自分を成長させたいなら、「頂にある本」を読め
精神科医・名越康文さんが語る「読書嫌いのための読書術」

自分を成長させたいなら、「頂にある本」を読め

精神科医、著者、テレビのコメンテーターなど、多彩な活躍をされている名越康文さん。意外にも「読書嫌い」だったといいます。読書嫌いだからこそ、「量」ではなく「質」にこだわり、「三角読み」「振り子読み」「越境読書」などひと味違った読書法を編み出してこられました。それらを惜しみなく紹介したのが、新著『精神科医が教える 良質読書』(かんき出版)です。

名越さんは、「今の自分の教養や理解力では太刀打ちできないけれども、いつか必ず読みたい最高峰の本」、すなわち「頂にある本」を見つけることが大事だといいます。ではビジネスパーソンは、「頂にある本」をどのように見つければよいのでしょうか?

読書嫌いだったからこそ編み出せた、「読書嫌いのための読書術」

── 『精神科医が教える 良質読書』の執筆動機は何ですか。

実は30歳まで読書習慣はなく、読書に対してずっと苦手意識がありました。私は学生時代から集中力が本当になくて、長時間じっくり読書できる人が羨ましく、まぶしく感じるほどでした。一回に集中できる時間は10分くらいが限界。すぐ色々なことに目が移ってしまう。

それなら、この散漫力を活かせばいいと気づき、1回に集中する時間を区切るようになりました。そこで生まれたのが「三角読み読書術」。ある本を10分読んで、集中力が切れたら、読んだ内容について思いを巡らせる。そして考えたことをツイッターでツイートする。そして今度は読書に戻る……というのを繰り返します。読書だけでなく原稿執筆のときもこのサイクルです。

この試行錯誤を、私のようにいわば注意散漫な人でも取り組める読書法としてまとめることができたら、読書に苦手意識のある人を勇気づけられるのではないか。そう考えて本書の執筆を決めました。


本書の執筆を後押ししたのは、編集者が「名越さんの試行錯誤の経験が、読書が苦手な人の役に立つ」といってくれたから、と笑顔で語る名越さん。

精神科医が教える 良質読書
精神科医が教える 良質読書
名越康文
かんき出版
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精神科医が教える 良質読書
精神科医が教える 良質読書
著者
名越康文
出版社
かんき出版
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── ご著書では、「頂にある本」を読むことが大事だとありました。これはどういうことでしょう?

世の中では「速く、たくさん読めること」が礼賛されていますよね。もちろん何か技術を上達させようと思ったら、一定量の練習は必要。量を積み重ねることで、質的な変化を起こす「量質転化」が大事になるでしょう。

けれども読書に関しては、いくら多読でも内容の読み取りが浅い人がいるのも事実。多読な人が本の内容について語っていても、その人ならではの「本から得た学びや発想」は特になくて、本の内容を聞いても別に驚きを感じない……。正直そんなケースも多いはずです。

そんな経験から、「本から知識を得る、得た知識を活かすとは、そもそもどういうことか?」と、読書の本質について自問するようになりました。わかったのは、すぐに理解できる本から効率的に情報収集するだけでは、知的な成長、能力の開発は難しいということ。「今の自分の理解力や教養では理解しきれないけれど、生涯かけてじっくり読みこみたくなる」。そんな「頂にある本」とじっくり向き合ってはじめて、人は限界を超えられるのです。

私にとって、エベレスト山のような最高峰の本は、例えばあの弘法大師・空海の著作である『即身成仏義』。難解で、1ページ読むだけで自分の薄っぺらい読解力では、はね返されてしまいますが、それでも心にドシンと響いてくるものがあるのです。「そうか人間はここまですごいことを考えることが出来るのか!」と感心して、同じ人間として希望を持てます。こういう本こそが自分の限界を突破する力になってくれるのです。



畏怖の念を感じさせる人のおすすめは、まちがいない

── ビジネスパーソンが各々の「頂にある本」を見つけるためには、どんな方法をとるとよいでしょうか。

「この人の見解やセンスは本物だ」と思えるような、心から尊敬できる人のおすすめの本を一度読んでみることです。そうすればどんなレベルの本が名著なのかという感触がつかめます。尊敬できるしっかりした方なら、すすめてくれる本の中にはたいてい、そのジャンルで一流とされ、50年以上も読み継がれている古典が含まれているものです。

たとえば宗教人類学者の植島啓司先生は、僕が若い頃メディア論なら『グーテンベルクの銀河系』を読むようにと教えてくださいました。マーシャル・マクルーハンの名著ですね。
ロシアの文豪ドストエフスキーの著作をすすめてくださったのは、野口整体・身体教育研究所所長の野口裕之先生でした。どちらも時代を超えて読み継がれていますね。

僕の終生のテーマといってよい空海に関しては、以前、真言密教の中村公隆大阿闍梨から「意外に原著を読むのが近道」というアドバイスをいただきました。その通りに原著にあたると、まるで俳句や短歌を味わうように、意味は完全には分からなくとも感覚のほうから感じ入るような箇所に出会えました。

── 尊敬できる方のおすすめは「あたり」が多いというのは納得です。

ただし注意したいのは、その人が「人間性を尊敬できる人」かどうか。「自分のことを贔屓にしてくれるから」といった理由で慕っている人のおすすめは、スカが多い。人間的にすばらしい「本物」の人には、近づくだけで緊張してしまうもの。話しかけるのも気が引ける。なぜなら、本当の自分を見透かされているような気がするからです。

