超ホワイト企業「佰食屋」が生んだ「奇跡のビジネスモデル」とは?
ビジネス書グランプリ2020 イノベーション部門賞受賞記念!

超ホワイト企業「佰食屋」が生んだ「奇跡のビジネスモデル」とは?

「1日100食限定」と決め、必要以上の売上を追い求めない――。京都市内に4店舗を構え、「社員の働きやすさ」と「会社の利益」の両方を実現している佰食屋(ひゃくしょくや)。従業員は18時までには帰れるために、従業員のモチベーションが向上。さらにはフードロス削減、ダイバーシティ経営といった効果が生まれています。

そんな画期的な経営手法を解説した『売上を、減らそう。』(ライツ社)は、読者が選ぶビジネス書グランプリ2020 イノベーション部門賞に輝きました。飲食業界の常識を覆し、経営や働き方の新しい選択肢を提示した一冊です。著者であり、佰食屋を経営する中村朱美さんに、本書に込めたメッセージをお聞きしました。佰食屋の経営が業種を超えて、大きな注目を集めているのはなぜなのでしょうか?

提案したかったのは、「業績至上主義」からの解放

── ビジネス書グランプリイノベーション部門賞受賞の感想をお聞かせください。

候補作品が錚々たる顔ぶれだったので、ノミネートされたこと自体が嬉しいことでしたし、受賞の連絡をいただいたときにはびっくりしました。同時に、気が引き締まる瞬間でもありました。私たちが京都の定食屋としてめざしてきたのは、一人ひとりの幸せを大事にできる働き方。『売上を、減らそう。』が5万部を突破し、今回の受賞を知り、「この働き方を、いまある京都の4店舗にとどめるのではなく、全国に広めていきたい」という使命感がますます強まったのです。

── 中村さんが、本書で一番伝えたかったメッセージは何でしたか。

「業績至上主義という枠組みを取っ払ってみませんか」というメッセージです。これまで経営の世界では、対前年比の成長、増収増益をめざすことがスタンダードとされてきました。ですが、ずっと右肩上がりの成長を追い求めていても、働く人は疲弊してしまい、誰も幸せになれないのではないか。そんな違和感を抱いていたのです。従業員を犠牲にしてまで追うべき数字なんてない。そこで、約7年半前に佰食屋を始め、赤字にもならない持続可能な経営を貫いています。

── 『売上を、減らそう。』が読者からこれほど大きな共感や反響を得ている理由は何だと思いますか。

「こういう働き方を待っていた」という方が多くいらしたのではないでしょうか。ありがたいことに、多くの読者から感想のハガキやSNS上での反響をいただいています。特に印象的だったのは、残業が多く、子どもと一緒に晩ご飯を食べられないという男性会社員の声。この本を読んで、ライフスタイルを変えるために何かできるんじゃないかと希望が湧いたそうです。他にも「ほどよい量で働ける仕組みを職場で提案したい」といった声もありました。

本書で重視したのは、どのようにして「社員の働きやすさ」と「会社の利益」の両立を実現していったのかを、事実ベースで伝えることでした。この本は、「こうしたら働き方や経営を変えていける」という方法を数多く記した、いわば「働き方と経営の説明書」。そのなかから、「自分たちの業種でも試せる」という方法を見つけていただけたらと思っています。

売上を、減らそう。
売上を、減らそう。
中村朱美
ライツ社
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売上を、減らそう。
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中村朱美
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佰食屋がおこなったのは、共感ビジネスによる「経営学の再定義」

── 「1日限定100食」で働きやすさと経営を両立させる。この特徴的なビジネスモデルを可能にしている要因は何ですか。

大事なのは、お客様が「お店にまた足を運びたい」と思ってくださるような、圧倒的な商品力。それを前提として、カギとなったのは「経営学の再定義」をしたことだと考えています。

これまで経営学では、企業の原資をもとに戦略的に投資して、資源をふやし、規模を拡大させることがよしとされてきました。これに対し、私たちが挑戦しているのは、経営学の常識にとらわれない、新しい時代の「共感ビジネス」です。「1日100食限定」「ランチ営業のみ」は、従業員の働きやすさから出発したモデルでした。このモデルが継続できているのは、私たちの働き方をお客様が理解し、共感のもとに協力してくださっているからこそ。お客様の共感を得るビジネスが、新しい時代の経営ではないでしょうか。

── そうした共感ビジネスを導入することでもたらされた、一番の効果は何でしょうか。

たくさんありますが、シンプルに嬉しいのは、私も含めて、どの社員も家族全員と毎日夕ご飯を食べられるということ。これが私たちの新しいビジネスモデルの効果のすべてを物語っているのではないでしょうか。

人生を丁寧に生き、自分を大事にできていると余裕が生まれる。すると周囲に優しく接することができるようになります。さらには、お客様が喜ぶようなアイデアが生まれ、お客様もファンになってくれる。こうした好循環が生まれているのです。

── 中村さんが経営において大事にされている信念は何ですか。

意識し続けているのは、すべてのステークホルダーに「心を寄せる」ことです。これは、従業員、お客様はもちろん、食材などを納品してくださっているパートナー企業も含みます。たとえば新メニューを開発するからと、ある商品を新たに「明日には届けてほしい」などと発注すると、先方は要望に応えようと無理をしてしまいますよね。そうならないよう、事前にこまめにメニュー開発について相談するなど、できる限り配慮をする。こうして人に心を寄せることを大事にしていると、後からちゃんと利益がついてくるのです。

