『独学の技法』著者に聞く、知識を「使える武器」に変える方法
差別化の源泉となるテーマを見つけ出す極意とは?

『独学の技法』著者に聞く、知識を「使える武器」に変える方法

これまでの「インプット」に絞った勉強術の本とは一線を画し、ベストセラーとなった『独学の技法』(ダイヤモンド社)。本書がビジネスパーソンから反響を得ている背景には、変化の速い今日において、知識の「旬」が短くなっていることが挙げられるでしょう。同時に、過去の学びをリセットする「アンラーニング」により、常に新たな知識を仕入れて、自分自身をアップデートさせることが重要だという考え方も広がっています。

独学の技法は、知的生産を「戦略」「インプット」「抽象化・構造化」「ストック」の4つのステップに体系化した画期的な技法です。著者の山口周さんは、次の2つのポイントが重要だといいます。独学の「戦略」を立てる際に、自分が心からワクワクできるテーマを設定できるかどうか。そして、知識を洞察につなげるための「抽象化・構造化」のプロセスを促す「問い」をうまく立てられるかどうか。その具体的な秘訣をお聞きしました。

独学では「自分独自のカリキュラム」をつくるべき

まずは『独学の技法』の4つのステップのうち、「戦略」を立てる際のポイントを教えてください。

独学の技法
独学の技法
山口周
ダイヤモンド社
独学の技法
独学の技法
著者
山口周
出版社
ダイヤモンド社

独学する対象を「ジャンル」ではなく「テーマ」で決めることですね。多くの人はまず、「哲学を学ぶ」などと「どのジャンルを学ぶか」を考えます。これでは、誰かが体系化した知識の枠組みに沿って学ぶことになるので、自分ならではの洞察や示唆が生まれにくいのです。
一方、「テーマ」とは自分が追求したい論点のこと。たとえば「人や組織の可能性をいかに発揮させるか」というテーマに決めたからといって、書店のビジネス書コーナーにあるリーダーシップ論や組織開発本だけを読む必要はありません。歴史小説や生物学などからも組織のつくり方を学べる。テーマを軸にすれば、独学の対象の幅が一気に広がります。

生物学の一例を挙げると、「蟻のコロニーには遊んでいる蟻が一定数いないと、緊急時に対応できず全滅する」という事実を学んだとします。この事実から「平常時の業務量に対して組織を最適化すると、環境の大きな変化に対応できないのではないか」という、組織論にも適用できる仮説を導ける。こうした学びはなかなか他者に真似されにくいですよね。

私たちは学校教育の延長で「学ぶカリキュラムは与えられている」ものだと思いがち。ですが本来、独学においては、既定のカリキュラムに乗っかるのではなく、自分独自のカリキュラムをつくる必要があります。これが差別化の源泉を生み出すうえでカギとなるのです。

テーマ設定の軸は「心の底からワクワクできるテーマかどうか」

差別化の源泉になるテーマを選ぶ際に迷う読者もいると思うのですが、何を軸にすればよいのでしょうか。

大事な軸は、「自分が心の底からワクワクできるテーマかどうか」。この重要性に気づけたのは、私自身も悩んでいた時期があったからです。
電通に入社して2年くらいは、仕事がしっくりこなかった。あるとき、飲み会で上司に宗教や美学について話す機会に恵まれた。好きな分野だから熱が入っていたんでしょう。上司はこんなアドバイスをくれました。「いつになく生き生きと話しているね。これだけ熱を込められる内容を仕事につなげてみたらどう?」これが自分にとって大きな変化のきっかけになりました。

次に移ったボストンコンサルティングでも、パートナーになると自分の専門分野を絞るよう求められました。私はメディア出身だし、当時はデジタルメディア系がいいかと、世界最先端の動向に関する本を読んでみた。ですが、ちっとも面白いと思えなかったんです。

