電子国家エストニアに世界が注目するワケ
仮想国家の行き着く未来とは?

電子国家エストニアに世界が注目するワケ

世界最先端の電子国家、エストニア。教育、医療、警察、閣議など行政の電子化を徹底的に進め、デジタルIDカードと、X-ROADを二つの柱に、電子立国「e-エストニア」を構築しています。その先進的取り組みに対し、各国の政府や企業からの視察が増える一方です。

千葉恵介さんは、どの国籍の人でも住む場所を問わず、エストニアの電子居住者としての資格を取得できる「e-Residency」に登録した、21歳の現役の日本人大学生であり起業家です。

エストニアに世界が注目する理由は何か。仮想国家として発展を遂げつつあるエストニアの実像と、そこから予測できる未来に迫ります。

電子化を極限まで進める、「スタートアップ的発想」を体現した国家

世界がエストニアに注目する理由は何だとお考えですか。

まず、電子国家としての目覚ましい進展、そしてブロックチェーン技術を2008年の段階で国家の運営に組み込んでいる点でしょう。電子国家としての取り組みについていうと、エストニアでは行政サービスの99%が電子化されています。電子化されていないのは、「結婚、離婚、土地売買」の3つのみです。
行政サービスの電子化を推進できた背景には、2001年からデジタルIDカードの保有を15歳以上の国民に義務づけ、電子行政サービスの根幹を担うX-ROADを導入したことがあります。

このデジタルIDカードは、保険証、免許証、そしてEU圏内ならパスポートがわりになります。選挙、法人登記、電子署名、公共交通機関の運賃支払い、企業のサービスもIDと紐づいていて、「この一枚で完結」という世界ができています。

『未来型国家エストニアの挑戦』の著者、ラウル・アリキヴィとも親交があり、何度もエストニアを訪れ、情報発信をブログで行う千葉さん。「仮想国家エストニア」についての講演は軒並み満員に。

また、X-ROADとは、デジタルIDカードで、国民がほしい情報にアクセスできるというデータ交換プラットフォームのこと。デジタルIDカードに記載された国民ID番号さえあれば、ほぼ全ての行政・民間サービスにアクセスできる仕組みです。これにより、役所に様々な書類を持っていく必要性がなくなりました。しかも、2017年時点で、900を越える企業や行政機関がX-ROADを通じ、1400以上のサービスを提供しています。

興味深いのは、人口130万人の小国ながら、エストニアという国家自体が「スタートアップ的発想」を体現しているという点です。

スタートアップ的発想というのは?

政府や企業が、PDCAサイクルを高速でまわして、先進的な取り組みを進めていくという、リーンスタートアップの精神で運営されているのです。最近の例だと、「クラット法」という、AIをどう制御していくかに関する法律の制定に向けて、官民横断で検討が始まっています。(※注)

こうした法律の検討がなぜ大事なのか。例えば、今後スタートアップがAIを駆使した自動運転のサービスを開発・実装するとします。万一その車で事故が起きたとき、責任をとるのは運転手、車のメーカー、サービスを開発したプログラマー、どれが対象になるのか。こうしたことが法で定められておらず、プログラマーの責任になるとしたら、自動運転のサービスを開発する人材は減ってしまうでしょう。これではイノベーションを阻害することになります。
そこで、新しい技術に挑戦する人が守られ、かつ社会としても安全や安心を維持できる仕組みを、先だって構築しようとしているのです。
(※注)2018年2月15日に、エストニア全土で3月より自動運転の実証実験を合法とすることが発表された。

また、エストニアでは20代後半の議員が起業家に転身することも珍しくないし、逆もしかり。法律や政治の仕組みを理解したうえで、そこで感じた課題をスタートアップで解決するということが可能になっています。政界とスタートアップ間の人材流動性の高さも、エストニアのスタートアップ的発想を支えているといえます。

こうした先端的な発想のもと、e-エストニアとしての仕組みが発展した理由は何ですか。

理由の一つは、エストニアの歴史的背景からくる「危機感」にあります。エストニアは第二次世界大戦時にソ連に占領され、1991年に独立を果たしました。
独立後、限られたリソースの中で、いかに国際社会で生き残るのか。その答えがIT、そして電子政府でした。電子政府なら、低コストで効率的に国家運営ができるからです。
現に、エストニアは情報ポリシーの中で、「ICT技術の重複を避ける」と謳っています。既存の技術で解決できるものは全て、その技術を再利用してコストを減らす、というスタンスです。
ITを国の基盤にするという方針は、政権が変わっても一貫して今日まで続いています。

