グロービス トップ堀義人が語る、“使命感を育んだ原体験”
100年後も通用する方法論、『創造と変革の技法』に込めた想いとは?

グロービス トップ堀義人が語る、“使命感を育んだ原体験”

ビジネスリーダーを育成するグロービス経営大学院の学長、堀義人さん。アジアナンバーワンのビジネススクールをめざす傍ら、日本版ダボス会議「G1サミット」開催、水戸の地方創生、Bリーグ茨城ロボッツの再建などにも取り組んでおられます。新著『創造と変革の技法』(東洋経済新報社)には、堀さんの思考と活動の軌跡が詰まっています。

「社会をよくする」という想いをここまで体現し続け、それを周囲に波及できるのはなぜなのか。これほどの使命感を抱くようになった堀さんの原体験をお聞きしました。

めざしたのは「100年後にも読み継がれていく本」

『創造と変革の技法』を書こうと思われた動機は何ですか。

グロービス経営大学院には、「企業家リーダーシップ」という科目があります。そこで「創造と変革 5つの原則」というスピーチをしているのですが、学生から「どうすれば創造と変革が実行できるのか」という質問が多く寄せられるようになっていたのです。これは何かしらメッセージを発信しなくてはと考えていました。また日本経済新聞で連載していたコラムの内容をもとに、自分の考えを一冊にまとめたいと思っていたのも理由の1つです。

僕はベストセラーを狙うのではなく、「後世の人にも読んでもらえる本かどうか」という点を何よりも大事にしています。ハーバードなどがまさにそうですが、世界に名を馳せる大学は100年以上歴史を重ねています。慶應義塾大学も100年位以上の歴史を刻んでいますが、創立者の福澤諭吉は『学問のすゝめ』を遺している。同じように、グロービス経営大学院の初代学長である自分が、どういう思想をもっていたのか、その軌跡をまとめたのが本書です。だから100年後にも読み継がれていく内容、タイトルになるよう徹底的にこだわりましたし、一字一句自分の言葉で伝えています。

創造と変革の技法
創造と変革の技法
堀義人
東洋経済新報社
創造と変革の技法
創造と変革の技法
著者
堀義人
出版社
東洋経済新報社

新著『創造と変革の技法』は、成長を続ける人や組織とは何かを考え抜く中で見えた「不変の5つの原則」を綴っており、これまでの集大成的な一冊になったと語る堀さん。

堀さんは日本やアジアの中でご自身が果たすべき役割や、社会への貢献を常に考え、それを体現されています。個人や組織を超えた責務を果たそうと思い至った原体験は何ですか。

影響を与えた経験は3つあります。1つは家庭環境です。父親が学者で、父方の祖父は科学者、母方の祖父が政治家という家庭に育ちました。父方の祖父は25歳のとき、自らのミッションを『吾人の任務』というエッセイの中で定義し、その後慶應義塾大学の工学部をつくった人。そして母方の祖父は、まさに「愛媛県県民、新居浜市民のために」と、無私の精神で献身してきた人です。

だから、社会のために何をすべきかを考え、実践し続けるという生き方が、幼い頃から当たり前だった。僕は起業・経営の道を選びましたが、「社会に貢献するため」という意識が根っこにあります。グロービス経営大学院のビジネスリーダー育成もベンチャーキャピタルのベンチャー支援も社会を良くするための活動の一つだと考えています。

2つ目は、僕が小中高の時代を過ごしてきた水戸という土壌。尊王攘夷に影響を与えた水戸学の精神が体に染みこんでいるんだと思うんですね。水戸藩の藩校である弘道館や、『大日本史』を編纂した徳川光圀の思想など、明治維新の先駆け的なものにふれてきたことは大きかったと思います。

そして3つ目は、人生についてずっと哲学し続けてきたこと。拠りどころにしているのが、密教と陽明学の教えです。僕は輪廻転生を信じていて、「今生において何を成し遂げたいのか」「そのために日々どう過ごしていったらいいのか」といったことを考え続けてきたんです。


自分が心底信じられる「ミッション・ビジョン・理念」を語り続けた

いくら社会全体にまで思いを馳せた志・大義を見つけても、それを実践し、周囲をインスパイアし続けることは並大抵のことではないと思います。ですが堀さんは、日本版ダボス会議「G1サミット」の定期開催、日本を動かす100の行動など、社会に良いインパクトを波及させ続けています。これが可能である理由は何なのでしょうか。

ミッションやビジョン、理念を語り、共感してくれる仲間を大事にしてきたことだと思います。本書にも「小さく始める」と書きましたが、最初は少数でした。けれども、自分が心から信じ切って、人生を賭けている志なら、それはおのずと言葉や態度に表れ、相手にも伝わります。それを信じてくれた人を大事にしながら、仲間がやりがいを感じられるような楽しい場をつくっていった。すると小さかった輪が徐々に広がっていく。

G1サミット開催もそうです。最初は「日本を良くするリーダーが集う場をつくる」という理念を周囲に呼びかけ、同世代の仲間が集まってくれた。世耕弘成さんは経済産業大臣になる前から、山中伸弥さんはノーベル生理学・医学賞受賞の前から初期のボードメンバーを務めてくれています。そしてそこを中心に新たに共感の輪が広がっていきました。

