AIが人間を支配する日は来るのか?!
人気経済小説家の最新刊『人工知能』の魅力に迫る!

AIが人間を支配する日は来るのか?!

米国系投資銀行での債券ディーラーや外国債券セールスの経験を経て作家に転身し、ラジオやテレビのコメンテーターとしても活躍する幸田真音さん。これまで経済を軸足に、さまざまな分野や時代を舞台とした作品を多数発表してきましたが、最新刊『人工知能』 (PHP研究所)は、タイトルの通りAIがテーマ。

雇用を奪い、いつか人間を支配する存在になるのではないかという懸念も囁かれるAIですが、黎明期からその進化を見守ってきたという幸田さんは、「結局はそれを使う人間次第」と語ります。今回の物語に込められた思いを聞きました。

黎明期からネット犯罪に着目

── まずは、今回の作品を書こうと思ったきっかけから教えてください。

私は金融畑出身のイメージが強い作家だと思いますが、じつはインターネットやAIといった先端技術には、かなり早い段階から関わっていたんです。実際、1996年に発表したデビュー2作目の『マネー・ハッキング』 (単行本時のタイトルは、『インタンジブル・ゲーム』 )で、すでにハッカーを題材にしていますからね。

── 96年といえば、ようやく世間にインターネットという言葉が浸透し始めたばかりの頃ですね。

アメリカではすでにインターネットは熱い注目を浴び、広く普及し始めていましたが、当時の日本では学者や専門家など、まだほとんど限られた人たちだけのものでした。なので作中でも、インターネットの魅力そのものをわかってもらうのにとても苦労しましたね。その後もサイバーテロ小説が書きたくて、ニューヨークまで行って現地のハッカー集団に直接取材をしたこともあるんですよ。

ところが、その作品の執筆を進めている最中に9.11同時多発テロが発生し、筆が止まってしまったんです。現実にあれほどの事件が起きている最中に、「あえて小説でテロを描く必要があるんだろうか」とものすごく悩んでしまって……。そのくらい、衝撃的な事件でした。

── それから20年以上を経て、ようやく人工知能を題材にする土壌が整ったということですか。

今回、『Voice』 誌で連載の話をいただいたとき、当初は「ぜひ『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』 の現代版のような若者の成長物語を」というリクエストだったんです。ただ、『天佑なり』は高橋是清という人物だったからこそ生まれた歴史小説ですから、それをそのまま現代版でと言われてもちょっと違いますよね。

そこで私のほうから、「主人公が活躍し、成長していく物語にはするけど、舞台はぜひ人工知能の世界で」と編集者に伝えたのです。そうしたら、ぽかんとされてしまってね(笑)。今から3年以上前のことですが、まだ人工知能と言われてもピンとこなかったんでしょう。

現実が小説に追いついた人工知能の世界

── 幸田さんが早くから、それほどまでにITに注目した理由は何でしょう?

作家になる前、自分で会社を起ち上げ、ビジネスでインターネットに関わっていたんです。やがてインターネットは世界経済を根本から変えるだろうという、強いイメージがあったからです。なので作家になったあと、私としては当然取り組むべきテーマでした。先の『マネー・ハッキング』 のほかにも、2001年にはeコマースを題材とした『eの悲劇』 も書いていますし、まだビッグデータという言葉も一般的でなかった2007年には『あなたの余命教えます』 という作品も書いています。

人工知能にしても、これが将来的に世界をどのように変えるのか、小説で描きたいことが山のようにありました。当時はまだSF的な題材でしたけど、だからこそ小説でシミュレーションしておくべきだと考えていましたね。

── ここ数年、人工知能は急速に浸透し始めています。今回の作品の題材である自動運転車も、世界中で実証実験が進められていますね。

のんびり連載を続けているあいだに、人工知能が予想以上のスピードで注目されるようになったため、こうして本にまとまるまでの数年間で、現実に追いつかれてしまった部分もあります。

── 連載中、海外では自動運転車による死亡事故も発生しました。これは人工知能のリスクをあらためて考えさせられる出来事でした。

それでも、人工知能の研究や活用がストップすることはないでしょう。これからますます深刻化する高齢化社会のなかで、補助的な移動手段や、労働力(運転手)不足を解決する施策のひとつとして、自動運転車は絶対に必要になる技術です。

だからこそ大切なのは、人工知能という存在を正しく理解すること。それと、自動運転を取り巻くインフラや、環境整備も求められます。万が一何かの事故が起きたとき、はたして責任はどこに求めるのか、法制度や保険制度の確立も必要になりますね。

すべては使う人間次第

── 今回、AIの中でも自動運転車をモチーフに選ばれた理由は?

