「集中できない」現代人が求めている、理想的な読書環境とは?
丸善ジュンク堂書店 × Think Lab共同プロジェクトでわかったこと

「集中できない」現代人が求めている、理想的な読書環境とは?

株式会社丸善ジュンク堂書店は、集中を科学するワークスペース「Think Lab(シンク・ラボ)」と共同で、読書家のために快適な環境を提供するプロジェクトをスタートさせました。

プロジェクトの狙いと結果、丸善ジュンク堂書店がめざすビジョンは何なのか? ビジネスパーソンが読書に没頭できる、「集中読書」を体験するには、何が必要なのでしょうか? 丸善ジュンク堂書店の経営企画部部長、工藤淳也さんと、株式会社Think Lab 取締役 事業統括、井上一鷹さんにお聞きしました。

記事の最後には、Think Labの体験レポートも掲載しています!

読書の体験価値向上に、書店として何ができるのか?

── まず、「読書時間の質の向上に関する調査」の狙いを教えていただけますか。

工藤淳也さん(以下、工藤):狙いは、読書の質を上げる環境の要因を明らかにすることです。2019年6月に行われた「読書環境に関するアンケート調査」では、約70%が「読書の時間を増やしたい」と回答していました。つまり、読書時間を増やしたいのに増やせていない方が多いのです。スマホのゲームやSNSに接する時間が増えるにつれ、読書に充てる時間は減る一方。読書時間を増やしてもらうためには、「読書の質を上げる」ことが重要ではないか。そうした仮説のもと、読書意欲が高い方に快適な環境を提供する共同プロジェクトをスタートさせました。

── 丸善ジュンク堂書店がこのプロジェクトを始めることになった経緯は何ですか。

工藤:読書への意欲が高い方々のために、書店として何ができるのか? リアル書店の意義とは? こうした問いについて考え続けてきたことがきっかけです。読書環境に関するアンケート調査では、「充実した読書生活のためにほしいもの」についても尋ねました。すると、多かった回答は、「快適な環境(空間)」「誰にも邪魔されない時間」でした。

私たち丸善ジュンク堂書店は、充実した専門書や最新の書籍など「品揃え」を強みとしてきましたが、もっと踏み込んで、どんな環境を提供すれば、お客様の読書の体験価値を上げられるのかをトコトン考えたいと思ったのです。そのヒントを得るため、Think Labを1日利用する「1day体験」と、1か月自由に利用できる「1month体験」を用意し、アンケートを実施しました。

── Think Labと協働することになった理由は何ですか。

工藤:快適に過ごせて読書に没頭できる空間といえば、「集中を科学する」を専門とする「Think Lab」しかないなと。Think Labは、「JINS MEME」でおなじみの株式会社ジンズが運営する、「世界で一番集中できる場」をめざすワークスペース。タスクに応じて集中力や創造性を最大限に引き伸ばしてくれる場所を提供しています。読書の質を上げる要素を研究するには、絶好の場だと考えました。

── Think Labからみて、丸善ジュンク堂書店はどんな特徴がありますか。

井上一鷹さん(以下、井上):共同プロジェクトを通じて実感したのは、丸善ジュンク堂書店がいかに「ユーザー視点」に立っているか。書店なら、「本をいかに購入してもらうか」という発想になってもおかしくありません。ですが、工藤さんとお話していると、着眼点が常に「お客様が本の購入後、いかに濃密な時間を過ごし、満足感を得られるか」になっていると感じます。

Think Labも、2017年12月のオープン以来、ユーザーの集中度に関する客観指標やアンケート結果などから、明るさや音、香り、設備などを改良し続けています。常に実験し、アップデートしていく発想において共鳴するところが大きいですね。

「集中できる読書環境」と「読書のための時間の予約」へのニーズが明らかに

── 共同プロジェクトの結果を教えてください。

工藤:参加者の90%以上の方が「質の高い読書ができた」と回答していて、1day体験の参加者の99%が、読書に集中できるスペースがあれば利用したいと答えています。「快適な空間」「読書のための時間の予約」という要素に、価値を見出している方が多いことがわかりました。

また、音や明るさなどは、好ましい状況に個人差があるようです。姿勢もそうです。Think Labには、体勢が異なる4種類のイスを用意しています。アンケートでは、たとえば、緊張感がある空間では小説をゆったり読む気分になれなかったが、硬派なビジネス書なら読みやすいという声も。このように、個々人の好みや読書するコンテンツに合わせて、姿勢や音などを調整ができるほうが、より深い読書体験につなげられることがわかりました。

── アンケートや利用者のデータなどから、意外な発見はありましたか。

工藤:参加者の家族構成を尋ねたところ、40%が一人暮らし。つまり、自宅で邪魔されずに本が読めるはずなのに、自宅以外で集中できるスペースへのニーズがある。これは注目すべきデータだと考えています。また、読書スペースの利用頻度に関する問いには、83%の参加者が、週1回以上利用したいと回答しました。集中できる読書環境を維持するための支出はいとわないことがわかり、これは、丸善ジュンク堂書店としてもビジネスチャンスにつながると見ています。

集中できている人の共通項とは?

