「本物経営者は、鬼、仏、神であれ」
2000社の赤字会社を黒字にした事業再生のプロが明かす「知的腕力」の磨き方

「本物経営者は、鬼、仏、神であれ」

変化の激しい現在、経営者に求められる力はより広範囲になり、乗り越えるべき壁は大きなものになりつつあります。そんななか、経営人材をめざす現場のリーダーのバイブルとなるのが『利益を出すリーダーが必ずやっていること』(かんき出版)です。

著者の長谷川和廣さんは、グローバル企業7社の経営幹部や代表取締役として、そしてコンサルタントとして、2000社を超える赤字会社を黒字化してきた敏腕経営者。これからの時代に求められる「本物経営者」に必要な資質とは何なのでしょうか。

これからの時代は「本物経営者」でなければ生き残れない

── 長谷川さんは約2000社の赤字会社の事業再生において、現場のリーダーの意識改革が重要だと感じるようになったとおっしゃっていました。彼らの課題は、『社長のノート』シリーズ(かんき出版)を上梓された10年前と比べて、変化してきているのでしょうか。

当時はリーマンショックの影響が大きく、『社長のノート』でも「生き抜く術」というテーマを打ち出していました。しかし、現在はさらに激しい変化にさらされ、「生き抜く」という表現では生易しいくらいに、「生きる」ことすら難しい時代になっています。個人も企業も、より根源的な「生きる」を可能にするために、これまで以上に普遍的な原理原則に立ち返ることが求められるでしょう。

私は27歳のときから、有益な仕事術、組織運営、部下やクライアントからの相談とそれに対するアドバイスなどを、「おやっとノート」として書き留めてきました。その習慣はいまも続いていて、ノートは290冊に達します。そのなかから、マネジメント、利益の創出、売上アップ、組織の改善など、現場のリーダーが守るべき原理原則を選り抜いて紹介したのが、新著『利益を出すリーダーが必ずやっていること』です。今後は、原理原則を実行し続けられる「本物経営者」しか生き残れない時代がきています。


長谷川さんの「おやっとノート」には、英語のメモがズラリと書かれていた。書き溜めた気づきを世のために役立てたいという思いで執筆を続けているという。
利益を出すリーダーが必ずやっていること
利益を出すリーダーが必ずやっていること
長谷川和廣
かんき出版
利益を出すリーダーが必ずやっていること
利益を出すリーダーが必ずやっていること
著者
長谷川和廣
出版社
かんき出版

── 本物経営者に必要な資質は何ですか。

大事なのは「知的腕力」です。知的腕力とは、論理的な思考と理論で武装し、言葉を通じて人を動かしていく力を指します。頭ごなしに部下を屈服させるのではなく、自分の実力を示しながら、部下一人一人と同じ目線に立ってやる気を出させていけるかどうか。

私が外資系企業の経営者をしていた頃に右腕として活躍してくれた部下たちから、後々こういわれたことがあります。「長谷川さんは鬼でもあり、仏でもあり、神でもあった」。どういうことかというと、鬼は強いリーダーシップ、仏は人間性、そして神は成果を出すことを意味します。この3つを兼ね備えていないと、部下から信用を得ることは難しく、本物経営者にはなれないといっていいでしょう。

事業再生をお手伝いしてきた企業のリーダー層には、「部下に嫌われてもいいから、信用される人であれ」と言い続けてきました。もちろんこれは簡単なことではなく、経営者をめざすにはかなりの覚悟が問われるのです。

これからの経営者は“マーケティングのプロ”であるべき

── 知的腕力のベースとして、具体的にどんな理論を学べばよいのでしょうか。

これからますます重要になるのはマーケティング理論です。私は、50数年前にトイレットペーパーやティッシュペーパーなどを製造・販売する「十條キンバリー」というグローバル企業でマーケティング担当の仕事を任されました。そして実地でマーケティングとは何かを学んできました。これは、日本のマーケティングの大家とされる人たちが、マーケティングとは何かを定義した時期よりも前の出来事です。

私の考えるマーケティングの定義は、非常にシンプルです。1つは、マーケットでいかにシェアをとり、利益を生み出すか。もう1つは、シェアと利益獲得のために、競争力のある商品・サービスをいかにつくるか。この2つは、1929年の世界恐慌で市場が縮小するさなかに、企業が「生きる」ためのエッセンスとしてまとめられたもの。つまり、誰よりも消費者を知り、消費者を満足させる売り方を追求していくということです。

顧客の要求水準があらゆる面で高くなってきているいま、この根本的な理論こそが企業の長期的な存続に欠かせません。その意味で、これからの経営者は“マーケティングのプロ”であるべきだといえるでしょう。


本物経営者になれる人材は、いかにして人間性を磨いているのか?

