【インタビュー】
人生という「ゲーム」を攻略するには?
『言ってはいけない』の著者が教える最強戦略

人生という「ゲーム」を攻略するには?

『言ってはいけない』 などのベストセラーを次々に世におくりだしてきた作家の橘玲さん。新著『人生は攻略できる』 (ポプラ社)では、人生というゲームを攻略していくための「ルールと鉄則」を、初めて、学生や若手社会人向けに書いたといいます。

人生100年時代を幸福に生きるために、私たちは知っておくべき攻略法はどのようなものなのでしょうか?

人生はゲームだ

橘さんが『人生は攻略できる』 で一番伝えたかったメッセージは何ですか。

人生100年時代といわれるいま、新卒でたまたま入った会社で定年まで勤めあげ、満額の退職金をもらって悠々自適という「昭和」の成功法則は、完全に過去のものとなりました。

それで多くの中高年が困惑しているのですが、そんなことにならないためにも、若い人たちに人生というロールプレイングゲームの「攻略法」を知っておいてもらいたい。どんな人生を送りたいのか(=ゴール)は人それぞれですが、幸福な人生を「設計」するための土台は同じです。

あと、私自身がドロップアウト組なので、どうすれば「幸福の土台」をつくることができるかの鉄則を知っていると、人生は少し生きやすくなる、そんなメッセージを伝えたいと思って執筆しました。

人生は攻略できる
人生は攻略できる
橘玲
ポプラ社
人生は攻略できる
人生は攻略できる
著者
橘玲
出版社
ポプラ社

テクノロジーの急速な発展を背景に、高度化する知識社会では、仕事に必要なスキルのレベルが上がる一方です。しかしこれは、逆にいうと、幸福に生きる方法が多様化しているということでもあります。

「昭和」の時代では、学校に合わなくて高校を中退してしまえば、そのまま一生アンダークラスでした。でもいまは、「コミュ力はないけどプログラミングは大得意」という人がいて、ネット上のグローバルなプログラマー・コミュニティで評判になれば、グーグルのようなシリコンバレーの会社の目に留まって「いっしょにやらない?」と誘われるかもしれない。まったくの無名でもYouTuberとして活躍する道だってある。

仕事を辞めて海外を放浪するとか、大学に入り直すとか、これまで正規とされてきたレールを外れても、実力があれば認められる世の中になったともいえます。

幸福になるための「3つの資本」を手に入れよ。

20代の人たちがキャリアを築くうえでは、何を意識すればいいのでしょうか。

1つは、本書で紹介した3つの資本、「お金(金融資本)」「仕事(人的資本)」「愛情・友情(社会資本)」をすこしずつつくっていくことです。これらが幸福になるための土台になります。

人生100年時代を見据えるなら、最強の人生戦略は「長く働く、いっしょに働く」です。投資で金融資本を増やそうとしても、まとまった額の「元手」がなければ話になりません。それに対して、働けば確実に収入を得られますから、労働市場に人的資本を投資するのは「損をしないギャンブル」みたいなものです。長く働けばそのぶん生涯収入は増えるし、2人で働けば世帯収入は1.5倍から2倍になる。欧米や日本のような豊かな社会では、これだけでほとんどの人が「経済的独立」を達成できるでしょう。


『人生は攻略できる』p214より「幸福の土台となる3つの資本」

「長く働く」には転職も必要になると思いますが、そのときに大事なことは何ですか。

自分のキャリアを物語だと考えて、魅力的な物語を語れるようになることです。たとえば採用面接で、「これまでどんなことをしてきましたか?」と聞かれるとします。相手が求めているのは、自分探しの話(私は何をやりたいか)ではなく、納得できる説明(私は何ができるか)です。なぜなら、人は理解できないものには不安を抱くから。これが個人のアカウンタビリティ(説明責任)です。

キラキラのキャリアが有利なのは、説明コストが低いからです。「一流大学を出て一流企業に入りました」といえば、聞いた人はすぐに納得できます。説明に必要な時間は5秒です。

それに対して履歴書に空白があると、それだけ説明コストが上がっていく。しかしこれは、いったんレールから外れると落ちこぼれるしかないということではありません。

高校や大学を中退していても、職歴が切れていても、相手が「そういうことなのか」と納得できる物語があれば、かえって高い評価を得られることもあります。大事なのは、「いろいろやってきて、その結果、この生き方・働き方を選んだ」という魅力的なストーリーです。それさえあれば、ふつうと違うキャリアは、面白い素材(体験)をたくさんもっていると見なされるようになるでしょう。