「ブロックチェーン技術」で情報流出の不安を解消

電子警察、電子内閣、電子医療……など電子化が進むことで、個人情報流出、セキュリティーへの不安の声などもあがりそうです。それにはどう対処しているのでしょうか。

実はエストニアでは、こうした懸念の声はほとんどありません。その理由は個人情報の管理方法にあります。

X-ROAD上で構成される各データベースは、中央集権ではなく、分散化されたデータベース上で管理されています。情報を閲覧する際は、データベースに直接アクセスせず、セキュリティー・サーバーを介して暗号化された情報を見るのです。そのため情報漏洩が起きません。役所の職員も権限以上の情報を取得できないし、仮にアクセスしたとしても、アクセスログが改ざんされない形で残っているため、アクセスした人物が特定できます。

この強固なセキュリティシステムは、2011年に導入されたKSI(キーレス)ブロックチェーンという技術によって支えられています。これが、「ブロックチェーン技術を国家システムに組み込んだ政府」とエストニアがいわれる所以です。

仮想国家エストニアへの序幕、e-Residencyとは?

エストニアは仮想国家としても注目を浴びています。その現状について詳しく聞かせてください。

エストニアは国を領土としてではなく、「情報」として捉えています。長年ソ連などの国々に占領されてきた歴史から、領土よりも国民の情報や国家機密を守る方が、国家主権の維持に不可欠だと考えています。

もしエストニア国内に、国民の情報を扱うデータベースサーバーがあるとします。その場合、領土が占領されたり、サイバー攻撃に遭ったりしたときに、サーバーを破壊されてしまいます。ですが、国外の同盟国のエストニア大使館に情報をバックアップしておけば、復元しやすく、その分復興が早まります。こうした国の領土にとらわれない電子国家としてのデータ管理は、Date Embassy(データ大使館)という名前で、今年2018年から始まります。最初の拠点はルクセンブルクです。

これまでの国家の概念を大きく変える試みなのですね。

エストニアは電子国家としての基盤の上に、仮想国家としての道を模索し始めています。2014年から始まったe-Residency(「e-レジデント」制度:https://e-resident.gov.ee/)も、仮想国家への道の基礎固めの一つといえます。e-Residencyは、要件を満たせば、どの国籍の人でも住む場所を問わず、電子居住者としての資格を取得できるという制度のこと。もちろん、カードの申請はオンラインで可能です。

千葉さんのe-レジデント IDカード。専用端末でPCなどにつなぐだけで行政や企業のサービスに活用できる。

e-Residencyを取得することのメリットは何ですか。

エストニアでの起業、電子署名、銀行口座の開設、納税などで利用できるため、ヨーロッパで起業を考える人やデジタルノマドにとってメリットになります。私も「旅をするように生きる」デジタルノマド的な生活を送りたいと考えていたために、e-Residencyを取得しました。
あとは、スタートアップにとっては法人化のメリットも大きいですね。企業内に利益を留保している限り、法人税が課されません。また、EU内の個人情報を保護するためのGDPR(一般データ保護規則)にも対応できるので、国外の優秀なスタートアップの誘致に役立っています。

エストニアは2025年までに電子居住者を1000万人にしようと計画しています。自国の人口の約8倍にあたる電子住民がエストニアで起業し、納税を行い、雇用創出に寄与してくれれば、経済発展が見込めるからです。
そして、エストニアはその「先」にある仮想国家としての道を着々と歩んでいます。

その「先」の取り組みとして、具体例を教えてください。

2015年にエストニアはBitnationと提携しました。Bitnationとは、仮想通貨の一種であるイーサリアムを利用して、国家を介さずにあらゆる認証を自動化するプラットフォームを提供するプロジェクトのこと。地理的制約にとらわれず、自律分散的な国家をつくれるというメリットがあります。Bitnationは、国民として登録されていない難民をブロックチェーン上に登録するといった取り組みもすでに始めています。これはエストニア以外にも仮想国家が誕生していく後押しになると考えています。

Bitnation との提携により、e-Residencyがブロックチェーン上で運用されるようになり、公証サービスとしてさらなるコスト削減を実現した。(Bitnationのトップページ)

