
社員のほとんどがプログラマで、全社員が在宅勤務のリモートワークのソニックガーデン。2018年にはGreat Place to Workの主催する「働きがいのある会社ランキング」で5位のベストカンパニーを受賞しています。
ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長の倉貫義人さんが、新著『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓されました。テーマは「ザッソウ(雑談+相談)」というコンセプト。ザッソウによって相互理解が深まり、心理的安全性が生まれる。さらには、率直に意見を言い合えることで成果が出やすくなり、新しいアイデアが生まれていくといいます。
では、自分たちのチームで、ザッソウしやすいカルチャーをつくるにはどうしたらいいのでしょう? ザッソウを「人が育つ機会」に変える秘訣をお聞きしました。
──『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』で、倉貫さんが一番伝えたかったメッセージは何ですか。
私たちソニックガーデンは、全員がリモートワークで、オフィスのない会社です。その状況で、チームとして力を合わせて成果を出していくために、「そもそもチームとは何だろう?」という問いと向き合い続けてきました。
気づいたのは、チームとして機能する人間関係の土台が雑談であるということです。とはいえ、雑談だけだと職場で推奨しにくいかもしれない。そこで、雑談+相談=「ザッソウ」を呼びかけてみてはどうかと考えました。実は、このザッソウには「雑に相談する」という意味も込めているんです。

── 「雑に相談する」ですか。相談というと、自分なりに意見や結論をきっちり考えてから行うものと思っていました。
たしかに、考えがまとまっていない状態でホウレンソウをして、ダメ出しされたことがある人は多いかもしれません。ですが、きっちり答えが固まってから相談した場合、方向性が大きくずれていても、なかなか軌道修正がしづらいですよね。大きな出戻りが発生するなど、チームの生産性を損なう恐れがあります。
これに対して、ふわっとした段階でよいなら、気楽に早くから相談できるはず。相談される側も、「いま、ちょっといいですか?」くらいのノリのほうが、心理的負担が少ないですよね。だから、「雑に相談」するほうが、相談のハードルがグッと下がり、コミュニケーションがうまくいくのです。


「雑」というとマイナスのイメージをもたれがち。ですが、『雑草はなぜそこに生えているのか』によると、「雑」という言葉には「主要なものではないけれど、たくさんのもの」という意味があるそうです。たとえば、中国のサーカス団「雑技団」には、多彩な技を繰り広げるという意味で、「雑」という言葉が使われています。このことからも「雑に相談する」のは決してネガティブではなく、むしろポジティブな意味合いがあるといえます。
── 「雑」という言葉への印象がガラッと変わりました! 倉貫さんがこうした考え方をもつようになったきっかけはあるのでしょうか。
これまでプログラマとして、アジャイル開発やリーンスタートアップ的な発想を推進してきましたし、それが経営の土台にもなっているんです。開発にしてもプレゼンの資料作成にしても、すべて100%の品質をめざす必要はないのではないか。むしろそれではプロダクトの機能もプレゼンのスライドも、過剰になってしまう。まずは60、70%の品質でよくて、少しずつ改善していけばいい。この発想をコミュニケーションに取り入れたのが、ザッソウのコンセプトです。
何かを伝えるときに、「一度で完璧に伝わる」という考えは捨てたほうがいい。ザッソウを使って何度も軽く伝えるほうが、伝わる度合いは大きいのだと思います。