「このテーマについて考えられるだけで心から幸せを感じられる」。それほど夢中になれるテーマでなければ、10年、20年もの間、追求し続けることは難しい。チクセントミハイのいう「フロー状態」でそのテーマを追求している人には、勝てっこありませんから。将棋棋士の羽生善治さんも、「ある分野で成功できるかどうかは、それを続けられるかどうかにかかっていて、才能は関係ない」と語っていますが、まさにその通りだと思うんです。

現職の組織・人材に関するコンサルティング会社に移ったのは、自分の興味分野である哲学や文学、サル学などから得た組織論の示唆が活かせることに気づいたからだと語る山口さん。

こうしたご自身の経験から、「独学の技法」の背骨ができていったのですね。

そうですね。多くの人は、自分の今いる環境を前提に、何を学ぶべきかという戦略を立てようとする。ですが本来なら、自分がどの場(領域)に身を置いて強みを発揮したいのか、何を心から学びたいか。両者の関連性をもっとダイナミックにとらえる必要があります。どの分野なら面白く勉強を継続でき、仕事のアウトプットに結びつけられるか。それが独学の戦略を立てるときのポイントです。

私の場合は、宗教や哲学、美術などの人文科学の知見を、経営科学の知見と組み合わせることで、仕事に活かすという戦略を立てました。そして、「人文科学と経営科学の交差点で仕事をする」という、現在のキャリアにたどり着きました。

世の中でもてはやされている分野とは違うところにアンテナをはって、自分だけの情報源をつくる。この逆張りが大事なんです。それに、「ここならリンクできそうかも」というフィールドを見つけたら、そこに身を置いて色々試してから、また考えてみてもいいわけです。

「抽象化・構造化」のカギとなるアナロジーを見つけ出す力

独学の技法の「抽象化・構造化」のステップでは、ビジネスや実生活への示唆を抽出する「意味づけ」が必要だとありました。この意味づけには、アナロジーを見つけ出す力も重要になると思うのですが、山口さんはこの力をどのように養ってきたのでしょうか。

アナロジーというのは、ある複雑な物事を説明する際に、同じ特徴をもった、より身近な物事にたとえて説明すること。類推ともいいますね。私はこれを読書と映画鑑賞を通じて自然と養ってきた気がします。

たとえば、哲学者レヴィナスの思想と、映画「E.T.」には、あるアナロジーを見出すことができます。私の解釈ですが、レヴィナスの教えは、かいつまむと「わかり合えないと感じる人とは顔を見て話せ」ということ。
ETでは、大人は最初子どもたちにとって敵として描かれているのですが、そこでは大人の顔が一切見えないんです。これに対し、大人が子どもたちを助ける場面では、大人の顔が具体的に描かれている。スピルバーグ監督は、顔が見えたときにコミュニケーションが成立するということを直感的にわかっていたのでしょう。

アナロジーを見つけ出す力はどうすれば養えるのでしょうか。

今挙げたような、示唆を導き出すプロセスにいかに多くふれるかですね。そこは場数を踏むしかないでしょう。
歴史の教科書が一時期ビジネスパーソンの間でブームになりましたが、単にファクトを列挙したものを読むだけでは、抽象化の力はなかなか養えない。書き手が意味を抽出した思考プロセスをたどってはじめて、「これって別の文脈でこういうことにつながるのでは」と考えられるのです。

まずは、関心のあるトピックについて、それについてわからない人に説明する機会を増やすとよいでしょう。あとは、映画でも本でも面白いと感じたときに「なぜ面白いと思ったのか?」を突き詰めて考えること。その共通項をあぶり出してみるのも有効です。

洞察につながる「問い」を生み出せる人は、「わかった」気にならない

「抽象化・構造化」のステップでは、洞察につながる「問い」をつくる力が問われそうです。問いの力が高い人の共通項はありますか。

問いの力が高い人は共通して、簡単にわかった気にならずに、わからないところを理解できるよう努力しています。新たな知識を得たときに、完全にわかったと思っていても実は表層的な理解にとどまっていることって多いですよね。本当にわかっているのかと自問し、矛盾や意味が通らないという点がないかを確かめる。これによって、良い問いを生み出す力が磨かれるんです。