常識にとらわれない発想の源泉は「本」にある

── 中村さんは、営業時間や売上ではなく「売る数」を目標にするなど、常識や前例にとらわれない発想で事業をされています。人とは異なる着眼点や発想力をどのようにして培ってきたのでしょうか。

大きく影響しているのは読書ですね。私は学生時代から読書が好きで、2週間に一度は図書館に本を借りにいきます。料理の本やファッション誌など、様々な本を含みますが、月に20冊、年間で200冊ほどになるでしょうか。たとえば、料理の本からでも、魅力的な写真の見せ方や文章のレイアウトなど、学ぶことはたくさんあります。

これまで経営をしてきて、「もう店をやめたい」と思うほど行き詰まったことはもちろんありました。そんなときは本を5冊ほど一気に読むんです。すると、本に書かれている色々なアイデアが組み合わさって、「私もこういうふうに応用すれば、この問題をクリアできるのでは」と、突破口が見つかるし、モチベーションが湧いてくる。私の場合、これまで読んできた本から得た学びの集合体が、アイデアの源になっています。

「そうだ、売上を半分にしよう」、働き方のフランチャイズ化を見据えた佰食屋1/2の挑戦

── 2019年6月に、1日50食限定を掲げるカレー専門店「佰食屋1/2」をオープンされました。本書には「働き方のフランチャイズ」について書かれていましたが、そのきっかけは何でしたか。

もともと「1日50食限定」という形態を思いついたのは、2018年夏、大阪府北部地震、豪雨、そして台風という災害が続いたときでした。観光業は大打撃を受け、佰食屋もお客様が普段の半分に激減。資金繰りが悪化し、当時の3店舗中1店舗を閉鎖することも考えたほどでした。

こんな危機的な状況でも、どうすれば持続可能な経営ができるのか。考えを巡らせて気づいたのは、1日に50食は売れたという事実。「そうだ、売上を半分にしよう」と。1日50食を売り切って、そこから逆算して赤字が出ない運営体制をつくり、さまざまな工夫を重ねることで、危機を切り抜けました。

1日50食で赤字を出さない仕組みが「佰食屋1/2」。これなら、「夫婦で朝10時から16時まで働いて年収500万円を稼ぐ」といった、時間的にも精神的にも余裕のある働き方ができます。子育て世代だけでなく、定年退職後も自分たちのペースで働きたいと考えるご夫婦、安定した仕事をもちつつ副業や趣味に打ち込みたい方にも、こうした働き方のニーズはあるのではないか。そう考え、日本全国に佰食屋の働き方を広げようと「働き方のフランチャイズ化」をめざすことにしました。ですが、オープン早々、「これではいけない」と気づいたのです。

── どういうことでしょうか。

当初、ブレない品質を提供しやすいメニューがよいだろうと、ビーフライスとキーマカレーを選びました。ただ、もちろん美味しいのですが、佰食屋の他のメニューほどの「圧倒的な商品力」には至っていなかった。この反省から、オープンから3か月後の9月には新メニューを投入。国産牛のビーフカレー、チキンカレー、カレーつけ麺をお出しすることになりました。ところが、カレーというメニューは世の中に多く存在するし、味の好みもさまざま。「我が家の味が好き」という方も多い。そのため、お客様がお店にお越しになるだけの引きになりにくいのです。そんなとき思い浮かんだのが、集客が充分でない日でも成り立つワンオペの体制。昨年秋からは、一人で「1日25食限定」のチャレンジをスタートさせました。

数字を追うだけの経営はエキサイティングじゃない

── このワンオペ体制を始めた狙いは何でしょうか。

フランチャイズというと夫婦での経営をイメージしますが、現在は単身世帯が増えています。シングルマザーやシングルファーザーを含め、「一人でお店をやる」というケースも今後増えていくはずです。そこで、「1日25食限定」「1日50食限定」のいずれかを選べるようにし、より柔軟な働き方のフランチャイズを可能にしたいと考えました。このモデルが可能なメニューの3度目の開発を進めてきて、3月5日には新メニューがリリースとなります。「これで全国にいける」という自信のあるメニューです。

売上や株価など数字だけを追う経営だと、一度成功したモデルをそのままコピーしがち。ですが、これは守りの経営であって、エキサイティングな経営ではありません。今回カレー専門店のメニュー開発では2度失敗したわけですが、新たな挑戦をして、うまくいくか検証して、さらに工夫を重ねて少しずつ自分たちの正解に近づいていく。このプロセスが本当に面白いですし、経営の醍醐味だと考えています。

── 中村さんの今後のビジョンは何ですか。

現段階では佰食屋の取り組みは利益幅が小さいため、大企業、とりわけ上場企業の社長からすると、真似をしようとは思っていただけない状況です。そこで、働き方のフランチャイズ化とともに、「減収してもいいから増益」という状況を全国各地に広めていきたいと考えています。そうすれば、「あれだけ利益が出ているのに、こんなに早く帰れるのか」と、私たちの取り組みを注目してくださるのではないか。上場企業の経営陣が「自分たちも取り入れなくては」と思うような実績を出すことが、第一の目標です。これを達成することで、経営学の再定義が各地に広まり、日本全体が変わっていくのではないでしょうか。同時に、「働くことって楽しいし尊いこと」だと感じる人が増えていくよう、貢献していきたいと考えています。

売上を、減らそう。
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中村朱美
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プロフィール:

中村朱美(なかむら あけみ)

1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超・人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

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文責:松尾美里 (2020/03/05)

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