事業成功の最強ツール、「KPIマネジメント」の極意とは?
リクルートでKPI講師を務めた現場のプロが語る

事業成功の最強ツール、「KPIマネジメント」の極意とは?

データの重要性が増すなか、事業運営で欠かせない存在となっているKPI。ドラッカーが1954年に著書『現代の経営』 で提唱していた歴史のある概念でありながら、「KPIが有効活用できていない」「そもそも正しく設定できているか定かでない」という企業は少なくありません。そんな状況を変えるための救世主的な一冊が、『最高の結果を出すKPIマネジメント』 (フォレスト出版)です。

著者の中尾隆一郎さんは、11年間にわたりリクルートグループの勉強会で「KPI」の看板講座を担当してきました。「適切なKPIを設定し、運用するためのコツを知りたい」「KPIマネジメントをレベルアップさせたい」。そんなフライヤー読者に向けて、正しいKPIマネジメントのポイントをお聞きしました。

KPIを「1つ」に絞る理由とは?

── まず、中尾さんが提唱するKPIマネジメントを教えてください。

KPIは事業成功の鍵を数値目標で表したもの。多くの方は、KPIマネジメントというと数値管理と思う節がありますが、それとは一線を画します。なぜなら「何をもって事業の成功なのか」というゴールから導き出した、1つの指標に絞って管理するためです。この最終的なゴール、たとえば売上額や利益額などをKGI(Key Goal Indicator)といいます。

KGI達成に向けて一番大事なプロセスを、CSF(Critical Success Factor)と呼びます。たとえば顧客訪問や提案活動などがCSFにあたります。このCSFを数値で表したものがKPI。KPIを達成すると、最終的にKGIも達成できるという関係性です。よってCSFをKGIから正しく導き出すことが、KPIマネジメントの肝になります。


最高の結果を出すKPIマネジメント
最高の結果を出すKPIマネジメント
中尾隆一郎
フォレスト出版
最高の結果を出すKPIマネジメント
最高の結果を出すKPIマネジメント
著者
中尾隆一郎
出版社
フォレスト出版
中尾さん自身がリクルート時代に新規事業を立ち上げ、KPIマネジメントを実践して軌道に乗せた経験の持ち主。本書では、徹底した実践主義のKPI設定・運用方法を伝授している。

── 本書には「ダメダメKPIの作り方でありがちなこと」が紹介されていました。その中でもとくに犯しがちな失敗の典型例は何ですか。

典型的な失敗は、組織の中で複数のKPIを設定してしまうこと。本来KPIは信号なので、1つに絞らないといけません。

── 部署が多岐にわたる企業でも、1つに絞るのでしょうか。

そうです。たとえば、上司から現場に5つの施策(施策A~E)を行うよう要望があり、5つのKPIが設定されたらどうか。おそらく現場は独自に優先順位を決め、取捨選択した結果、やらないものが出てきます。かといって、上司に「施策をやっていない」とは報告しづらいですよね。
すると、施策Aがうまくいかなかった場合、「実行したけどうまくいかなかった」のか「実行しなかったからうまくいかなかった」のかを区別できず、正しい振り返りができません。

KPIマネジメント成功の秘訣は「PDDSサイクル」をすばやく回すこと

── KPIマネジメントが重要となる理由は何ですか。

KPIマネジメントが必要な理由、それは継続的な改善によって、マネジメントそのものを進化させるためです。通常、振り返りのサイクルとして、PDCA(Plan-Do-Check-Action)やPDS(Plan-Do-See)が使われていますよね。私が提唱しているのは、PDSのDoの前に“Decide(決める・絞る)”というステップを組み込んだ「PDDSサイクル」。KPIの精度を高めるには、いかにすばやくDecideするかがカギとなります。

── PDDSサイクルを早く回して、KPIの精度を高めるための秘訣はありますか。

1サイクル回すのにかかる期間を測ることです。年に数回だとしたら危機感をもったほうがいい。逆に50回、100回とすばやくPDDSを回して、組織全体で振り返る期間が短くなればなるほど、CSFやKPIの精度が上がります。そして、振り返りから学び続ける組織へと進化できるのです。

