【インタビュー】
令和時代の最強スキル、「考える力」を身につけるには?
「マルチコミュニティ」の時代を幸せに生きる方法

令和時代の最強スキル、「考える力」を身につけるには?

複数の事業・会社を経営する傍ら、生き方やお金などの本質をあぶり出した著作を世におくり出してきた山口揚平さん。その集大成といえるのが、新著『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)です。

一見、「1日3時間」というフレーズから「楽して働くための本?」という印象を抱くかもしれません。ですが、本書を読み始めると、「考える」とはそもそも何なのか、「考える」ことがなぜ大事なのかという問いに向き合った一冊であることがわかります。

考える力を鍛えるには? そして、令和の時代を生き抜くために私たちが意識すべきことは何なのでしょうか。

日本人の多くが「思考と情報のパラドクス」に陥っている

── ご著書『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』で山口さんが一番伝えたかったメッセージは何ですか。

「考える」ことがそもそも何なのかということです。本書では、「考える」こととは、「概念の海に意識を漂わせ、情報と知識を分離・結合させ、整理する行為」だと定義しています。つまり「意識」を自由にコントロールすることなんです。
今の日本では考える機会が減る一方で、多くの人が意識の動かし方を忘れてしまっています。その原因の1つは情報が多すぎること。情報が増えれば増えるほど、情報に意識がとらわれてしまい、人は思考しなくなるのです。これを「思考と情報のパラドクス」と呼んでいます。だからこそ、強制的に一定期間情報を遮断する「情報デトックス」を行い、思考する時間を設けることが大切です。

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
山口揚平
プレジデント社
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
著者
山口揚平
出版社
プレジデント社

── 「考える」機会が減っている現状に、課題意識をもつようになったきっかけはありますか。

平成の30年を振り返って、日本で新しいチャレンジがなされていない印象を抱いたことです。ゼロから新たなものをつくり出した人は数名程度ではないでしょうか。たとえば、ビジネスの世界なら、SPA(製造小売)というモデルをつくりあげたファーストリテイリングの柳井正さんです。

昭和の時代は、新たなインフラや技術を生み出し、マニュアルを大量につくっていった「コンストラクション」の時代でした。だとしたら平成は、マニュアル通りに物事を進めることが中心だった、いわば「オペレーション」の時代といえます。令和を「イノベーション」の時代にするには、長期的な視点に立って新しいことに挑戦するしかありません。そこで最強のスキルになるのが「考える力」です。

── なるほど。先ほど「考えること=意識を自由にコントロールすること」とおっしゃっていましたが、何をもって「本当に考えた」といえるのでしょうか。

考えることの目的は、「代替案を出す」「具体案を出す」「全体像を明らかにする」「本質を見抜く」の4つです。それぞれの詳細は本書に譲りますが、本質を見抜くうえで大事なのは、「きっとこうだろう」と妥協しないことです。自分の分析に違和感がなくなるまで考え続けてはじめて、問題解決で決定的に大事なポイントが見えてきます。
「考える」というのは、筋トレと同じくなかなかしんどい作業です。しかも、成果がすぐには見えづらい。だからこそ、思考力を鍛えれば一生食べていけるし、AIを凌ぐ武器になり得ます。

── これまで、山口さんの圧倒的な「考える力」はどのようにして培われてきたのでしょうか。

影響を受けた要素は3つあります。1つは、父親の「完成品は買い与えない」という教育方針のもとで育ってきたこと。玩具がほしいなら自分でつくるしかありませんでした。釣りをしたいなら、仕掛けの材料になりそうなものを拾ってきて、組み合わせて、自作する。パソコンだけはあったので、プログラミングを学んでオリジナルのゲームをつくる。こうしたことが原体験としてあります。

2つ目は、面倒くさがりな性格です。色々なことを100個やるより、レバレッジがきく本質的なポイントを見つけ出し、そこに力を投入するほうが効果的です。営業なら、できるだけ意思決定に近い人に会う。事業創造なら、新たなビジネスモデルの構築に集中し、思考したことをノートに書く。それをパワーポイントにまとめるのは、資料作成が得意なスタッフに任せる、といった感じです。

