人生100年時代にとるべきキャリア戦略とは?
ミレニアル世代が陥りがちな「自己成長」の罠

人生100年時代にとるべきキャリア戦略とは?

大前研一氏が学長を務め、オンラインのみで学士(経営学)を取得できる、日本唯一の大学、ビジネス・ブレークスルー大学。副学長を務める宇田 左近さんは、「人生100年時代の勝ちパターン・負けパターン」があるといいます。定年後も働き続けるのが当たり前。そんな時代に、ビジネスパーソンはどんなキャリア戦略をとっていけばいいのでしょうか。

「忖度力」だけでは通用しない。将来も通用する「資産」を形成せよ

── BBT大学の講演では、「人生100年時代の負けパターンに陥ってはいけない」と語っておられました。負けパターンとはどのようなものですか。

仕事の遂行に欠かせない判断力や学び続ける力、問題解決力などが、30歳前後でピークアウトして、将来通用しなくなってしまうことです。これまでは、60歳の定年まで働いて10年程度の余生を過ごす、という人生が一般的でした。そのため、一社の中で出世をめざして、社内で高い評価を得ていれば特に問題ありませんでした。

しかし、これからは定年後も70歳、80歳と、自ら仕事を得て働くことが当たり前の時代です。となると、社内のみで評価される能力だけを磨いていても、残り長い人生を生き抜くことが難しくなってしまう。

官公庁や大企業の中で優秀とされる人たちの多くは、「忖度力」を身につけることにばかり注力しているように見えます。忖度力というのは、「あの上司に根回ししておけばいい」とか、「こう動いてほしいはず」などと、上司の意向を汲み取ってうまく立ち回る力のこと。すると、社内の論理で動くことを優先するあまり、どうしたら仕事の価値を高められるかという点がおざなりになり、人生の「負けパターン」に陥ってしまうのです。

今までのように、過去の経験に基づく答えで何とかなるときはよかった。しかし、変化が激しく、過去の成功例が参考になりにくいこれからの時代、上司の意向を忖度しても筋道を間違えることが多くなってくる。つまり、忖度力のある組織ほど危機的状況に陥る可能性があるわけです。だからこそ、忖度力ではなく、自分で判断する力こそ必要になるのです。

社内のネットワークにのみ依存して仕事をするのは、自己成長の「機会ロス」だと語る宇田さん。

── 「負けパターン」に陥らないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。

社内で高い評価を得ているのは、実は組織のヒエラルキーや社内ネットワークに守られているからではないか、と危機感を抱くことです。世間に名の知れた大企業に勤めている場合は特にそうです。また、他の企業に対して業務を依頼・発注する側に回る立場だと、取引先も好意的に接してくれる。これは大きな勘違いを招きます。ポジションが上がると社内での決裁権は大きくなるだけに、いっそう顕著になります。

これまでは社内ネットワークを活用する力や上司の意向を忖度する力が、ビジネスパーソンのキャリアにおいて、資産としての価値を発揮していました。しかし、人生100年時代においては、こうした力は価値が目減りし、かわりに自分で考えて判断する力や問題解決力、創造力といった、一生通用する資産を積み上げてきたかどうかが問われます。今後重要なのは、「変化は当然」という考えに立って、社内で通用したスキルやネットワークにしがみつかず、常に学び続ける姿勢です。これが新しい仕事をつくり、充実した100年時代を過ごすために欠かせません。

── 一社でキャリアを積んでいると、こうした事実に気づきにくいと思います。「このままだと負けパターン一直線かもしれない」という人は、どうリカバリーすればいいのでしょうか。

自分の過去の資産が負債になるかもしれないという危機感は、社外に出てみないとなかなか気づきづらいものです。とはいえ、「外に出る」いっても、すぐに起業やベンチャーへの転職をすすめているわけではありません。

大事なのは、自分とは違う組織文化にいる人たちと、共通の目標達成を成し遂げていく経験を積むことです。例えば、子会社の立て直しプロジェクトや、会社の本流ではなく、社外の人と協働する機会が多い仕事に積極的に手を挙げてみるとか。

すると、自分の置かれている立場を俯瞰的に把握しやすくなり、自分の力が社外でも通用するものなのかが検証できる。そして、一緒に課題解決に臨んだ仲間との関係性を大事にしていくと、そこから仕事を紹介してもらうというように、後のチャンスにもつながっていきます。