サラリーマンは日本にしかいない「絶滅危惧種」

会社勤めをしているうちに、オリジナルの「素材」を増やし、長く働き続けるために意識しておくべきルールはありますか。

いちばんのポイントは、「何でも屋にならない」ことです。日本人は自己紹介のときに会社名を名乗りますが、海外では職種を名乗ります。ビジネスで重要なのは、「どの会社に勤めているか」ではなく、「何の専門家なのか」ですから。

日本企業は、ジョブローテーションによってジェネラリストを養成しようとします。高度成長期は今ほど知識・技術の水準が高くなかったため、未経験の職種に異動しても、半年ほど頑張って勉強すればキャッチアップできました。しかし現在では、この水準がとてつもなく上がってしまって、付け焼刃ではどうしようもなくなり、多くのサラリーマンはあきらめてしまっています。

こうして上司(会社)にいわれたことだけをこなそうとするのですが、これはバックオフィスの仕事です。バックオフィスはマニュアル化された責任の少ない仕事。本来であれば、給料も定型化された仕事をこなす非正規の人たちと同程度しか払われません。

知識社会が高度化するいま、スペシャリストとしてキャリアを積んで、海外のライバルたちと渡り合っていけるくらいでないと評価されません。「いろいろやってきたけどスペシャルなものは何もない」。そんな日本のサラリーマンは、もはや絶滅危惧種です。そうならないために、できれば20代のうちに、遅くとも30代半ばまでには、自分の「スペシャル(専門)」が何なのかを決めなければなりません。

どこで勝負するかを決めたら、あとはそこに人的資本のすべてを集中します。「1万時間の法則」では、ある分野のエキスパートになるには1万時間(約3年)の努力が必要だといいます。圧倒的な才能の持ち主でないかぎり、仮に生得的な能力の違いがあるとしても、ほとんどの場合その差は小さなものです。プロ(スペシャリスト)になれるかどうかは、投入した時間、つまり「経験値の差」で決まります。経験を積んでいけば、「そのテーマなら彼が詳しい」とか「このトラブルなら彼女に聞いてみれば」といわれるようになるでしょう。

とはいえ多くの組織では異動はつきもの。そんななかスペシャリストをめざすにはどうすればいいのでしょう?

今いる会社で、「スペシャル」を追求できない部署に異動を命じられたら、同じ職種を維持できる会社に転職するほうがよいでしょう。そもそもこれがグローバルスタンダードの働き方です。アメリカでは、CEOになるには3~4回の転職が必要とされています。ヘッドハンティングされないような人材は、そのうち誰からも相手にされなくなってしまいます。だから海外のビジネスパーソンは、「営業から総務(経理)に異動した」などという話を聞くと非常に驚きます。

今後は日本でも、欧米のように、スペシャリストを集めてプロジェクト単位で仕事をするようになるでしょう。個人としての評判を獲得し、それがネット上で可視化されれば、自分に適したプロジェクトの依頼がやってくるようになる。だから新しい時代では、若いうちに経験値を上げ、自分の「評判ネットワーク」をつくることが大切になります。

ネットフリックスのような優秀な人材が集まる企業と互角に渡り合うには?

個として勝負する人が増えるなかで、日本企業の経営者は優秀な人材を惹きつけるために何に取り組めばいいのでしょうか。

日本企業は働き方をもっと柔軟にする必要があります。子育てしながら共働きしようと思っても、通勤に1時間もかけて週5回オフィスに出社し、フルタイムで働くのは「無理ゲー」です。働く時間や場所を自由に選べるとか、あちこちにサテライトオフィスを設けるとか、働きやすい環境を意識的につくっていかないと、若くて優秀な社員はどんどん辞めていくでしょう。

現代は、「一人ひとりの自由な選択を最大化する」という意味での「リベラル化」が急速に進んでいます。アメリカでは西海岸を中心に、「仕事も人間関係も自由に選択できる」フリーエージェントの働き方が「クール」と捉えられるようになりました。彼ら・彼女たちの多くはスペシャリストで、すでに充分なお金を稼いでいます。そのため、組織に所属して無理して働くより、子育てと両立させながら好きな仕事をすればいい、と考えるようになったのです。