最初は、「AIを使って事件を起こさせたい」という着想でした。「人工知能なんだから、洗脳」というのはおもしろいでしょう? 金融系のシステムを用いた犯罪もアリでしょうが、それではあまりにありきたりで芸がないなと(笑)。だったら、以前から興味を持っていた自動運転車はどうだろうと考えました。

数年前にたまたま、自動運転車に乗せていただく機会があったんです。条件付きで自動走行する、いわゆる「レベル3」に属する試乗車でしたが、高速道路での車線変更もスムーズで、運転席に座るドライバーがわざと居眠りをすると、車体を振動させて起こしてくれたり、やがては路肩に停車もする。とても新鮮な体験でした。

── 『人工知能』 は、その自動運転車が人を襲うシーンから幕を開けます。

自動車メーカーの社外取締役に就いている私としては、書くべきシーンではなかったのかもしれませんね(笑)。でも、「自動運転車は今後、この社会に欠かせないものになる」と強く実感しているからこその問題提起でした。

今回の作品を通じて最も伝えたいことの一つは、AIは素晴らしいものですが、たとえどれほど便利なツールであっても、それを使う人間次第で毒にも薬にもなるということ。ヒントになったのは、ずいぶん昔にニューヨークで取材したハッカー集団の大ボスから聞いた「俺たちが技術を駆使してハッキングするより、棄てられたパソコンの基盤を漁ったほうが、よほど簡単に機密情報が手に入る」という言葉でした。

たとえばパソコンは便利だから誰もが活用しますが、適切な処理をせずに廃棄してしまうと、思わぬ情報漏洩のリスクを招いてしまう。つまり、先端技術の世界はめまぐるしく進化していますが、たいていの問題は扱う人間側にあるということです。操作をする側の思い込みや過信、気の緩みやヒューマン・エラーといったものが、思いがけない落し穴になるんですね。これは人工知能も同じです。

AIが人間を支配する日は来るか!?

── 他方、AIが雇用を奪う、いつか人間を支配すると恐れる声もあとを絶ちません。こうした懸念についてはどう考えていますか。

それもやはり人間次第でしょう。過去を振り返ってみれば、ワープロの発明によってタイピストという職業が消えたように、技術の進化によって人間の仕事が変化を余儀なくされるのは、ある意味宿命です。マシンにできることはマシンに任せ、人間にしかできないことに特化していけばいい。

また、現在のコンピュータの処理能力ではまだ起き得ないことですが、AIがいつか人間の脳を越えてしまうのではないかという懸念も、AIが正しく理解されていないことの表れでしょう。得体が知れないものを過剰に恐れるのは、人間の当然の心理ですが、だからこそ正しく理解する努力が必要です。

── AIは、今後もますます身近なものになりそうですね。

そうですね。AIはこれから、もっと自然な存在として私たちの生活に浸透し、活かされていくはずです。以前にくらべると、最近では高性能なパソコンがずっと安価で手に入るようになりましたし、ディープラーニング(深層学習。音声の認識、画像の学習など、人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる手法のひとつ)のソフトも簡単に入手できるようになっています。少し勉強すれば、誰でもAIを扱うことができるのです。

一方で、日本では高度な専門知識を備えたデータ・サイエンティストはまだまだ不足しているのが現状です。若い人たちには、AIなど先端技術のおもしろさをもっと知ってほしいですし、この分野でぜひ活躍していただきたい。主人公の凱の半生に、そんなメッセージを感じてもらえたら、なにより嬉しいですね。

幸田 真音( こうだ まいん)

作家

1951年生まれ。米国系銀行や証券会社で、債券ディーラーなどを経て、95年『小説ヘッジファンド』で作家に。『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』 で新田次郎文学賞受賞。テレビやラジオでも活躍。政府税制調査会、財務省・財政制度等審議会、国土交通省・交通政策審議会、NHK経営委員会の各委員など公職も歴任。

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文責:取材:友清 哲/写真:青地あい (2019/03/26)

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