── 全従業員が納得感をもてて、わかりやすいKPIをつくることは難しいと思います。それを実現するために、どんな工夫がいりますか。

KPIを1つに絞り込む会議では、たいてい複数の候補があがって議論が起きます。この議論や決定までのプロセスを全従業員にオープンにすることです。そうすれば、どんな背景でKPIが決まったのかが明らかになるし、「これだけ議論を尽くして1つに絞ったんだ」と、コミットしやすくなります。KPIが悪化しても責任逃れが起きにくい、というのもメリットです。

KPI自体もあくまで仮説。良いタイミングで見直す必要があることを従業員に伝え、KPIが悪化したときの打ち手も最初に決めておくことをおすすめします。いつ、KPIがどの程度悪くなったら、何の施策を行うのか。その最終決裁者は誰なのか。これらを文章に残しておくと、短時間で意思決定ができます。

忘れてはいけないのは、目的はKGIを達成することであって、組織はKGIやビジョンを達成するための「手段」にすぎないということです。営業部、商品企画部、研究開発部などと、部署名を主語にして、自部署にとってのKPIを考え出そうとするのは、目的と手段を取り違えているといえます。

KGIの達成に寄与する最重要プロセスが、CSFです。ということは、組織全体のCSFに寄与しないKPIしか設定できない部署はいらないといっても過言ではないでしょう。KPIマネジメントで大事なのは、CSFに従業員が全力を注ぐこと。つまりFocus&Deepなんです。


「これからはKPIではなくOKRでマネジメントする時代」って本当?

── GoogleやFacebookをはじめ、今ではメルカリやfreeeなどの日本企業でも、KPIではなくOKRによるマネジメントに舵を切っているところが増えていると聞きます。KPIとOKRをそれぞれ、どんな場面で活用すればいいとお考えですか。

そもそもKPIとOKRはマネジメントの対象が異なります。KPIは事業のマネジメントのためのものであるのに対し、OKRは個人のマネジメントのためのもの。なので、「KPIはもう古い。今後はOKRだ」という話がありますが、それは間違いというわけです。
OKRは、Objectives and Key Results(目標と主要な結果)の略称で、定性的な1つの目標(O)に対し、Oをどうしたら達成できるかを定量化するのがKRです。
KPIとOKRのそれぞれの役割を対比させるとしたら、KGIが、個人におけるキャリアイメージとObjectivesです。このOは3カ月後や半年後くらいの短期的なものもあれば、3~5年後と中長期的なものもある。そしてCSFが、個人におけるKRに、KPIが、KRを数値化したものにあたります。

── OKRによる個人のマネジメントをうまく行うためのポイントはありますか。

OKRのマネジメントで大事なのは、このOとKRが個々人のキャリアの理想にもつながっているということ。リクルート時代の面談では、個々人のキャリアの目標に絡めたOになっているかどうかを、部下一人ひとりと確認していました。

正確に表現すると、KPIとOKRではなく、MBO(目標管理制度)とOKRの比較が正しいです。MBOはManagement By Objectivesの略称で、個人やチームごとに決められた目標に対する達成度合いで評価を決める仕組みのこと。従業員一人ひとりに一年間を通じた目標を設定し、年の最後に業績を分析・評価するのですが、目標を設定し、達成度合いを評価するまでに時間と手間がかかるというデメリットがありました。そのアンチテーゼとして、もっと簡潔に高い頻度でフィードバックをするOKRという概念が生まれたと理解しています。

OKRの運用を進めるためのツールの1つが、1on1ミーティングです。究極的には、全従業員が行っているプロセスや成果を常に参照でき、リアルタイムでフィードバックができるのが理想だと考えています。KPI、OKRいずれにおいても、振り返りの速度をはやめることが重要です。

