『山と溪谷』通巻1000号
現代人だからこそ感じたい山の魅力とは

『山と溪谷』通巻1000号

月刊誌『山と溪谷』が今月発売の8月号で1000号となった。創業者の川崎吉蔵氏が1930年(昭和5年)に創刊して今年で88年。趣味系の雑誌として、1000号を数えるものはそうそうない。

読者とともに歩んできたその歩みと、同じ雑誌を1000号も続けられるその継続力や企画力、そして現代人と山の付き合い方・魅力などを、山本聡編集長に伺った。

山と溪谷 2018年8月号
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山と溪谷編集部
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山全体の魅力を伝えられる雑誌に

── 『山と溪谷』創刊時のエピソードなどをお聞かせください。

1930年(昭和5年)に創業者の川崎吉蔵が創刊しました。当時は小さな取次店があったぐらいだったので、紀伊國屋書店の創業者である田辺茂一さんに、直接50冊納品に伺ったそうです。
当時は隔月で発行していましたが、1946年から現在のように月刊誌になりました。編集長は私で20代目になります。日本の雑誌の中で、創刊当時からのロゴを大切に守っているのは『山と溪谷』だけだと思います。


── 『山と溪谷』は読者に何を伝えていくための雑誌ですか? 読んでいただくことで何を得てほしいですか?

日本の登山人口は1000万人ぐらいと言われていますが、その実態はわかっていません。ハイキングなど山に行ったことがあるという人は多いですが、本当の“登山者(山ヤ)”となると、この中の何分の1というイメージでしょう。
『山と溪谷』は登山者向けの雑誌ですが、私としては日本の自然の美しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思って編集しています。
「登る」というスポーツ的な行為だけではなくて、自然科学や歴史、地学などなど、山にはいろんなアプローチがあると思っているんですよね。そういったものも今後は伝えていきたいです。


皇太子徳仁親王は5歳の時に軽井沢の離山(はなれやま)に登られました。それが初めての登山だったそうですが、当時は「早く頂上に着かないかな」とだけ思われていたそうです。それが30代になると、山全体、登山の行程そのものを楽しめるようになったとおっしゃっています。
まさにこういうことなんですね。山登りの方法論だけではなく、自然に近づき、接する心を伝えられる雑誌にしていきたい。頂上に行くことだけが目的ではなくて、「ひとりひとりの登山の楽しみ」があっていい、そう思います。

ライブだけどライブじゃない

── 雑誌作りにあたってこだわっているポイントを教えてください。

「自分の体験で本を作る」これにこだわっています。
実は『山と溪谷』は1年前に1年後の企画を立て、取材を終わらせています。季節ごとで山の表情は違いますから、その都度直前に取材していては、刊行時には山の表情はもう変わってしまうんです。
人からの情報ではなく自分たちの体験で本を作るためには、1年前にしっかり現場の取材を終わらせておく必要がある。そうすることで誌面に季節感がしっかり出る。ライブだけどライブじゃないんですよね。自然雑誌ならではの進行だとは思うんですが、かなりスローかつ計画的に作っているんですよ。

── 毎月新しい企画を作り続けられる継続力や、企画の出し方など、ヤマケイ流の仕組みがあれば教えてください。

先ほども言いましたが、登山ってスポーツ的な側面だけではないと思うんです。自然科学、歴史、山岳宗教、民族、地理、地学など、さまざまなジャンルを横断できる魅力があります。なので企画も広く出せるんですよね。


あとは、「マンネリを怖がらない」ということです。同じ企画でも、違う切り口やコミュニケーションがあるんじゃないかなと考えるようにしています。
昔は定期購読で読んでいただいている方が多かったですが、いまそういう方は少なくなり、逆にはじめて雑誌を手に取るという方もいらっしゃる状況です。
それでもいつもお読みいただいている方に「またか」とは思わせない編集で、前回とは違う山の魅力を見せられるよう工夫しています。

── よく取り上げるエリアはどこですか?

北アルプスですね。3000m級の山が揃っているので、中国、台湾、韓国の人たちからも注目されているエリアです。
なんといっても北アルプスは登山の歴史が100年あり、道の整備も早く進んできました。山小屋も充実しているので、ルートを選べばビギナーから上級者まで幅広く楽しめるところですね。

週末は自然と触れ合う時間をつくってほしい

── 健康に関する特集も多いですが、現代人の健康状態についてはどう思われますか? スマホ全盛の世の中で、登山と現代人の付き合い方はどうなっていくと思われますか?

現代人は自分の体力を過大評価している人が多いですね。登山に興味を持たれる方はだいたい若者か、子育てが終わった中高年世代です。中高年の皆さんは特に体力には気をつけた方がいいですね。

アメリカやヨーロッパは健全な心身をキープするためにスポーツが生活の一部になっていますが、日本人には全く運動をしないという人もたくさんいます。普段のライフスタイルのなかに、運動を取り入れるようになるのが理想です。そうしないとアウトドアはなかなか楽しめません。
自然と遊ぶ週末って心もリフレッシュできますよ。普段はデジタル、ITでももちろんいいです。でも週末は自然と触れ合う時間をつくる。そうすると、肉体も精神も強く豊かになれる。そういう方がカッコいいのではないでしょうか。


── 疲れたビジネスマンにオススメの山やコースがあれば教えてください。

首都圏でいえば、まずは高尾山から陣馬山までの奥高尾縦走ルートですね。17kmぐらいのコースで1日楽しめますよ。
そして東京都最高峰の雲取山。2017mの山です。こちらは1泊して登るコースになります。
山で一夜を過ごして夕暮れや朝焼けを見る、すばらしい体験になると思います。
あとは丹沢の塔ノ岳ですね。相模湾や富士山が拝めて、とても素敵な景色が楽しめます。

ご旅行では屋久島をオススメします。
とにかく自然が濃密で、心に栄養がもらえます。九州最高峰の宮之浦岳の登山もいいですし、縄文杉や弥生杉を観に行くのもいいですね。異次元の世界が楽しめます。

── 今後どんな雑誌作りをしていきたいですか?

「自然が足りてないな」と思う時に、手に取って楽しんでいただけるものを作っていきたいです。
アウトドアが楽しい! と思う人は登山に向いています。山のもつ文化的な側面や魅力を、より多くの人に気づいてもらえればと思います。

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山本 聡(ヤマモト サトシ)

1992年、山と溪谷社入社。2008年に『ヤマケイJOY』編集長に就任。その後、10年に女性向け山の雑誌『Hutte』、11年に隔月雑誌『ワンダーフォーゲル』を創刊し、15年から『山と溪谷』編集長。

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文責:井手琢人 (2018/07/19)

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