── 倉貫さんのご著書への反響の大きさからも、さまざまな企業のビジネスパーソンがザッソウや心理的安全性を高める方法に注目している印象を受けます。なぜいま、ザッソウへの注目度が高まっているとお考えですか。
一番の理由は、日本の企業において、再現性の低い仕事が主流になってきたからだと思います。正確にいうと、前々からマニュアル通りにいかない仕事が増えているのに、管理の仕方は変わらないまま。やっとこそ「それでは立ち行かなくなる」という危機感をもつようになったといえます。
再現性のない仕事では創造性が欠かせません。高い創造性を発揮するうえで役立つのは、チームのメンバーと雑談・相談してインスピレーションを得ること。そのためには、気兼ねなく安心して発言や行動ができるよう、心理的安全性を確保することが大事だと気づく人が増えたのではないでしょうか。
── ザッソウのカルチャーが浸透すると、心理的安全性が高まるのですね。
心理的安全性が高い組織やチームでは、成果を出すために遠慮なく意見を言い合えるので、成果が上がりやすい。さらには、メンバー同士で弱さをさらけ出せると、自分で抱え込まずに、周囲に助けを求めやすくなります。これが積み重なると、個々人が自分の強みを活かして貢献しようと考えられるようになるのです。
── ソニックガーデンで、「ザッソウがきっかけでこんな効果が生まれた」という事例があれば教えてください。
自由にザッソウするなかで、新規事業のアイデアが生まれました。その名も、打刻レスの勤怠管理サービス「ラクロー」。これは、もともと「社内の勤怠管理、どうしようか」と雑談しているなかで生まれたアイデアです。勤怠管理ツールといえば、従業員本人の意思による打刻などで労働時間を把握することが一般的。ですが、これでは打刻を忘れると、実態との乖離が生じてしまう。それならパソコンのログなどから時間を把握したほうがいいのではないか。そんな会話から、あるメンバーが試作品をつくり、「打刻レス」が実現可能だとわかりました。結果、これが新サービスとして利用されています。
もし「新規事業の担当者を○○さんに任命しよう」「新規事業についてブレストの時間をとろう」と一方的に決めていたら、サービス化にこぎつけなかったかもしれません。新しいアイデアの種や顧客の意外なニーズのヒントは、何気ない雑談のなかにあります。ただただザッソウをするうちに、アイデアが立ち上がり、事業化していく。これはザッソウの大事な効用の1つです。

── 上意下達のカルチャーで、ザッソウを浸透させるのはハードルが高いというチームでも、心理的安全性を高めるのに効果的な方法はありますか。
おすすめはチーム内で、ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)という読書会をすることです。ABDは、1冊の本を分担し、読んでまとめる、そして学んだことを発表し、対話を深めていくという新しい読書法のこと。
もちろん、社外の人とABDをしても、新しい視点を得られて面白い。ですが、自分たちのチームでやると、日頃から同じ文脈を共有しているので、「この本の発想をあの業務に応用できるんじゃないか?」などと、かなり深い話ができるんです。本の議論を通じて、メンバーの多面的な部分が見えるようになり、それが心理的安全性を高めてくれます。
── チーム内でABD、いいですね!
大事にしているのは、「余白」の時間をつくること。ソニックガーデンでは、読書会やハッカソンなど、業務と直結しないことをやる時間を意識的につくっています。100%業務で詰め込まないことで、余裕が生まれ、ザッソウする機会が増えていくのだと思います。
よく「雑談ばかりだと仕事が進まないのでは?」と懸念する方もいますが、あくまでザッソウはチームの目標を達成するための手段。ザッソウが目的ではありません。チーム内で目標をしっかり共有できていれば、目標と関係のない雑談ばかりになることはまずないでしょう。

── ご著書には「ザッソウがメンバーの成長の機会になる」とありました。その理由は何でしょうか。
ザッソウする本人にとって「意思決定の機会」が増えるからです。雑に相談してOKなら、雑に答えてもOK。つまり、ザッソウをされる側は、指示やアドバイスをきっちりしなくてもいい。「こういう方法もあるよ」といった提案程度でもいいのです。すると、最終的に決断するのはザッソウする本人になります。こうして小さな意思決定の機会を積み上げることができ、「こういうときは、こう判断するといいのか」と、意思決定の精度も上がっていく。それがメンバーの成長につながります。
── ソニックガーデンでは個々人の振り返りのための1on1にくわえて、経営陣と社員がチームと個人のビジョンをすり合わせるための1on1を行っているそうですね。
クリエイティブな仕事における生産性やクオリティは、その人のモチベーションに大きく左右されます。その仕事自体が楽しいとか、人の役に立ちたいというように、自分自身の深い関心に従って行動するときの「内発的動機づけ」が重要になるのです。
内発的動機づけを促すには、本人がどんな仕事に関心をもっているかを知り、それに近い仕事にアサインする必要があります。そのため、個人とチームのビジョンのすり合わせを重視していて、3か月に一度はこうした場を設けています。もちろん報告ではなく雑談スタイルです。

