激震、ブロックチェーン技術の思わぬ落とし穴
仮想通貨、ブロックチェーンが抱える課題とは

激震、ブロックチェーン技術の思わぬ落とし穴

ビットコインの中核技術となるブロックチェーン技術。ブロックチェーン技術は、「ブロック」と呼ばれる取引データの固まりを一定時間ごとに生成し、時系列的に鎖(チェーン)のようにつなげて(マイニングして)いくことにより、データを保管するデータベースの技術です。中央管理者が不要という「分散型」の特性をもち、インターネット以来の、革命的な技術として、各方面から注目されています。

しかし、2018年1月、コインチェック取引所で仮想通貨流出(盗難)事件が起こり、現時点では取引所のセキュリティの甘さが問題だったといわれています。一方で、仮想通貨そして、それを支えるブロックチェーン技術の安全性については問題がないのでしょうか。そして「ブロックチェーン技術があらゆる産業を変える」という説は本当なのでしょうか。

そこで、金融機関での実務経験をもとに、『決済インフラ入門』や『通貨経済学入門(第2版)』などの数々の著書をもつ帝京大学経済学部経済学科教授で経済学博士の宿輪純一さんに、ブロックチェーン技術、仮想通貨の思わぬ落とし穴についてお聞きしました。

「ブロックチェーン技術が金融業界を根本から変えることは難しいだろう」

── ブロックチェーン技術が決済・送金、証券決済などの金融分野、ひいては医療、物流といった非金融分野も変革していく、という言説が増えています。これほど注目されている理由は何でしょうか。

ブロックチェーン技術を活用することで、業務の迅速化、効率化、安全化が期待できるというものですね。「コストが10分の1になり、すぐに送金できる」などという記事が多数あります。ですが、こうした記事にはその仕組みや具体的な数字も書いておらず、確認(検証)が難しいのです。現在、根本的なシステムにブロックチェーン技術を導入する予定の決済システムも銀行も聞いておりません。現在は、金融機関の子会社・別会社で検討をしているようです。

── ブロックチェーン技術を用いた実証実験は、金融業界はもちろん、幅広く行われていますが、どういうことですか。

たしかに、実証実験は現在も国内外で行われています。例えば、スイスのUBS銀行や英国のBarclays、日銀と欧州中央銀行(ECB)、そしてもちろん日本の多くの民間金融機関が、ブロックチェーン技術の実証実験を進めていました。
ですが、2009年にビットコイン・ブロックチェーン技術が登場して9年すぎたものの、実証が終わって実装する段階に至った大きい商品はないようです。現に、日銀ネットなど中央銀行や証券取引所の決済システムは大規模で、現時点でブロックチェーン技術の応用は適さないとも指摘しています。

宿輪さんは「経済・金融」のボランティア公開講義「宿輪ゼミ」を12年も継続。その明快さ、面白さが人気を博し、会員は1万2000人を超えている。Facebookとリアルな講義で活動中。

── ブロックチェーン技術は、取引データが世界中のコンピューターに分散されていて、参加者が相互に監視しあっている。そのため改ざん、消失、盗難はない。そこがメリットだと一般的にはいわれていました。

しかし、実際には盗難事件がいくつも起こっているわけです。まず、取引所側のセキュリティに問題があり、ハッキングで不正を働こうとする者がいれば、今回のコインチェック取引所の仮想通貨流出のような事件は発生するわけです。
トータルで見たときに、そのベースの技術であるブロックチェーンで犯罪は防止できないといえます。

「不正を働いた人物を特定することは難しい」

── 仮想通貨の取引はブロックチェーン上に記録されており、追跡が可能と聞いています。そのため不正で得たお金は、その素性が明るみになってしまうのでは?

ブロックチェーン技術の特性上、追跡が可能だとしても、回収や閉鎖はできないのです。通常の金融ではありえません。これはそもそも、ブロックチェーンは後から改ざんできない(してはいけない)仕組みであるからです。現在、多数の口座に転送され、その中には米国やチェコなど、海外の取引所も含まれており、時間と共に拡散されています。最近はニュージーランドで換金されているようです。

仮想通貨の中には秘匿性の高いものもあり、それに交換されていたら、特定は困難を極めます。厳しくなってきているとはいうものの、仮想通貨のウォレットをつくるのに本人確認がゆるい所もあったようです。今回流出した仮想通貨NEMのアドレスは、英数字の組み合わせでつくられています。よって、アドレスだけで個人を特定することは極めて難しいのです。逆に分かっていたら、もう逮捕されているはずです。

つまり、不正を働いた人物を特定するにも、法定通貨に換金した時を抑えなければ、その痕跡をたどることは非常に厳しいでしょう。仮想通貨は法定通貨よりもマネーロンダリングに使用される可能性は低い、という説は疑問です。
このように、ブロックチェーンの真髄とされてきた安全性には、思わぬ落とし穴があるのです。

── なんと……! 驚きを隠せません。

これだけ安全性に疑問符がつくことにくわえて、「分散型で相互監視をしている」というブロックチェーン技術の特性があっても盗難は起こりますし、事件の解決も困難です。

公開して相互監視ということは、送金(振込)といった金融機関の取引内容を、外部の人(ネットワークの参加者)が見る可能性があるというわけです。もちろん暗証化された情報でも、「自分の取引が、対象となる銀行以外に見られるのは避けたい」という人も心理的に多いのではないでしょうか。
しかも銀行には顧客のデータについて守秘義務がある。取引データをビッグデータとして外部に販売することはしません。

このように、安全性の維持という観点からも、分散型というブロックチェーン技術自体の性質という点からも、日本の決済の大部分を担う銀行本体のシステムを、ブロックチェーン技術で構築することは困難だと考えています。

── ブロックチェーン技術は、金融の既存のシステムを置き換えてコストを下げるというメリットも期待されています。安全性の問題が今後解決したとしたら、ブロックチェーン技術が決済システムに導入されることもあり得るのでは?

