衰退した街、熱海はなぜ再生できたのか?
「熱海の奇跡」の立役者に聞く、地方創生の成功要因

2000年代には「衰退の代名詞」とされた静岡県熱海市。「民間から、ビジネスの手法を使ったまちづくりで熱海を変えよう」。そんな信念のもと、2007年にUターンした市来広一郎さんが上梓されたのが『熱海の奇跡』(東洋経済新報社)です。

市来さんは補助金に頼らない自主プロジェクトを次々に立ち上げ、市役所、地元の方々との連携によって、熱海再生の立役者となりました。

地域資源を活用した体験交流ツアーを集めた、「熱海温泉玉手箱(オンたま)」のプロデュース、空き店舗をリノベーションしたカフェ「CAFE RoCA」、ゲストハウス「MARUYA」、地元で働く人のためのコワーキングスペースの「naedoco」を立ち上げ。今も新たな挑戦を続けています。

市来さんが実践されている「まちづくり」の成功要因は何か? 地方創生を担う人材に必要な力とは? 熱海以外の地の活性化、地方創生に活かせるポイントをお聞きしました。

熱海の衰退の根本原因は何だったのか?

かつては「衰退した観光地」の代名詞となっていた熱海。当時と現在を比較して熱海はどう変化しましたか。

有数の温泉観光地として栄えてきた熱海ですが、バブル崩壊後には宿泊客数が半減。人口も約3分の2に激減しました。最も街が停滞していたのは2000年代半ば。熱海の観光の口コミサイトを見ると、クレームの書き込みが散見され、旅館やホテルは廃墟になっていく一方でした。

私は東京でコンサルタントの仕事をしていましたが、地元熱海に帰ってきて愕然としました。にぎわっていた商店街が次々にシャッター街になっていたからです。旅館やホテルの跡地にマンションが建設され始めていましたが、9割近くは別荘での利用。定住者が増えるわけではありません。マンションだらけで熱海らしい風景が失われていくことにも危機感を覚えていました。

そのような状況だったのが、2015年度には宿泊客数308万人と、2001年以来14年ぶりに300万人台を回復しました。廃業したホテルや企業の保養所をリノベーションし、新たに誕生した宿も少なくありません。

高齢化率自体は2000年代よりも現在のほうが高いものの、熱海で活躍しているプレイヤーが若返りしているのも、大きな変化の1つです。もちろん社会貢献をしているシニア層も多数いますが、リアリティをもって20、30年後の熱海の未来を考えられる30、40代という世代の活躍は、地方の活性化という意味でも重要だと考えています。


熱海で衰退が起きていた根本的な原因は何だったのでしょうか。

過去に温泉地として成功しすぎたことでしょうか。90年代までは団体旅行が主流で、旅館とか箱を用意していればよかった。ですが観光客のニーズは、団体客による宴会歓待型から、個人や家族による体験・交流型へとシフトしていった。かつて成功したやり方では、もはや観光客も満足しなくなってきたのです。これが熱海を含めた温泉観光地が衰退していった根本的な原因でした。
「このままでは生き残れない」。旅館・宿泊業の人たちも、2000年代になってやっと危機感を強め、ニーズの変化に対応し始めるようになりました。

また個人旅行が増えると、個人客が街中で出会う人たちやお店からも、その土地のイメージができていきます。当時の観光客の満足度はかなり低いものでした。
住民の方々へのインタビューでわかったのは、熱海に対してネガティブな印象をもっている人が多いということ。地元の人が熱海の魅力に気づいていなければ、観光客も熱海のファンにはならないでしょう。
まずは地元の人が熱海を知る必要がある――。地元の人が地元を楽しむ体験交流ツアー「オンたま」をプロデュースしたのも、そんな狙いがあったから。こうした具体的な取り組みから得た経験則を、他の地域でも活かしていただきたいと思い、『熱海の奇跡』を執筆しました。

熱海の奇跡
熱海の奇跡
著者
市来広一郎
出版社
東洋経済新報社
空き物件をリノベーションして生まれた熱海銀座のゲストハウス「MARUYA」。ゲストは干物屋で購入してきた魚を宿のグリルで焼き、朝食にするという。
ゲストハウスの中は木材の家具が多く、あたたかい空気が流れている。
インタビューを行ったのは「MARUYA」から目と鼻の先にある、コワーキングスペースの「naedoco」。

V字回復を可能にした2つの要因

熱海は経済を急激に回復させ、「観光白書2017」でも「民間ベースでのUターンの若者による街づくり」で成功事例として紹介されるほど。V字回復の成功要因は何だったのでしょうか。