国籍・地理的制約にとらわれない「価値観でつながる」時代へ

仮想国家が世界各地にできていくと、どんな未来が待っていると予想していますか。

これからの時代において、国家の役割は治安維持やインフラ整備、医療などを支えることに限定されていくと予想しています。

経済圏全体においては、企業単位や宗教単位、価値観単位のコミュニティが無数に広がっていく。コミュニティ内で仮想通貨のような電子通貨によって経済圏が形成される。さらには、贈与によって経済圏が形成されていくこともある。自分が受けた恩を周囲の人や次世代に還元していく、映画「ペイ・フォワード」のような世界観ですね。

新たな経済圏では、コミュニティ上でどれだけ貢献したか、どれだけ信用されているかというような、これまでお金では測りづらかった社会関係資本(精神的・社会的価値)も評価されるようになる、と考えています。

仮想国家がつくられることで、人々はどんなメリットを享受できるのでしょうか。

現在だと、居住地や国籍によって自分の所属する国家が決まっていますよね。そのせいで宗教や価値観が異なっていても一括りにされ、生きづらさを感じている人も少なくないはずです。そのマイナス面が噴出すると、民族紛争や戦争につながりかねません。

もし、地理的制約や国籍にとらわれず、共通の価値観を軸に人がつながり、一体感をもつことができれば、より生きやすくなるのではないか。もちろん、一つの国家にのみ所属している必要はないし、趣味でつながる仮想国家に複数属していてもいい。すると、アイデンティティを複数もって生きられるようになる。

これこそ本来の多様性の実現だといえるでしょう。マルチアイデンティティで、自分の好きな経済圏を行き来しながら生きていく時代が、すぐそこにきている気がします。その序幕のような世界が、インターネットと社会を専門とする斉藤賢爾さんの著書、『信用の新世紀』(インプレスR&D)で、臨場感をもって描かれています。 

こうした未来を見据えて、私自身も「ありがとう」でつながっていく感謝経済を実現するための活動をスタートさせました。(詳しくはこちら→https://camp-fire.jp/projects/view/55604)

信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来 (NextPublishing)
信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来 (NextPublishing)
斉藤 賢爾
インプレスR&D
本の購入はこちら
信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来 (NextPublishing)
信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来 (NextPublishing)
著者
斉藤 賢爾
出版社
インプレスR&D
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近日、要約公開予定!

最後に、日本がエストニアから学ぶべきことは何だと考えますか。

エストニアも少子高齢化が進み、人口が減少しています。そのため、電子化によって行政手続きを単純化し、システム開発も共有できる部分を最大化することで、国家の運営コストを削減し、必要なところにリソースを充てています。これは日本でも取り入れられるはずです。
また、少子化対策の1つとして、電子居住者(電子移民)を増やすという道も、検討の余地が大いにあるはず。現在、e-Residencyの申請数がエストニアの出生率を超えています。

もちろん、エストニアの事例はあくまで「参考書」。日本流にカスタマイズして、良いところを取り入れればいい。
ただし、若い人の柔軟な発想を取り込み、政治の世界で活躍するチャンスがもっとあってもいいと考えています。エストニアは被選挙権が21歳以上となっており、大統領は47歳、首相は39歳。25歳くらいの若手議員も多数活躍しています。

戦後日本の高度経済成長も、若者の活躍によって成し遂げることができました。日本も若者が中心となって国を支えた時代があったわけですから、エストニアのように若者を信頼し、若者に国を託すことが、今後ますます重要になると思います。

未来を見通すうえでも、日本の社会課題の解決策を考えるうえでも、エストニアから学ぶことは非常に多いと改めて感じました。貴重なお話をありがとうございました!

未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界
ラウル アリキヴィ,前田陽二
インプレスR&D
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界
著者
ラウル アリキヴィ 前田陽二
出版社
インプレスR&D

千葉 恵介(ちば けいすけ)

1996年生まれ。岐阜県出身。岐阜県内初の高校生ITベンチャーを創業し、翌年同社を譲渡。「今この瞬間を生きる」をモットーに時間と場所にとらわれないライフスタイルを探求している。今まで34カ国を旅し、多拠点でなく無限に拠点を持つという無拠点生活にたどり着く。現在は、資本主義0.0として、共感や思いやりによって生まれる「ありがとう」によって成り立つ感謝経済圏を構築している。

https://camp-fire.jp/projects/view/55604

ブログ:http://keisuke-chiba.hateblo.jp/

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文責:松尾 美里 (2018/03/07)

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