ティール組織実現のためにトップが果たすべき役割とは?
真の「全体性」を実現するための道筋に迫る

『学習する組織』(英治出版)以来の、組織開発に大きなインパクトを与える書といわれる『ティール組織』(英治出版)。幅広い業種、職種のビジネスパーソンが関心を示し、本書に関連した読書会や学び合いの機会が各地で開かれています。進化型組織(ティール)をめざしたいと願いつつも、実際には自分たちの組織(チーム)では難しいと壁を感じている方も多いでしょう。また、ティール組織という言葉だけが独り歩きしている現実もあります。

ティールはあくまで進化の途中である。そう認識したうえで、ティール組織の世界観を自社に取り入れ、人と組織の可能性を開花させるには? その道筋を、『ティール組織』日本版の解説者、嘉村賢州さんにお聴きしました。

ティール組織は階層組織を完全に手放している

ティール組織の特徴として「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の3つがありました。ティール組織は意思決定の仕方や役割決め、紛争解決手段など、色んな要素を統合することで維持できるのだと解釈しています。
まずは、ティール組織は他の段階の組織と比べて、どんな点が特徴的なのか教えてください。

ティール組織
ティール組織
著者
フレデリック・ラルー 鈴木立哉(訳) 嘉村賢州(解説)
出版社
英治出版

一番の特徴は、階層組織を完全に手放しているという点です。順応型組織(アンバー)では、完全に上から役割が降ってきます。達成型組織(オレンジ)は、ある程度、個々人の自由な裁量を認めているものの、ピラミッド型の階層構造に則って機能面の役割のみを重視するので、個々の人の特性などを考慮しません。

また、多元型組織(グリーン)は、合意形成を重視し、一人ひとりの人材といったソフト面にも配慮する半面、「船頭多くして船山に上る」といった状況に陥りがち。コンセンサスをとるべく話し合うものの、結局はトップが決断を下すケースも多い。

つまり、オレンジもグリーンも階層が存在しており、それゆえ上下関係や評価を気にして仕事をすることになる。オレンジだと上司が部下を評価しますが、これは両方にとって良くありません。上司は部下から嫌われるかもしれないと恐れるし、部下は評価が下がらないようにと、上司の顔色をうかがうようになるからです。

ティール組織というコンセプトを「出合うべくして出合ったテーマ」だと語る嘉村さん。著者ラルーさんの探求し続ける姿勢に共感を寄せていると語る。
一方、進化型組織(ティール)はこれらと一線を画しており、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性の中で動くシステムです。これを、『ティール組織』の著者ラルーは「自主経営(セルフ・マネジメント)」と表現しています。ティール組織の多くが採用するのは、助言プロセスというもの。これは、助言者はチームが自分たちで解決策を見つけられるような問いを投げかけ、助言を受けた当事者は、それを尊重しながらも、最終判断は自分で行うというものです。

歴史的変遷からみた人類のパラダイムと組織の発達段階(『ティール組織』日本語版付録より)

「部下の生産性を高める」という発想は、上下関係のパラダイムから逃れられていない

グローバル企業では数年前から、社員をランク付けする年次評価を廃止する「ノーレイティング」の動きが高まっています。これはティール組織をめざす動きと関連があるのでしょうか。

おそらく、ノーレイティングのほうが社員の生産性が高まるという統計的な結果から、そういう方向に舵を切っているんでしょう。ですが、そもそも「部下のやる気や生産性をいかに高めるか」という発想は、上から下への働きかけという目線です。この目線でノーレイティングや、その対話手法としての1 on 1を採用しているのだとしたら、それは「上下関係のパラダイム」から逃れられていないことになります。

私はこれまで組織開発の相談を受け、「学習する組織(※1)」の導入支援にも携わってきました。ですが、上下関係のピラミッド構造を残していると、組織全体の変化になかなかつながらない、という現実がありました。現場のチェンジエージェント(改革促進人)がいくら声をあげても、トップが変化への恐れを手放せず、現場の提案を受け入れられないというケースがあるのです。

(※1)「学習する組織」とは「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」を指す。マサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・センゲが提唱した新しい組織の概念であり、実践のための手法体系のこと。

上から下という発想や、ピラミッド構造を取り払うことが大事なのですね。

『ティール組織』には、上司が不在で職務記述書も役職もなく、意思決定では助言プロセスが用いられる、などと、ティール組織の構造や慣行が詳しく書かれています。
ただし、留意していただきたいのは、その一部だけ導入しても、ティール組織に進化できるわけではないということです。いくら組織内の役割や採用プロセスを変えても、評価制度が同じならば、結局、部下が上司の顔色を気にするという状態は変わりません。だから根本的な組織のアップデートにはならないのです。

大事なのは、まずは組織のトップが、組織が何のために存在し、将来どのような方向に向かうのかという「存在目的」を探求し続けようと決意し、それをメンバーに伝えること。同時に、メンバー一人ひとりの「生きる目的」にも耳を傾けなければならない。そのうえで、これまで足を踏み入れたことのない「未知の世界(unknown)」への冒険に飛び出せるだけの信頼関係を築けるかが重要になります。