3つ目は、抽象的な思考が得意ということ。物事を俯瞰してとらえるほうがしっくりきたのです。この原体験、性格、得意の3つを掛け合わせていくと、自分は「考える」というところにポジションをとるほうが有利ではないか、と思い至りました。


山口さんの傍らには、思考した内容を「手書き」でまとめたノートが。文字と図解でエッセンスが凝縮されている。

本は読むものではなく、浴びるもの

── 「考える力」を鍛え、2020年以降の未来図を描くうえで、数多くの本を読まれてきたと思います。山口さんはどんな基準をもとに本を選んでいますか。

社会人になってから35歳くらいまでの10年間は、年間500冊ほど、幅広いジャンルの本を読んできました。しかし現在は、思考に意識を集中させるために、ビジネス書を読むことは減りました。それは「メロディー」の優れた書籍が少ないと感じるためです。

── というと?

本の価値を評価する際、私は音楽の3要素と同じく、「メロディー(内容)」「リズム(調子)」「ハーモニー(文体)」を基準にしています。この3つが全体的に調和しているのが、良い本の条件です。しかし、現在世に出ているビジネス書の9割は、「内容」の普遍性に乏しい印象を受けます。「伝えるときはこうせよ」「人とこう接するべき」と言い切った本は、わかりやすいかもしれません。ですが、こうした内容は実際には、状況次第ですよね。

おすすめしたいのは、こうしたTPOに依存しない、本質的な内容が詰まった本を読むこと。先ほどの話で言う、メロディーにあたる部分のことです。本質的なものは、他への応用ができる「普遍性」、時が経っても通用する「不変性」、シンプルに落とし込める「単純性」を兼ね備えています。後からいくらでもレバレッジをかけられるため、学ぶコストパフォーマンスが高いのです。

── これまで読まれた本のなかで、山口さんの思考に影響を与えてきた本は何ですか。

まずは、「欲求5段階説」を説いたことで有名な心理学者、アブラハム・マズローの著作、『完全なる人間』(誠信書房)と『完全なる経営』(日本経済新聞出版社)です。マズローが偉大なのは、人間のもつ「情報」と「意識」を分け、「人を変えたいならその人の意識を変える必要がある」と説いたところにあります。私は20代の頃、人間の向上心がどこまで高まるのかを思索していましたが、その際にこの2冊が役立ちました。

それから、井筒俊彦さんの『意識と本質』(岩波書店)は、東洋哲学や他の宗教を横並びで見て、「悟り」を文学的にではなく科学的にとらえようとした作品です。「悟り」とは何かを本書から学ぶなかで、「教養は自分の外にある」ということに気づかされました。自我にとらわれ些細なことで浮き沈みするような状態では、「悟り」とはほど遠い。けれども、自分の外にある他者や社会に意識を向けていくことで、自分が脅かされず、おだやかにいられる。ものの見方を変えていくことの重要性を教わった一冊です。



「ハーモニー」にあたる「文体」を学んだのは、『イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)』(ダイヤモンド社)など、ドラッカーの著作です。翻訳者の上田惇生さんの訳は、形容詞や接続詞などをほとんど使わない、本質的な文章ですね。

そして、「考え抜くとはこういうこと」という基準を教えてくれたのが、日本を代表する社会学者、見田宗介さんの『価値意識の理論』(弘文堂)です。本書は彼の修士論文です。この若さで、今から60年近くも前にすでに真善美とは何なのかを徹底的に考え、図に整理していたのだから、存命の天才ですね。

「もはや文字という表現形態の限界がきている」

これからの時代は、本の役割も変化していきます。人に何かを伝えて、心を動かしたいとき、文字というのはもはや最適な表現形態ではないのではないか。そんなふうに考えています。

── それは、文字よりも伝えるのにふさわしい表現形態があるということでしょうか。

人に伝わる表現形態として、次のようなピラミッドを思い描いています。土台になるのは「数字」。給与や時価総額など数値で表せるものは、汎用性がある一方、コンテクスト(文脈)が伝わりづらい。たとえば、年収の高さや営業の数値目標といったものだけで部下のモチベーションが上がるかというと難しいですよね。
数字の上にくる表現形態が「文字」。ビジネス書やレポートも、文字がその多くを占めます。情報過多な現代には、文字だけで人の心を動かしたり、課題解決に導けたりするようなテーマ自体がなくなりつつあると考えています。



