途については、待機児童対策や教育無償化など、さらなる議論が続いています。しかし、「人生100年時代」を見据えたとき、子育ては子どもがいる世帯だけでなく、全世代で解決すべき課題です。小泉小委員会の議員たちが信念や政治家魂を込めた政策だからこそ、「全世代型の社会保障論」が世の中に広がったのだと思います。

政策立案こそ、徹底的に「ファクト」ベースの説明が問われる

── 藤沢さんはマッキンゼーでコンサルタントとして活躍され、現在は社会事業コーディネーターとして、政策立案を支援されています。コンサルタント時代の経験は今の仕事にどう活きているのでしょうか。

実は、コンサルタントの仕事と政策立案の支援には近しい部分があります。コンサルタントの役割はクライアント企業の課題の本質を見つけて、その解決策を「ファクト」ベースで導き出すこと。そして、経営者や社員が解決策を実行できるよう後押しをすることです。

一方、政策立案では、「なぜその政策が必要なのか」「現状を放っておくとどんなシナリオが待っているのか」を、異なるステークホルダーが納得のいく「ロジック」に組み立てなければなりません。復興支援にしても地方創生にしても、地域の住民、行政、民間企業、NPOなど、実にさまざまな主体が関わってきます。政治家が彼らを一つのめざすべき方向にそろえていくには、共通言語が必要となるからです。

RCFも参画している「こども宅食プロジェクト」を例にとりましょう。相対的貧困の問題は目に見えづらいため、感覚的には「そんなに優先して取り組む問題なのか?」という印象をもつ人もいる。そんななかで、一般の方々に支援を呼びかける際に、「日本の子どもの7人に1人、ひとり親家庭の子どもは2人に1人が貧困状態にある」といった客観的な事実を伝えることで説得力を持たせています。

「こども宅食」は生活の厳しい子どもの家に、定期的に食品を届けるプロジェクト。文京区、NPO法人フローレンス、RCFなど6団体が協働して進められている。

── 関係者がより広く納得できるように藤沢さんはどんな工夫をされているのでしょうか。

民間企業と行政では行動原理が大きく違うのを念頭に置くことです。民間企業だと利潤を最大化していくにはどうすべきか、という基準のもとに動いていきます。
一方、行政の場合は「公平・平等」が大原則。だから幅広く多くの人に利益をもたらす政策でなければいけない。

RCFは、あらかじめその地域の計画を読み込み、どんな課題意識を持っているかを徹底的に調べます。例えば私が行政に企業との連携を提案するときには「復興計画に水産加工業の販路拡大という目標が掲げられている。その向上に寄与するノウハウ提供ができるA社と、協働する道を探っていけないか」と、その地域がもつ課題に寄り添う形で提案します。計画に沿った提案なら、首長や議会にも説明できるので、合意形成に至りやすいのです。

海外では民間企業と行政を行き来するキャリアは、珍しくありません。しかし、日本では民間でキャリアを積んだ人が行政機関に転職する、あるいは行政機関を経て民間企業にいく、というケースがまだまだ少ない。だから互いの行動原理を理解する機会がなく、議論が平行線になっているのです。それぞれの使う言葉を翻訳し、ギャップを埋めるという、社会事業コーディネーターの役割が求められていると考えています。

NPO運営の難しさは、上場企業の経営と同じ

── これまでNPOをはじめとするソーシャルセクターの方々に取材する中で、想いや使命感は人一倍強いのに、事業存続に課題を抱えているケースが多いと聞きました。ソーシャルセクターにとって必要なスキルとは何でしょうか。

課題の根本には、説明責任を果たしきれていない点があると考えています。NPOは寄付や行政からの助成金などをもとに事業を運営しますから、財源が社会課題の解決にどうつながっているのかを、きちんと関係者に説明する必要があります。これは上場企業が株主からのお金を原資に事業を行い、経営状況や財務状況をしっかりと説明する責任を果たすという構図と同じです。上場企業の場合、本業を回すのに精いっぱいだから株主・投資家向けの報告を延期する、なんて認められないですよね。こうした意味でNPOの運営は上場企業の経営と同じくらい難しいと思っています。

NPOの運営において想いや使命感は欠かせない。ですが、それを実現させるには持続可能なビジネスモデルと、それを実行に移すこと、なぜそれが大事なのかを、事実とロジックをもって説明する。こうした責任を果たすことが非常に重要だと思いますね。

── 政策立案の舞台裏、そして社会事業コーディネーターの活動。いずれもますます興味が湧きました。貴重なお話、アドバイスをありがとうございました!

人生100年時代の国家戦略
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藤沢烈
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藤沢 烈(ふじさわ れつ)

小泉小委員会オブザーバー/一般社団法人RCF代表理事/新公益連盟事務局長

1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、内閣官房防災ボランティア連携室勤務を経てRCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立。企業や省庁・地方自治体のディスカッションパートナーとしてひと・まち・産業の復興事業創造や事業推進に伴走してきた知見を活かし、近年は東北以外の地方創生や多様な社会課題にも取り組みを広げている。現在、総務省「地域力創造アドバイザー」、復興庁「新しい東北」復興・創生顕彰選定委員、釜石市地方創生アドバイザーも兼務。復興活動の中で小泉進次郎と出会い、小泉小委員会の民間オブザーバーに就任。

著書に『社会のために働く 未来の仕事のリーダーが生まれる現場』(講談社)。2017年12月に『人生100年時代の国家戦略――小泉小委員会の500日』(東洋経済新報社)を上梓。

共著に『東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち』(ぎょうせい)、『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(春秋社)。

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文責:松尾 美里 (2017/12/21)

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