そもそもコストには疑問を持っていることを前述しましたが、決済のように、例えば銀行間の送金といった、1日に何度も生じる取引を毎回ブロックチェーンでやるのは非効率でしょう。振込(送金)や金融取引は、普通は夕刻などに決済インフラにおいて金融機関ごとに取引金額を計算し、差額分を清算するようになっています。たとえば、民間の振込を司る全銀システムは一日に約600万件決済しています。証券取引所も同様に大量に決済しています。もしブロックに組んでいるならば、そのブロックをばらばらにして決済インフラに再入力しなければなりません。

── プライベートチェーン(注1)ではこうした問題を解消できるという考え方もありますが、どうなのでしょうか。

プライベートチェーンの場合は、ノード(ネットワークを形成しているコンピューター)を信頼性の高いものに限定したり、ブロックチェーンに記録された情報の公開範囲を指定したりできるといわれています。ですが、こうした限定や指定が中央的な「管理者」の手によってなされるということは、結局、「分散化」「脱中央集権化」を実現していないですよね。

ブロックチェーン技術本来の目的であった「分散化」の実現と、銀行の決済システムに導入できるだけの信頼性・効率性は、現状では相いれないものだと考えていいでしょう。

(注1)ブロックチェーン技術はパブリックチェーンとプライベートチェーンに大別される。パブリックチェーンは、不特定多数のノードによって取引記録の検証と正当性の担保が行われるため、真に自律分散的といえる。一方、プライベートチェーンは管理主体によって指定された少数のノード内部で取引の承認が完結する。そのため、取引承認が効率的で、既存の金融機関などの中央集権機関による採用に適しているといわれる。

分散型・集中型ということでいえば、金融の世界は集中型に向かっています。三菱東京UFJ銀行がアマゾン(AWS)にシステムをクラウド型でアウトソースするのも集中化の流れです。セキュリティとコストのためもあります。これを分散化と誤解してはいけません。

さらに、NEMの問題も、NEM財団という組織がでてきましたが、これは中央的な組織ですね。これはブロックチェーンの分散化の基本概念とは相容れないようです。

仮想通貨は「モノ」と同じ

── 宿輪さんのお話をお聞きして、ブロックチェーン技術が実際に使用されている仮想通貨とのつきあい方もちゃんと考えないといけない、と思い始めました。

そもそも「仮想通貨」というネーミングが実態とそぐわないのです。仮想通貨は「通貨」ではなく、「金融商品」でもありません。取引所というと公的なイメージがありますが、証券会社と同じく民間企業です。金融庁はその辺の所をよく分かっていて、仮想通貨取扱業者といっています。

日本では2017年4月に改正資金決済法が施行されました。その定義によると、仮想通貨は支払手段に使える「財産的価値」つまりは「モノ」として扱われます。金融商品の法律と管理外としてみなされています。
ところが、「モノ」扱いということは金融商品取引法による救済は一切受けられません。税金の取扱いもそうです。

── こうした実情を踏まえて、ビジネスパーソンはブロックチェーン技術や仮想通貨とどう向き合えばいいのでしょうか。

まずは、ブロックチェーン技術を活用したネットワークの参加者が全員善人のはずはない、と肝に銘じておくことです。日本では仮想通貨取引所は金融庁の登録制になっていますし、仮想通貨流出事件においても、「仮想通貨の取引所のセキュリティを厳しく監査すればいい」という論調があります。これは当たり前のことで、まず、今回のようなみなし業者も含めた、登録されていない業者を確認しなければなりません。登録されていない業者には何か問題があると考えるのが普通でしょう。しかし、これはほんの入り口の取り締まりにすぎません。より包括的に仮想通貨の一般の利用者を守る仕組みが必要です。「金融」の世界では、プロとアマがいて、とくに「アマ(利用者)は保護しなければならない」という基本的な原則があります。

個人も「ブロックチェーン技術があらゆる産業をディスラプトする」といったメディアの情報を鵜吞みにしてはいけないと思います。2009年にブロックチェーン技術が登場して、もうすでに9年という長い年月が経っていますが、果たしてそうなったでしょうか。仮想通貨の安全性を判断できる能力がないまま、安易に「誰でもやれる」という声に流されないように、まずは金融商品と一緒で「理解できるものしかやらない」ということが大事、とアドバイスしたいですね。

新しい技術がすべて良くないといっているのではありません。逆に新しい技術をどんどん活用すべきだと考えています。その長所・短所をよく理解して活用してほしいということと、「煽り」に乗っていけないということが、最も申し上げたいことです。

── ブロックチェーン技術、仮想通貨が、これから社会にどのように適用されていくのかを考えるにあたり、内在する問題点について、より多面的に理解が深まりました。貴重なお話をありがとうございました!

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宿輪 純一(しゅくわ じゅんいち)

帝京大学経済学部経済学科教授・経済学博士

1963年東京都生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業。富士銀行入行後、三和銀行に転職、2006年に合併により三菱東京UFJ銀行、企画部経済調査室などに勤務。15年より現職。03年より東京大学大学院、早稲田大学などで非常勤講師を兼務。現在、慶應義塾大学経済学部非常勤講師も兼務。財務省・金融庁・経済産業省・外務省や全国銀行協会などの経済・金融関係委員会に参加。06年よりボランティア公開講義『宿輪ゼミ』主催。映画評論家。文化放送「The News Masters TOKYO」レギュラー・コメンテーター。著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(ともに日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門』『ローマの休日とユーロの謎』(ともに東洋経済新報社)など多数。

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文責:松尾 美里 (2018/02/13)

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