社会的インパクトなくして成長なし

── 20代~30代前半のミレニアル世代にとっては、SNSなどを使って、外部の人たちとプロジェクトを立ち上げる経験は、身近な選択肢になっていますよね。

たしかにミレニアル世代は上の世代に比べると、プロボノや副業といった形で、社外の人たちと協働することに積極的です。もちろん社外に目を向けて、何か挑戦しようと試行錯誤すること自体はいいこと。ただし、果たしてその行動が人の役に立っていて、社会にインパクトを与えるものなのかを考えてみてほしいですね。

色々なプロジェクトの会合や勉強会に顔を出して、人とつながり、SNSで近況を報告し合う。これだけで、実際にはさしたるアウトプットも出ないまま、「やった気になっている」という恐れがあります。これは単なる自己満足です。向上心が高い人ほど陥りやすい罠だといえるでしょう。

── たしかに本業以外の活動をしているだけで「成長している」と感じ、自己満足してしまうケースも多いと思います。

社会的なインパクトなくして成長はありません。自分の携わっているプロジェクトが、誰の、どんな課題解決に役立つのかという点が明確かどうか。もしこれが曖昧なら、実体のない成長を求めているだけではないかと、自問する必要があります。

今の自分に違和感があるなら、とにかく行動せよ

── 人生100年時代において、希望するキャリアを見つけるためにおすすめしている行動や習慣はありますか。

そもそも「こうしたらいい」という、誰にでもあてはまる正解はありません。私の話も含めて、キャリアについて周囲からアドバイスをもらっても、「本当にそうなのか?」とクリティカルに考えること。こうした前提のもとで、知的な刺激をどんどん得ていくといい。

ところで、エスカレーターを逆走したことってありますか。実際にやるのは危険ですのでやめていただきたいのですが、逆走した後に普通のエスカレーターに乗ることを想定してみてください。おそらくこんなにラクに前に進めるのか、と思えるはずです。

エスカレーターを逆走するように、自分に負荷をかける挑戦をすることも知的な刺激の一つになります。あえて切羽詰まった状態に身を置いていると、いずれその状態が楽しくなり、キャパシティが広がっているのを実感するはずです。

刺激の内容は人それぞれ。BBT大学という場も、この刺激を得る場の一つとして活用してほしいと考えています。通っているビジネスパーソンの中には、「これがやりたい」という目標が明確な人もいますが、漠然と「今の組織にいてもいいのか」と違和感を抱いている人も少なくありません。やりたいことが明確になるまで自己分析をしようとするのはもったいない。とにかく行動したほうがいい。

── 学生一人ひとりと今後について対話する時間も設けておられるんですね。

私はBBT大学に入学する学生一人ひとりと、何がやりたいのかを対話する面談の時間を設けていて、そこで話をするうちに、自分のめざす道を見つけていく人もいます。BBTで大事にしているのは、Lifetime Empowerment(学びの継続)というコンセプト。「こんなことを成し遂げて、社会に貢献したい」というアスピレーションがあれば、その実現に向けて学び続けることが楽しくなるし、それを全力で応援したい。そのような思いから、卒業生がBBTのさまざまな教育プログラムを活用して学び続けることも歓迎しています。

http://bit.ly/2AkDQPY
BBT大学の学生はオンライン上のプラットフォームで講師や国内外の学生と議論を戦わせ、自分の思考や価値観を相対化していくという。

── 生涯学び続ける姿勢を大事にしたいと思いました。貴重なお話をありがとうございました。

プロフェッショナル シンキング
プロフェッショナル シンキング
大前研一(監修),ビジネス・ブレークスルー大学(編),宇田左近,平野敦士カール,菅野誠二
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大前研一(監修) ビジネス・ブレークスルー大学(編) 宇田左近 平野敦士カール 菅野誠二
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宇田 左近(うだ さこん)

ビジネス・ブレークスルー大学 副学長

株式会社ビジネス・ブレークスルー取締役、株式会社荏原製作所取締役、公益財団法人日米医学医療交流財団専務理事。東京大学工学部建築学科卒業、同工学系研究科修士課程修了(工学修士)。シカゴ大学経営大学院修了(MBA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー等を経て現職。インフラ系企業の企業変革、および金融機関の企業変革・組織改革に従事。また医療機関における医療経営革新を継続的に支援。東京電力福島原子力発電所事故調査委員会調査統括等を歴任。


著書 銀行の戦略革新 共著 1997年3月 東洋経済

戦略の選択 銀行「編」 共著 1998年5月 ダイヤモンド社

『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』 共著、2014、PHP研究所

『プロフェッショナル シンキング―未来を見通す思考力』 共著、2015、東洋経済新報社

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文責:松尾 美里 (2018/01/22)

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