すでに日本企業では、優秀な人材がどんどんGAFAなどのグローバル企業に流出しています。ネットフリックスは「優秀な人材には業界最高水準の報酬を支払う」と宣言しているし、シリコンバレーでは他社の優秀なプログラマーを年収数千万、あるいは1億円以上でヘッドハンティングしているという話も聞きます。日本企業とは、そもそも競争の土台が違うのです。

成功のレールからはずれていたからこそ見えた、「人生の攻略法」

これまで橘さんは、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 など、世間でタブー視されてきたものの、人生をよりよく生き、世の中の仕組みを知るために大事なことを本にされてきました。こうした執筆に共通する軸はあるのでしょうか。

私がいちばん知りたいのは「どうすれば自分が幸せになれるか」です。私は大学卒業時にまともに就活をしていません。24歳で友人と編集プロダクションを立ち上げ、40代以降は作家という自営業です。日本社会でこれまで「成功」とされてきたレールからは22歳でドロップアウトしました。

だからこそ、「社会のメインストリームから外れていてもどうすれば幸福になれるか」を真剣に考えるようになった。いまから振り返ればですが、30代の頃に、人生は「ゲーム」で、「このゲームはどういうルールで成り立っているのか」「どうプレイすればゲームをクリアできるのか」を意識するようになっていたと思います。そのなかで気づいたことを本にして発信してきたのは、読者に「えっ、そうだったの?」と驚いてもらうのが楽しいからですね。

具体的に橘さんがとってきた攻略法はどのようなものだったのでしょうか。

一言でいえば「ニッチ戦略」です。優秀な人たちが集まる組織でトップをめざすのは、私からするとレッドオーシャンで、コスパが悪すぎます。その点、ニッチ戦略は小さなマーケットを開拓する手法なのでライバルが少ない。グローバル市場はもちろん、日本だっていまだに世界3位の「経済大国」ですから、小さなニッチでもささやかな幸福を手に入れるくらいの規模は充分にあります。

大きなインパクトを与えたのは、「進化論」の本だった

橘さんが人生を切り拓くうえで役に立った本は何ですか。

リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』 などの進化論の本です。ダーウィンの進化論は、1970年代頃から進化によって人間の感情を説明しようとする進化心理学へと発展しました。

とりわけ大きな影響を受けたのは、進化心理学者スティーブン・ピンカーの著書『人間の本性を考える』 です。アウシュビッツの反省から、第二次世界大戦後は、環境決定論が「政治的に正しい」とされてきました。人の心は「空白の石版」であり、遺伝はいっさい関係なく、すべては子育てや教育で決まるという考え方です。それに対してピンカーは、人間の心や行動のベースには進化の過程でつくられた生得的なものがあるという膨大なエビデンス(証拠)を列挙し、人間に対するまったく新しい理解を読者に突きつけたのです。

身体的な特徴だけでなく、怒りや悲しみ、愛や喜びなどの感情も進化の過程でつくられていることがわかれば、他者(ひと)はなぜこの局面でこう考え、こんな行動・選択をするのかが理解できるようになる。これが「現代の進化論」を学ぶ意義です。

利己的な遺伝子
利己的な遺伝子
リチャード・ドーキンス,日高敏隆(訳),岸由二(訳),羽田節子(訳),垂水雄二(訳)
紀伊國屋書店
利己的な遺伝子
利己的な遺伝子
著者
リチャード・ドーキンス 日高敏隆(訳) 岸由二(訳) 羽田節子(訳) 垂水雄二(訳)
出版社
紀伊國屋書店
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
スティーブン・ピンカー
NHK出版
本の購入はこちら
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
著者
スティーブン・ピンカー
出版社
NHK出版
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これから何を執筆するかについては、場当たり的に決めているのですが、そろそろまた金融系の小説を書きたいと思っています。そうやって好きなこと続けて、80代になったら時代小説を書くのが目標です。人生100年時代、まだまだチャレンジしていきたいですね。

人生は攻略できる
人生は攻略できる
橘玲
ポプラ社
人生は攻略できる
人生は攻略できる
著者
橘玲
出版社
ポプラ社

橘 玲(たちばな あきら)

作家。

2002年国際金融小説『マネーロンダリング』 でデビュー。2006年『永遠の旅行者』 が第19回山本周五郎賞候補となる。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』 (幻冬舎)が30万部を超えるベストセラー、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 (新潮新書)が50万部を超えるベストセラーとなり、2017新書大賞を受賞。近著に『朝日ぎらい』 (朝日新書)、『もっと言ってはいけない』 (新潮新書)などがある。

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文責:松尾 美里 (2019/04/25)

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