僕が意識しているのは、みんなで楽しめる場であるかどうかということ。その意味ではグロービスもG1サミットも大きなコミュニティといえるかもしれません。ネットの世界でもコミュニティづくりがキーワードになっていますが、永続するコミュニティの大前提となるのが、確固としたミッション・ビジョン・理念だと思います。


これまで多くの挑戦をされる中で、ご自身の中でミッションが揺らぎそうになることはなかったのでしょうか。

ミッションというのは「これをなし遂げなくては」という使命、つまり初心なんですよね。もちろん、ミッションを実現するための方法論は、時代の変化に応じて変わることもあります。ですが、その根底にある思いは揺らぐことはありません。明確な方向性を表すビジョン、そして大事にしたい価値観を表す理念も同様です。

もちろん、グロービスを始めた当初は批判されてひるみそうになることもありました。けれども、だんだんわかってきたのは、新しいことを始めたら必ず批判がくるということ。だから今では批判に動じることはないですね。むしろ強い反対にあうたびに、自分のミッションが問い直され、いっそう強固になっていく。時には敵だった相手であっても、こちらが真剣に向き合った結果、味方に転じてくれることもあります。

日本やアジアというコミュニティに生きる一人としての責任を果たす

堀さんが熱量を注ぐ対象は、グローバルからローカルまで幅広い印象を受けました。その対象をどう選んでいるのでしょうか。

もともとは、グロービスをアジアナンバーワンのビジネススクールにすることにフォーカスしていました。けれども、それだけでは社会の創造と変革というビジョン実現には時間がかかります。何かやらなくては。そんな危機感を抱いていたときに、ちょうどダボス会議に出席し、日本のプレゼンスが下がっているのを目の当たりにした。
そして水戸の場合も、同窓会で久々に訪れた際に、あれほど栄えていた街がシャッター街になっている現状を突きつけられたわけです。

日本全体のことであれ、地方のことであれ、そこに課題があると知ったからには、自分ができうる限り最大の貢献に力を尽くしたい。そう考えるのは、日本やアジアというコミュニティに生きる一人としての責任があるからです。

もちろん、果たして自分にできるのかどうかと悩むこともあります。限られたリソースで1つ1つをしっかり結実させるには、やることを絞る必要もある。だから、自分の生き方が1つのロールモデルになればいいとも思っているんです。後世の人が僕の生涯を見て、「自分にもできることがある、一歩を踏み出してみよう」と思ってくれればいい。

それはまさに『後世への最大遺物』のように、多くの方の背中を押すのだと感じました。今後新たに取り組みたいことはありますか。

当面の目標は、引き続きグロービスをアジアナンバーワンのビジネススクールにすることを目指しながら、新著に綴ったような水戸の創生、茨城ロボッツ再建、囲碁の振興、画家の岡野博さんの支援といった活動を軌道に乗せていくことです。

そのうえで広げるとしたら、「アジアや世界」というコミュニティの中での責務を果たしていきたい。これまでの実践を通じて、地域を良くする方法や日本を良くする方法がある程度わかってきた。それと同様に、アジアや世界全体を良くする方法が、少しずつ明らかになりつつあります。世界にはどんな問題があり、それを変えるために民間の立場で何ができるのか。日本がとるべき行動を明文化した「100の行動」のように、このアジア版・世界版といえるものを、俯瞰的にまとめていきたいですね。

リーダーが磨いておくべき3つの力とは?

最後に、「創造と変革の志士たち」が育っていく組織やチームをつくりたいという経営者やリーダーはどんな力を磨いていけばよいか、教えてください。

1つは経営学の知識。いくら周囲に想いを語っても、それだけでは空回りしてしまう。科学的に裏付けられた組織を動かす方法論を学んでおくことは重要です。
2つ目は、人間関係を築く能力。志の高いメンバーたちの共感を生み出し、彼らを引っ張っていくには、コミュニケーション力など関係性を築く力は欠かせません。
最後はリーダーの志です。自分が何をしたいかというのをリーダー自身が語れるかどうか。
これはグロービスが掲げる教育理念と同じ。これら3つがそろうと、内なるエネルギーが湧いてくる。それに、人間のセンサーは鋭敏なので、リーダーの本気度というのは必ずメンバーにもわかります。だからこの3つを磨いていくとよいのではないでしょうか。


堀 義人(ほり よしと)

グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。

京都大学工学部卒業、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneurs’ Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、世界の成長企業(GGC)の共同議長、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)、米国ウィルソンセンターのグローバルアドバイザリーカウンシル等を歴任。

2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、現在一般社団法人G1の代表理事を務め、日本のビジョンである「100の行動」を執筆する。2011年3月の東日本大震災後には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、現在一般社団法人KIBOWの代表理事を務め、KIBOW社会的インパクトファンドを組成し運営している。2016年に水戸ど真ん中再生プロジェクトを始動。2016年4月からは茨城ロボッツの取締役兼オーナーとなる。他には、公益財団法人日本棋院理事、いばらき大使、水戸大使等歴任。5男の父親で、水泳のジャパン・マスターズに毎年出場している。

著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人の任務』(東洋経済新報社)、『新装版 人生の座標軸』(東洋経済新報社)、『日本を動かす「100の行動」』(共著、PHP研究所)等がある。

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文責:松尾 美里 (2018/10/19)

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