この文字の上位にくる表現形態が「アート」。アートは文字よりも内包するコンテクスト(文脈)が豊かであるため、より濃密な情報を人に届けやすいのです。現在、ビジネスパーソンの間でアートへの関心が高まっているのも、そのことに気づき始めた人が増えているからかもしれません。

これからの時代は「マルチコミュニティ」の時代になる

── ご著書に書かれていたマルチコミュニティの時代とは、どのような時代ですか。

現在の日本は、単一の価値観に覆われたモノソサエティから、コミュニティが乱立する社会へと変化しつつあります。そこでは、中央集権システムとは違って、必要な資源をその都度、ヨコに配分していくようになる。それに伴い、人々は、地域の小規模コミュニティや共通の価値観をもった人たちが集うコミュニティ、ギルド(組合)のような同じスキルを有する人たちのコミュニティなど、複数のコミュニティに多層的に所属していくことになります。これがマルチコミュニティの時代です。

── そのような時代に、幸福に暮らしていくためには、私たちが意識すべきことはありますか。

大事なことは、自分のリソースを、どのコミュニティにどれくらい割くのかについて考えることです。マルチコミュニティの時代では、私たちは少なくとも3種類のコミュニティに属することになるでしょう。

1つ目は、趣味仲間や慈善団体などの「志を共有するコミュニティ」。2つ目は、企業や学校、コワーキングスペースといった「稼ぎどころのコミュニティ」。そして3つ目は、家族や地域、シェアハウスなどの「心安らぐコミュニティ」です。こうしたコミュニティのポートフォリオを考える際には、「自分らしい生き方は何か」と自問し続けなければなりません。

コミュニティに限らず専門性においても「越境」することが重要になってきます。ロールモデルになりそうな人材としては、為末大さん、中田英寿さん、本田圭佑さんなどを挙げることができるでしょう。1つの専門性にとらわれず、分野横断的に考え、複数の肩書きをもって活動するというところは大いに参考になるはずです。

── 「越境」がキーワードなのですね。

留意したいのは、このコミュニティとは、クリック1つで参加も退会も可能なSNSのグループのように、軽いノリのものではないということです。どんな形態であれ、成熟したコミュニティは濃厚な人間関係を伴います。だからこそ、所属するコミュニティでいかにコントリビューションができるかが問われます。礼節をつくして、貢献して認めてもらうことが、コミュニティでの信用を得る一歩だからです。

いくら専門性が高い人でも、社会性を伴ってこそ評価を得られます。自著『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、ピカソとゴッホはいずれも天才的な画家でありながら、生前の境遇は全く違っていました。ピカソが経済的に大成功を収められたのはなぜか。それは、彼がお金の本質を見抜いていただけでなく、人から信用されるだけの社会性をもっていたからでもあるのです。

そうした社会性を大事にしながら、自分の個性、すなわち天才性を、微細なレベルで理解するよう心がけてほしいですね。個性と個性を組み合わせるということをコミュニティの中で行えば、大きな貢献が生まれるはずです。

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
山口揚平
プレジデント社
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法
著者
山口揚平
出版社
プレジデント社

プロフィール:

山口 揚平(やまぐち ようへい)

事業家・思想家。早稲田大学政治経済学部卒・東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は貨幣論、情報化社会論。

1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと、30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラム事業をはじめとする複数の事業、会社を運営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。NHK「ニッポンのジレンマ」をはじめ、メディア出演多数。

著書に、『知ってそうで知らなかったほんとうの株のしくみ』(PHP文庫)、『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座』(日本実業出版社)、『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(KADOKAWA)、『なぜ ゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)、『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今身につけるべきこと』(SBクリエイティブ)、『新しい時代のお金の教科書』(ちくまプリマー新書)などがある。

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文責:松尾 美里 (2019/06/13)

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