── こうした結果を踏まえて、読書の質を高めたいビジネスパーソンは、普段からどんなことを意識するとよいとお考えですか。

井上:集中できている人の共通項を研究していると、「いつ、どこでやるかを決めている人」という点が浮かび上がってきました。これは物事の習慣化の条件でもあります。私たちの多くは、会議やアポはスケジュールにいれるのに、自分の集中の時間については後回しにしがち。本来なら深く思考する、企画を練る、読書をする。こうした自分とのアポも、時間と場所を確保する必要があります。

工藤:1month体験をされた方は、「毎週水曜の18時から20時」などと事前に時間を決めて利用することで、読書の習慣化につながったのではないでしょうか。

── 読書において「快適な環境」だけでなく「読書のための時間の予約」が大事なのは、そのためですね。

井上:深い読書体験をしたいのなら、スマホの電源を切るなど、集中力を切らさないための環境を整えてみる。すると集中モードに入りやすくなり、没入感がまったく違ってきます。集中力も筋力と同じ。筋トレをしないと衰えてしまうので、意識的に集中力を鍛えることをおすすめします。

ノー残業デーでできた「空白地帯」をDeep Thinkに充てる

── たしかに、メール通知などに追われるビジネスパーソンにとって、集中力を鍛える機会はなかなかとれない気がします。対処策はありますか。

井上:最近では、働き方改革の流れで、「ノー残業デー」を設ける企業が増えています。早く帰れる日の夕方は、何をすべきか決まっていない、いわば「空白地帯」ではないか。その時間を、読書という良質なインプットに使って、未来に投資するという発想が大事になると考えています。

「独創的」という言葉は、漢字のとおり、「独り(一人)で深く考える時間が大事」ということを物語っています。いまのオフィスやコワーキングスペースの多くは、人と気軽にコミュニケーションできるオープンな環境は担保しています。もちろん発散思考でアイデアを広げたいときは、そうした環境が効果的。ですが、集中を遮られることなく、一人で熟考するのに適した環境は、あまり用意されていないといえます。

Think Labのコンセプト“LIVE YOUR LIFE”には、「自分がどうありたいかを考え、自分の人生に集中しよう」というメッセージを込めています。これから知的生産活動を行っていくためには、一人でじっくり思考を深められる、そんなDeep Thinkの時間と場所を確保することが大事なのではないでしょうか。

「読むこと」の価値観を変えていきたい

── 丸善ジュンク堂書店は既存の書店の枠を超えて、今後どんな場をめざしていかれるのでしょうか。

工藤:「読むこと」の価値観を変えていきたいと思っています。今回、参加者から「集中読書を体験した後は、達成感と爽快感がいりまじった心地よい疲れを味わえた」「日常でも継続的に集中して読書することが楽しみになった」という意見をいただきました。書店として、こうした環境を提供することで、「読書に没頭することは楽しい体験」だと気づいていただけるのだと確信しました。この気づきをより多くの方に広げていきたいですね。

そのために、Think Labのように、本を購入した後の動線として「集中できる環境」を提供できる企業と、コラボレーションを進めていきたいと考えています。

【番外編】Think Lab集中読書体験レポート

実はフライヤーでも、Think Labで集中読書を体験させていただきました! 館内の様子を簡単にレポートします。

Think Lab全体のコンセプトは「ストレス」と「リラックス」の共存。エントランスをくぐると、神社の参道のような、厳かな雰囲気の通路が現れます。日本で一番初めに「集中」に悩んだのは空海だといわれています。この通路を歩くと、空海がこもっていた高野山の高野槇(コウヤマキ)の香りをかぐことができるのです。

暗闇の閉ざされた空間で、適度なストレスを感じた後は、一気にリラックス空間へ。扉を開くと、明るい光と緑に包まれた、開放的なスペースが広がっていました。この「ストレス」から「リラックス」の流れにより、一気に集中モードのスイッチが入ります。

こちらが、光や音、香りなど五感に働きかけて集中を高めてくれるワークスペースです。

イスの種類もさまざま。たとえば、A)背筋が伸びて視線が下向きになり、校正など正確性が求められる仕事にぴったりなイス、B )深く腰かけると視線が上向きになり、アイデアを生みやすくするためのイス、そしてC)両方に適したバランス。気分によって使い分けることができます。




カフェスペースでは、コーヒーや紅茶も自由に飲むことができ、急激に血糖値を上げないための低GI食品も用意されています。ラムネは集中力の維持に効くそうです!


集中読書のあとは歓談スペースでまったり過ごすのもよし。読書に集中したいとき、一人でじっくり考えたいときにおすすめのスペースでした! 今後も丸善ジュンク堂書店、そしてThink Labの取り組みに注目していきます。

プロフィール:

丸善ジュンク堂書店

Think Lab飯田橋

東京都千代田区富士見二丁目 10番2号 飯田橋グラン・ブルーム29階.

読書時間の質の向上に関する調査 結果詳細

工藤 淳也(くどう じゅんや)さん

丸善ジュンク堂書店 経営企画部部長

1989年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科在学中にインターネット事業部門を子会社として株式会社ジュンク堂から分離独立させた株式会社HONを設立し、取締役を経て翌年、同社代表取締役に就任。ネットで在庫開示や取置・取寄サービス等当時OtoO(off-line to on-line)と呼ばれるサービスの展開や、本屋に泊まってみるツアーの企画等を実施。現在は丸善ジュンク堂書店の経営企画部部長とシステム部部長を兼務する。

井上一鷹(いのうえ かずたか)さん

株式会社Think Lab 取締役 事業統括 井上一鷹

1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルに入社して大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事したのち、2012年に(株)ジェイアイエヌに入社。 社長室、商品企画グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て、現職。

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文責:松尾 美里 (2019/12/05)

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