年間100冊以上の読書を18年間継続しているワケ

── 中尾さんは年間100冊以上、週に平均2冊読むという習慣を18年以上続けているとお聞きしました。マネジメントや組織力向上に役立つ本を教えてください。

自社外での活動ですが、古典の名著からマネジメントのスキルをつけるための本を選び、受講生に読み方を教える「中尾塾」というのを10年間続けています。マネジメントは仕事の管理(=プロジェクトマネジメント)と、人の管理(=エンパワーメント)の2つの柱から成ると考えているので、それに関する本がメインですね。例えば、『人を動かす』『ザ・プロフィット』『現場論』『トム・ピーターズの経営破壊』『1分間リーダーシップ』 『自分の小さな「箱」から脱出する方法』 などです。

受講生に伝えているのは、「本の内容を自分の課題にどうつなげるのか」という視点で読むこと。塾では本の感想ではなく「この本の学びをもとに明日何をやるのか」を問いかけます。


── きわめて能動的な読み方ですね。比較的最近読まれた本の中でおすすめは何ですか。

古典以外で挙げるとしたら、経済学者の伊藤元重さんに推薦された『習慣の力』 という本です。「習慣の力」を活かして高い業績を上げている組織の事例が、多数取り上げられています。

中でも印象的だったのはアメリカのスターバックスの事例。過去に罪を犯した人など、意志の力が弱いであろう人を雇用し、そうした人たちでも力を発揮できるように育成しているといいます。
彼らは通常業務では、他の従業員と変わらずパフォーマンスを発揮できている。けれども、お客さまから激しいクレームが寄せられるときには、その場を逃げ出したり商品をこぼしたりしてトラブルを起こしてしまうという問題がありました。

そこでソリューションとして考え出されたのが「LATTEメソッド」。まずはお客さまの声に耳を傾ける(Listen)、彼らの不満を認める(Acknowledge)、問題を解決するために行動する(Take action)、お客さまに感謝する(Thank)、そして最後に、なぜその問題が起きたのかをお客さまに説明する(Explain)という順です。何かトラブルが起きたとき、それに対して良い悪いの判断をはさまずに、このLATTEメソッドで対応する。そうすれば問題を解決でき、パニックに陥らずに済むという報酬(リワード)を体感できます。これを体に染みこませて習慣化させるために、ひたすらロールプレイをするそうです。こうして良い習慣を定着させることが、組織力の向上につながるのだと学びました。

── 『習慣の力』 、ぜひ読んでみたいと思います。

私が読書を習慣にしようと決め、継続しているのは、ある調査の結果を知ったからです。その調査によると、読書をはじめ、定期的なインプットをしているビジネスパーソンのほうが、そうでない同じ属性の人よりも収入が多いそうです。

「年間100冊読む」という目標を達成するうえでも、KPIが有効です。自分の読むスピードを把握して、そこから1日何分読書にあてるべきかを割り出して、通勤時間を読書にあてています。読めないときは、週末につじつまを合わせるのです。
キャリアの多様化が進む現在、変化にしなやかに対応するためにも、読書の習慣はますます重要になるでしょう。

最高の結果を出すKPIマネジメント
最高の結果を出すKPIマネジメント
中尾隆一郎
フォレスト出版
最高の結果を出すKPIマネジメント
最高の結果を出すKPIマネジメント
著者
中尾隆一郎
出版社
フォレスト出版

中尾 隆一郎(なかお りゅういちろう)

株式会社FIXER取締役副社長

1964年5月15日生まれ。大阪府出身。1987年大阪大学工学部卒業。89年同大学大学院修士課程修了。同年株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。主に住宅、人材、IT領域を歩み、住宅領域の新規事業であるスーモカウンター推進室室長時代に同事業を6年間で売り上げを30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者。

リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルートホールディングスHR研究機構企画統括室長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2018年4月から現職。2017年6月より株式会社旅工房社外取締役を務める。専門は事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織創り、KPIマネジメント、管理会計など。良い組織づくりの勉強会(TTPS勉強会)主催。

29年勤めたリクルート時代は、約11年間にわたってリクルートグループの社内勉強会において「KPI」「数字の読み方」の講師を担当、人気講座となる。著書『転職できる営業マンには理由がある!(共著)』 (東洋経済新報社)、『リクルート流仕事ができる人の原理原則』 『リクルートが教える営業マン進化術(共著)』 (全日出版)。

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文責:松尾 美里 (2018/10/04)

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