── 1on1を社員が成長するための有意義な機会にするための秘訣は何ですか。
役立つのはYWTというフレームワーク。「やってきたこと(Y)」「わかったこと(W)」「次にやること(T)」の頭文字をとったものです。この「わかったこと」をメンバーに自由に語ってもらうと、何が好きな仕事で嫌いな仕事なのか、何が得意・不得意なのかが見えてきます。そして、本人がやってきたこと・わかったことから、次にやることを導き出すと、本人が心からやりたいと思える打ち手が出てくるのです。
人が成長するときに大事なのは、「アハ体験」のように、気づきを言語化することだと思っています。自分で考えて言葉にしたものは、自分のものになる。だから、メンバーが悩んでいることを話していたら、こちらから答えをいわずに、本人が自分のなかでの気づきを言葉にするのをじっくり待つようにしています。人を変えることはできませんが、YWTを使ったザッソウを通じて、人が変わる瞬間をつくり出すことはできるはずです。
── 倉貫さんはチームづくりや働き方などに関するブログを2009年から書いていらっしゃいます。まるでライフワークのように発信を続けられる原動力は何なのでしょう?
創業時から掲げてきた「プログラマを一生の仕事にする」 という理念が、発信の土台になっていると思います。この理念を実現していくには、メンバーが楽しく働いて、力を発揮できていることが大前提。普通なら会社の規模拡大が経営者としての評価指標になりますが、必ずしもそれは、メンバーが「楽しく働く」こととは関係しません。だから規模のスケールを追わない、と決めたのです。
それでは、理念の実現をめざしつつ、世の中への貢献として何を指標にすればよいのか。自分たちの組織やチームがこんなふうに変化しながら10年間続いてきたということを発信すれば、「変化の可能性が0%でない」というメッセージを社会に伝えられる。すると、「うちの会社、チームでもできるのでは?」と希望をもつ人が増えていく。それが社会にとっての価値になるのではないかと考えました。だから、会社の規模ではなく認識のスケールをめざすというのが、発信の原動力になっているといえます。結局は自分の好きなことをやっているんですけどね。
今後は発信の1つとして、人材を育成する方向けの「振り返り」「自ら育つ」をテーマにした本や、新卒社員・経験が浅い社員に向けた「仕事の基本」をまとめた本を書いていけたらと思っています。






プロフィール:
倉貫 義人(くらぬき よしひと)
株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。1974年生まれ。京都府出身。
小学校からプログラミングを始め、天職と思える仕事に就こうと大手システム会社に入社するも、プログラマ軽視の風潮に挫折。転職も考えたが、会社を変えるためにアジャイル開発を日本に普及させる活動を個人的に開始。会社では、研究開発部門の立ち上げ、社内SNSの企画と開発、オープンソース化をおこない、自ら起業すべく社内ベンチャーを立ち上げるまでに至る。
しかし、経営の経験などなかったために当初は大苦戦。徹底的に管理する方法で新規事業はうまくいかないと反省。徐々に管理をなくしていくことで成果をあげる。最終的には事業を軌道に乗せて、その社内ベンチャーをマネジメント・バイ・アウト(経営者による買収)することで独立を果たして、株式会社ソニックガーデンを設立。
ソニックガーデンでは、月額定例&成果契約の顧問サービス提供する新しい受託開発のビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。その斬新なビジネスモデルは、船井財団「グレートカンパニーアワード」にてユニークビジネスモデル賞を受賞。
会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営などさまざまな先進的な取り組みを実践。2018年には「働きがいのある会社ランキング」に初参加5位入賞と、「第3回ホワイト企業アワード」イクボス部門受賞。
著書に『管理ゼロで成果はあがる「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』(技術評論社)、『「納品」はなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社)がある。
プログラマを誇れる仕事にすることがミッション。
「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。