「ミラーを探せ」

となると、トップはもちろんメンバー一人ひとりが「生きる目的」を明確にしていることが必要そうですね。

ティール組織はベストな組織形態でもないし、すべての組織がめざすべきものでもありません。その前提のもと、もしティール組織をめざすなら、トップやリーダー自身が自ら変化するという決心をしなくてはなりません。ラルーは「組織はCEOの意識レベルを超えない」といっています。このトップ個人が変容を遂げる旅は、少なくとも半年から1年はかかるといいます。

半年から1年ですか。変容の旅をうまく進めるために必要なことは何でしょうか。

ラルーは「ミラーを探せ」とアドバイスしています。人はいくら自分を変えようと思っても、つい慣れ親しんだ古いパラダイムで行動してしまう。そのとき、本人の生きる目的やありたい姿に照らし合わせて、「こういうふうに行動したらいいのでは」と、率直に指摘、助言してくれる存在が欠かせません。一人か二人、自分を照らしてくれる同僚や後輩を見つけることをすすめます。自分に対して厳しいことを言える権限を与えるのです。


実際に組織のメンバーに、ティール組織への変容を呼びかけるうえで、トップはどう行動するとよいですか。

『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(英治出版)に書かれている内容と近いですが、メンバーとの間の仲間関係を取り戻すことです。「今、組織の運営において、こういう課題を感じている。本当はもっとこういう状態をめざしたいのだけれど、どうしたらいいだろう」と、トップ自らが弱みをさらけ出す。すると、トップもメンバーも「悩める旅人」であり、だからこそ目的達成に向けて助け合う存在なのだと実感できるのです。

トップは、武装してメンバーを引っ張っていかなくてはと思いがち。そうではなく、この鎧を脱ぎ、等身大の自分になってみる。そのとき、意思決定の権限を完全に⼿放せるのではないでしょうか。

すると、評価の意味合いや方法も変わってきます。メンバー同士が互いの目的やありたい姿と現状を照らし合わせて、どうすればありたい姿に近づくかという観点から、フィードバックをし合う。もちろん決して強制や命令はしない。すると、互いへのフィーリングに素直に耳を傾けられるのです。

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
著者
ロバート キーガン
出版社
英治出版
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全体性の実現の一歩は、トップが弱さを見せてもいいと周囲を信頼すること

「弱みを見せる」ことに抵抗があるトップやリーダーも少なくないと思います。そうしたトップには、嘉村さんはどんなアドバイスをしていますか。

もしトップが「いやいや、メンバーに弱みなんて見せられないよ」というのなら、まだメンバーを信頼できていない証拠。自己変容の旅の道のりは長いでしょうね。
そうした場合、私は「なぜその事業をしたいのか」「なぜその組織を運営しているのか」を掘り下げるようにアドバイスしています。すると、その目的を達成するために、今の自分はどうしたらいいのかという視点で発想できるようになっていくからです。

目的を達成するために、自分の弱さを見つめ直す謙虚さと、そこに飛び込む勇気をもつ。そしてその弱さを見せてもいいと周囲を信頼する。それではじめてメンバーも等身大でいられ、「全体性(ホールネス)」の実現につながります。「全体性(ホールネス)」は、自分の「人間そのままの良さ」を発揮すること。つまり自分の全体を同僚にもオープンにすることだと捉えています。

全体性の実現をめざすにあたり、「仕事以外での自分を、同僚にオープンにするのは抵抗がある」というメンバーもいるでしょう。そうしたメンバーが多い組織でも実現できるのでしょうか。

全体性というのは、個々人が常に自分の感情をすべてさらけ出すという意味ではありません。
例えば、ある職場でどんな役割を担うかを決めるとします。もちろん、各メンバーがやりたい仕事をやれているに越したことはありません。ですが、組織の人員の制約や置かれた状況により、必ずしもそうではない仕事や役割を担う場合も出てきますよね。そうしたときに、「今はこの仕事が、組織の存在目的を達成するために必要だから、自分がやるんだ」と腹落ちして取り組めるかどうか。そして、周りの仲間とともに少しずつ本来やりたい役割に移れるように仕組みをつくっていくのです。
あるいは、メンバーの誰かが仕事に追われているときに、周囲が「助けてあげなければ」ではなく、「助けたい」と心から思って手を差し伸べているかどうか。こうしたことが普通に行われていることが、真のホールネスが実現されている状態だと考えています。

なるほど。自分の目的と組織の目的の重なりを意識し、心からそれを納得できてこそ、全体性が実現するのですね。

これからの時代は、1人勝ちで幸せになれる時代ではありません。「みんなで幸せになる」という発想をもてる人やチームをめざすことが、ますます重要になるでしょう。
これまで色々なことを述べてきましたが、『ティール組織』は、あくまでラルーが上手くいっている組織の事例研究、分析をした結果をまとめたもの。組織の方向性を示す北極星と、実践の参考になる事例集という位置づけです。読者の方々には、本書を、組織をひも解く「光」として活用しながら、よりよい組織への探求のプロセスを味わい、そこで得た洞察をシェアしていただきたいと思います。

ティール組織
ティール組織
著者
フレデリック・ラルー 鈴木立哉(訳) 嘉村賢州(解説)
出版社
英治出版

嘉村 賢州(かむら けんしゅう)

場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。コクリ!プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

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文責:松尾 美里 (2018/05/24)
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