2011年頃からの下積みが奏功したのだと思いますが、成功要因は主に2つです。1つは民間主導で進めたこと。行政の取り組みは、性質上、年度ごとに見直される場合も少なくない。その点、民間の場合はビジネスとして持続可能なら、市の計画に左右されず継続・発展させることができます。

2つ目は、挑戦する人たちがつながりやすい環境をつくったことです。中心街、熱海銀座のビジョンとして掲げたのは、「クリエイティブな30代に選ばれる街をつくる」というもの。自分たちの仕事をつくり上げようとする起業家や街をつくろうという意欲にあふれた人がチャレンジしやすい環境をつくれば、停滞した空気が変わっていく。30代前後を目安にすれば、他の世代にも良い影響を波及できると考えました。


ターゲットを「クリエイティブな30代」と明確に打ち出したのですね。彼らを呼び込むために大事なことは何ですか。

UターンにせよIターンにせよ、ゼロから一人で新しいことをやるのは大変ですよね。そこで、新しいプレイヤー同士が交流し、各自のビジョンを共有できる場を設けました。つながりが増えれば心強いし、そこからコラボレーションも生まれていく。

V字回復が実現できたのは、熱海市職員の方々のバックアップのおかげでもあります。これまで熱海についてメディアに取り上げられるのは、主に花火大会や温泉でした。ですが、もっと多様な切り口で個々の人やお店の活動がメディアで取り上げられるようにと、職員の方々がPR方法を一緒に考えてくれました。商店街の支援に補助金を出すといった形ではなく、熱海で頑張っている個々人にフォーカスして後押ししていったんです。

カギとなるのは「この街なら面白そうなことができそう」と思ってもらうこと。面白い人たちをとにかくつなげていくと、熱海は面白いという空気が広がり、街全体の魅力アップになる。それがまた新たに人を呼び寄せていきます。
2011年には熱海銀座通りにある30店舗中3分の1が空き店舗でしたが、今では空き店舗が残りあと2店舗というところにまで変化してきました。

地方創生のKSFは何か?

熱海以外の地域でも地方創生をめざすうえで、「こうするとうまくいく」という共通項がありそうです。地方創生のKSF(重要成功要因)は何だとお考えですか。

1つは地方創生に関わる人の「成果へのコミットメント」でしょうか。本気でこの地域を変えたい、良いものにしたいという想いがあるからこそ、街のキーパーソンたちが協力してくれるようになり、新しい動きに抵抗が起きても盾になってくれるのです。

もう1つ地方創生の成否に関わる点は、「その街のどんな課題を解決したいのか」を明確にできているかどうか。街の現状とビジョンのギャップをとらえて、これからとるアクションが課題解決に寄与するのかを都度判断しないといけない。そのためには、最初は自分の主観でいいので「どんな街なら過ごしたいと思えるのか」というビジョンを描いたうえで、小さなアクションを考える必要があります。

地方創生に関わる人材は「ニーズの代弁者」であれ

市来さんのように、インパクトの大きい地方創生を担う人材には、どういう能力が必要ですか。

色々なタイプがあると思いますが、まちづくりに関わり、人をつないでいくうえで大事なのは「聞き出す力」ですね。街の人たちが何を望んでいて、これからどうありたいと思っているのか。これを聞き出したり、行動を観察したりして見抜くことが必要になります。新しい飲食店ができたら食べに行って、経緯を聞いてみるとか。彼らの言葉だけでなく、行動に目を配ることで、本当に抱えている悩みや課題が見えてきます。
ある師匠からいわれたのは「ニーズの代弁者たれ」という言葉。声を挙げられていない人のニーズにいかに気づき、説得力をもって語る力が重要だと思います。

熱海の奇跡
熱海の奇跡
著者
市来広一郎
出版社
東洋経済新報社

市来 広一郎(いちき こういちろう)

株式会社machimori代表取締役。NPO法人atamista代表理事。一般社団法人熱海市観光協会理事。一般社団法人ジャパン・オンパク理事。一般社団法人日本まちやど協会理事。

1979年静岡県熱海市生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)大学院理学研究科(物理学)修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地再生のための活動「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市と協働で開始、プロデュース。2011年民間まちづくり会社machimoriを設立、2012年カフェ「CAFE RoCA」、2015年ゲストハウス「guest house MARUYA」をオープンし運営。2013年より静岡県、熱海市などと協働でリノベーションスクール@熱海も開催している。2016年からは熱海市と協働で「ATAMI2030会議――熱海リノベーションまちづくり構想検討委員会」や、創業支援プログラム「99℃――Startup Program for ATAMI2030」なども企画運営している。

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文責:松尾 美里 (2018/10/23)
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