── 現場のリーダー層が本物経営者としての資質を磨くために、いまからどんな経験を積むとよいのでしょうか。

人を動かす知識・理論を身につけ、成果を出し続けることにくわえて、やはり人間性を高めることが大事です。人間性を磨くには、一流のモノに触れ続けることをおすすめします。本にせよ芸術作品にせよ、一流はやはり違います。そして、尊敬すべき一流の人にはできるだけ直接会い、その仕事ぶりや話し方、服装などをまねるとよいでしょう。
あとは、率先して火中の栗を拾っていくこと。逃げたくなるような状況でも、チャンスをものにしようと果敢に挑戦するなかで、人間性が磨かれていきます。

「この人に経営を託してもいいか」を判断する際に、必ず見るポイントがあります。それは、一緒にタクシーに乗り、運転手にどんな態度をとるかです。運転手に横柄に接する人は、部下に対しても同じような態度をとるでしょう。

人間性は日々の積み重ねで磨かれるものですが、いま振り返ると、私の場合は修羅場をくぐった経験が役に立っている気がします。

── 修羅場をくぐった経験ですか。

過去に、大きな賠償問題を抱える大組織の再生を引き受けたことがあります。不利益を被ったお客様、やる気を失ってしまった事業部の従業員。そして、会社の責任を追及する株主たち。色々な感情が入り乱れるなか、「何を優先すべきか」の判断に迷い、私は無力感を抱えていました。4カ月ほど徹夜が続いていたこともあり、まさに心が折れる寸前。

そんなある日、箱根の山を車で走っていたら、いつしか阿弥陀寺というお寺にたどり着いていました。その寺の住職が中に入るよう声をかけてくれたのです。私が普通の状態ではないと気づいたのでしょう。私の悩みを聞いたあと、住職が一句書いてくれました。「心に、塵一つなし」と。
この言葉をもらって、自分の心が塵にまみれていたことに気づきました。私心に振り回されるのではなく、従業員を守ることがお客様への責任を果たすことにもつながる。まずはそれを最優先にしよう。すると心の霧がスーッと晴れていきました。
この修羅場をくぐり抜けたことで、経営者として腹がすわったと思っています。


事業再生を進める際の指針になった『マンハッタン計画』

── 長谷川さんがこれまで読まれた本のなかで、経営に大きな影響を与えた本、経営人材をめざす方におすすめの本を教えてください。

テネシーバレーの開発や宇宙開発といったアメリカのビッグプロジェクトに関連した書物です。特に影響を受けたのは『マンハッタン計画』(早川書房)。絶版になってしまいましたが、壮大なプロジェクトの推進において、当時の一流の科学者や軍の指導者たちがどのように動いたのかが克明に書かれたドキュメンタリーです。私が関わってきた企業再生の成功確率が高かったのは、こうした書物から学んだ大規模プロジェクトの進め方、リーダーシップのエッセンスを適用してきたからだと思っています。

── プロジェクトの進め方で具体的に役に立った学びは何でしたか。

数多くありますが、1つは計画(プランニング)の要諦についてです。最近ではPDCAサイクルを実務に活かすための本が多数出ています。ただし、PDCAを回すだけでは不十分。そもそも何のための計画なのかを見定める「前段階」が必要なのです。

これを私はIAO PDCAというフレームワークにしています。Iは情報(Information)、Aは分析(Analysis)、そしてOは目標(Objective)のこと。PDCAサイクルを回す前に、情報を集めて分析し、解決すべき真の経営課題を把握しなければなりません。その課題を解決するための目標を定め、計画を立てる。このプロセスがあってはじめて、PDCAを上手く回せるのです。


このフレームワークは企画書作成にも役立ちます。何のための計画なのか。その計画は達成したい目標の実現に寄与するのか。経営者をめざす方にはこれを常に意識してほしいと思います。

利益を出すリーダーが必ずやっていること
利益を出すリーダーが必ずやっていること
長谷川和廣
かんき出版
利益を出すリーダーが必ずやっていること
利益を出すリーダーが必ずやっていること
著者
長谷川和廣
出版社
かんき出版

長谷川 和廣(はせがわ かずひろ)

1939年千葉県生まれ。中央大学経済学部を卒業後、グローバル企業である十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソンなどで、マーケティング、プロダクトマネジメントを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパンなどで要職を歴任。ケロッグ時代には「玄米フレーク」、ジョンソン時代には消臭剤「シャット」などのヒット商品を送り出す。

2000年、株式会社ニコン・エシロールの代表取締役に就任。50億円もの赤字を抱えていた同社を1年目で営業利益を黒字化。2年目に経常利益の黒字化と配当を実現、3年目で無借金経営に導く。これまでに2000社を超える企業の再生事業に参画し、赤字会社の大半を立て直す。現在は会社力研究所代表として、会社再建などを中心に国内外企業の経営相談やセミナーなどを精力的にこなしている。

27歳のときから、有益な仕事術、人の動き、組織運営、生き残り術、部下やクライアントからの相談事とそれに対するアドバイスなどのエッセンスを「おやっとノート」として書き留め始める。この習慣は現在も続いており、その数は290冊に達する。これをもとにして出版された『社長のノート』シリーズ(かんき出版)は累計35万部を超えるベストセラーとなった。その他、著書多数。

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文責:松尾 美里 (2018/11/27)

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