最近の私の例をお話すると、新たな組織論『ティール組織』(英治出版)を読んだときに、疑問が次々と出てきました。
ティール組織が良い組織形態ならば、なぜ歴史上強かった組織として登場しないのか。存在したとしても、自然淘汰によって残らなかったのではないか。また、もしティールという組織が今の時代背景だから栄えるというのなら、何がファクターになるのか。こんな問いが浮かんできました。これは『ティール組織』で提示される進化型組織というコンセプトについてもっと知りたいという探求心の表れでもあります。

ティール組織
ティール組織
フレデリック・ラルー,鈴木立哉(訳),嘉村賢州(解説)
英治出版
ティール組織
ティール組織
著者
フレデリック・ラルー 鈴木立哉(訳) 嘉村賢州(解説)
出版社
英治出版

歴史学者、阿部謹也さんの師匠である上原専禄さんは、生徒たちの論文に対し、「それでいったい何がわかったことになるんですか?」と聞くのが口ぐせだったといいます。上原先生曰く、「わかるとは、わかった前後で自分が変わること」。つまり、これを知らなければ今のこの行動は生まれなかった、というくらいの変化がないと、真にわかったことにはならないわけです。

いくら知識を仕入れても、「知る」ことと「わかる」こととの間には、大きなギャップがあります。ティール組織についても、私のめざす組織のありようが変容してはじめて「わかった」といえるのでしょう。

AI時代に必要なのは「センスメイキング」の力

現在、山口さんが独学されているなかでホットなテーマは何ですか。

今、注目しているテーマは、意味のつくり方、「センスメイキング」です。現在はこれだけものに恵まれているのに、閉塞感が漂っています。それは物事への「意味」が足りてないから。働く意味、会社に毎日通勤する意味など、「何のために」が答えられない人が多いのではないか。
人は意味を食べていく生き物。AIに多くの仕事を代替できる時代においては、ロジカルに正解を導き出す能力よりも、意味を紡ぎ出す能力のほうが、希少価値が高くなると考えるようになりました。このテーマについて考えるようになったのは、“Sensemaking: The Power of the Humanities in the Age of the Algorithm”という本を読んだことがきっかけ。個人はもちろん企業も、人の共感を集めるミッションやビジョンを掲げられているかが問われるでしょう。そんな仮説のもと、意味を紡ぎ出す「センスメイカー」について探求を深めています。

センスメイカーの先駆事例を教えてください。

1つはグーグルのミッションステートメント。「グーグルの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。このミッションに共感する人材を引きつけてやまないという意味でも、卓越したセンスメイキングだと思っています。

また、ピーチ・アビエーションの理念も素晴らしい。CEO井上慎一さんは、安全を一番のプライオリティにしつつ、渡航費を限りなく手ごろなものにすると語っています。背景にあるのは「若い人がどんどん他国に行って、他国の文化を知ってほしい」という想い。いくら「そんな安さじゃ利益がでない」といわれても、ピーチの存在意義を貫いています。年内には、こうしたテーマについても本を書きたいですね。

独学の技法
独学の技法
山口周
ダイヤモンド社
独学の技法
独学の技法
著者
山口周
出版社
ダイヤモンド社
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
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山口周
光文社
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
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著者
山口周
出版社
光文社
武器になる哲学
武器になる哲学
山口周
KADOKAWA
武器になる哲学
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著者
山口周
出版社
KADOKAWA

山口 周(やまぐち しゅう)

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。

著書に『独学の技法』(ダイヤモンド社)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?――経営における「アート」と「サイエンス」』『外資系コンサルの知的生産術――プロだけが知る「99の心得」』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『天職は寝て待て――新しい転職・就活・キャリア論』『グーグルに勝つ広告モデル――マスメディアは必要か』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術――図解表現23のテクニック』(東洋経済新報社)『外資系コンサルが教える読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。

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文責:松尾 美里 (2018/06/06)

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