そういう意味では、畏怖の念を感じられる人の存在は、読書はもちろん人生そのものを豊かにしてくれると思います。



シャーロック・ホームズを読めば「発見の作法」を追体験できる

── 本書の「良質読書歴」の章で、「精神医学で役立ったのは心理学より文学」と書いておられたのが印象的でした。

先ほども申しましたが、精神医学を学び始めた頃、野口裕之先生からこんなアドバイスをもらったんです。「精神医学や心理学を学ぶなら、フロイトやアドラーの前に、ドストエフスキーの小説を読むとよい」と。ドストエフスキーの小説には、「人間の内面の多様性」「人間の一筋縄ではいかなさ」が描かれています。ドストエフスキーは敷居が高すぎるというなら、シャーロック・ホームズの推理小説を何冊か読んでみるのもいいでしょう。

── シャーロック・ホームズですか。

読者はホームズの親友で相棒のワトソンの立場に立って、ホームズの推理を聞きながら、「どうやって事件解決の糸口を見つけたのか」という思索のプロセスを追体験できるわけです。
もちろんフロイトやアドラーの本を読んで、知識として吸収することは必要です。ですが、知識だけでは実際の分析は不可能です。「フロイトはどういう推理からこの理論を発見できたのか」「どうしてそこに着眼できたのか」というのを、目の前で見ているかのような「驚き」をもって実感することが必要なんです。それがあってはじめて、目の前のクライエントの内面が読み解けるわけです。

こうした実践力を養うための、格好のテキストの1つが推理小説です。カウンセラーでなくともさまざまな分野で研究するのが仕事なら、既存の理論に従うだけでなく、その学問分野での新たな知見を見つけ出す「発見の作法」を身につける必要があります。発見の作法を身につければ、ただ知識を受け身で学ぶ側だけではなくて、主体的に発見する側に回れるのです。



人間は潜在能力の99%も活かせずに死んでいく

── 名越さんご自身の人生や価値観に影響を与えた本は何ですか。

さまざまな本からじわじわと影響を受けてきましたが、やはり空海の著作ですね。「人間ってこんなに潜在能力があるんだ」ということを、空海の著作ほど深く諭してくれた本はありません。

空海から私が受け取ったメッセージは、「あなた方は自分自身に気づかないまま、自分の中に眠っている力の1%くらいしか活かせずに死んでゆくんですよ、惜しくありませんか」ということ。私たちは千載一遇の確率で生まれてきた、可能性の宝庫のような存在。なのに、自分で勝手に能力の限界を決めてしまいがち。だから、私は講義の場では、「今の延長線上で自分の未来を描かないように」と、事あるごとに伝えているんです。

名言の引用ツイートは、単なる「自己肯定ツール」にすぎない

── 名越さんは、本書に書かれているような読書術を日常に取り入れることで、仕事や人生全体にどんな影響がありましたか。

誰かの発言を、「どうせ、こういうことだろう」と固定観念で捉えることが少なくなりましたね。空海の著作に限らず、骨のある文章を読む効用の一つは、「人の話をしっかり聞ける」ことなんです。

── 人の話をしっかり聞ける、ですか。

ちょっとやそっとでは理解できない難解な文章を読む、あるいは骨のある映画を観る――。これらを続けてゆくと、自分の考えは脇において、「相手の立場に立って聞いてみよう」と思える謙虚さが身につくんです。
しっかりした骨のある文章を読むと、著者が何をいいたいのか解読してみよう、と辛抱強く対象に向き合う習慣がついてくる。すると普段の会話でも、相手の話に注意深く耳を傾けられるようになってくる。さらには、何気ない相手の言葉の裏に、時としてものすごい経験や智恵が秘められている、といったことも汲み取れるようになります。

誰かの意見やちょっとした名言を引用して、「これこれ! これなんだよ。」とツイートする人っているでしょう? こういうツイートの目的は、厳しい見方をすると、単なる自己肯定にすぎません。つまり自分の主義主張を後押ししてくれていると感じているにすぎないんです。私自身も簡単に「そうそう!」となったときは、一歩も進歩できてないと捉えるようにしています。

なぜかというと、思慮を巡らせなくても理解できる内容は、本当に自分の価値観を揺さぶる発見ではないから。「自分はまだ一部しか理解できていない。でも、この言葉にはもっと違った意味が込められていそうだ」。そう思える内容を味わううちに、自分という殻が破られていくのだと思います。

今後探究していきたいテーマは、「天才とは何か」。空海のように自分の才能を開花させた人と、そうでない人を分かつものは何なのか。この問いを今後も追究し続けて、いずれ執筆のテーマにできたら嬉しいですね。

精神科医が教える 良質読書
精神科医が教える 良質読書
名越康文
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精神科医が教える 良質読書
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著者
名越康文
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「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である
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名越康文
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「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である
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著者
名越康文
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プロフィール:

名越 康文(なこし やすふみ)

1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析などさまざまな分野で活躍中。

著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院)、『驚く力~さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行)、『どうせ死ぬのになぜ生きるのか』(PHP新書)、『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)などがある。

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文責:松尾 美里 (2019/02/12)

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